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ONE JAPAN in DENTSU 「辞めるか、染まるか、変えるか。」No.12

小さなことから変革は始まる。44の技を集めて見えた、大企業の動かし方

2021/12/07

大企業の若手・中堅社員を中心とした企業内有志団体が集う実践コミュニティ「ONE JAPAN」は、2021年11月2日に新刊『なぜウチの会社は変われないんだ! と悩んだら読む 大企業ハック大全』(ダイヤモンド社)を発売しました。

大企業の中で「やりたいこと」を実現するために編み出した、55社3000人のスゴ技44を収録した“ONE JAPAN 5年の集大成”ともいうべき本書。ウェブ電通報ではゲストを交えながら刊行の狙いや背景、そこに込められた思い、技を集めたことで見えてきた景色などを数回にわたってお届けします。

今回お招きしたのは、書籍の企画・制作統括であるONE JAPAN副代表の神原一光氏と、担当編集者のダイヤモンド社・廣畑達也氏。電通若者研究部としてONE JAPANに加盟する吉田将英がインタビューを行いました。

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“大企業の人”の背中を押す、地味で泥臭くも超実践的な技たち

吉田:お二人には、なぜ今、大企業を題材にした本を出したのか?そして、今の時代に大企業で働くことの価値について話をお聞きしたいと思います。

神原:ONE JAPANは2016年に大企業26社の若手・中堅120人でスタートした実践コミュニティです。新しいことやイノベーションにチャレンジしにくい環境の中、組織を辞めるのでもなく、組織に染まるのでもなく、組織を変えることを選んだ人たちの集団です。その活動も、誕生から5年で大企業55社3000人超まで規模が大きくなってきました。その活動の知見と実績が蓄積されてきたので、このタイミングで皆さんに共有したいと。「大企業を本気で変えよう!」と思って行動している人たちの本質的かつ実践的な技を一つの集大成として世の中に出したいと思ったのが最初のきっかけです。

廣畑:神原さんからお話を頂いた時、パッと頭に浮かんだのが「うちの会社、変われないんだよね……」という、耳なじみのある言葉です。そうやって嘆いている人たちが会社を変えることができるようになったら、日本は変わるかもしれないと直感的に思いました。

そして、実際にONE JAPANが収集していた“技”を拝見してみると、例えば「上司が普段使っている言葉で自分がやりたいことを説明する」のような、誤解を恐れずにいえば“地味で泥臭いもの”ばかり。でも、すごく実践的で意外と言語化されていない領域だったので、これがたくさん集まれば世の中にない本ができるかもしれないと思ったんです。

吉田:ここ数年、日本経済の停滞や大企業の経営不振などがメディアで取り沙汰されることが多く、一部の若者を中心に「大企業オワコン説」も叫ばれています。今、このタイミングで大企業をテーマに取り上げることに、どのような狙いがあったのでしょうか?

廣畑:僕はベンチャー企業を取材する機会が多いので、ベンチャーならではのスピード感や変革を起こす勢いを間近に感じていたのですが、同時にベンチャーが大企業と組んだ時に物事が大きく動いたり、世の中にとてつもないインパクトを与えたりする事例もたくさん見てきました。だからこそ、大企業が本当に動けば世の中は絶対に変わるし、大企業の人たちが「自分にもできるんじゃないか」と思えるような、些細だけれど確実に物事を動かせる技が集まっていることの意義は大きいのではないかと思います。

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神原氏の技:三方よしの「意識調査」
意識調査をきっかけに、組織の活動に対する一人一人の参加モチベーションを高め、そのコレクティブ・インパクトによって会社と社会を動かす。
illustration:村林タカノブ

大企業もベンチャーも学生団体も、コトを興すには“動かし方”の技が必要

吉田:企業の組織風土改革に携わる中で課題だと感じるのが、ビジョンと実務のあいだにある「それはそれ、これはこれ」という断絶です。現場の人たちはビジョンよりも今日明日の成果を出すことに必死だし、ビジネス書などで視座の高い考え方をインプットしても、実際の現場にどう生かして何を変えたらいいのか見当も付かない。そこをつなぐのが、本書で集められた“些細な技”なのかもしれません。変革と聞くと、すごく大きなことに頑張って取り組まないといけないイメージがありますが、実は日々の些細なことが重要で、すでに自分の中にある良いところを伸ばすだけでも案外変わることもあるのだと、ONE JAPANでいろいろな人たちに出会うと気付かされます。

神原:「会社を動かす!大企業を変える!」と言っても、それぞれ業界も業種も異なりますし、組織構造も全く違う。その中で培った「技」は、他社で通用するのか分からないし、ましてや本当だったら人に教えたくないようなものばかりですよね。ある種の「企業秘密」ですよ。でも、その技をみんなが他社でも応用できるまで高めていってくれて、さらに、会社名も個人の名前も全てオープンにしてシェアしているのが本書の最大のユニークネスだと思うんです。「一部上場企業〇〇株式会社のAさん」ではなく、実在する人のリアルな「大企業ハック」ですからね。

吉田:どこまでも具体的ですよね。そもそも大企業という概念自体が抽象的じゃないですか。「うちの会社は変われないんだよね」の「うち」って何だっけ?という肝心な部分が紐解かれていない。そこを具体的かつ横断的に考えていくのがONE JAPANのアプローチなのかなと。

廣畑:大企業のように規模の大きい組織の場合、「うちの会社」と言っているつもりが、実は「うちの部署」「うちのチーム」のことでしかなかったりします。まさに井の中の蛙で、ダメだと思っている「うち」のほんの少し外側にすごい人がいるとか、実は隣の席にいる人が変革のキーパーソンだったなんて事例もあります。そう考えると、本当に些細な働きかけから物事は動いていくんですよね。

神原:同感です。大企業にしろ、ベンチャーにしろ、何かを成し遂げるには人を巻き込み、動いてもらわないといけないし、それが世の中に大きな影響を与えるような変革であればあるほど、企業全体を動かしていかないといけない場面は増えてきます。その動かし方を説いた本だともいえます。それこそ大企業でモヤモヤしている人たちはもちろん、ベンチャーの人たちや学生にも参考になる“組織の論理とその動かし方”の技が集まったものではないでしょうか。

吉田:一方で、特に学生の中には「何でこの人たちは大企業を変えることに一生懸命なの?何の意味があるの?」と疑問を持つ人もいると思います。

廣畑:確かに大企業を変えることがゴールだと捉えてしまうと、そう感じるかもしれません。でも本書に登場する人たちは、大企業を変えることの先にある社会を変えることを目指しています。当然、一人で社会を変えることはできないので、組織の大小問わず利害関係の調整は必ず発生します。その具体的な乗り越え方が意外と今まで言語化されてこなかった情報なのかなと思います。

吉田:なるほど、大企業を題材に選んでいるだけで、本質的にはそこから見えてきた人間関係の作り方、複雑系の課題の解き方が書かれているんですね。

神原:学生であれば、「サークルの動かし方」とか「体育会の変え方」、とかに変換して読んでいただいても参考になると思います。その意味では、全ての人にとって学びのある本です(笑)。

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吉田氏の技:ミニカンパニー
会社を模した小さなチームを作って運営することで、多様な立場の視点や高い視座を獲得。大局観が手に入ると、自分の思いや考えを自由に発信しやすくなる。
illustration:村林タカノブ

大企業に隠れている、個人の“主語”を取り戻そう

吉田:最後にこの本を作る上で特に心がけたポイントを教えていただけますか?

神原:今はバイネーム、つまり個人の名前の時代だと思うんですよね。でも、例えばSNSのアカウントひとつとっても、大企業のアカウントは、企業名や部署名で運営している人の名前や顔が見えてこない。だからこそ、大企業の「中の人」が実際に何を考えて、どうトライしたのかまでがハッキリと分かるようにしたいと考えていました。

廣畑:今回こだわったのは、取材時に「なぜその人が、その技を作らなければならなかったのか?」という技が生まれる背景の部分を必ず聞くようにしたこと。本人が何に悩んでいて、何にもがいて、その結果どんな技が生まれて、どんな変化を生み出したのか。そこを深掘りしていくと、実は所属する会社の創業者の理念と合致していたり、会社が掲げているビジョンと重なったりすることが多かったんです。個人を起点に始まったものが企業の強みとなり、その先にある社会変革にもつながるというダイナミズムを俯瞰で感じられたのは個人的にとても面白かったです。

吉田:お二人の話を聞いていて、大企業が最適化された装置だった時代が終わり、再び人間の時代に戻りつつあるのかなと思いました。会社としてオフィシャルに作られた技ではなく、個人が編み出さざるを得ない状況の中で生まれた技が会社の変革につながったというストーリーは、明らかに個人が主役ですよね。

廣畑:裏返すと、これまでずっと個人が会社の匿名性に隠れていたと考えることもできます。それを些細な技を発揮する中で、「自分はこうしたい」という個を取り戻していったのが今回集められた事例です。「誰がこの技を使っているのか?」という主語がハッキリしているからこそ、学びもあるし共感も生まれるのだと思います。

吉田:今、とっても腹落ちしました。多分、“大企業病”の正体は、主語の喪失だと思うんです。「そういう慣習だから」「上が決めたから」といった言葉や、忖度や空気によって物事が決まるのは、主語がなくて装置だけが物事を動かしている状態ですよね。それをもう一度、明確な意思を持って手綱を握り返そうとする44個の物語、と捉えることもできそうですね。

神原:その主語を語っているのが「インフルエンサー」や「オピニオンリーダー」ではなくて、まさに現場の中堅・若手という点も重要だと思います。ちょっと懐かしい例えで言うと「地上の星」ということかと。

吉田:確かに、有名人や成功した人しかオピニオンを示してはいけない、という思い込みも病の一つですよね。誰だって、どんな立場の人だって、自分はこうしたい、会社をこうしていきたいと語ってもいい。一人一人が主語を持つことを後押ししてくれる一冊ですよね。


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