変革のアーキテクトNo.6
パーソルキャリア村澤執行役員に聞く、変革の動かし方(電通BDS渕)
2022/04/18
あらゆるバイアスを壊し、自らアーキテクト(全体設計者)として社内の事業変革を遂行しているトップエグゼクティブの方々に話を聞きながら、その神髄に迫る本連載。
今回のゲストは、パーソルキャリア執行役員の村澤典知氏です。転職サービスの「doda」をはじめ、さまざまな人材サービスを手掛ける同社は、日本の「はたらく」を変えるための、「はたらく未来図構想」を軸とした変革を推進しています。前回に続き、同プロジェクトのパートナーとして伴走する電通の渕暁彦氏が話を聞きました。
前編:パーソルキャリア村澤執行役員に聞く、非連続成長の仕掛け方(電通BDS渕)
ステークホルダーの期待や熱量を“適切”に維持すること
渕:前編では村澤氏の変革に対する考え方やメソッドをいろいろと教えていただきました。後編ではパーソルキャリアの取り組みを中心に、変革の起こし方や継続させる方法をお聞きしたいと思います。
パーソルキャリアの「はたらく未来図構想」自体が、日本の「はたらく」を変えるという、チャレンジングな取り組みですよね。イチ労働者としても本当に心強い仕組みだと感じますし、これからの社会に絶対に必要とされる機能だと思っています。
【はたらく未来図構想】
会社や仕事を選ぶ時代から、一人一人が主体的に“はたらく”を描く時代に向け、自分らしくはたらき、自らの未来を描く個人をサポートする仕組み。これまでの人材サービスの枠を超えたデータ・サービス連携および外部パートナーとの協創により、ユーザーに“はたらく”未来を描き、その未来に近づくための仕事・学び・環境を提供する。
渕:一方で、変革は社会に対する意義だけでは継続できないという難しさもありますよね。短期収益を求められる側面もあれば、前編で話したように最初だけ盛り上がって徐々に失速する恐れもあります。「はたらく未来図構想」という変革を継続させるための勘所はどこにあるとお考えですか?
村澤:「はたらく未来図構想」は人材マッチングだけでなく、ラーニングや金融・健康・育児などを統合的にサポートする座組なので、パーソルグループだけでなく異業種も含めた他社との共創が欠かせません。ステークホルダーの方々は、社会的意義や市場性への先行的な期待を持って連携していただいているので、その期待や熱量をどう適切に保持するかが重要だと思っています。
渕:“適切”という言葉がキーワードだと感じました。熱量を保持するためにはステークホルダーの期待に応えるものを出し続けなければなりませんが、期待を超えすぎても誰も付いてこないし、低すぎるとコミットが引き出せないということですよね。
村澤:事業変革もしかり、SDGsもしかり、大きな構想は短期で実現できるものではありません。でも、中長期プランだから短期的な成果は不要と考えるのも間違いで、短期的なアウトプットと中長期的なビジョンのバランスを取る必要があります。例えば、自社が目指す未来の姿をトップが発信し続けることと同時に、その言葉を信用しうるものにするアウトプットをこまめに出すことも求められるのです。
渕:パーソルグループは「はたらいて、笑おう。」という大きなメッセージを掲げていますよね。言葉自体にポジティブなパワーが込められていますし、良い意味で余白もある。他社や海外の人たちも含めて、みんなで同じ方向を向ける素晴らしいメッセージだと思いました。
村澤:確かに、長期的なゴールに余白を与えるのは一つのポイントかもしれません。例えば「はたらく」にフォーカスして考えてみても、法改正やテクノロジーの進化によって人びとの「はたらく」に対する価値観は必ず変わるはずです。その変化に応じて変革そのものをアップデートしていけるように、変革のゴールもある程度チューニングできたほうが持続しますよね。
転職を支援する会社が、他社と協働することの難しさ
渕:パーソルキャリアの変革のアーキテクトには、個人の「はたらく」を変える軸だけでなく、「はたらく」機会を提供する企業の座組みを変える軸もありますよね。その取り組みの一つが、「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」だと認識しています。個人向けの事業を生業としてきたパーソルキャリアが企業のコンソーシアムをプロデュースすることは社内的にもかなり大きな改革だったのではないでしょうか?
【キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム】
業種や業界を越えて「はたらく個人と企業の新しい関係」を模索する企業が集まり、企業と個人の持続的な成長を実現する方法を議論・実践・検証するコンソーシアム。2021年4月20日、キリンホールディングス、KDDI、コクヨ、富士通、三井情報、ヤフー、LIFULL、パーソルキャリアの8社で発足。
村澤:「はたらく」は個人と企業が表裏一体の関係で成り立っているので、個人だけでなく、それを受容・活用する企業側も変革する必要があると考えたのが、コンソーシアム立ち上げの背景にあります。ただ、最初は社内から懸念の声が多かったのも事実です。なぜなら、私たちは本業で転職支援をしているので、企業と連携して何かをやるとなると、「我田引水で転職者を増やしてもうけようとしている」と思われる可能性もありますからね。ただそこは、腹を割って話せば分かってもらえるかもしれないし、一度チャレンジしてみる価値はあると説得しました。
渕:実際に他社と話をしてみて、反応はいかがでしたか?
村澤:今回参加してくださった企業は、もともとキャリアオーナーシップを推進しているところばかりです。ですが、働き方やキャリアは人事部門の業務として閉じており、経営層や事業責任者と十分な連携が取れないという構造的な課題が共通してありました。それなら、一社一社が個別に取り組むよりも、お互いにナレッジを吸収し合って答えを模索したほうがダイナミックな未来を描けるということで、構想に一定の期待を持っていただけたと感じています。
渕:各業界をけん引する企業が集いましたよね。ちなみに村澤さんは、大企業やリーディングカンパニーが変革にチャレンジすることの意義をどう捉えていますか?
村澤:意義の前に、リーディングカンパニーには社会的責任や使命があると考えています。自分たちが従来と同じことをやり続けるのか、業界の課題を見据えて率先して変わるかで、業界全体の未来が変わります。リーダーには業界をより良くしていく責任があり、その先に意義やメリットがあるのではないでしょうか。同時に、その新しいルールを浸透させるために、変革のポイントを可視化して共有することも重要だと思っています。
渕:いかに共有可能なルールを作れるかが大事ですよね。大企業だけでなく中小企業、そしてその先にいるお客さまも含めて、こっちのほうが良いと思える新しいルールを提示することが、業界の成長につながり、結果的に自社の成長にもつながるのだと思います。
変革パートナーに期待する3つの役割:「触媒」「アクセル」「鍛冶職人」
渕:電通では「はたらく未来図構想」「キャリアオーナーシップとはたらく未来コンソーシアム」の伴走をさせていただいてきましたが、実際どのようなことを期待されていたのでしょうか?
村澤:「触媒役」「アクセル役」「鍛冶職人役」の3つの役割を期待していました。
一つ目は、自分たちで未来を描こうとすると、どうしても固定観念やしがらみで発想が広がらないケースがあります。そのときに、異業種・異業界の豊富な知見をもとにアイデアを持ってきてくれたことで、そのまま応用できるものもあるし、触発されて新しいアイデアが生まれるケースもあります。アイデア・構想・妄想を具体化する「触媒役」としてサポートしていただけたと思っています。
二つ目は、私たちはさまざまな事情を踏まえた上での最速のスケジュールで変革を進めているつもりなのですが、電通が外部の視点から社会の変化や競合のスピードに対して十分なのかを検証し、多少無茶をしてでもアクセルを踏まなければいけないポイントを指南してくれたのが結果的にとても助かりました。
最後の「鍛冶職人」は、コンセプトを磨くということ。企業変革や新規事業開発では、非常に長い時間をかけて議論を重ねていきます。すると、最初はとがったコンセプトやサービスだったのに、徐々にカドが取れてユニークネスを失うケースもあるのです。削れる部分を取捨選択しつつも、きちんと研磨してとがったコンセプトを維持できたのは、電通のサポートのおかげだと思っています。特に渕さんには、常に横に居ていただいき、時には斜め上から引っ張ってもらえたと感じます(笑)。
渕:そうおっしゃっていただけて恐縮です。僕自身、パーソルキャリアの取り組みは社会にとって絶対に必要なものだと信じていたので、外部の立場でありながらも自分ゴト化して伴走し続けることができたと思います。自分たちで言うのは恥ずかしいのですが、自分ゴト化の精神は電通のDNAとして脈々と受け継がれているものかもしれません。
村澤:「はたらく未来図構想」は10年先を見据えた取り組みであり、今後も局面で力をお借りしたいと考えています。特に内部だけでずっと改革を進めていると、徐々になれ合いが生まれる側面はあるので、そこは独立したプロとしてのパートナーシップの中で、一定の緊張感を持って取り組むことが必要だと思っています。
渕:ありがとうございます。変革のアーキテクチャは生き物なので、今後も世の中の動きや市場環境を敏感にキャッチしながら、半歩先のアイデアをご提示していきたいと思いました。今後ともよろしくお願いいたします!