「ビジョンをつくったけど現場が動かない」を解決する方法
2020/10/07
なぜ今、インターナルコミュニケーションなのか
コロナ禍により日本の企業にリモートワークが浸透するにつれ、クライアントからの「インターナルコミュニケーション」に関する相談が増えてきました。相談いただくのは、経営企画部門、広報部門、人事部門、ブランド戦略部門…とさまざまですが、共通しているのは、
「経営が掲げたビジョンに沿って、現場の従業員に自ら動いてほしい」
という思いです。
そもそもコロナ禍以前から日本の大企業の多くは、少子高齢化、デジタル化、グローバル化など急激な変化の中で生き残りをかけ、近未来に向けての自社の新たな姿を示す長期ビジョンを掲げていました。しかし今、経営が掲げたビジョンがなかなか現場の従業員に浸透しない、という問題意識が各所で噴出し始めているように見受けられます。
それに加えて、コロナ禍でリモートワークが常態となり、従業員の一体感や帰属意識の低下が顕在化し始めています。いやが応でも自律分散型の働き方が求められる中で、いかにして組織力を維持するか。そして、個人のモチベーションと、企業のビジョンが同じ方向を向いている状態、つまり、いかに従業員エンゲージメントが高い状態をつくるかが、今、大きな課題となっています。
経営がどんなに素晴らしいビジョンや戦略を掲げても、従業員一人一人がそれを理解し、共感した上で新しいチャレンジに日々取り組んでいかなければ、変革がかなうことはありません。「いかに現場を動かすか」が今、日本企業の喫緊の課題になっているのです。
インターナルコミュニケーションの目的は「企業文化変革」
誤解されがちですが、インターナルコミュニケーションとは、単に従業員間の親睦を深めることや、組織の風通しを良くするための情報伝達のみを指すものではありません。
私たちは、インターナルコミュニケーションはコーポレートブランディングの一環だと考えています。下記の図1はコーポレートブランディングの基本構造を示す「ブランドスパイラル」です。
図1:ブランドスパイラル
コーポレートブランディングとは、企業が理念や経営ビジョンを具現化することで創り出した価値を、組織内外のさまざまなステークホルダーに浸透させていく活動です。
その社外に向けた目標は「良好なレピュテーションの形成」ですが、社内的な目標は、「企業文化変革」です。つまり、企業理念や経営ビジョンの実現に向けた、イノベーションを起こし続ける企業文化づくりこそが、インターナルコミュニケーションという活動の本質なのです。
「新たなビジョンを掲げたのに、なぜか変革の機運が醸成されない」
そんなときは、自社の変革が「事業変革」のみに着目してしまっていないか、本来は事業変革と両輪で推進するべき「企業文化変革」をおろそかにしていないかを、今一度振り返ってみてください。事業成果、つまり収益の向上ばかりに目を奪われ、企業文化に目を向けないことは、言葉を変えれば、「従業員の気持ちをおろそかにしている」ことに他なりません。
基本的なフレームワーク:「見える化」「自分ゴト化」「行動化」「文化化」
それでは、インターナルコミュニケーション施策はどのように企画立案し、推進していけばよいのでしょうか。最も基本的なフレームワークを示したのが、下記の図2になります。
図2:インターナルコミュニケーションのフレームワーク
インターナルコミュニケーションには、
・見える化
・自分ゴト化
・行動化
・文化化
という四つのステップが存在しています。それぞれのステップに対応する施策を開発し、企業文化変革につなげていきます。各ステップにおけるポイントを解説します。
「見える化」
経営が新たに掲げたビジョンの認知・理解を獲得していく一連の活動です。一般的な施策としては、ブランドブック、ブランドムービーの制作、社内報、イントラネット、メールマガジン、社内ポスターなどの活用、あるいは社内イベントの開催などが挙げられます。
まず大事なことは、立ち上げ期に会社としての「本気感」を強く従業員に印象づけることです。考えられる限りのコンタクトポイントで告知を図ることはもちろんですが、それらに統一感を持たせ、従業員の変革への機運を高めるためのシンボル・スローガンの開発も欠かせません。また、立ち上げ当日に社長から全従業員宛ての手紙を配布した企業も存在します。経営トップのコミットメントを従業員に強く印象づけることは、非常に重要です。
「自分ゴト化」
経営が掲げたビジョンを従業員に共感してもらい、「自分たち一人一人がコーポレートブランドを体現するのだ」という心理的なコミットメントを引き出すことを指します。このステップに困難を感じている企業がとても多い印象を受けており、インターナルコミュニケーションにおける大きな「壁」であるともいえるでしょう。
しかし、「特効薬」は存在しません。従業員の共感を引き出すためには、地道な対話のプロセスが不可欠です。ここでも経営陣のコミットメントが重要になります。単にイントラでの告知や、幹部を対象としたミーティングだけで終わらせず、各部門、職階、地域に対して直接語りかけ、率直な意見を引き出す「泥くさい」取り組みが必要です。
本来は直接足を運び、対面で実施することが望ましいですが、コロナ禍の状況においてはオンラインを有効に活用することで補完していきましょう。大規模なプロジェクトの場合には、経営陣が行脚し、告知する形での「キャラバン」と、従業員が主体的に自らやるべきことを考えるための「ワークショップ」を、時期を分けて開催することも有効です。
「行動化」
一言でいうと、ビジョンに向けて新たな行動を起こした従業員を「褒めてあげる仕組みづくり」です。従業員は皆、日々の業務を抱えており、既存の成果指標に向けて毎日の仕事に取り組んでいます。そのような中、新たなビジョンへの取り組みに対して「仕事が増えた」と感じてしまう従業員もいることでしょう。
「新たなチャレンジを会社はちゃんと後押しするのだ」というアナウンス機能、および従業員のインセンティブを生み出すための施策として、コンテストや表彰制度も重要です。多くの企業において何らかの表彰制度は導入されていますが、単に定量的な成果を表彰するものであったり、毎年の恒例行事としてマンネリ化したりしてはいないでしょうか。「新たなビジョンに挑戦する従業員のやる気を引き出す」という視点でリデザインの余地がないか、改めて見直してみてはいかがでしょうか。
「文化化」
最後に、インターナルコミュニケーションが一時的なキャンペーンで終わらず、新たな企業文化として定着するための環境を整備する施策が「文化化」です。
例えば、魅力的な企業文化を強みとする企業の多くは、新卒・中途を問わず、入社研修 の段階から自社の理念を浸透させるプログラムに非常に力を入れています。そして、最終的には、新たなビジョンに対する意識・行動のあり方が人事評価制度として定着することが、インターナルコミュニケーションの究極のカタチとなります。
インターナルコミュニケーションの設計に当たって特に留意すべきことは、これらの「見える化」「自分ゴト化」「行動化」「文化化」のステップに対応する各施策について、一貫した軸の下に展開されるべきだということです。
ビジョンの実現に向けての変革課題の抽出や、コンセプトの立案までは全社的な視点でなされていても、その後の実施段階で、施策を担当する各部門の「縦割り」に陥ってしまう事象も散見されます。しかし、それでは従業員からは「何のために、何をやろうとしているのか」がよく分からなくなってしまい、「企業文化変革」という本来の目的を達成することが難しくなってしまいます。
このようにインターナルコミュニケーションとは、決して特定の部門のみが抱え込むべき取り組みではありません。自社が抱える重要な課題に対して、経営のコミットメントを引き出しながら、部門横断で一丸となって推進する「全社運動」であることが、本来あるべき姿なのです。インターナルコミュニケーションについてより詳しく知りたい方は、ぜひお問い合わせください。