「価値づくり」につながる広報戦略、どうやってつくる?
2021/07/27
これからの企業に求められる「価値づくり」広報とは何かを紹介する本連載。
過去3回の連載では「価値づくり」をキーワードに、ソーシャルバリューを生み出し、コーポレートブランドに良い影響を与えていくことの重要性について解説してきました。
最終回となる今回は、その価値の創造につながる広報戦略立案のポイントについて説明します。
広報部門が強化したい力のトップは「戦略構築力」
今、広報部門が最も課題を感じているのは「戦略構築力」です。
企業広報戦略研究所(略称C.S.I./電通PR内)が2020年に実施した「第4回 企業広報力調査」において、今後強化したい広報力として最も選択率が高かったのは、「戦略構築力」の中の「広報戦略は、経営戦略とリンクしている」という項目でした【図表1】。
それに続く「情報創造力」「情報発信力」も広報にとって重要な項目ですが、コロナ禍をはじめとして、これまでの想定を上回る社会イシューが顕在化する中、根本的な戦略の見直しを検討する企業が増えてきている様子がうかがえます。
【図表1】(2020年5月の時点で)緊急事態宣言が解除された後に強化したい広報活動
あなたの企業における「広報目標」は明文化されていますか
では、広報戦略とは、どのように策定していくべきものでしょうか。
当研究所では、広報戦略は【図表2】のように、「広報目標」の設定と、その目標達成に向けたシナリオ、というように定義しています。そして、広報戦略策定の第一歩となる「広報目標」の設定においては、経営戦略に基づき“ありたき姿”を描く、すなわち、「①どのステークホルダーに?」「②どう思われたいのか?」 をしっかりと描くことが重要になります。
広報戦略の策定・見直しに着手する際、この目標が明文化されていない、あるいは、目標の設定において重要なステークホルダーが定まっていないという点は、比較的よく目にする課題です。
【図表2】広報戦略=「広報目標」の設定と、その目標達成に向けたシナリオ
また企業戦略と広報戦略は、より連携していくべきテーマといえます。例えば昨今、企業のガバナンスにおいて「情報発信・対話」が大きなテーマになっています。
昨年9月には、経済産業省より「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書 ~人材版伊藤レポート~」(※)が公表され、ステークホルダーに向けた情報発信・対話の重要性が大きく取り上げられました(下記引用文を参照)。今後、こうした企業姿勢の開示や発信の動きは、より強まっていくものと考えられます。
そして「情報発信・対話」は、広報の得意領域といえます。経営や人材に関するものにとどまらず、策定した広報戦略・広報目標を、広く社内、そして社外に発信することで、社会課題に向き合う姿勢の発信を行っていくことも、他社との差別化につながります。
経営陣は、自社の企業理念や存在意義(パーパス)、人材戦略について従業員に積極的に発信を行い、対話すべきである。
経営陣は、自社の人材戦略が、ビジネスモデルや経営戦略にどう連動しているのか、人材戦略の取組がどこまで進捗しているか等の情報を見える化し、投資家に対して積極的に発信・対話すべきである。
出典:経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書 ~人材版伊藤レポート~」(P.22)
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_1.pdf
(※)伊藤邦雄先生
一橋大学大学院経営管理研究科特任教授。当研究所が2020年12月に発行した「新・戦略思考の広報マネジメント」でインタビューを実施している。
社会課題への向き合い方が、広報の重要テーマとして急上昇
「広報目標」で重視すべき「ステークホルダー」については、本連載の第1回 で、株主・投資家、顧客だけでなく、従業員や地域住民などの 重視度合いが高まっている点に触れました。向き合うべきステークホルダーが変化、または増えていく中、広報活動におけるステークホルダーの優先順位付けが重要となってきます。
続いて描く必要があるのは、それらのステークホルダーに「どう思われたいのか? 」という点です。こちらも同じく第1回 の記事において、この6年間で最も伸びた広報活動テーマが「CSR」であった点をご紹介しました。「社会課題に向き合う企業」という姿勢の発信・レピュテーションの獲得は、今や多くの企業における重要テーマとなっています。
「社会価値創造型」のファクトづくりを目指す
社会課題解決は今や多くの企業の注目テーマとなっており、また、非常に広範にわたるテーマのため、自社で取り組む分野の絞り込みが重要になります。
当研究所では、社会課題に向き合う企業の活動の類型を「社会貢献型」「社会負荷軽減型」「社会価値創造型」の3つに分類しています【図表3】。
ここでは第1に、「事業活動との親和性」が高いか(ヨコ軸)、第2に、他社よりも早く「潜在イシュー(社会課題)」に取り組んでいるか(タテ軸)の、2軸で考えることが重要になります。その両方を満たす「社会価値創造型」領域の社会課題解決に取り組むことで、事業との両立をはかった独自のソーシャルイノベーションに取り組んでいる、というレピュテーションを得ることが可能になります。
【図表3】企業が取り組む社会課題解決の3類型
広報ターゲットの興味・関心を分析し、ファクトをもとに効果的なコンテンツづくりへ
広報目標と、それに基づく広報戦略の精度を高めるには、「広報ターゲットがどのような関心を持っているか」についての分析も重要です。
「2020年度 ESG/SDGsに関する意識調査」のデータでは、一般生活者の興味の1位は健康・福祉、2位はエネルギーという結果となっています。さらにこのデータを年代別に分解してみると、例えば20代の4位には、全体では9位の「貧困をなくそう」が上がってくるなど、世代による差がみられます。このように広報ターゲットによって興味・関心は大きく変化してきます。
広報戦略における広報目標の絞り込みは、自社の重要ステークホルダーの興味・関心を踏まえ、広報目標に貢献する具体的なファクトづくり、そしてその先のコンテンツづくりを探っていくことが重要になります。
【図表4】SDGsの達成目標について、企業の取り組みを期待する項目(複数回答)
【図表5】年代比較 企業に取り組んでほしいSDGs項目(複数回答)
「価値づくり」につながる広報戦略のつくりかた
以上を踏まえると、社会課題に向き合い、企業価値の向上につながる広報戦略のポイントは、下記になります。
- 広報目標「どのステークホルダーに?」「どう思われたいのか?」を定める
- 事業との親和性が高く、潜在度の高い社会課題にフォーカスし、差別化を狙う
- 差別化の源泉となるファクトを磨き、コンテンツ化をはかる
本稿が、皆さまの企業価値向上にむけた一助になれば幸いです。
【調査概要】
■企業広報力調査
調査期間:2020年5月22日~8月7日
調査対象:「会社四季報 2020年」掲載時点の東証1部・2部、東証マザーズ、ジャスダック、札証、 名証、福証に株式上場している企業 (3679社)
有効回答サンプル数:474社(回収率12.9%)
調査方法:郵送・インターネット調査
調査主体:企業広報戦略研究所(株式会社電通パブリック リレーションズ内)
※本調査では小数点以下第2位を四捨五入しています。
■ESG/SDGs調査
調査対象:全国の20~69歳の男女 計10,500人
調査方法、期間:インターネット調査:2020年6月24~30日
設問内容:ESG/SDGsの認知の有無、企業に期待するSDGsの取り組み、投資に対するESGを考慮する度合いなど
調査対象
※本調査では小数点以下第2位を四捨五入しています。