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松屋Instagramをバズらせたプロデューサーに聞く、企業コンテンツのあるべき姿

2022/08/04

今、多くの企業がマーケティング活動の一環としてInstagramを積極的に活用しています。

しかし、“インスタ映え”やインフルエンサー活用といった従来のマーケティング手法が飽和状態となり、差別化や独自性の打ち出しに苦戦している企業が多いのも事実です。

そんな中、これまでのセオリーにとらわれない施策で、牛丼チェーンを展開する松屋フーズをはじめとする数々の企業アカウントの“バズり”を生み出しているのが、grass株式会社のエグゼクティブプロデューサー、齊藤澪菜氏です。

これまで手がけてきた事例や電通とのプロジェクトを交えながら、これからのインスタブランディングに必要な考え方について、電通PRプランナーの大澤希美恵氏がお話を伺います。

インスタブランディング

投稿を多くの人に届けるための、「アルゴリズムハック」とは?

大澤:齊藤さんといえば、尖ったコンテンツで大反響を巻き起こした松屋Instagramの仕掛け人としてメディアでも取り上げられることが多いですね。ふだん、どのようなお仕事をされているのか、改めて教えていただけますか?

齊藤:大きなくくりとしてはSNSコンサルティングになりますが、いわゆるインフルエンサーマーケティングのようなPR支援だけでなく、ブランドのリブランディングやコンセプトプランニングから携わることが多いです。もともと大手印刷会社が運営する海外セレブの情報発信メディアで編集長を務めており、当時のメンバーがgrassに所属していることもあって、グローバルな最先端トレンドを日本風にアレンジするのが得意だったりします。

大澤:齊藤さんご自身がフォロワー数2万人超えのインスタグラマーとしても活躍されているので、インフルエンサーならではの視点やインスタ活用術をプランニングに取り入れている点がとても面白いと感じていました。

齊藤:そうですね。インフルエンサーマーケティングに関しては、ギフティング(インフルエンサーに対して商品やサンプルを送付し、投稿を依頼する施策)をしてハッシュタグを付けて投稿してもらうのが今のセオリーだと思います。しかし、インフルエンサーも自身のブランディングにつながる企画であるほど熱量を持って取り組めますから、企画段階からインフルエンサーを巻き込んで一緒にコンテンツを作っていくこともあります。

大澤:齊藤さんのプロジェクトは、個性的なコンテンツに注目が集まりがちですが、実はその裏側で緻密な分析や工夫が行われているのですね?

齊藤:はい。例えば、Instagramが新しく作った機能や推している機能を積極的に取り入れることで、露出が増えるケースがあります。ちまたでは「アルゴリズムハック」と呼ばれていますが、プラットフォームのアルゴリズムを見極めてチューニングすることで、アクティブなアカウントとして認識されるようになるんです。逆に、アルゴリズムを全く意識せずに投稿していると、1日1回投稿しているのにフォロワーのフィードに全然表示されない可能性もあります。

大澤:確かに、プラットフォームのアルゴリズムは常に変化し続けていますもんね。これまでのセオリーである程度フォロワーが増えたとしても、その後の投稿がどのくらいリーチしているのか、どのくらい反応があるのかを見定めないといけないということですね。

若者向けブランディングに振り切ってバズった松屋Instagram

大澤:アルゴリズムハックなどの施策が重要であると同時に、コンテンツの中身も大切です。松屋の事例や、電通が一緒に取り組ませていただいたリンガーハットの事例では、真面目な企業の意外な一面やビハインドシーンを見せられたのがすごくいいなと思っていました。

齊藤:言葉を選ばずに言えば、「松屋やリンガーハットの真面目な部分をわざわざInstagramで見たいのか?」という問いにとことん向き合うべきだと思っていました。Instagramはあくまでも皆さんがプライベートな時間を楽しむプラットフォームです。その貴重な時間をいただいて企業が何を伝えるのか、自分たちの立ち位置やキャラクター、インスタユーザーが抱いている企業イメージなども含めて考えないといけません。

大澤:例えば、松屋の場合はどのようなアプローチを考えたのでしょうか?

齊藤:松屋は日本で知らない人はいないと言っていいほど知名度が高く、熱烈なファンに愛されているブランドです。一方、インスタユーザーの中心であるZ世代・ミレニアル世代の間でも知名度は高いのですが、ブランドに対して何か具体的なイメージがあるかというと、正直、そこまで親近感のある存在ではありませんでした。既存のファンを大切にしながら、新しい世代をどう獲得するかが最大の課題だったので、Twitterでは既存のお客さまに向けた情報発信を継続していただきつつ、Instagramでは若い世代に対するブランディングに振り切ることにしました。

大澤:なるほど。今のお話をお聞きして、ブランドの中でInstagramをどのような目的で位置付けるのかを見定めることが大事だと感じました。松屋の場合、若者向けのブランディングに振り切ることができたからこそ、あそこまでとがったコンテンツが発信できたのかなと思います。ちなみに、どんなコンテンツが若者にヒットしたのでしょうか?

齊藤:世の中でトレンドになりすぎたものや、Instagramでみんなが見慣れている投稿をオマージュしたものはどれも反響が大きかったです。例えば、おうち時間がトレンド化して、Instagramでおしゃれすぎるインテリアの投稿が増えた時期がありましたよね。あるいは、高校生の“エモい”シーンを切り取ったリール(※1)がはやったり。そういったInstagramの“あるある投稿”をタイミング良くくみ取ってコンテンツ化していました。

※1リール:最大60秒の縦動画を投稿・視聴できる機能。

 

松屋
松屋のInstagramは、こちら


大澤:“平成懐かしい”が話題になった時、いち早く松屋の“デコ電”が投稿されていたのには驚きました(笑)。

齊藤:あのデコ電は社内のメンバーに最速で作ってもらいました(笑)。

大澤:本当に面白い投稿が多いですよね。クライアントの理解なくして実現できない企画ばかりだと思うのですが、どのように関係性を築いていかれたのでしょうか?

齊藤:松屋の投稿は最初からユーザーの反響が大きかったので、まずはSNSに投稿されたコメントを集めて資料にまとめ、どのような反応があったのかをクライアントに共有するようにしました。すると、担当者の方々もアカウントに対する愛着が増していくので、そのうち自らエゴサーチをしていただくようにもなり、一緒にアカウントを盛り上げていくことができたと思います。

大澤:素晴らしいですね。クライアントも熱量を持って自社のアカウントを育てていく姿勢が、最終的な企画の面白さにもつながってくる気がします。

松屋
画像をクリックすると、リール動画をご覧いただけます。
 

そもそも情報を求めていない若者に、どうすれば楽しんでもらえるか?

大澤:リンガーハットもメインの顧客層が30代以上の男性で、若い世代のファンを育てていきたいという課題からスタートしましたよね?

齊藤:そうですね。当社は2022年2月までリンガーハットのInstagramの運営に携わりましたが、こちらも松屋のケースと同じく、知名度はあるけれど若い人にとってのブランドイメージが根付いていない状態でした。だからこそ、まずはInstagramというプラットフォームの中でいかに若者たちのアテンションを引き起こせるかがとても重要です。そう考えると、競合となりうる飲食店のアカウントと同じことをしても興味を持ってもらえないですし、ユーザーにとってノイズとなるような投稿はむしろ逆効果です。そもそも情報を求めていない人たちに対して、どうすれば好意的に捉えてもらえたり、楽しんでもらえるかをすごく考えました。

大澤:その結果、1本目のハイブランドの広告をオマージュしたような投稿はものすごい反響がありましたよね。リーチ数はもちろん、いいね!の数も大幅に増えました。

リンガーハット
リンガーハットのInstagramは、こちら


齊藤:はい。ターゲットユーザーからはもちろん、同業の広告やマーケティングの仕事をしている方々もたくさんシェアをしてくださって、話題化させるという意味では良い施策になったと思います。

大澤:今回はあえて統一感のないコンテンツを出すことで、アカウント全体を通して見た時のワクワク感を創出することができましたよね。ブランドとして常に同じ顔を出すのではなく、若い人たちがその時その時で求める楽しさに寄り添えたことが、支持を得られた要因なのかなと思います。実際にアンケート調査でも、リンガーハットを知らない女子高生がInstagramを見て「自分向きだと思った」と答えていたので、一つ一つのコンテンツはバラバラでも、トータルで若い人たちの琴線に触れるものが作れたのではないでしょうか。

齊藤:それから、これはプロジェクトを進める中で初めて気がついたのですが、リンガーハットの場合はとがっているコンテンツだけでなく、商品への愛情を込めたシンプルな投稿も数字が良かったんです。その背景には、リンガーハットの既存顧客がInstagramのユーザー層に近い、という要因があると思います。つまり、野菜がたくさん取れるという商品特徴や、お店の入りやすい雰囲気などが、若い人たちと親和性が高かったということです。それを踏まえて、キャプションで商品のこだわりやもう少し深い情報も入れるように調整しましたよね。

大澤:なので、松屋のようにとがったコンテンツを発信することがインスタブランディングのセオリーではないですし、もちろん、“毎日投稿”や“3日に1回投稿”で成功するとも限りません。ブランドの特徴やインスタユーザーからのイメージ、その時々のマイクロモーメントなど、さまざまな要素を加味しながらコンテンツを発信していくことが大切ですよね。

“盛れ” “映え”のインスタから、知的好奇心を満たすインスタへ

大澤:ここまで飲食店の事例を2つ取り上げましたが、最後に、飲食店以外の事例も教えていただけますか?

齊藤:最近お手伝いさせていただいている、アメリカのコスメブランド「bareMinerals」(ベアミネラル)を紹介します。近年はクリーンビューティや多様性などがコスメ業界でも叫ばれていますが、いわゆるSDGsがトレンド化する何十年も前からそれを言い続けているブランドです。その強みは当然、Z世代やミレニアル世代にも響くポテンシャルがあります。

ただ、Instagramに関しては本国アメリカの規定との兼ね合いで、以前は、フィードに投稿できるのはグローバルの共通コンテンツのみという大きな壁がありました。また、IGTV(※2)やリールにはオリジナルコンテンツを投稿できるのですが、既存のコンテンツがターゲットニーズと合致していないという課題も感じました。実際、アカウントのフォロワー数自体は2万5000人を超えているのですが、投稿のリーチ数が非常に少なかったのです。

そこで、まずフィードに関しては、グローバルコンテンツの選定と並べ替えを行いました。そしてリールでは、ベアミネラルがいろんなタイプの方々に寄り添えるブランドであることを訴求する動画を作りました。

例えば、ラメなどで目を大きく見せている女子高生がいます。それもすてきですが、自分の素材を生かすメークも知ってほしいという思いを込めて、メーク動画を企画しました。

bareMinerals
画像をクリックすると動画をご覧いただけます。


男性もメークで自己表現をする方が以前よりも増えています。リールでは、華やかなメークでドレスアップしているモデルの男性が、ボーイッシュでカジュアルなメークを試す動画を企画しました。

bareMinerals
画像をクリックすると動画をご覧いただけます。


他にも、若者の母親世代の方々らにモデルになっていただき、動画を作りました。

※2 IGTV:60分までの動画を投稿・視聴できる機能。2022年3月で機能の提供を終了。
 

大澤:若者がターゲットだからといって、若者だけをモデルに起用するのではなく、他の世代のコンテンツも制作しているのが面白いですね。

齊藤:「あなたたちのためのブランドです」というコミュニケーションは本当にありふれているので、どの世代でも性別関係なくフィットできるブランドであることをしっかりと表現したいと思ったんです。

大澤:反響はいかがですか?

齊藤:おかげさまで、「私も出たいです」という声が止まりません(笑)。

大澤:お話を聞いていて思ったのは、Instagramはただ“盛れる” “映える”だけの時代から、もっと知的好奇心を満たしてくれるような役割が求められる時代に変わりつつある、ということ。ビジュアルだけでなく、より深い情報を得られるコンテンツが今後もっと支持されるようになるのかもしれませんね。

一方、近年は若年層のメンタルヘルスも重視されていて、無限にスクロールできる=中毒性が高いSNSのUIの功罪に注目が集められることもあります。今後、SNSとの適度な距離感まで気遣えるコミュニケーションが取れると、他の企業との違いをつくる一つの要因にもなるのかな、と思いました。

齊藤:ベアミネラルのプロジェクトでも感じたのですが、今の若い人たちはかなり“本物志向”ですよね。自分自身もそうですが、カッコいいところやキラキラした世界しか見せないSNSだとちょっと疲れちゃうんです。ありのままの姿も含めて、もっとカジュアル、ポジティブに楽しみ続けられるプラットフォームであるために、これからも自分にできることを考えていきたいと思っています。

大澤:本日はありがとうございました!

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