インターナルコミュニケーション三つの最新潮流
2020/11/17
コロナ禍で日本企業にリモートワークが浸透するにつれ、急速に高まっている「インターナルコミュニケーション」への問題意識。前回は、その企画立案の基本的なフレームワークを紹介しました。
今回は、インターナルコミュニケーションの最新潮流を紹介します。
「基本的な施策はこれまでも実施してきたが、より効果的な打ち手を考えたい」
そんな、一歩進んだ課題意識をお持ちの方に参考にしていただければと思います。
組織のあり方は「ヒエラルキー型」から「自律分散型」へ
インターナルコミュニケーションの最新潮流を考える上でまず踏まえておきたいのは、今、組織に求められるあり方が大きく変容しつつあることです。
図1:組織は「ヒエラルキー型」から「自律分散型」へ
「VUCA(※)」と呼ばれる、不透明かつ目まぐるしく変わる状況の中、スピード感を持ってイノベーションを生み出すことが重要です。ヒエラルキー型の組織構造による中央集権、トップダウンのマネジメント手法だけでは十分に機能しなくなり、現場の従業員一人一人が自ら考え、自主的に行動し、縦横無尽に連携する、自律分散型のコラボレーションスタイルが求められています。
コロナ禍で、半ば強制的にリモートワークが定着したことにより、その必要性はさらに加速しました。
※=VUCA
Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、 Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字をとった造語
一方、リモートワークで上司や同僚とのコミュニケーション量が減少した結果、従業員の組織への一体感や帰属意識の低下が課題となりました。トップをはじめ経営陣は、これまで以上に自社のビジョンや、今の自分の考えを積極的に発信し、組織文化の維持・強化を図る必要があります。
新しい組織のあり方に対応するためのインターナルコミュニケーションへの挑戦が、さまざまなところで始まっています。今回は、その中から筆者が考える、三つの大きな潮流について解説していきます。
1.インターナル/エクスターナルの「シームレス化」
従来、インターナルへのコミュニケーションとエクスターナル(社外)へのコミュニケーションは別個のものと考えられており、そのツールやコンテンツにおいても、それぞれに最適化された施策で展開されていました。
しかし、変化の激しい環境の中、インターナルコミュニケーションにもより一層のスピード感が求められるようになりました。また、ソーシャルメディアの普及などによって、企業の内情も「ガラス張り」になりつつあり、職場環境や企業文化のオープンな発信も、コーポ―レートブランディングの観点から重要になっています。
その中から、自社のオウンドメディアをエクスターナルのステークホルダーへのブランディングだけでなく、インターナルコミュニケーションも兼ねる形で展開する動きが出てきています。
その代表的な事例として、トヨタ自動車「トヨタイムズ」が挙げられるでしょう。
図2:「トヨタイムズ」キャプチャ画像
オウンドメディアを情報発信の核としながら、マスメディアと連動して自社の最新動向を訴求する一方で、組合との交渉や、豊田章男社長の「今の思い」についても積極的に発信されており、従業員向けの情報発信も強く意識していることがうかがえる内容となっています。
オウンドメディアの活用により、組織の末端まで迅速にトップのビジョンを伝えることが可能になります。企業トップの発信力は、コーポ―レートブランディングの観点からも非常に重要な要素です。トップの積極的なコミットメントによるインターナル/エクスターナルの「両にらみ」の情報発信は、インターナルコミュニケーションの新しい流れとして、注目すべき動向です。
2.「大規模オンラインミーティング」への挑戦
現在、全社総会など、リアルの場での大規模なインターナルコミュニケーションが難しい環境にあります。また、新入社員も在宅勤務が中心で、オフィスへの出勤が限定される中、職場への適応や育成に難しさを抱える企業も増えてきています。そのような環境の中、数百人規模の大規模オンラインミーティングに挑戦する企業が増えてきました。
ウェブ会議システムを活用し、企業トップが自ら、新入社員全員と対話型のミーティングを行う、あるいは、若手社員によるアイデアソンを実施する事例が出始めています。そのためのシステム環境やファシリテーションスキルの整備も、各社が模索中の状況にあります。
今後の課題は、従業員が楽しみながら参加できるエンターテインメント性の付与にあるでしょう。オンラインでの大規模ミーティングは、ウェブ会議システムという限定された環境の中で、スライド資料、動画、対話などを組み合わせながら一つの良質なコンテンツとして成立させる、いわば「番組づくり」にも似たスキルが求められるのです。
その有力なソリューションの一つとして注目されつつあるのが、メディアや著名人とのコラボレーションによるイベント展開です。既に数千人規模の全社総会や、世界中に点在する学生を集めた内定式などで、そのような事例が生まれています。メディアの持つコンテンツ制作のノウハウや、著名人とのネットワークをインターナルコミュニケーションに活用していく動きは、今後も加速していくことが見込まれます。
3.「心理的安全性」を意識したコミュニケーション
「現場の従業員一人一人が自ら考え、自主的に行動し、縦横無尽に連携する、自律分散型のコラボレーションスタイル」を組織内に浸透させるためには、コミュニケーションの「手法」だけでなく、「マインドセット」が非常に重要です。そのために今、非常に注目されているのが「心理的安全性」という概念です。
心理的安全性とは、「アイデアや疑問、懸念や間違いを発⾔しても罰せられたり恥をかかされたりしないと信じられること」を指します。自律分散型の組織においては、日々の業務において、従業員一人一人の自主的なチャレンジが求められます。その時、失敗すること、あるいは失敗によって責められたり、恥をかいたりすることを恐れていては、イノベーションの創造はままなりません。経営陣をはじめマネジメント層は、従業員の能力を最大限に引き出すために、心理的安全性が担保された組織文化づくりを強く意識する必要があります。
そのためには、日頃からどのようなコミュニケーションを心がければいいのでしょうか。ニューロリーダーシップ・インスティテュートのデイビッド・ロック氏らが提唱しているフレームワークが、下記の「SCARFモデル」です。
図3:SCARFモデル
心理的安全性の確保のためには、従業員一人一人が、
- 自分は重要な存在であると感じられること
- 組織の方針が明確であると感じられること
- 自主的な行動が支援されていると感じられること
- 他者とのつながりの中で、人間性が尊重されていると感じられること
- 公平、平等に処遇されていると感じられること
が必要です。前述したトップからの情報発信、ミーティングの場づくりをはじめ、SCARFモデルを意識したメッセージの設計が、これからのインターナルコミュニケーションの基本的なトーン&マナーといえるでしょう。
ニューノーマル時代のインターナルコミュニケーションとは、単に「施策がデジタル化する」ことにとどまりません。リモートワークが常態化した組織における新しいコラボレーションスタイルの確立が必要であり、そのためには経営陣および従業員一人一人の、他者と向き合う心のあり方の変容が求められているのです。