ONE JAPAN in DENTSU 「辞めるか、染まるか、変えるか。」No.13
若手社員のお悩み解決!大企業ハック「技」公開相談会 -ONE JAPAN CONFERENCE 2021-
2021/12/21
2021年10月31日、大企業の若手・中堅社員を中心とした企業内有志団体が集う実践コミュニティ「ONE JAPAN」のイベント「ONE JAPAN CONFERENCE 2021」がオンライン形式で開催されました。
「変革(Transformation)」をテーマに掲げ、各界のトップランナーや有識者、そして大企業を自ら動かしてきた挑戦者による計16個のトークセッションの中から、ONE JAPANメンバーによる「大企業をハックする“技”公開相談会」のレポートをお届けします。
登壇したのは、ONE JAPANの新刊『なぜウチの会社は変われないんだ! と悩んだら読む 大企業ハック大全』(ダイヤモンド社)で大企業を動かすための技を披露した“技ホルダー”の6名と、早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏。電通若者研究部としてONE JAPANに加盟する吉田将英がファシリテーターを務め、リアルな若手の悩みにお答えします。
【登壇者】(敬称略)
・ 伊藤康浩 / 日本郵便株式会社
・ 寺﨑夕夏 / 東京海上ホールディングス株式会社
・ 遠山梢 / 東洋製罐グループ
・ 額田純嗣 / 三越伊勢丹ホールディングス
・ 松葉明日華 / 日本電気株式会社
・ 入山章栄 / 早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール 教授
・ 吉田将英 / 株式会社電通 電通ビジネスデザインスクエア / 電通若者研究部
「打倒、入山先生」が裏テーマの書籍
セッション冒頭、吉田氏は今回刊行した『大企業ハック大全』の裏テーマとして、「打倒、入山先生」を掲げていたと告白します。
「僕たちは学者ではないので、学術的なビジネス本は書けません。そんな僕らの存在意義って何だろうと考えると、やはり“現場で実践している”ということに尽きるかなと。どこまでも実践知に徹することで、入山先生には書けない本を書こうと勝手に盛り上がっていました(笑)」と吉田氏。
それに対し、入山先生は「すごく良いと思います。現場で起きているいろんなことを抽象化するのが僕の仕事ですが、皆さんは具体の世界で生きているわけですから。そこで生まれたリアルで泥臭いノウハウを集められたことが素晴らしいですよね。欲を言えば、本書をただの読み物として終わらせるのではなく、本を持ってみんなで集まり、この本にすら書けなかった“超リアルな話”をシェアしたり、議論していただきたいなって思います(笑)」と感想を述べました。
ここからがセッションの本題。今回は働く若手社員たちから事前に悩みをヒアリングし、ONE JAPANメンバーや入山先生に解決策を教えてもらいました。
CASE01:「隣の芝が青く見えちゃう」病
Q.1
大学の同窓会で聞いた他社の話が羨ましくて、つい自分の働く環境と比べて、少し悲しくなったりします。
好きで入った会社とは言え、いつでもずっとその気持ちでいられるわけじゃないと思うんですが、「現環境の素敵なところ」を見つめ直す技を教えて欲しいです。
(20卒 1社目 大企業)
いわゆる「隣の芝は青い」というお話。大企業に限らず、多くの人が抱いたことのある感情ではないでしょうか。このお悩みに対して、口火を切ったのは東京海上ホールディングスの寺崎氏。「現職の素敵なところを見つめ直すというマインドセットが素敵」と前置きしつつ、「素敵じゃないところも含めて、知り尽くすことが大事だと思います。無理に素敵なところを見つける必要はないので、現環境の中で信頼できる人にまずはフラットに聞きに行くことから始めると良いのではないでしょうか」と答えました。
日本郵便の伊藤氏は、「私は今でも隣の芝がめちゃめちゃ青く見えることがあります。その上で、“本当に青いのか?”を確認しに行ってみることが大事なのかなと。まさにONE JAPANが良い機会で、青く見える他社の方々に話を聞いてみると、“あ、意外と皆さんのところも同じなんですね”と気づけたことが多々ありました」とアドバイスしてくれました。
日本電気の松葉氏も、「隣の芝が青く見えるのはお互い様なので、そのご友人ともっと話してみると、自分の会社の素敵なところが見えてくるかもしれませんね」と述べました。
CASE02:「上を通せ」病
Q.2
「職制を通じて発言せよ」とよく言われます。要するに、他部署とやりとりするときは上を通さないと混乱を招くから段取りを踏め、という意味のようですが、意味不明です。
波風を立てすぎずに、厄介な上長を回避して、横のつながりを社内で作る裏技を知りたいです。
(18卒 1社目 公的機関)
大きな組織にありがちな「縦割社会」に関するお悩みです。三越伊勢丹ホールディングスの額田氏は、「これは昔の自分のことを振り返って思ったことなのですが、上司すら突破できない場合は、何かしら自分に原因があるのではないかと、一度ボトルネックになっている問題を探してみても良いかもしれません」と、過去の経験からアドバイス。
東洋製罐グループの遠山氏も、「私も散々怒られてきたので分かります。もし相談者さんの行動が上司だけでなく他の部署や社外パートナーまで混乱させているなら気をつけたほうがいいけれど、そうじゃないなら横だろうと斜めだろうと堂々とやれば良いと思います」と述べました。
入山先生は、「上長との人間関係は大事にしたほうが良いと思います。ただ、気になるのは“混乱を招く”や“波風を立てすぎず”という部分。波風が立たない組織にイノベーションは起こせないし、変革の過程に混乱は付き物です。むしろ、“1日1波風”立てて生きて欲しいなって思います(笑)」と、逆に波風を立てることの意義を説きました。
CASE03:「組織の中で孤立する」病
Q.3
どうしても同期や同僚と、戦ってしまいます。張り合ったり、敵のように思ってしまったり、知見や資産をシェアしたくないと思ってしまったり。結果、一匹狼キャラになってしまいました。
こんな性格の自分でも明日からできるオープンマインドな同僚との関わり方の技、よかったら教えていただきたいです。
(19卒 1社目 ベンチャー企業)
今度は逆に、波風立てがちなタイプな方からの相談かもしれません。寺崎氏は「マインド自体はすごく素敵ですが、同期や同僚と張り合うのは、あまり有意義なことではありません。組織の中でもエースと呼ばれるようなトップの人たちと接すると、張り合うとか敵っていう感情ではなく、本当に一緒にやりたい、学びたいという気持ちが生まれます。そのレベルの人たちに到達する動きにシフトするともっと良くなるんじゃないかと思います」とコメント。
遠山氏も「プライドやライバル心は大切ですが、勝ち負けを競い合う相手が同期・同僚だけなのは、少し範囲が狭いと感じます。この範囲をもっと広げていき、そのまま自分らしく突き進んでいけば大丈夫だと思います」とアドバイスしました。額田氏はオープンマインドに人と関わる技として、「おそらく自己主張が強い方なので、単純に“聞く量”を増やすことを意識してみるだけでも変わるかもしれません」と述べました。
CASE04:「遅い」病
Q.4
最近気付いたのですが、うちの会社は社内上申にものすごい時間と手間をかける社風のようで。気付いたらよそにやられてしまうことがしょっちゅうです。
上司や意思決定方法が悪い部分も正直大きいと思いますが、「自分自身ができること」がもしあれば技を知りたいと思います。
(15卒 2社目 大企業)
続いては、組織としての意思決定が遅く、他社に先をこされてしまうというパターンです。このお悩みに対して伊藤氏が出した答えは、「意思決定する人の右腕やキーパーソンを捕まえる」ということ。「“何を言うか”と同じかそれ以上に“誰が言うか”が重要になるケースが、世の中には往々にしてあります。例えば意思決定者へのプレゼンの際に、他の役員や部署の方がポジティブな合いの手を入れてくれるだけで、物事がうまく進むこともあったりします」と伊藤氏。入山先生もこの意見に頷き、「やっぱり何か大きなことを動かす時は、なるべく上と握るのが一番の近道ですよね」と述べました。
CASE05:「同じ志を持った仲間がいない」病
Q.5
同期約30人のうち、明確な目的や危機感を持った人は3人ぐらいしかいないと感じています。全体の3割ぐらいまで増えると活発な交流ができると思うのですが、今後どうすれば増えていくと思いますか?
最後はセッション参加者からのお悩み相談です。皆さんはどうやって、変革を起こすための仲間を増やしていくのでしょう?
遠山氏は、「そもそも3割集める必要がないし、同期だけで固まる必然性もないと思います。そして何より、仲間が3人いたら超ラッキーです。3人いればできることはいろいろとあるので、まずは3人で始めてみてはいかがでしょう」と説きます。入山先生も「僕は1人でもやっちゃえばいいという性格なのですが、確かに危機感を持っていない企業も少なくないので、僕は危機感を煽る動画を作ることをオススメしています。グラフや図版などでマーケットがシュリンクしていく未来を示し、経営層の方々にも現場の危機感を感じてもらうことが大切です」と述べました。
大企業はベンチャーよりも大きなイノベーションを起こせる
今回のトークセッションの総括として、今の時代に大企業をハックすることの意義について、入山先生はこのように語りました。
「僕は、社員が“この会社に居てやっているんだ”と思える状態を作ることが、企業にとっても社会にとっても一番良い状態だと思うんです。いつでも辞められるけれど、今のところ自分が作りたい未来にこの会社のリソースがとても役立つし、ビジョンにも共感できるから辞めないんだ、と。そういうマインドの人なら波風を立てながらも企業をハックし続けることができます。そして、そんな人たちがもっと増えれば、大企業のほうがリソースは豊富なので、ベンチャーよりもインパクトの大きなイノベーションを起こせるはずなんです」(入山先生)
吉田氏は、「大企業を変えることすらも目的ではなく手段ですよね。その先に成し遂げたい夢や、解決したい社会課題があり、それを実現するための最適な手段として大企業を使っているのだと、皆さんをはじめ本書に登場する技ホルダーの方々の章を読んでそう思いました。ぜひ、1日1波風を立てていきましょう」と述べて、トークセッションを締めくくりました。