ONE JAPAN in DENTSU 「辞めるか、染まるか、変えるか。」No.14
大企業の内と外に面白そうなことを拡張していく、“はみ出し方”の技
2022/10/11
大企業の変革にまつわるテーマの対話を通じて、新しい「大企業の可能性」を探る本連載。ONE JAPANに加盟する有志団体の所属企業の中から、変革にチャレンジしている当事者へインタビューする形式で、「大企業の可能性とそれを具体化する技」について考えていきます。
※大企業の若手・中堅社員を中心とした企業内有志団体が集う実践コミュニティ「ONE JAPAN」
今回のゲストは、プライムアシスタンス(本籍:損害保険ジャパン)の佐藤伸剛氏と東急の岩田健太氏。大企業に所属しながら「面白いこと」「やりたいこと」を軸に社外に活動の幅を広げ、仕事や人生を豊かにしているお二人に、越境することの価値や可能性について、電通若者研究部としてONE JAPANに加盟する吉田将英がインタビューを行いました。
損得勘定や義務ではなく、「面白そう」ファーストで動く
吉田:今回は、大企業で働きながら少しはみ出た経験をすることが本業や人生に生きるという「自分の中の多様性」をテーマにお話したいと思っております。まずはお二人がどんな“はみ出し方”をされているのか教えていただけますか?
佐藤:私は大手ITベンダー企業から損害保険ジャパンに転職し、IT部門や経営企画を経て、現在はグループ会社に出向して新規事業開発を担当しています。越境という視点で言うと、ONE JAPANへの参画をはじめ、社内有志団体の立ち上げやWork Design Labという会社のパートナーとして地域企業のサポートを行うほか、ポテト好きが高じて日本フライドポテト協会のアンバサダーを務めています。最近はコーチングを学んで社外の方と1on1ミーティングをしたり、YouTubeチャンネルにも挑戦したり、スタートアップの事業開発を支援したりと、興味を持ったことにはみ出し続けています(笑)。
岩田:新卒で東急に入社し、人事部門で働き方改革や人材育成を担当してきました。その時にONE JAPANと出会って刺激を受けたこともあり、社内起業制度を使って新規事業の開発にも携わっています。社外活動だと、2021年から渋谷区の副業人材に採用していただき、渋谷区と一緒に仕事をさせてもらっています。それからコミュニティづくりやまちづくりに興味があるので、青山学院大学のワークショップデザイナー育成プログラムに参加したり、SHIMOKITA COLLEGEという居住型の教育施設に住みながら運営に携わったりしています。
吉田:ありがとうございます。お二人とも非常に面白い“はみ出し方”をされていると思うのですが、そういった活動のきっかけはどこから見つけてくるのでしょうか?
岩田:私は出会った人が発信している情報がきっかけになることが多いです。青山学院大学のプログラムもONE JAPANのメンバーが受講していて面白そうだと思ったのが始まりですし、すでにあるコミュニティの中で得られた情報から広がっているのかなと。
佐藤:私も知り合った人が発信している情報をキャッチしたり、誘われて参加するケースが多いです。今あるコミュニティや人とのつながりから雪だるま式に広がっていくイメージですよね。
吉田:なるほど。お二人のように興味のあるコミュニティに入りたいという気持ちはありつつも、失敗したらどうしよう…と二の足を踏んでしまう人も少なくないと思います。さまざまな情報や人との出会いがある中で飛び付くか飛び付かないかの判断が常にあると思うのですが、ご自身の行動をどのようにマネジメントされているのでしょうか?
佐藤:面白そうかどうかが、大きな判断軸になっていると思います。面白そうだと思ったらまずは飛び込んでみる。もし飛び込んでみて違うと思ったら引き返すことだってできますからね。
岩田:私も面白そうだと感じたら、まずはやってみるというスタンスです。最初から100%の確証が得られることってほとんどないですから、興味が湧いたら1歩目を踏み出し、そこで60〜70%の確度が得られたら2歩目を踏み出す、というように徐々に深く入っていくことになるのかなと。そもそも知り合いのつながりなので、すでに面白さの確度は高い気がしますけれど。
佐藤:確かにそうですね。自分にとって魅力的な情報や人が集まっている気はします(笑)。
吉田:雪だるま式という表現がありましたが、全くつながりのない場所にいきなり飛び込むというよりは、数珠つなぎでコミュニティを拡張しているから、そもそも大失敗がない、ということなのかもしれませんね。
自分なりの「面白がり方」の視点を持つと、あらゆる物事がつながる
吉田:「面白いかどうかが判断基準」というのは究極の答えのような気がするんですが、若者研究で社会人1年目ぐらいの方と話していると、「そもそも何が自分にとって面白いのか分からないんですよね」という悩みを抱えていることもあります。お二人にとっての面白さって何なんでしょう?
佐藤:まず一つは、自分としての何かしらの目的を持っていて、そのコミュニティの趣旨と目的が合っていれば面白いと感じると思うんです。私の場合、フライドポテトが大好きでその魅力を伝えたいという思いがあるから、日本フライドポテト協会の活動が楽しいと感じるわけです。もう一つ、このメンバーだから面白そうって感じるパターンもあると思うんです。この人と一緒なら楽しくなりそうだなとか、この人と一緒にあるテーマを議論できるならやってみたいとか。
吉田:つまり、必ずしも“テーマファースト”である必要はないということですね。
岩田:誰とやるかは重要ですよね。あと、想像力も大事だと思います。これには“連想力”と“未来への想像力”という二つの意味合いがあって、連想力で言うと、何かしら好きなものや得意なものがあるならば、それをどれだけ他の物事に連想してつなげられるかで、面白いと思う幅が変わってくるのかなと。未来への想像力は、自分が理想とする未来や理想像につながるかどうかの軸で考えることです。私の場合はまちづくりや暮らしというテーマに興味があったので、その軸につなげて想像してみると、世の中にあるいろんなことが面白く思えてくるんです。
吉田:自分の中に太めのライフテーマがあると、いろんな物事へのアクセスの仕方が変わるということですよね。言われてみると、私は人間理解や心理洞察がライフテーマなので、映画をみている時も人と話している時も確かにそのテーマにつなげがちだなと思いました(笑)。
岩田:視点を変えると物事の見え方ってガラッと変わりますよね。
吉田:そうか、テーマよりも視点という表現のほうが近いかもしれませんね。自分なりの“面白がり方の視点”を持っていると、一つの点でしかなかった物事がほかの点とつながってくるんですよね。
「やって良かった」の定義を、長尺かつ多面的に捉える
吉田:お二人の話を聞いていると、もしかすると“本業とそれ以外”や“メインとサブ”という捉え方をされていないのかなと思ったのですが、そのあたりの感覚はいかがですか?
岩田:おっしゃるとおり、一つ一つの活動に差がなくなってきている気がします。もちろん収入面でメインになる活動はあるのでバランスを取りながらなのですが、その時々に応じて収入が入らない活動であっても一番リソースを割くこともあります。
佐藤:おそらく“やらねばならない”という発想だと、本業とそれ以外という考え方になると思うんです。でも全部が“Want” 、やりたくてやっているから、たとえ義務的な作業であっても一つ一つの点を楽しく捉えられるし、そこでインプットしたことをほかの点に生かすこともできるのかなと。そう考えると、興味の配分でリソースの配分が決まっているのかもしれません。
吉田:なるほど。今の活動が将来の何かにつながるという感覚はお二人ともお持ちだと思うのですが、その時間軸を長尺で捉えられていて、すぐに見返りがないとやらないということではない気がするんです。よく「何を目指しているんですか?」って聞かれませんか(笑)?多分、その質問の背景には全ての活動は特定の目的地に行くための手段であるべきという考え方があると思うのですが、お二人はそもそも“意義”や“見返り”の捉え方が複層的と言いますか、「やって良かった」の定義を多面的に捉えているのではないでしょうか?
岩田:そうですね。例えば今シェアハウスを新しく作ろうと計画しているのですが、将来的にこんな街やコミュニティを作りたいとまでは思っていなくて、ちょうど引っ越さなければいけないタイミングだったから、せっかくなら自分が住みたい家を作ったら面白いと思って動いています。正直、明確な未来は見えていないけれど、それでもちょっと先の楽しそうな未来は見えるから、そこに向かっている感覚なんです。
佐藤:一つの組織の中で自分を捉えると、そこで出世することだったり、組織がある前提で目的を考えてしまいがちです。でも本来は最初に意思を持った個があり、個と個がつながってチームとなり、組織となるはずなんです。ちなみに私は「人生をパーティーする」をモットーに掲げているのですが、パーティーには「楽しむ」という意味と「チーム」という二つの意味が込められています。なので、人に喜んでもらえたり、人との新たな関係性が生まれたり、新しい刺激をもらえることが「やって良かった」につながるのかなと。
岩田:すてきですね。パーティーの楽しみ方は人それぞれあるのと同じように、仕事や人生もこうあるべきという一つの価値観に縛られることはないですよね。
大企業にとっての越境人材の価値とは?
吉田:逆に企業側からすると、人それぞれの楽しみ方をされてしまうと規律が乱れるんじゃないかと過剰に恐れたり、マジョリティの既定路線からはみ出る人を排除してしまうケースも残念ながらあると思うんです。でもこれからの大企業のあり方や、企業と社会の関わり方を考えた時、お二人のような存在が会社にどのような可能性をもたらすのか、あえてご本人に聞いてみても良いですか?
岩田:全員が同じ方向を向くのではなく、違う方向を向いている人を組織の中に置くことは、ポートフォリオとしての価値があるのかなと思います。大体そういう人は文化が合わないといった理由で辞めることもあるのですが、マジョリティとは異なる価値観を持っている人をちゃんと組織に残しておくことで、人材のポートフォリオを豊かにでき、企業の可能性をさらに拡げられるのではないでしょうか。ダイバーシティ&インクルージョンの観点でも、多様性やそれぞれの個性を受け入れることは企業にとって重要ですよね。その一つのモデルケースになるといいと思っています。
佐藤:まさにこれからはダイバーシティ&インクルージョンの世界で、新しいものを生み出すためには外の世界での経験、人とは違う経験が必要です。越境する人はそこを体感していて、真の意味でのインクルージョンができると思っています。今はその過渡期なのでいろいろと摩擦も起きると思うのですが、越境する人は後々評価されるようになると思っています。
吉田:わざわざ摩擦を起こさなくても高速回転だけさせておけば業績が伸びていた時代から、今は摩擦係数を上げて新しい火種を起こさないといけない時代に変わりつつあると思うんです。その意味で、健全な摩擦を組織の中で誘発してくれる越境人材は組織の中で大切な役割を担いそうですね。
最後にもう一つお聞きしたいのですが、お二人はなぜ大企業という環境で、今のライフワークスタイルを選択されているのでしょうか。もっと身軽なベンチャーに行ったり独立しないんですか?って聞かれることもあると思うんです。
岩田:私は大企業にしかできないことがあると思っていて、それこそ新しい街を作る、渋谷という街をハードの面から変えるという規模の仕事は個人ではできないですし、大企業の機能やこれまでの実績や信頼があってこそ成り立つプロジェクトです。大企業の中で実現したいことがある限り、そこにいる価値はあると思います。ただ、その中だけでは実現できない個人の理想もあるから、大企業の中だけにいる必要はないという感じです。
佐藤:大企業には大企業の役割があると思うんです。大企業が成功させてきたビジネスで世の中が成り立っている部分はあるし、大企業が今の基盤を支えているからこそ、新しいことにチャレンジする企業も出てきて社会が活性化していくのかなと。長く大企業に身を置いてきた身として、その基盤をもっと良くしていきたいという思いが強くあります。
岩田:確かに、大企業の功績やパワーが世の中の根幹を創ってきた部分があるからこそ、そこをもっとバージョンアップしていきたいという思いがあるかもしれません。
吉田:お二人のような“はみ出し方”を大企業で実践されていることは、大企業で働くことに不安を抱えている就活生や、大企業でモヤモヤを抱えている若手にとっても大きな希望になるのではないかと思いました。本日はありがとうございました!
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