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frogが手掛けるデザインとイノベーションの現在・未来No.32

メタバースとヘルスケア~無限の可能性を秘めたウェブ3.0で、医療に革命を起こす

2022/07/04

この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエーティブセンター、岡田憲明氏の監修でお届けします。

メタバースの登場によって、 デジタルの世界がリアルな世界を超える瞬間があるとすれば、その時、メタバースは私たちの健康管理(リアルな世界でもサイバー空間両方でも)に、どんな役割を果たすのでしょうか。

frog#32_ヘッド画像

「メタバースなんて、IT界の大物が想像する奇想天外な未来」としか、思えないかもしれません。けれど、周りに目を向けてください。オンラインゲーム「フォートナイト」が人気を集め、Slack、Microsoft Teams、Miro、Figmaなどの生産性を高める共同作業用のデジタルツールが活用されています。これらは氷山の一角に過ぎません。メタバースの時代は、すでに来ています―。そして、今後はさらに普及するでしょう。

私たちが日常的に利用するサービスが、メタバースの世界にどんな形で移行するか、それによって生活がどう変わるかに思いをめぐらせねばなりません。「自分のビジネスがメタバースの影響を受けるのは、何年も先のことだろう」。そう思っている経営者は、考え直した方がいいでしょう。そうした会社のビジネスは、世界の激変に耐えられません。

frogは、画期的なテクノロジーの新たなユースケースを見極めようとしています。私たちは ヘルスケア 部門を通して、メタバースがヘルスケア業界にどのように革命を起こすか、ウェブ3.0(※1)によって人類の医療ニーズをどう解決できるかを想像しようとしてきました。

※1=ウェブ3.0
これまでインターネット上のデータを独占的に支配していた大手プラットフォーマーに対して、ブロックチェーンなどのテクノロジーを活用して情報を分散管理できるようにすることで民主化しようとする考え方

 

この記事では、私たちが考える未来の医療保険、治療、病院の姿を紹介します。ヘルスケアを支えるこれら三者が、暗号化処理(ブロックチェーン、トークン、安全性の高い新たなガバナンス体制)や没入型デジタル環境(ヘッドセットをはじめ、仮想空間での治療を実現するVR/ARハードウェアやソフトウェアの普及)の影響を受けてどのように形を変えていくかを、見ていきます。

保険のトークン(個別認証情報)化

医療保険は転換点を迎えています。生活者は、個人のニーズとリスクに合わせてカスタマイズされた保険を求めるようになっています。現在の保険商品は、保険会社が破産する危険を減らすために、大勢の人から保険料を集めてリスクを分散させる画一的な設計になっています。おかげで、保険に加入していれば、誰でも多額の費用負担なく必要な治療を受けられます。

米国では、医療費負担適正化法(Affordable Care Act)に基づき、保険会社が料率を算定する時に使用できるリスク因子が制限されています(性別を理由に保険料に差をつけられないなど)。しかしメタバースでは、大量のデジタルデータを利用して、健康リスクや健康状態の悪化をさらに正確に予測し、予防できるでしょう。

もちろん、その前提として重要な倫理的問題を、慎重に考慮し検討する必要があります。例えば保険会社が、料率算定の根拠としてどんな情報を利用でき、どんな情報は利用できないかなどです。うまくデータを活用すれば、誰もが自分のニーズに合ったオーダーメイドの保険に加入できるかもしれません。

メタバースでは、暗号化処理が行われるため、自分のデータが他人の目に触れることはありません。現在のように、保険金請求に必要なデータが電子カルテや保険会社に分散しているといった事態はなくなるでしょう。それどころか、メタバースでのあらゆる活動が、普段使っているレシピ、居住地、会話の内容、検索履歴、交友関係などとともに健康情報として記録されます。データは安全に保管され、クリプトウォレット(暗号通貨取引で使用できるツールの一種)を使って共有されます。そうなれば、現在、健康の増進につながるデータの共有を妨げている、一部の政府規制(HIPAA:米国の「医療保険の携行性と責任に関する法律」など)の見直しも進むでしょう。合わせて、生活者から見たデータセキュリティやプライバシーの保護も向上します。

例えばメタバースで診療予約を入れる場合、ユーザーは、クリプトウォレットを使って医療機関のサイトにログインし、自分の健康情報のうちどれを共有するか選択できます。診察結果は、患者本人のウォレットに安全な形で保管されます。医療機関と保険会社は、必要に応じてウォレットにアクセスして予後を確認し、幅広い新たな価値のある商品・サービスを提供できます。例えば、うつ病患者のメタウォレットを使って、非哀感などのうつ病に典型的な症状が軽減したことを証明できれば、認知行動療法の効果を明らかにできます。

将来的には、非代替性トークンを利用して保険がトークン化されると予想されます。ユーザーは、予防的治療を受けたり健康を高める行動をとったりすることで、保険トークンを獲得します。このトークンを使って保険料の割引を受けたり、ヘルスケアだけでなく、ライフスタイルの改善に役立つサービスを受けたりできるのです。

医療保険はもはやリスク分散の手段ではなく、健康維持に役立つパートナーになります。保険会社が、ヘルスケア関連のツールやリソース、加入者が参加できるさまざまな活動を集約し、適切な料金設定で提供するようになります。未来の世界では、トークン獲得につながる多様な活動を用意してインパクトを与える保険会社が成功を収め、最も大きな利益を手にするでしょう。人々の健康を守る仕組みが、メタバースの世界でついに実現するのです。

発展するデジタル治療市場

近頃は、医療情報の記録、患者どうしの交流、診察予約、日常的な治療支援(薬の飲み忘れ防止など)に、「MyChart」や「Apple Health」などのデジタル技術が使われることが増えています。仕事や日常生活と同じように、健康管理でも、デジタルとリアル両方のサービスを使いこなすのが当たり前になっているのです。

一方で製薬会社は、デジタル治療への参入に慎重です。Grand View Research社の調査によると、デジタル治療市場の規模は2021年時点で20億ドル未満と、米国のヘルスケア業界全体の0.05%に過ぎません。

今後はメタバースの発展に伴い、デジタル治療が推奨されるようになります。今後数年間に、ほぼすべての病気と症状を対象として、人間中心のアプローチで設計された効果的で快適なデジタル治療を目指す競争が展開されるでしょう。

製薬会社は、今のビジネスモデルや経営のあり方を、根本から見直さねばなりません。研究開発への集中投資と時間のかかる臨床治験を通じて、次の大型新薬を探す時代は終わります。これからは、リスクを嫌う保守的で動きのスローなライフサイエンス企業よりも、アジャイルなIT企業に近いスタイルの製薬企業が成功を収めるでしょう。

ただし、それと平行して従来通り、厳しい試験を通じた有効性の実証に取り組む必要があります。医師や研究者はデジタル治療の開発者として、高度な医学知識や臨床経験と最先端の設計・コーディング技術に基づき、きめ細かなアドバイスを行い、新たな治療薬や臨床試験を短期間で開発するようになります。

今後数年以内に、薬局経由の治療から、分散化されたオープンなデジタル治療市場への移行が起きます。この新たな市場では、患者のデータを多角的に分析して作成された処方箋を参考に、患者が自分のニーズに合った治療オプションを選ぶことができます。デジタル治療市場の決済には、暗号通貨が使われます。保険商品の柔軟性も高まり、患者は給付金を使って、デジタル治療市場での高額な治療費をまかなえます。

リアルとデジタルが融合した“メタ病院”

近頃の病院や医療機関は、市場シェアを伸ばすために、大都市近郊に建てられることが多くなっています。米国では、病院は資本集約型のビジネスであるため、大手病院は受診患者数を増やして収益アップを目指しています。「価値に基づく契約」(サービスの量でなく、集団に提供した治療の価値によって診療報酬が決定される契約方式)を採用する病院でさえ、患者を適切な治療拠点に速やかにつなぐことが求められます。例えば、専門医よりかかりつけ医、救急治療室より急病診療所といった形が挙げられます。

米国の病院経営者は、大規模治療拠点の診療報酬を増やすために、医師グループや、各地域のクリニック・診療所の買収を進めています。さらに病院は、環境負荷の削減という課題も抱えています。現在は対面診療が中心ですが、将来的には、対面診療は必要な場合に限られ、それ以外はすべてオンラインになるでしょう。

今後は、保険ネットワークを設計する際も、地域ではなく、オンライン診療、質の高いケア、専門知識、ユニバーサルアクセスがポイントになります。遠方に住んでいるから大切な家族の診察に立ち会えない、といったこともなくなるはずです。希望すれば、世界のどこからでも家族の診察に同席できるでしょう。

治療に関わるのは病院のスタッフだけ、という時代は終わります。包括的なサービスがリアルタイムに手配され、どこにいようと最適な治療を受けられるのです。COO(最高執行責任者)が病院経営に大きな影響力を持つ代わりに、CDO(最高デジタル責任者)が実権を握るようになります。対面とオンラインの調整を行うために、看護士などの現場スタッフが重要な役割を果たします。

最後に、メタバースの世界では、メンタルヘルスは後から追加されるのではなく、最初から治療に組み込まれます。メンタルヘルスを見守り、必要に応じて治療を行うためにウェアラブルや体内埋込型の脳波計が普及し、精神状態を常時測定しているメタバースのデータがこれを補います。精神科の医師に気軽に相談できる機会が増え、24時間いつでもオンライン診療を受けられるようになります。メタバースにも、リラックスやマインドフルネスの実現を促す、安らぎの空間がたくさん生まれるでしょう。

病院は次第に、立地の枠を超えて、総合的な治療モデルの提案と実現を目指すでしょう。快適なデジタル体験、オンライン診療を通じた最高の医療へのユニバーサルアクセス、AIを活用した医学的アドバイス、さらには利便性と想像力を実現する新時代が、こうした動きを加速させます。爆発的に増える大量のデータや、飛躍的に進歩する医学的知識にどこからでもアクセスできるため、今後はメタバースでの治療が医療の形として推奨されるでしょう。ひいてはそれが、病院の炭素排出量の大幅な削減を通じて、地球環境に優しいビジョンの実現にもつながります。

治療イノベーションの最前線「メタバース」がもたらす健康の未来とは

クライアントが未来の可能性に気づくお手伝いをすること、それが frogの仕事です。私たちは、クライアントとその顧客の将来的な成功を実現するチャンスを作ります。frogのヘルスケア部門は、医療を必要とする方に人間中心の治療のあり方を提案するために、地道な取り組みを続けています。

メタバースは、治療のイノベーションの最前線です。新しく意外性に満ちたこの世界には、分からないこともたくさんあります。けれど見て見ぬふりをするのでなく、治療を必要とする人により良いサービスを提供するために、この未知の領域がもたらすチャンスを一緒につかみましょう。もちろん、倫理的、道徳的に重要な問題や、メタバース体験に特有の問題を考える必要はあります。けれど私たちは、人類には、誰もが手軽に利用できる、データ志向の安全で快適な全く新たな医療の場を作り出せる力があると信じています。そんな世界で、あなたはどうなりたいですか?

この記事はウェブマガジン「AXIS」にも掲載されています

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