変革のアーキテクトNo.5
パーソルキャリア村澤執行役員に聞く、非連続成長の仕掛け方(電通BDS渕)
2021/09/06
あらゆるバイアスを壊し、自らアーキテクト(全体設計者)として社内の事業変革を遂行しているトップエグゼクティブの方々に話を聞きながら、その神髄に迫る本連載。
今回のゲストは、パーソルキャリア執行役員の村澤典知氏。転職サービスの「doda」をはじめ、さまざまな人材サービスを手掛ける同社は、「はたらく未来図構想」のもと、「はたらく」のプラットフォームをつくるという変革プロジェクトに取り組んでいます。変革の構想・企画・推進をされている村澤氏に、同プロジェクトのパートナーとして伴走する電通の渕暁彦氏がインタビューしました。
日本の「はたらく」を変えるという、大きな挑戦
渕:村澤さんとお仕事をご一緒するようになって約2年がたちますが、日本の「はたらく」を変えるという大きな目標を掲げての事業変革はもちろん、ご自身も率先して副業や育休・ワーケーションなどを実践し、新しい「はたらく」を体現し続けている印象を持っています。本日はそんな村澤さん個人にもフォーカスしながら、変革を実現するためのヒントをお聞きしたいと思っています。
はじめに、パーソルキャリアで変革を牽引しようと思った背景を教えていただけますか?
村澤:経営コンサルタントとしての活動を経て、パーソルキャリアに入社したのが2018年1月のこと。当社は2013年の旧インテリジェンスと旧テンプスタッフの統合以来、PMI(経営統合)に注力する期間が5年ほど続いていたのですが、その間に世の中の働き方はどんどんアップデートしていました。事業規模が順調に拡大する一方、世の中の変化に対応した本質的な価値提供、さらには10年先の未来を見据えてバックキャストすることの重要性が経営課題として顕在化した、まさにそのタイミングで入社したことになります。
渕:なるほど、事業基盤を固めるフェーズから攻めに転じる変わり目で参画されたのですね。もっと言えば、世の中の働き方に関するトランスフォーメーションが加速し始めるタイミングとも重なっていますよね。
村澤:おっしゃるとおりです。当時はまだワークとライフが別々に認識されることが多かったのですが、われわれは、仕事と生きることは同じであると考えていました。一人一人が主体的に「はたらく」を選び、理想の未来を描ける社会にしていきたい。それが、「はたらく未来図構想」につながっています。
渕:奇しくもコロナ禍で在宅勤務や副業が加速度的に進んだことで、ワークとライフのブレンドを実感する人が一気に増えましたね。2年前にパーソルキャリアが描いた構想が、かなり前倒しで浸透し始めていると感じます。
【はたらく未来図構想】
会社や仕事を選ぶ時代から、一人一人が主体的に“はたらく”を描く時代へどう変わっていくのか。個人が自分らしくはたらき、自らの未来を描くことをどうサポートできるのか。これまでの人材サービスの枠を超え、データ・サービス連携および外部パートナーとの協創により、一人一人に合った仕事・学び・環境を提供する事業構想。
変革にありがちな“3年の壁”を乗り越える方法
渕:村澤さんは経営コンサルタントとして10年以上活動されてきたキャリアの中で、さまざまな企業で事業変革をリードされてきたことと思います。これまで培ってきた経験を踏まえ、どのような考え方やスタンスで事業変革と向き合ってこられたのでしょうか?
村澤:まず大前提として認識しなければならないのは、変革はあくまでも手段であり、未来のありたい姿を実現することが目的だということです。描いたゴールが遠ければ遠いほど、現状とのギャップを埋めるために非連続な軌道で進路を進んでいく必要があるので、それが結果として振り返ると変革だったと捉えられるのが理想です。
渕:変革自体を目的にしてはいけないということですね。では、具体的に非連続な成長を組織にもたらすために普段から心がけていらっしゃることは何ですか?
村澤:パーソルキャリアは比較的若い社員が多いので、現状に対する危機意識をあおるよりも、今よりもっとワクワクする未来を提示して前向きに走り続けたほうがドライブすると感じています。同時に、目標設定も重要です。通常の成長率+αぐらいの目標ではなく、非連続な成長をしないと実現できないような大胆な目標を掲げるようにしています。
渕:あえて非連続な軌道を描かざるを得ない目標を設定する。手練の経営者ですね(笑)。
村澤:従業員一人一人のチャレンジなくして変革は成し遂げられません。そのエンジンとして機能しているのが、「成長マインド」というパーソルキャリアのバリューです。一人一人が過去のやり方や常識にとらわれず、貪欲に学びながら新しいことに挑戦する。それを常態化させるために成長マインドをKPIに設定し、3カ月に1度のサイクルで、全従業員別・各組織別に成長マインドのPDCAを回しています。
渕:実際に成長マインドの数値は上がってきているのでしょうか?
村澤:数値自体は順調に推移しています。ただ、これは事業変革にも通じる課題なのですが、最初の1年は右肩上がりで伸び、2年目から緩やかなカーブに変わるんです。この“踊り場”から、どうやってもう一段ギアを上げていくかに今取り組んでいる最中です。
渕:まさしく事業変革も同じですよね。最初は勢いよくスタートしますが、どうしても“踊り場”がやってきます。成長がなだらかになったとき、次の打ち手をしっかり出せるかがポイントになると感じています。
村澤:3年サイクルで頓挫する事業改革や新規事業をたくさん見てきたので、そこをどう乗り越えて長期ゴールを目指せるかが大切です。ありがちなのが、変革1年目は期待感が最高潮なので盛り上がり、2年目で「意味あるんだっけ?」という懐疑派が現れ、3年目で「利益貢献しない」と紛糾され、4年目で一区切りということで終了するパターン。これでは本質的な変革は成し得ません。その点においては、成果を定期的に可視化することや、道筋の細かなチューニングを通して、変革に新鮮味を与え続けることもポイントですよね。
社会や市場を見る“外の視点”と内部を駆動させる“中の視点”が、持続可能な事業変革のキードライバー
渕:コンサルタントとして外部から変革に携わる立場から、内部で自社の事業変革を推進する立場に変わって、何か新しい発見はありましたか?
村澤:自社の場合、みんなと日常的に業務を共にするので、相手の悩みや考えていることを外部の立場より察知しやすい。それから、「この人を動かすと、この人に波及する」のような内部のメカニズムがよりリアルに分かりますね(笑)。
渕:外部から携わる場合は、事業変革を実現可能な形にして合意形成する必要があるので、アーキテクチャの全体像を描く方に比重が置かれると思います。一方、内部で推進する場合は、描いたアーキテクチャをどう駆動させるか、駆動しながら柔軟に修正し続けられるかに比重が置かれている印象があります。
村澤:確かに、外部は外科手術、内部は体質改善のようなイメージが近いかもしれません。
渕:事業変革を内部で駆動し続けるには、意味のあるモニタリングと、そこで抽出したファクトを積み重ねてナレッジにしていくことが大事だと思います。成果や知見が積み上がってくるとリアルな内部のメカニズムがどんどん分かってきますよね。まさに体質改善に近いですよね。しかし駆動させることに集中しすぎても、社会の変化や競合と比べスピード感を失うといったことにもなりかねないので、外の視点と中の視点を常に意識するように心がけています。
村澤:おっしゃるとおり、内部にどっぷり浸かると一生懸命駆動していることに手応えを感じるのですが、「それって世の中や他のプレイヤーと比べてどうなのか?」という視点が抜け落ちてしまうと、それこそ駆動が手段ではなく目的になってしまいますよね。だからこそ、企業のトップや変革のリーダーは外の視点を持ち続けることが重要だし、外部パートナーとして電通にサポートしていただいている理由もそこにあります。
渕:そうですね。常に外の視点と中の視点からアーキテクチャを更新し続け、非連続な成長を促し続けることが経営者に必要なのだと、改めて感じました。
※後編につづく