「価値づくり」広報に向けて“ソーシャルバリュー”を生み出す方法
2021/03/18
これからの企業に求められる「価値づくり」広報とは何かを紹介する本連載。
第1回では、「価値づくり」広報を成功させるために、企業広報戦略研究所(略称C.S.I./電通PR内)の調査に基づいて、以下の3大重点ターゲットを設定しました。
- 重点ターゲット1位「株主・投資家」を中心とした“ソーシャルバリュー”の追究
- 重点ターゲット2位「顧客」との“エンゲージメント”の構築
- 重点ターゲット3位「従業員とその家族」との“インターナルブランディング”の実践
今回は「価値づくり」広報を実現するために、具体的に重点ターゲットをどのように捉え、どう取り組んでいくべきか、事例を踏まえて紹介します。
投資家だけでなく、一般生活者も“ソーシャルバリュー”に注目
本稿では“ソーシャルバリュー”(社会価値)を、
企業価値向上と、社会の持続的成長の両立を目指し、独自の資産・事業・理念で社会課題解決に挑戦することで生み出す新たな価値
と定義し、「価値づくり」広報の根源となる重要テーマと捉えています。
“ソーシャルバリュー” へは、ESG投資の観点から「株主・投資家」からの注目が高まっているのはもちろんですが、現在は一般生活者も重視し始めています。
これは、当研究所が実施したESG・SDGs調査にも表れています。「企業のSDGsに関する取り組みを知って、該当企業に対して実際に行動を取ったか」を聞いてみたところ、「行動を取った」と回答した一般生活者は7割を超えました【図表1】。
行動の内訳を見ると、「ウェブサイトの閲覧をした」人が約3.5人に1人、「製品やサービスを購入・利用した」人は約5人に1人となっています【図表2】。
※詳細はこちら
https://www.dentsu-pr.co.jp/csi/csi-outline/20200929.html
私たちが想像している以上に、一般生活者も企業の“ソーシャルバリュー”につながる活動を見ており、それによって態度変容を起こす世の中に変わりつつあるのです。
また、この傾向は若年層ほど高く【図表3】、未来の経済社会を支える次世代とのエンゲージメントを高めるためには、欠かすことのできないテーマといえます。
【図表1】企業のSDGsに対する取り組みを知り実際に行動を取った人
【図表2】企業のSDGsに対する取り組みを知り実際に取った行動の内訳
【図表3】企業のSDGsに対する取り組みを知り実際に取った行動の年代別内訳
この“ソーシャルバリュー”を真ん中に据えて「価値づくり」を考えると、ESG経営やSDGs推進がテーマになってくるでしょう。当研究所が昨年末に出版した書籍「新・戦略思考の広報マネジメント」では、ESG先進企業として評価が高い花王のESG広報担当部長・大谷純子氏に話を伺い、ESG経営の実践と「価値づくり」についてひも解いています。
そして、別の観点から“ソーシャルバリュー”を企業が実現するための主な活動に、
“顧客エンゲージメント”と “インターナルブランディング®”
の二つがあります。
当研究所では、それぞれを以下のように定義しています。
顧客エンゲージメント:複合的かつ双方向にコミュニケーションを展開し、顧客との“良い関係性”につながる新たな価値を生み出す活動
インターナルブランディング:従業員こそが企業の最も重要な資産であると考え、従業員一人一人の企業理念への理解や共感を深め、事業への浸透を図り、新たな価値を生み出す活動
社員一丸で新たな価値づくり。住友商事の「22世紀プロジェクト」
ここからは、“ソーシャルバリュー”につながる「価値づくり」をインターナルブランディングのアプローチで実現している住友商事のケースを例に、「価値づくり」広報の実践について解説します。
住友商事グループの「22世紀プロジェクト」は、2019年12月の同社100周年を機に「変化と挑戦」のムーブメントを目指そうと、2017~19年の3年計画で実施された全社的なプロジェクトでした。
このプロジェクトが社員に支持されたポイントは、徹底したボトムアップ推進とトップの本気度にあったと考えられます。
プロジェクトは、公募で手を挙げて選ばれた、熱量の高い“アンバサダー”が推進しました。社内公募は初の試みだったそうです。このことからも、伝統的な大企業がどれだけ本気で新たな取り組みを開始したかが分かります。それは社員にも伝わったことでしょう。
また、このボトムアップ推進の大前提に、「住友の事業精神と経営理念以外は、何を変えてもいい」というトップのコミットメントがあったといいます。
そのおかげで、アンバサダーも「変化と挑戦」のための議論を思う存分することができたのでしょう。社員を巻き込み、社員と共に創ろうと考えるならば、社員が安心して力を発揮できる環境を整え、経営層が社員をモチベートすることが重要です。
最初に取り組んだのは、住友商事グループの「徹底解剖」でした。社内外合わせて1000人以上の声を集め、それを基にアンバサダーたちがディスカッションを繰り返しました。その結果、強化すべき要素を「未来起点」「多様性」「つなぐ力」「個の力」に集約し、これらを強化するためにさまざまなアクションプランが企画・実行されました。
そのひとつである「未来LAB」では、他業界の人たちとグループ社員が交流。農業、地方創生、教育などさまざまな切り口でワークショップを行い、見たこともない世界、未来の社会を考えました。その活動が、現在のオープンイノベーションラボ「MIRAI LAB PALETTE」の開設につながったそうです。
参考:https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/palette/index.html
「MIRAI LAB PALETTE」は組織や分野の壁を越え、グループ内外の多様なメンバー同士が新しい価値を共創する場として活動しています。アート視点を取り入れた事業開発を検討する東京藝術大学との連携や、福島県浪江町との協業案件など、さまざまな実践が進んでいます。
ボトムアップでの「価値づくり」プロジェクトは、相当な手間と時間がかかります。住友商事の取り組みは、あえて手間と時間をかけ、社員一人一人が共感できるファクト(事実)を一つずつ実現していくことが、新たな企業の「価値づくり」につながることを証明する事例でしょう。
ステークホルダーが共感するファクトに基づく企業の「価値づくり」
住友商事の事例から分かる通り、「価値づくり」広報で重要なことは、ステークホルダーが共感できる課題設定と、その課題を解決するアクションプランの創出です。そして、そのアクションプランは、ステークホルダーが参加したくなる試みであることが肝となります。
図表4で示すように、世のさまざまな社会課題から重点ステークホルダーが共感する課題を抽出し、その解決を実現する取り組みが、新たな社会価値(ソーシャルバリュー)の創出につながります。こうした一連の「価値づくり」の活動が、“魅力的な企業”というステークホルダーからのレピュテーションの獲得につながると考えます。
【図表4】社会価値の概念図
当研究所では企業のファクトとブランドイメージの関係性についても調査・研究しています。どのようなファクトが一般生活者に魅力として届くのか、そしてブランドイメージの形成に寄与するのかについては次回ご紹介します。
いずれにしても、今の時代の広報・PRでは、各社に脈々と受け継がれてきた企業理念やビジョンをベースに自社の実力を見極め、社会課題の解決によって新たな「社会価値」を生み出し続けることが重要です。