脳波計測で新発見!ラジオの「音」は感情に効く
2022/08/03
最近、ラジオのリスナー数が増えていると言われています。リモートワークの普及で、自宅でラジオを聞きながら仕事をする人も多いようです。みなさんも、ラジオや音楽といった「音」があることで、かえって仕事に集中できたり、作業がはかどったりした経験はないでしょうか?そこには音のどんな働きがあるのでしょう?
このコラムでは、脳波計測を駆使した電通ラジオテレビ局と電通サイエンスジャムの共同実験の結果を通して、リスナーの感情に作用する音の秘密に迫ります。
このコラムは、ウェブ電通報初の音声記事でお届けします。
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なお、文字でじっくり記事を読みたい方は、音声記事から再構成した文字記事を以下にご用意しましたので、そちらをお読みください。
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木幡:みなさん、こんにちは!CXCC Dentsu Lab Tokyoの木幡と申します。突然ですみません。今回はラジオを題材にお話をするにあたって、せっかくならラジオ風にウェブ電通報をやってみようということになりました!
さて、みなさん今日はどんなシーンでお聞きですか?在宅勤務中?カフェでゆっくりしながら?それとも移動中??
radikoができて、PCやスマートフォンでラジオを聴くことはすっかり当たり前になりましたが、リモートワークの増加もあって、ラジオが再注目されているそうなんです。「ながら聞き」もできるし、BGMにももってこいですよね。リスナーさんも増加傾向ということです!
そこでふと思ったのですが、ラジオの最大の特性である「音」「聴覚のみへの訴求」はリスナーさんの気持ちにどんな影響を与えているのか、更にどんな音が感情を揺さぶるのか?
感情を伴う顧客体験の創出や、より良い感情モーメントの構築に向けて、電通ラジオテレビ局と電通サイエンスジャムが共同で実験を実施しました。脳波を計測することで、ラジオが人々に与える感情的影響、またどのようなクリエイティブがより感情を揺さぶるのかを可視化しました。
今日はラジオテレビ局の小川聡さん・幸田千広さんと私・木幡で実験の結果をお話ししようと思います。それでは、まずは小川さん、幸田さん、よろしくお願いします!
ラジオが今再ブレイク?!
小川:普段ラジオに触れていますが、実際に出演という機会はなかなかないので緊張しています。お話にあったように、ここ1~2年、雑誌などでラジオが取り上げられる回数も増えるなど、注目が高まっているといえます。実際にリスナーも増加傾向にあります。
■数字データに見えるradiko(ラジコ)ユーザーの増加
⇒2020年1月と2022年1月 コロナ前後での数字比較結果
・MAU(※1):113%増加[約750万UU(※2)から約850万UUへ増加]
・DAU (※3):128%増加[約140万UUから約180万UUへ増加]
※1 MAU:マンスリーアクティブユーザーの略で月間のアクティブユーザー数を示す。
※2 UU:ユニークユーザーの略で、一定期間内に特定のサイト・アプリにアクセスしたユーザー数(訪問者数)を示す。
※3 DAU:デイリーアクティブユーザーの略で1日あたりのアクティブユーザー数を示す。
さらにコロナ禍において若年層のユーザー増加率が高く出ています。radikoが毎年行うユーザーアンケート調査によると、10代ユーザーの約55%がコロナ禍の2020年1〜6月以降にradikoの聴取を開始しています。また20代以上ユーザーも2~3割が2020年1〜6月以降にradikoを聴取開始しています。このようにコロナ禍でリモート環境が増えたことで、10代・20代のユーザーがradikoやラジオ番組を聞く傾向が高まっているようです。
幸田:利用者が増えているラジオですが、ユーザーがどういうときにラジオ、radikoを使っているのか、利用シーンの傾向についてお話します。
ラジオはもともと「ながら聞き」メディアということで、仕事や勉強、家事など、他の作業をしながら利用する方も多い特徴がありました。だからこそ、在宅ワークや在宅学習の環境と相性が良かったんだと考えられます。
意外と「集中したい時」に利用するユーザーも多くて、radiko news記事によると、集中したい時になにかBGMを流すというユーザーは8割、またそのうち「音楽よりもラジオを流す」という人が若干多い傾向が出ています。「人の話し声を聞きながらのほうが集中できる」「なじみのパーソナリティの声が良い」「落ち着いて仕事ができる」「トークのテンポが良いので作業が進む」などの声がユーザーからは寄せられているようです。
また、radikoのユーザーアンケート調査では、特に若年ユーザーがゲームをしながらradikoを利用しているという結果も出ており、意外でした。
もともとラジオと相性が良いと言われるSNSですが、やはり10〜20代はSNSサービスを利用しながら聞いているユーザーが圧倒的に多い傾向も表れています。
何かをしながらや、何かに集中している時だけではなく、休日のくつろぎの時間や、また寝る前にベッドの中で利用するユーザーが多いのも、もう1つの傾向といえそうです。
さらには「ながら聞き」であっても、radikoで聞いたCMの認知や記憶、好意度向上などにおいて効果があるという傾向もみられます。
このようにアンケート調査結果などからは…
- ラジオは作業の邪魔にならない。集中したい時、またリラックス時とも相性が良さそう。
- ながら聞きでも中身はちゃんと聞かれている、また好意的に情報が捉えられていそう。
こういった傾向や特徴がみられましたが、実際にradiko(ラジオ)を聞いているユーザーの感情と何か関係があるのか?などをもっと深堀りしたい思いが出てきました。
小川:そこで今回、電通サイエンスジャムさんにご協力いただき、ラジオが人の感情に与える影響を調査することにしました。
脳波計測でリスナーの感情を可視化
木幡:はい。再度CXCCの木幡です。ここからは私がお話ししますね。
私は昨年まで電通サイエンスジャムに出向し、脳波を使って人の気持ちの可視化を行っていました。
顧客体験を設計する際、さまざまな接点での感情デザインが必要だと考えています。感情を伴う体験は、記憶に残りやすいといわれています。どのようなシーンで、どのようなメディアで、どのようなクリエイティブで伝えるのがより感情を揺さぶるのか。この問いを明らかにすることは、よりリッチな顧客体験を生み出すためにも重要だと思います。
そこで、今回は「ラジオ」に着目し、脳波計測による実験(※4)を行いました。ラジオの最大の特性である「音」は、リスナーの感情にどう作用するのか?
※4 電通サイエンスジャムが保有する「脳波測定による感性把握技術」を活用した感性評価システムを使用。独自の簡易型脳波計を使用することで、タスクを実施しながらリアルタイムに脳波データから感性を把握できる。
調査機関:電通サイエンスジャム
調査方法:ニューロリサーチを活用した定量調査
調査対象:20〜40代男女30名
調査時期:2021年6月24日
【疑問1】ラジオを聴きながらって、本当に作業がはかどるの?
radikoのアンケートにも「落ち着いて仕事ができる」とありましたが、実際どうなのでしょうか??
被験者には無音状態とラジオを聴きながらの状態で、PCでタイピングを行ってもらいました。その結果、ながら作業のほうがストレスが低く、リラックスしている状態ということがわかりました。また、有意差はなかったのですが、ながら作業のほうが集中度とワクワク度が高かったようです。
また、タイピングの結果を見てもラジオを聴いているほうが、ミスが少ない結果となりました。
アンケート結果同様、ラジオを聴きながらのほうが実際にリラックスして作業がはかどっていたことがわかりました。今回はトークメインのラジオを聴きながら単純作業をやってもらったのですが、おそらく仕事の内容によって、より集中できる番組が変わってくると思います。そのあたりも、追加で調査できたらと考えています。
【疑問2】ラジオCMってどんなメリットがあるの?
ラジオCMとテレビCMを組み合わせたときに、どのような効果が見られるのか。いくつかの商品のCMを調査素材として、テレビCMだけ、ラジオCMだけに接触した人と、両方に接触した人で、数値を比較しました。
すると、重複接触した人たちのほうが集中度と興味度が上がりました。もちろん接触頻度による影響ともいえますが、テレビ+ラジオでより商品への興味喚起が高まる可能性が垣間見えました。さらに好意度も上がっており、ブランディング への寄与も見られます。特にリズムに合わせてメッセージを訴求するようなリズム系CMの好意度は上がりやすく、メディアミックスに向いている素材かもしれません。
【疑問3】どんなCMが感情を揺さぶるの?
調査に用いたCMのうち、特にリズム系CMの好意度が上がりやすい、という結果がありました。いわゆるCMソングや社名連呼型のようなCMです。
やはり、音での訴求として音楽性の高い広告のほうが、耳にも残りやすいし良いイメージを持たれやすいと考えられます。
もう一つ、面白い結果が。CMの中で、声優さんの声を活用したCMが2種類ありました。男性の声優さんのみが出演しているものと、男女の声優さんが出演しているものになります。どちらのCMでも、男性被験者より女性被験者のほうが好意度とストレス度が高く出ていました。
過去の研究で「記憶に残るためには刺激が必要となることから、ストレス度が上がる」というものがあります。女性のリスナーに対しては、声優さんのように声に特徴がある話し手を起用したCMのほうが心に残りやすい可能性が見えてきました。今回の調査では、その理由までは探ることができなかったのですが、声質や周波数と感じ方の関係を深掘りすると面白そうです。
感情を伴う体験とラジオの可能性
木幡:今回の調査結果から、「音」と一言で言っても、伝え方、タイミング、話す人によって、リスナー側の感じ方も大きく変わってきそうだなと思いました。
幸田:そうですね。声優さんの声に対して、男性リスナーより女性リスナーの方が好意度とストレスが高いという結果が出ましたが、何かしらリスナーの心が動いていて、ちゃんと感情にも表れるというのはおもしろいと思いました。ラジオは、話し手と聞き手の心理的な距離が近いメディアだからこそ、自分に話かけてくれているような感覚があり、それぞれのリスナーがパーソナリティと、それぞれの関係を築いている。だからこそ、そこで生まれる感情も変わるし、そこで感じている関係性によって感情の動き方も変わる。パーソナリティがしゃべると、ちょっと高いものでも「買おうかな」って思うリスナーがいたりとか…
木幡:生コマーシャルでモノが売れるって言いますしね。
幸田:音だけでモノを買うところまでもっていくのって、結構すごいことだなと思うんですけど、それって何かしらリスナーの感情に音が作用しているからなんですよね。今回そのきっかけみたいなものが見えたので、その辺りをより解明できると、ラジオが持つパワーや絆メディアの強みを、もう少し可視化できるのかなと感じました。
木幡:確かに。ラジオをイヤホンで聞いていると、物理的に耳のそばでしゃべっているような感覚、パーソナリティがすぐそこにいるような感覚があって、もしかしたら心の距離も近づいていくのかもしれない。
幸田:そういう意味では、イヤホンで聞くというスタイルがどんどん普及している今、音の新たなチャンスが生まれてくる可能性もあるのかなと思ったりします。
小川:パーソナリティとリスナーの心理的な距離について言えば、普段聞いている人の声と初めて聞くパーソナリティの声でどれだけ聞き手の感情に変化があるのか?といった実験ができると、さらに音声メディアであるラジオの良さを発見できるかもしれない。
木幡:そうですよね。今回、私たちもしゃべってみて、めちゃめちゃ難しいなあっていうのがあって…
幸田:ほんと、パーソナリティさん、すごいなって…
小川:ストレスというのは、僕らからするとよくない結果なのかなと思いながらも、好意度が上がって、それを記憶させるにはストレスがあることが重要で、好きだけではなかなか記憶に残らないというのも、ひとつ勉強になりました。
木幡:そうですね、刺激という意味で。
小川:もしかしたらイヤホンをつけていることで刺激になるのか、「Like」(好き)につながるのか、そういったことも含めて、今後また調査できればと考えています。
木幡:ラジオのリスナーは年配の方々というイメージがあったんですけど、若い方が聞く機会がどんどん増えていく中で、SNS同様にライトな双方向のコミュニケーションができるようになると、ラジオの可能性が広がる気がします。
小川:Z世代と言われる方々が音声を聞く機会も増えているようなので、これから期待できると思います。
幸田:次に調査する機会があれば、若い世代と年配のリスナーで感情の動き方や音の情報に対する感覚がどう違うのか比較するとおもしろそうだなと感じました。
木幡:伝えたい相手に対して、どう言えば伝わりやすいか、どういう感情を動かしてあげるとブランディングにつながるのか、その辺をもっと掘り下げられるとおもしろいですね。
幸田:まだまだ感情の視点から、音声やラジオの良さについて解明していけそうです。
木幡:今回のラジオ風ウェブ電通報、とても楽しい会でした。
小川:勉強になりました。
木幡 ラジオのパーソナリティさんはすごいなってことがよくわかりました。お聞き苦しい点もあったかと思いますが、お聞きくださったみなさん、ありがとうございました。