広報・PRの重点ターゲット=メディアの時代は終わったのか?「価値づくり」広報のススメ
2021/02/09
コロナ禍を経て、企業の経営環境の変化はよりスピードを増し、広報・PR活動のミッションもそれに合わせた進化が求められています。
企業広報戦略研究所(略称C.S.I./電通PR内)では、広報部門の果たす役割や機能がどのように進化していくべきか研究すべく、企業の広報・PR部門の責任者を対象に定期的な調査を行ってきました。
その調査結果を基に、“「価値づくり」広報”をテーマとした書籍「新・戦略思考の広報マネジメント」(日経BP)を発刊しました。本連載では、これからの企業に求められる「価値づくり」広報とは何かを紹介していきます。
PRのミッションは時代とともに変化し続ける
当研究所の調査結果によれば、各企業が考える広報・PR部門の活動テーマは図1のようになっています。
【図1 広報担当部門の業務テーマ】
Q.貴部署の担当する広報テーマは?
1位は、第1回調査から第4回調査まで変わらず、「トップのメッセージ・企業ビジョン」。広報・PRにおける最重要テーマであることが分かります。
2014年からの6年間で最も上げ幅が大きかったテーマは、6位の「CSR」です。一方、上げ幅が最も小さかったのは、3位の「商品・サービスPR」となりました。このように、企業の広報・PRのミッションは時代と共に変化し続けていきます。
ミッションが「話題づくり」から「価値づくり」に変化した。その三つの理由とは?
企業広報戦略研究所では2013年設立以来、延べ約2000社に対し、企業広報の活動実態調査やヒアリングなどを実施してきました。その研究結果から、広報・PRのミッションが「話題づくり」から「価値づくり」に変化してきていると考えています。
その背景として大きく三つの理由が挙げられます。
① 情報の消費期限が短くなった
コロナ禍によって、メディア・情報環境も急激にDXが進んでおり、広報・PRの世界にも大きな影響を及ぼしています。
メディア側では、情報量に制限のないウェブニュースや、動画共有サイトの増加で情報発信量は飛躍的に増加しました。情報の受け手となる生活者も、メディアやデバイスの多様化、5Gなどネットワーク環境の向上により、四六時中情報に触れる時代となっています。
毎日膨大な情報が流れている中で、一過性の話題を提供しても、その「消費期限」は極めて短くなってきていると皆さんも感じているのではないでしょうか?
そこで、情報の “歩留まり”を高めるために必要となるのが、情報を発信する企業などの主体者による「価値づくり」です。
広報・PR部門の最大の仕事のひとつに「社会の流れを読む」ことがあります。社会の期待や不安・不満などの定性的・情緒的な“流れ”を先読みし、それを社内にフィードバックし、社会に共感されるファクトを創出していくことで、企業への信頼や評判を高める「価値づくり」を狙うのです。
そのためには、競合の誰よりも早く流れを読み、真っ先に“価値あるファクトづくり”に挑戦していくことが大切になります。
例えば、海洋プラスチックごみ問題への社会的注目をいち早く捉え、ストローを紙製に切り替えたカフェチェーン、コロナ禍において真っ先にマスク増産に乗り出した電機メーカー。社会の不安や期待にいち早く応えている企業には信頼や共感が寄せられ、その企業が発信する情報には耳を傾けてくれるようになるのです。
これからの広報・PR部門は「先見力」を高め、ステークホルダーにとって価値あるファクトづくりをプロデュースしていく姿勢が求められてくると考えます。
② ESGの本格普及
当研究所の調査によれば、投資を考える際に、企業のESG(Environment, Social, Governance)に対する取り組みを考慮する人は77.6%に達しています(図2参照)。
<データ詳細>
https://www.dentsu-pr.co.jp/releasestopics/news_releases/20200929.html
【図2 投資時に企業のESGの取り組みを考慮する】
企業の価値を評価する尺度として、売り上げやROE(自己資本利益率)などの財務指標はもちろん大事ですが、中長期的な投資先として評価され続けていくためには、ESGに取り組むことが重要です。
実際、決算説明会だけでなく、企業の統合的価値を伝える「ESG説明会」を開催する企業も急激に増えてきており、この傾向は今後も加速していくと思われます。
研究所では、企業が伝えるべき“価値”には、大きく三つあると考えています(図3参照)。
- 「製品価値」
顧客との直接的な接点であり、利便性や品質などを訴求し、提供価値を実感してもらう。 - 「市場価値」
株主や投資家を主たる対象に、企業の成長性を伝え、活力ある企業であることを知ってもらう。 - 「社会価値」
企業の中核となる価値で、ステークホルダーの声を収集し、企業経営に取り込むことで、社会からの信頼を得る。
ESGに関する取り組みは、一義的には市場価値になりますが、市場価値や製品価値にも社会価値が内包されていることが大事だと考えます。
社会からの信頼を獲得し続けるためには、企業の社会価値について、今一度見つめ直し、社会価値に通じるファクトをつくり、情報開示・コミュニケーションを行うことが必要です。
【図3 企業の伝えるべき価値】
③ 株主からステークホルダーへ
米国の経営者団体「ビジネスラウンドテーブル」が2019年8月19日、株主第一主義から「ステークホルダー資本主義」への転換を宣言しました。企業が説明責任を負う相手は株主だけでなく、「顧客、従業員、サプライヤー、コミュニティー、株主の利益のために」と言い換えられました。
さらに、企業は自社の利益の最大化だけでなく、パーパス(Purpose)の実現も目指すべきだという姿勢を打ち出しました。
<詳細はこちら>
https://www.businessroundtable.org/business-roundtable-redefines-the-purpose-of-a-corporation-to-promote-an-economy-that-serves-all-americans
また2020年、ダボス会議でも同様のテーマが取り上げられました。
当研究所の調査でも、こうした世界的な流れを反映した結果が見て取れます。企業の広報担当者に「重視するステークホルダー・ターゲット」を問う設問(複数回答可)で、大きな変化が現れています。
2020年の調査結果は図4のように、
1位 株主・投資家
2位 顧客
3位 従業員とその家族
4位 メディア
となりました。
【図4 重視するステークホルダー・ターゲット TOP10】
2014年の調査以来、初めて「メディア」が4位に順位を下げ、3位の「従業員」は、第1回調査から毎年スコアを伸ばし、6年で25.0ポイント増加しました。また、5位「取引先」も徐々にスコアを伸ばしており、メディアとの差が0.6ポイントまで迫っています。
このデータから分かるのは、以下のことです。
広報・PR活動における重要ミッションが、メディアを通じた「話題づくり」だけではなく、自社にとって重要なステークホルダーとのよい関係性づくり(リレーションシップ)に進化してきているのです。
当研究所では、「価値づくり」広報を成功させるための代表的な三つのアプローチを、以下の通り設定しています。
- 重点ターゲット「1位 株主・投資家」を中心とした「ソーシャルバリュー」の追究。
- 重点ターゲット「2位 顧客」との「エンゲージメント」の構築。
- 重点ターゲット「3位 従業員とその家族」との「インターナルブランディング」の実践。
この「三つのアプローチ」の詳細については次回でお話しします。
「価値づくり」のために、広報部門が身に付けるべき“統合思考”
最後に「価値づくり広報のために必要となる思考」についてお話しします。それは“統合思考”です。
広報・PRにおける“統合思考”とは、
社内各所に埋もれていたファクトをベースに、魅力的な価値に仕立てる企画・プロデュース能力
です。
広報・PR部門は“情報”という最強の武器を持っています。重点ターゲットとなるステークホルダーの期待や不安を的確に捉え、先読みし、社内に還元、さらには社外とのシナジーを生み出していくことで、企業の「価値づくり」をプロデュースしていく思考が、これからの広報・PR部門には必要不可欠です。
つまり、社内の部門の壁を越え、さらには社外のリソースをも統合させる“統合思考”の下、企業価値を高めるプロデューサーとして広報・PR部門は活躍していくべきと考えます。
【調査概要】
■企業広報力調査
調査期間:2020年5月22日~8月7日
調査対象:「会社四季報 2020年」掲載時点の東証1部・2部、東証マザーズ、ジャスダック、札証、 名証、福証に株式上場している企業 (3679社)
有効回答サンプル数:474社(回収率12.9%)
調査方法:郵送・インターネット調査
調査主体:企業広報戦略研究所(株式会社電通パブリック リレーションズ内)
※本調査では小数点第2位以下を四捨五入しています。
■ESG/SDGs調査
調査対象:全国の20~69歳の男女 計10,500人
調査方法、期間:インターネット調査:2020年6月24~30日
設問内容:ESG/SDGsの認知の有無、企業に期待するSDGsの取り組み、投資に対するESGを考慮する度合いなど
調査対象
※本調査では小数点第2位以下を四捨五入しています。