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ONE JAPAN in DENTSU 「辞めるか、染まるか、変えるか。」No.11

2021/09/01

JAL松崎さんに学ぶ!会社公認の社内外共創を実現する技

「辞めるか、染まるか、変えるか。」と題し、大企業の変革にまつわるテーマのイベントを通じて、新しい「大企業の可能性」を探る本連載。ONE JAPANに加盟する有志団体の所属企業の中から、大企業の変革に挑戦した事例をピックアップし、その当事者へインタビューする形式で、「大企業の可能性とそれを具体化する技」について考えていきます。

※大企業の若手・中堅社員を中心とした企業内有志団体が集う実践コミュニティ「ONE JAPAN

 

今回インタビューしたのは、JAL(日本航空)で社内ベンチャーチーム「W-PIT」(Wakuwaku Platform Innovation Team)を設立し、異業種との共創にチャレンジする松崎志朗氏。

大企業で立ち上げた社内プロジェクトが会社から“公認”を勝ち取るための秘訣や、“Wakuwaku”を起点に仲間を増やすチームビルディングのコツを、電通若者研究部としてONE JAPANに加盟する吉田将英が話を聞きました。

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【W-PITとは】

W-PIT
 
Wakuwakuをキーコンセプトに、異業種共創によって新たな価値やビジネス創造に挑戦するJAL公認の社内ベンチャーチーム。クラフトビール会社のヤッホーブルーイングをはじめ、スープストックトーキョーやポケットマルシェ、コクヨなど異業種との共創ビジネスを次々に実現している。主なプロジェクトに、JMB(JALマイレージバンク)会員限定の日帰り旅「呑みにマイル」、サウナ好きのビジネスパーソンを応援する「サ旅」、コロナ禍における大学生と生産者の課題を同時に解決する「青空留学」など。
 

https://wpit-official.themedia.jp/

 

やさぐれていた新人時代。父からの言葉でJALを変えることを決意

吉田:W-PITはJAL公認の社内ベンチャーチームとして異業種共創を次々と実現し、4期目にして140名以上のメンバーを抱える組織に成長されています。今日はW-PIT発起人の松崎さんにいろいろと教えていただきたいのですが、その前にJALで何をされている方なのか、簡単に自己紹介をお願いできますか?

松崎:JALの松崎です。本名は志朗ですが、みんなからはニックネームの“しげる”で呼ばれています(笑)。1985年横浜生まれで、生後10カ月で父親の仕事の関係でニューヨークへ行き、そこで約6年間過ごしました。その後、日本に帰国するのですが、高校3年生の時に父親の駐在先であるヒューストンへ再び渡米し、帰国後は日本の大学へ進学しました。2009年に新卒でJALに入社し、成田空港にて旅客業務を経験し、その後IT企画部で約6年過ごし、現在は海外のパートナーと業務提携を推進する国際提携部に所属しています。

吉田:とすると、本職は国際提携部のお仕事で、もう一つの肩書きとしてW-PIT代表を務めているということですか?

松崎:そうです。W-PITのメンバーは全員、本業を持ちながらW-PITの活動を兼務しています。

吉田:すごいですね。普通に考えると本業に専念したほうが仕事量は少ないと思うのですが、どうしてわざわざ社内ベンチャーを立ち上げたのでしょうか?

松崎:当時、僕が所属していたIT企画部は必要な時だけ周囲から声がかかるような受け身の部署だったので、もっとイケてる部に変えたい!と思い、ITを軸に組織横断で変革を起こすための「ITイノベーションラボ」という社内プロジェクトを立ち上げたのです。そこに興味のある社員が有志で集い、ハッカソンのような取り組みを経て5つのチームが生まれました。その一つが、Wakuwakuを起点にイノベーションを起こすチームで、現在のW-PITになります。

吉田:なるほど、松崎さんって昔からアントレプレナー気質だったんですか? 

松崎:大学時代に塾経営のようなことをしていたので、何かを興すことは比較的好きなタイプだと思います。ただ、今振り返ると、大学卒業と同時に一種の燃え尽き症候群になっていたのかもしれません。入社2年目の2010年にJALが経営破綻した時、僕は自分が選んだ進路を後悔して、会社の文句ばかり言う毎日。転職活動も始めていました。

吉田:ポジティブオーラがほとばしっている今の松崎さんからは、ちょっと想像が付かないです。

松崎:完全にやさぐれていました。でも、そんな私の姿を見た父から、「志朗よ。お前は今の会社に入社する時のことを覚えていないのか?」と言われました。JALから内定通知を連絡があったのは、父と自宅の一室で飲んでいた時で、父に「最初に内定を出してくれた会社に行った方がいい。」と言われたタイミングで電話がかかってきたんです。父にとっても思い入れの強い出来事だったんでしょうね。

「まだ何も成し遂げていないのに転職とか言うな。去るなら功績を残してから去れ。それが最初に内定を出してくれた会社への恩返しだろ。」と言われて、ただ逃げているだけの自分に気がつきました。「よし、Wakuwakuすることを起点に会社を変えていこう!」と火がついた瞬間です。


組織でやりたいことを実現するための、「ポジショニングの目利き」

吉田:ここからは、一念発起した松崎さんが、JALという大企業の中でW-PITを社内公認プロジェクトに成長させるまでのエピソードをお聞きしたいと思います。W-PITはWakuwakuを起点にした異業種共創を掲げていますが、どのようにプロジェクト化を進めていったのでしょうか?

松崎:「Wakuwakuすること、やりましょうよ!」で話が通るとは思っていなかったので、外部のアセスメント調査によるJAL社員の傾向を整理したデータを用いました。当時のJAL社員の強みとして、率先して仕事に取り組むイニシアチブやバイタリティ、サービス業ならではの調整力や感受性などが挙げられる一方、前例にとらわれない創造力や変革指向、目標設定力、組織活用力は著しく低いという第三者評価が出ていました。新しい価値創造が求められるVUCAの時代に、これらの能力が弱い組織はまずいということで、そこを強化する取り組みとしてW-PITを提案しました。

吉田:なるほど。おそらく「Wakuwakuしたい」とか「これをやりたい」という個人的なWantもあったと思うのですが、それを経営課題と紐づけたところが大きなポイントですよね。

松崎:おっしゃるとおりです。自分がやりたいことをやるための大義を、会社が必要としている課題解決と接続して言語化する。つまり、組織の中で自分がやりたいことがハマるポジションを目利きし、そこに自らをポジショニングすることがとても重要です。

吉田:ポジショニングの目利き」という表現はすごくしっくりきました。どんなプロジェクトも立ち上げ前夜は、確かな結果も潤沢な資金も手元にありません。特に大企業に勤める30代前後の社員の場合、大半の人はまだ大きな結果で意思決定者を説得できる年次ではないですよね。その時に最初の壁を突破する方法として、「ポジショニングの目利き」は非常に参考になると思います。

「社長人生で一番嬉しい日」を勝ち取る

松崎:スタートラインに関しては、初期段階から役員を巻き込んでプロジェクトを進められたことも大きいと思っています。本当にラッキーだったのですが。

吉田:それは、どのような経緯で?

松崎:ITイノベーションラボの年度納めで、社長を含めた役員に向けてチームごとに発表を行う機会がありました。そこで僕は、役員は“普通の”プレゼンなんかもう見飽きているはずだと思って、インパクト勝負のかなり異質なプレゼンを披露したんです。他のチームも素晴らしいプレゼンをすると、当時の社長が「社長人生で今日が一番嬉しい日だ」と涙を浮かべて感動し、「君たちのプロジェクトに役員を付ける」と専務取締役(当時)をアサインしてくれました。

吉田:社長人生で一番嬉しい日を勝ち取ったのはすごいことですね。

松崎:今考えると“きちんとしていない”ひどいプレゼンだったのですが、とにかくがむしゃらに一生懸命やったのが良かったのかもしれません(笑)。同僚からは今でも「あの日のプレゼンは酷かったが、想いは伝わった」と言われます。

もう一つの転機は、2018年ごろからスタートした、「JAL OODA」(ジャル ウーダ)という全社的な人財・組織改革のムーブメントです。これは、OODAループをベースに、自律的に考えて行動する企業風土を生み出すためのもので、僕はW-PITがJAL OODAを体現する取り組みとして貢献できるのではないかと思いました。そこで当時の人財本部長(執行役員)に直談判し、W-PITを人財本部に紐づけて、JAL OODAを実践するチームとして活用してもらうようにしました。その結果、W-PITに会社公認の証である「兼務発令」ができるようになったのです。

吉田:ただの有志活動ではなく、人事から正式に発令された兼務としてより公明正大に活動できるようになったのですね。これも「ポジショニングの目利き」ですよね。

「“頭から”ではなく、“心から”つながる」チームビルディング術

吉田:W-PITは共創ビジネスを推進する部隊のみならず、運営・広報部門や財務部門なども整備されており、人材配置や評価管理のシステムも含めて、もはや一つの企業を経営されているようなものだと感じました。設立当初からこのような体制を構築していたのでしょうか?

松崎:答えは完全にNOです。W-PITで2017年に初開催したイベントが、ヤッホーブルーイングとの共同プロデュースでJAL社員向けに企画した「JAL祭」。「すべては社員のWakuwakuから」をコンセプトに、クラフトビールが好きな社員約500名が本社に集って盛大な宴を行いました。一見飲み会のようですが、そうではなくビジネス要素の詰まったセミナー兼チームビルディングイベントでした。

例えば、仕事仲間やクライアントと話をしている時に、お互いに出身地が一緒だと気づいた瞬間に盛り上がって謎の一体感が生まれることがあるじゃないですか。あのWakuwaku感がすごく大事だと思っていて。クラフトビール好き同士の共感が渦巻いているところに「会社を変えていこうぜ!」という想いを紐づけることで、W-PITの活動に熱量を込められると考えたのです。

吉田:大義名分を掲げたイベントや、「JALの未来を考える」のような真面目な集会ではなく、プライベートに近いWakuwakuにアプローチを仕掛けたのですね。僕も割と真面目なことから考えてしまう性格なので勉強になります。

松崎:心からの共感が生まれていない状態で大義を押し付けられても、鬱陶しいと僕は感じてしまいます(笑)。「“頭から”ではなく、“心から”つながる」ことが大切だと思います。

吉田:確かに、一人一人の根源的なモチベーションから生まれたチームは、“よそ行き”の大義で組織されたチームとは、エネルギーの熱源が違う気がします。

松崎:「同じ会社の人間=考え方が同じ」という思い込みは壊さないといけません。バックグラウンドも違うし、仕事に向き合う姿勢や濃度も十人十色です。多様性があることを大前提として理解した上で、同じベクトルに向かうための“共感ポイント”を見つけて、かき混ぜることが大事だと思います。

吉田:まさにダイバーシティ&インクルージョンですね。これだけ大所帯の組織になると、一人一人の熱量に濃淡があるし、特に兼務だと本業が忙しくてW-PITへのモチベーションが下がってしまうメンバーもいると思います。メンバーのモチベーションコントロールで工夫されていることはありますか?

松崎:ある程度は縦割りの組織構造で管理されているものの、僕はできる限り一人一人と対話をするように心がけています。例えば、毎朝「しげさんぽ」という取り組みをしています。これは、社内外のゲストや参加してくれたW-PITメンバーとチャットツールでつなぎ、各々が好きな場所を散歩しながら1時間オンライン対談をするというものです。

吉田:毎朝ですか。松崎さんが健康的な肌の色をされている理由が分かりました(笑)。

松崎:そうなんです(笑)。ウェルビーイングかつチームビルディングな取り組みだと自負しています。健康であり続けることもそうですが、僕自身が熱狂し続けることもメンバーのモチベーションを高める上で絶対に外せない要素です。先頭を走る人間が不健康で暗い顔をしていたら誰もついてこないですからね。

あと、W-PITには142名のチームビルディングを担う専門チームがあり、彼らが企画するオンライン合宿や、その他多くのイベントを通じてチームの結束を高める取り組みをしています。

松崎志朗さん

熱狂し続けるために、志を自分だけのものにしない

吉田:先ほど「熱狂し続ける」というお話がありましたが、きっと苦労されたことや辛いこともたくさん経験されてきたと思います。それでも心折れずに熱狂し続けることができるのには、何か秘訣があるのでしょうか?

松崎:僕はこう見えて(笑)、目の前のことに一喜一憂しやすいタイプです。それでも続けられるのは、僕が落ち込んだ時に必ず支えてくれる幹部メンバーがすぐそばにいるからです。僕一人でW-PITをここまで育てたとは1ミリも思っていません。

もう一つ、自分が何を成し遂げたいのかをブラさずに持ち続けることが大切だと思います。W-PITで目の前の案件を成功させることだけがミッションなのではなく、JALをVUCA時代に生き抜く企業に変革し、JALが変わることで他の企業の背中も押して、日本の底上げをしていきたいという思いが僕の中にはあります。これを掲げてしまったからには、目先の失敗や挫折で辞めるという選択肢はないですよね。

吉田:松崎さんはご自身の志を自分だけのものにしていないと感じました。大風呂敷を広げるのは怖いし、とても勇気がいることだと思うんです。志を誰にも言わずに自分の中に留めておけば、失敗して後ろ指を指されることだってありません。

松崎:もちろん失敗するのはめちゃくちゃ怖いし、相手がいることなので失敗しても良いというマインドでは取り組んでいません。でも、「失敗を恐れてチャレンジしないよりは、精一杯やって笑われたほうがいい」という覚悟がないと、何事もがむしゃらにチャレンジすることはできないのかなと思います。

情熱と冷静を行き来する「サウナ的思考」で最適解を導き出す

吉田:W-PITは今後、どのようなことにチャレンジしていくのでしょうか?

松崎:Wakuwakuを起点に共創を生み出す活動を確固たるビジネスプラットフォーム化し、もっと社外に広げていきたいと考えています。

それを事業化した一つの事例が、ポケットマルシェと共同で立ち上げた「Japan Vitalization Platform」です。これは、企業×漁師×未来世代である大学生による共創活動を通じて都市と地域をかき混ぜ、新しい人流・物流を生み出すことで日本の活性化を目指すコンソーシアム構想です。2025年までに、10,000名・100社が参画するプラットフォームにすることを目標に掲げています。

吉田:これまで交わることがなかった都市や地域、人をかき混ぜるという視点が、まさにW-PIT的でWakuwakuしますね。電通若者研究部もご協力できることがあれば一緒に盛り上げていきたいです。

松崎:ぜひぜひ!企業や地域の枠組みを超えていろいろな人たちとつながり、一緒に日本をバイタライズしていく仲間を増やしていきたいです。

他にも、サウナを通じた日本ビジネスシーンの活性化に貢献すべく、2019年4月に組閣された「JAPAN SAUNA-BU ALLIANCE」もW-PITの副代表(岡本)が運営しています。

これからもこういったさまざまな共創ビジネスを通じて、会社や社会を少しでも元気にする取り組みを推進していければと思っています!

吉田:松崎さんは情熱や行動力が突出している一方で、冷静に状況把握したり俯瞰で物事を判断する側面もお持ちですよね。「これやりたい!」を熱量で押し通すのではなく、JALの強みと弱みを整理して合意形成を取れるポイントを見つけたり、役員の気持ちを考えてプレゼンの手法を考えたり。情熱と冷静の両方に振りながら最適解を導き出す姿が、まさに「“熱”と“冷”を行き来して整えるサウナ的思考」だと思いました。

松崎:「サウナ的思考」、最高ですね!私もサウナー(サウナ愛好家)なので嬉しいです(笑)

吉田:大企業で社内プロジェクトを成長させるためのヒントをたくさんお聞きできて、とても勉強になりました。本日はありがとうございました!

JAL松崎志朗さん

【連載の過去記事はこちら】

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