パーパス時代の鍵とは?企業PR×ウェブコンテンツの可能性
2022/04/05
次世代映像コンテンツの企画・プロデュース集団「NewsPicks Studios」と電通人による、メディアを活用した新しいコミュニケーションの可能性を切り拓く本連載。
第1回のテーマは「PR視点で考えるウェブコンテンツの可能性」。企業のメッセージの伝え方が多様化する昨今、広告、動画、オウンドメディアなどさまざまな手法を用いて、各企業が自社の存在意義やスローガンなどを表明しています。
いま、ウェブ動画およびウェブメディアの施策が企業から求められる理由とは?
NewsPicks Studiosの川口あい氏が、電通PRコンサルティングPRプロデューサーの根本陽平氏に聞きました。
いま企業に求められる、“問い”の独自性
川口:近年、企業が発信するメッセージが多様化しています。例えば、手法で言えば広告や記事、動画、あるいはSNSなど多岐にわたっています。
そして、発信するメッセージの中身も、パーパスやミッションステートメントなど、やはり多様化しているように感じます。とくにパーパスにおいては社会課題が重視される世の中になったことで、近年ことさら重要視されるようになりました。こうした時代における企業側の課題について、根本さんはどうお考えですか?
根本:そうですね。パーパスという言葉をメディアや企業との会話の中で耳にする機会が増えてきました。これまでは自社の製品やサービスが、ターゲット層にどう貢献するかを発信すればよかったものが、パーパスというのは企業から社会に対する約束ですから、おのずと視座やスケールが従来よりも格段に高く、大きくなります。
そうなると何が起こるかというと、視座が上がるほど、各企業が発するメッセージが同質化してしまうんですよ。その結果、独自性が欠如し、他社や他ブランドと差別化しづらくなることに頭を悩ませているという声を非常によく聞きます。
川口:視座を上げて考えていくと、同じ業種であれば自然と目指す社会像や世界観は同じような方向性になりますもんね。そうした同質化を避けるためには、どうすればいいのでしょうか。
根本:一つは、自分たちの組織の成り立ちや目指す目的に立ち返り、それをいまの時代に当てはめて考えることでしょう。
川口:時代に当てはめてみるというのは大切ですよね。例えば国際女性デー(International Women's Day)にしても、初期の頃は女性応援がメッセージの主体であったものが、最近では生理の課題や夫婦別姓問題など、各企業が発信するメッセージが多様化してきています。
根本:はい、自分たちならではのカラーやスタンスを表現するためには、「問い」のポジショニングを考えることが不可欠なんです。ダイバーシティと一口に言っても、ジェンダーから働き方や育休の話や、LGBTQ+アライの話など、いろんなジャンル、いろんな規模感が内包されているわけですから。
そこで、自分たちはどのような立場でどんな問いを立てるのか、いわば問いのオリジナリティが求められているのだと思います。そして、そこで設定されるアジェンダが、その企業の事業や製品と親和性の高いものであれば理想的ですよね。
アジェンダセッティング力×ウェブメディアの優位性
川口:そうしたアジェンダセッティングを、メディアと組んで展開していくことには、どのようなメリットがあるでしょうか。
根本:企業はこれまで、特定のお題・テーマに対して明快な解決策を提示しなければならないと考えていました。「〇〇には××が一番」「こんな時はこれに決まり!」など「答え」を出すことが効果的だったのもたしかです。しかし多様性の時代においては、答えは必ずしも一つだけとは限らず、一企業が一つの答えをゴリ押しすることに、違和感を覚える生活者が増えてきました。
それよりも、例えば“自分たちはこう考えています”と呼びかけ、生活者と一緒に対話したり議論したりするほうが「あ、これ私のことかも」「この企業わかってるなぁ」と共感されたりします。ただ、そこで課題になるのは、企業がそうしたアジェンダセッティングにちょっと不慣れであるということです。
いままで顧客の求める「答え」を提示してきた企業からするとこれは当然で、さらに多くの企業はそのアジェンダを発信するためのプラットフォームも持ち合わせていません。そこでメディアをアジェンダセッティングと議論の場として活用しようという動きは自然な流れだと思います。
川口:議論の場という意味ではやはり、読者の反応などが即座に可視化できるウェブメディアの優位性は高いですよね。ぜひ根本さんにお聞きしてみたいのですが、アジェンダセッティングの場を構築する上で、ウェブメディア側が心がけるべきポイントはなんでしょうか?
根本:まず、「多数の意見に触れられる仕組み」を作ることが大切だと思います。例えば、NewsPicksでいうと特定の記者やライターだけでなく、“プロピッカー”としてそのジャンルに長けた方などが携わられていますよね。ファクト(事実情報)だけでなく解釈が備わった意見が多い場なので、議論の場として最適だと思います。
また、心理的安全性の観点から、“議論していい場所”として用意されていることで、誰もが自分の意見を言いやすい土壌が生まれます。つまり、一つの議題に対してさまざまな角度から意見を言える環境が整っているメディアは、アジェンダセッティングに適していると言えますよね。
川口:ありがとうございます。おっしゃっていただいたように、コミュニティとしての機能を備えているのは強みだとわれわれも考えています。その上で、動画の優位性についてはどうお考えでしょうか。
根本:世の中、とくに若い世代に関しては、「読む」より「見る」ほうにメディア接触態度が変容していますから、企業がテキストでのコミュニケーションから動画でのコミュニケーションに移行するのも必然でしょう。
ウェブ番組だからできる産業自体をエンパワーメントする挑戦
川口:ウェブメディアの場合、対象とする領域をセグメントしても成立するのが強みのひとつだと思うんです。例えば、NewsPicksの場合はBtoBや採用に強いという評価を頂いています。
根本:そうですね。マスメディアの場合、どちらかと言えば老若男女に向けて番組を作る傾向があります。極端に言えば、10代の人にも80代の人にも分かりやすいものが求められる場合もある。それができるテーマというのはどうしても限られてしまいますよね。逆にウェブは、目的別にアプローチできるので、テーマを絞ったコンテンツ作りがしやすい側面があります。
川口:なるほど。だからこそ、企業にとってはウェブメディアと組んで“問い”を考える意味があるとも言えそうですね。
根本:メディアは客観的な視点に長けています。強い専門領域を持つ企業ほど、その視点に知恵を借りるのは有意義なのではないでしょうか。いま何がウケるのか、どう伝えるのが分かりやすいのか、のプロフェッショナルがやはりメディアですから。
その意味では、今後はメディアと企業だけでなく、メディアと産業全体が組むやり方もあっていいのではないかと思ったりします。あくまでジャストアイデアですが、例えば宇宙産業を盛り上げるベンチャー数社がまとまってメディアとコラボレーションしていく、とか。
川口:ああ、それは名案ですね。産業そのものをエンパワーメントすることで、個々の企業にもチャンスが生まれるという、理想的な流れが作り出せそうな気がします。NewsPicksにはスタートアップ経営者から大企業の新規事業担当者まで、あらゆる視点を持つビジネスパーソンが多く集っているので、産業との掛け合わせにおいてもおもしろい仕掛けができるかもしれません。
人的魅力を伝える“キーパーソンブランディング”の必要性
川口:NewsPicks Studiosでは、例えば番組に企業担当者、いわゆる「中の人」にもご出演いただき、人的な魅力を伝えるキーパーソンブランディングもより推進していきたいと考えています。企業の魅力の一環としての人的魅力と、そのブランディングの必要性についてはどうお考えですか?
根本:非常に重要なことだと思います。私の所属している企業広報戦略研究所では、企業の魅力を「商品的魅力」、「財務的魅力」、「人的魅力」の三つに分類しています。そしてこのうち、企業イメージを左右する要素として、人的魅力が占める割合が高いというデータも存在しています。
さらには、個人投資家などに絞って分析した場合でも、財務的魅力よりも人的魅力が勝ることが分かっていて、つまり「人」は競合他社との差別化を図る格好の要因になり得るんですよ。
川口:それは興味深いお話です。そうした人的魅力を伝える手法としてもNewsPicks Studiosの動画はわかりやすいのではないかと思うのですが、根本さんはどう評価されますか。
根本:生活者目線に立てば、欲しい製品があった時に、その製品を開発した人は、その領域に深く精通した専門家であるのが望ましいはずです。その点、企業の中の人が登場して直接話すというのは、製品やその背景にあるエビデンスだけでは伝えられない部分を理解してもらうのに、うってつけでしょう。
また、マーケティングではなくPRの観点でもメリットがあります。メディアが有識者にコメントを求めることがよくありますが、それはそのテーマに詳しい人であるからであり、本来、職業も肩書も関係ありません。だから企業の人であっても、その製品の背景や歴史、周辺の情報まで深く語ることができるなら、それは自社にとって最高のブランディングになるのではないでしょうか。
川口:確かに、人的魅力との相乗効果で、理想的なPR活動につながりそうですね。実際、NewsPicksでも、“自社の社員がプロピッカーになりました”ということを宣伝材料にしていただくケースが少なくないんですよ。
根本:そうでしょうね。日本には「言わぬが花」という美徳があり、しかも余計なことに触れてやぶ蛇になるくらいなら、何も言わないほうが安全であるという考え方が根強くあると思います。しかし最近では企業の説明責任が問われる傾向も強くなっていますし、例えば人道問題、人権問題などについて、当事者に近い立場でありながら何も語らなければ、逆に批判の対象になることすらあります。言わないことがリスクになる時代ですよね。
ただし、発信するにも一定のスキルが必要で、一朝一夕に身につくものではありません。だからこそ、NewsPicksのような場を活用して、発信する・伝えるトレーニングを積むのは大切なことだと思います。
川口:ありがとうございます。そうしたご意見をわれわれとしてもぜひ、今後の取り組みに生かしていければと思います。