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Z世代との対話で開く、サステナブル時代の扉「ハラワッテハラオチSDGs」

2022/07/12

SDGsの達成に向けて、多くの企業がさまざまな取り組みを行っています。実際のところその内容は、生活者にどの程度伝わっているのでしょうか?

電通と朝日新聞社は共同で、「ハラワッテハラオチSDGs」を2021年に立ち上げました。この企画は、未来社会を本気で考える学生とサステナブルな社会の実現に向けて本気で取り組む大人が、SDGsをテーマに対話するというもの。企業が“腹を割って”学生の疑問に答え、自社の課題やその解決に向けた方法を話し合うことで相互理解を深め、互いに“ハラオチ”することを目指しています。

この記事では、本企画に参加した朝日新聞社・今村尚徳氏、電通・仁尾和世氏、SEE THE SUN代表取締役社長・金丸美樹氏の座談会の様子を紹介。本企画を立ち上げた背景や企業のSDGs活動と発信における課題、実施後の気づきなどについて語り合いました。

SDGs

従来の一方通行のコミュニケーションでは伝わらない、企業のサステナブル活動

──まずはみなさんの業務内容と、本企画でどのような役割を担当されたかを教えてください。

仁尾:普段は、SDGsに関わるさまざまなステークホルダーと連携し、SDGsに対する情報発信、ソリューションの企画・開発などを行っています。「ハラワッテハラオチSDGs」は、企画の立ち上げから関わりました。

今村:私は、「朝日新聞DIALOG」(以下DIALOG)の編集長を務めています。DIALOGは若い世代と一緒に未来を考えていく、リアルとデジタルが融合したコミュニティです(ホームページは、こちら)。本企画では、食品業界に興味がある学生のアサインと、実施後のレポート記事の監修を担当しました。

金丸:2017年に森永製菓のコーポレートベンチャーとして創業した「SEE THE SUN」代表取締役社長を務めています。食の作り手同士がつながるコミュニティの運営や、作り手と生活者が会える場をつくるなど、食の領域における社会課題解決に取り組んでいます。このたび、縁あって「ハラワッテハラオチSDGs」に参加させていただき、学生のみなさんと対話しました。

──「ハラワッテハラオチSDGs」を企画した背景を教えてください。

仁尾:SDGsの達成やサステナブルな社会の実現に向けて、さまざまな企業が取り組んでいます。しかしその内容は、生活者に伝わっているようでいて、実はほとんど伝わっていないのが現状だと思います。いわゆる広告ブランディングや広報によるPRなど、一方通行のコミュニケーションではなかなか伝わりにくく、共感されにくい点が課題です。

実際、企業からはたくさんのリリースが発信されていますが、記事になることはほとんどありません。各企業の広報担当者は、 “伝わらないリリース問題”に悩んでいる方が少なくありません。

今村:情報の受け手側の立場を見ると、今の若い世代はSDGsへの意識がとても高いと感じます。それはやはり、未来への閉塞(へいそく)感や危機感、不安感の裏返しだと思います。中でもDIALOGに集う若者は社会課題への意識が非常に高いのですが、彼らを見ていると、SDGsにおける企業の取り組みも「表面的なところ」は伝わっているように見えます。おっしゃる通り、企業もPRに力を入れていて、どう自分たちの取り組みを届けていくかを考えていますから。ただ、若い世代にはそれを少し見透かしているような面、つまり「きれいな言葉で書かれているけれど、本当のところはどうなの?」と感じてしまっている様子が見られますね。

金丸:弊社は、食の領域で未来に向けての取り組みを進めていく際に、作る側だけで考えてはいけないと思っています。食の分野には食べる人が変わらないと解決しない問題があるため、若い人に限らず、生活者のみなさんと未来に向けた課題について楽しく話し合っていける関係を作りたい。そのために、自分たちが実直に取り組んでいることも知ってほしいという思いがありました。伝わらないことに悩んでいるというよりは、もっと多くの交流を持ち、信頼関係を結びたいという感覚が強いですね。

SEE THE SUN
葉山にある古民家を改修したSEE THE SUNの社屋。ここで、作り手×生活者との共創コミュニティ「OUR TeRaSu」や、食品メーカー同士の共創コミュニティ「Food Up Island」の運営など、さまざまなプロジェクトを展開している。

仁尾:金丸さんがおっしゃるように、私たちも企業と生活者の方々にもっときちんと“出会って”ほしいと考えました。この場合の“出会う”とは、双方が腹を割って話ができ、それを通してきちんと企業の思いを分かってもらえること。そうしたコミュニケーションの場を作りたい、というのが本企画の原点です。

金丸:私自身も、本音で「この部分はできているけれど、こちらはできていないところがある」と正直に言うことが、逆に信頼感に結び付くのではないかと考えています。そこでこの企画を通して、当社の課題や実情をあえて伝えることにより信頼関係ができればと思いました。

生活者に“裏側を知る”ことを楽しんでもらうことで、新たな視点や意見が生まれる

──プロジェクトは実際、どのような形で進められたのでしょうか?

仁尾:基本的な流れとして、まず企業側から、サステナブルな取り組みについて失敗事例も含めて情報をたくさん出していただきます。その情報を事前資料として学生にインプットしてもらってから、対話を行います。失敗事例という点が一つのポイントで、それを見せることにより双方の本音を引き出していくのが狙いです。

金丸さんと対話した時も、私たちから学生に企業情報をインプットした状態で葉山のサテライトスタジオに伺い、さらに深い話をお聞きしました。最終的には事前情報と当日お話しいただいた内容をもとに、この企業はどんなふうにしたらよくなっていくのか、という部分までを、社員の方と学生を組み合わせたチームに分かれてディスカッションしました。

金丸:当日は、まず私自身が社会に対してどんな課題感を持っているかというところから話をしました。食の課題も川上から川下までたくさんあり、単発的なアプローチや一社だけ、一人だけで取り組むのでは到底解決できません。また、いいものを作って売るだけではその状況は変わらず、日本には優秀な作り手がたくさんいるのに、みな疲れてしまっているように見えます。縮小している市場の中で、各社がお客さまを奪い合っている間に日本全体が縮小してしまってはもったいない。だから日本全体が横につながっていけるような取り組みが大事だし、みんなで考えていきたいと伝えたのです。

SEE THE SUN
学生に向けて、SEE THE SUNの取り組みを説明する金丸美樹社長。

サステナブルにまつわる話としては、「安くていい商品」が素晴らしいと思われていますが、“お買い得”の裏で、作り手や関わっている誰かにしわ寄せがきているケースもあることを伝えました。いったん立ち止まり、そこを考えられるかどうかで世界が変わるかもしれない。学生さんや生活者に“裏側を知る”ことを楽しんでもらえるようになれば、作り手や研究者のことを考えられるし、自身も楽しくなるはずと話をさせてもらいました。

仁尾:葉山のオープンな場の力もあったとは思いますが、金丸さんが、正に腹を割って学生一人一人としっかり会話をしてくださったので、話が終わった後はみんな一気にハラオチをしていた印象です。中でも競合となる作り手同士が手を組む部分に興味を持った学生が多かったようです。

また、学生からの「地方特産品が高くて買えない」という話に対して、「むしろ大手のものが安すぎる。なぜかというとそれは企業努力をしているから」という答えをいただいた場面がありました。先ほどの「安くていい商品」の話にもつながりますが、低価格で提供している大手企業も、特にその裏側について発信はしないので、生活者や学生はなかなか気づけない視点です。こうした機会にお話を聞けると仕組みが分かり、発見がありました。

金丸:メーカーや開発者サイドも利益だけを考えて商品開発をしているわけではありません。大企業などは特にそう見られやすいですが、みなさんに「おいしい」を届けるために工場の整備や包装材の開発、フードロスにならないために長期保存できるような技術革新に取り組んでいるんです。

今村:僕が学生たちを見た所感では、みんな本当は聞きたいことがいろいろあるのだなという点が印象的でした。今回、事前のインプットとして参加者全員に日本の食を巡る課題も共有したため、社会課題の解決はなかなか一筋縄ではいかないことが想像できたのではないかと思います。若い人は「なぜ企業はこういうことをしないのか?」といった疑問を持つことが多いかもしれませんが、全体像を見ていくと「そんな簡単に解決しない」ことが分かった。だからこそ、金丸さんの話を聞いて質問がたくさん出てきたのかなと。

金丸:確かに社会課題にとても興味を持っていましたし、アイデアもたくさん出してくれましたね。私自身も、いつもとは違う発想をもらえました。一番うれしかったのは、「なぜ企業はこれをしてくれないの?」という質問に対して、状況をきちんとひもといて伝えると、仲間意識みたいなものをもって受け入れてもらえたことです。単純な二項対立の構図ではなくなり、「それなら」と異なる視点の意見が出てきた。会話を通して、一緒に解決するメンバーのような捉え方をしていただけたと感じました。

「いい会社」の定義が変わる時代。企業のビジョンや取り組みを伝えるには“腹を割る”ことが大切に

──終わってみての学生の反応で印象に残っているものはありますか?また、各自の立場から見ての気づきや発見がありましたら教えてください。

仁尾:ある学生が「今回の件を含めて、やはり行動することの大事さを改めて認識した。僕は行動することで生きていきたい」という感想をくれたことがうれしかったです。

今村:学生たちは商品を買う生活者の立場ですが、買い物の際にきちんと作り手や購入までのプロセスに関わるすべての人々に思いをはせて買うようにしよう、と話していた学生がたくさんいましたね。

仁尾:SDGsの活動に関連した気づきでいうと、今まさに「いい会社」の見られ方がどんどん変化しつつあると感じます。これまでの、他社よりもおいしい商品を作れるかどうかだけでなく、サステナビリティやSDGsを考えられるのがいい会社とされるような時代の流れがあります。ものを買うことや大切にすることに対して、よりそのビジョンに共感できる企業を応援したいと考えるようになっているのではないでしょうか。そうした流れを考えたとき、「腹を割る」ことや、きちんと聞く、教えてもらうことは非常に大切だと改めて感じました。

金丸:SDGsのようなみんなで解決しないといけない視座の高いテーマは、学生さんとも一緒に考えられますよね。そして、こうした取り組みはSDGsに限らず、企業のビジョン次第で推進できるような気がします。自分のところだけもうけたいからアイデアがほしい、ではなく、みんなで楽しもうという内容であれば同じように対話ができるのではないでしょうか。

今村:企業は日頃から一つのゴールを追いかけて活動しているので、専門分野においては当然経験や知識や情報をたくさん持っていて、学生側が教えてくださいという立場になりがちです。ところがSDGsの場合は、何をしていいのか分からない企業も多く、学生の方が情報を持っているケースもありえます。そうしたテーマでは、企業と学生がよりフラットに話し合えると感じました。

ただ、僕たち新聞社もそうですが、企業側の方が情報をたくさん持っている分野でも、学生の疑問や意見を最初からはねのけてしまっては前に進めません。今は不確実性の高い時代。次の時代を担う人々の言葉にどれだけ柔軟に真剣に耳を傾けて取り入れ、既存の価値観に縛られずに自らトランスフォーメーションしていけるかが企業に求められていると、日々感じています。

企業のエンゲージメントやコアファン獲得に向け、 “対話の場”の創出を続けたい

──本企画をふまえて、今後の展望や取り組みとして考えていることがあれば教えてください。

仁尾:やはり企業と生活者の方々が語ることは非常に大切なのだと感じました。特にエンゲージメントやコアファンの獲得を考えてらっしゃる企業にとっては、核にもなる重要なアクションだと思います。また、こうした機会を設けて対話することによって、企業も社内では発見できていなかった社会への貢献ポイントを知るきっかけとなるのではないでしょうか。そうした複数の意味で、今後も本企画を通してさまざまな企業と連携していきたいです。

金丸:当社では、以前に「国連食料システムサミット」に向けて共同研究をしていた大学生の内6〜7人と、今も一緒に活動を続けています。この6月末にその研究に関するアウトプットイベントを行いましたが、予想を超える多くの方がご来場され、学生の熱量を感じていただきました。「社会にいいこと」を「楽しくワクワク」伝えることができ、学生とともに未来をつくるための第一歩を踏み出した感覚があります。

就職活動やインターンですと、自分たちが雇う側の目線で学生を見てしまいますが、こういったイベントでは双方向の学びがあり、フラットな関係性になれます。どんな企業活動も、その企業だけで回ることはなく、生活者がいて初めて動くもの。みんながそんな気持ちを持ちながら発信や活動を考えられるとよいですね。

今村:DIALOG参加メンバーの学生にはいつも、「ポジティブ」「フラット」「ボーダレス」でいてほしいと伝えています。今回の企画の成功の要因としては、葉山というロケーションの力も手伝って“ワイワイできる場”が創出できたことが大きかったのではないでしょうか。まずは基本的なコミュニケーションの原則をDIALOG内で広め、今回の企画のようなコラボレーションの場でうまく使いながら、今後もそうした“場”を作ることで、いいコンテンツを生み出していきたいと考えています。

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