インターナル施策はプレゼンではなく、セッションで決めよう!
2021/11/30
近年改めてニーズが高まっているインターナルコミュニケーションに関する本連載。今回はいよいよ、具体的な企画立案のプロセスについて解説していきましょう。
これまでの記事でも述べてきた通り、インターナルコミュニケーションの本質は、部門を超えた企業文化変革に向けての全社運動です。つまり、複数の部門、多くの従業員との緊密な連携が不可欠であり、円滑な合意形成がなされることが、成功のための必須条件になります。
また、外部のパートナーからの提案を受けて推進するとしても、自社のことを最もよく分かっているのは、当然ですがその企業の従業員の皆さんです。そこが、市場や生活者に対するインサイトなど、外部環境に詳しいパートナー企業からの提案を取り入れながら推進するマーケティング施策とは大きく異なるポイントです。
パートナー企業から他社での成功事例をもとに具体的な提案を受けたとしても、なんとなく自社ではうまくいく気がしない。そのためインターナルコミュニケーションのプロジェクト立ち上げをためらってしまう。そんな経験がある方もいるでしょう。
今回は、筆者が多くのクライアントの支援を担当させていただいた経験から、自社に最適なインターナルコミュニケーション施策を策定するために必要な考え方と、セッションの一例を紹介します。
インターナルコミュニケーションは、ビッグアイデア<ライトアクション
まず、インターナルコミュニケーションのアイデアを考える、選択する際に必要なスタンスについて説明させてください。
例えば広告キャンペーンのプランニングのように、生活者に対するコミュニケーション施策には常に、「目新しいアイデア」が求められます。いわゆる“ビッグアイデア”です。もちろん、インターナルコミュニケーションにおいても、斬新な発想や最先端のツールの重要性を否定するつもりはありません。
しかし、ご自身の職場生活に照らし合わせて考えてみるといかがでしょうか?仮に、なんらかの斬新な施策が社内から発信されたとしても、それが単発に終わってしまえば、本質的な意識・行動の変革に結びつくことはないでしょう。
また、いくら目新しくても、それを「自分ゴト」として捉えることができなければ、「スベッている」というしらけた感覚にすらつながりかねません。それはコミュニケーションツールに関しても同じことがいえます。例えば社内SNSを導入した企業の多くが、投稿が少なく、盛り上がりに欠けるという課題を抱えています。
インターナルコミュニケーションを考えるときに最も重要なのは、自社の組織課題に則した適切な打ち手で、継続的に推進することです。その中には、一見地味に思えて、企画会議の場では「盛り上がりに欠ける」ものもあるかもしれません。しかし優先すべきは、これなら自社の従業員の意識が変わり、望ましい行動が定着するという「腹落ち感」です。また、いったん始めた施策については、すぐに効果が出なくても愚直に続けていく実行力が重要になります。
つまり、“ビッグアイデア”(奇抜なアイデア)ではなく、“ライトアクション”(適切な行動)がインターナルコミュニケーション施策を考える際の基本スタンスなのです。
施策ロードマップ策定に向けての4つのステップ
インターナルコミュニケーションの企画立案にあたっては、アイデアの羅列に終わらず、各施策の目的を明確にし、自社にとって適切なタイミングで統合的に展開するための「年間ロードマップ」の策定が必要となります。それは、以下の4つのステップで進めるとよいでしょう。
ステップ① 現行のインターナルコミュニケーション施策の棚卸し
連載第1回の「『ビジョンをつくったけど現場が動かない』を解決する方法 」で紹介した、インターナルコミュニケーションのフレームワークが図1になります。
図1:インターナルコミュニケーションのフレームワーク
まずは、自社において現状実施しているインターナルコミュニケーション施策について、「見える化」「自分ゴト化」「行動化」「文化化」の視点から棚卸ししてみましょう。そのために、下記のようなシートを作成することをお勧めします。
図2:現行施策の「棚卸しシート」の作成
全社員を対象としている施策はもちろんのこと、可能な限り、事業所や部門などで個別に行われているローカルな施策についても取材し、自社の中でどのようなインターナルコミュニケーション施策が実施されているのかを棚卸ししていきましょう。思ったよりも多くの施策が、日々実施されていることが分かると思います。まずこれだけで、新鮮な驚きがあるでしょう。
そして、それらの施策について有効に機能しているか、主観でもいいので評価していくことがポイントです。そのまま継続して活用できる施策もあれば、慣習的に続いているものの、すでに役割を終えている施策もあることに気づくでしょう。その作業の中で、新たに開発・導入すべき施策の領域・方向性もおぼろげながら浮かんできます。
ステップ② ケーススタディの共有
具体的なアイデアについてディスカッションする前に、どのような成功事例があるのかを共有し、そのポイントについてディスカッションしておくことが重要です。そのことにより、自社に必要な施策をより幅広い視点から考え、評価することができます。
事例については書籍やウェブサイトからもある程度リサーチすることも可能ですが、労力を考えると、外部のプロフェッショナルと協業することをお勧めします。電通コーポレートコミュニケーション部でも豊富なインターナルコミュニケーションの事例を保有しており、クライアント企業とのセッションに活用しています。
「見える化」「自分ゴト化」「行動化」「文化化」それぞれにおいて、単体として注目すべき事例もあれば、一つの企業における全体の流れの設計に着目すべき事例もあります。先行事例を材料としながら、成功のポイントはどこにあるのか、自社にはどのような事例が取り入れられそうか、議論を深めることがその後のアイデアの合意形成に向けて重要なプロセスとなるのです。
ステップ③ アイディエーションシートを活用したディスカッション
いよいよ、具体的なアイデアを考えるプロセスです。筆者は、実りあるディスカッションになるように、以下のことをお勧めしています。
1.外部パートナーとのセッションであっても、自社の従業員もアイデアを考え、持ち寄る
冒頭でも述べた通り、自社のことを最もよく分かっているのは、従業員の皆さんです。プロジェクトメンバーそれぞれがアイデアを持ち寄ることで、施策が必要な領域がどこにあるのかを、より明確に共有できるようになります。その上で外部パートナーからの提案を受けることで、アイデア採用に向けての判断の精度が上がっていきます。
2.アイディエーションシートを作成し、分類・投票を行う
アイデアを持ち寄るにあたっては、ディスカッションを容易にするために、図3のような共通のフォーマットによるアイディエーションシートに記入します。
図3:アイディエーションシート
記入にあたっては、イメージを共有するために文字だけでなく、ビジュアルも活用することをお勧めします。また、アイデアについては単なる思い付きではなく、常に「何」を目的に、「どのような効果」を期待する施策なのかを考えながら作成することが重要です。
プロジェクトメンバーそれぞれが持ち寄ったアイデアを壁に貼り、いいと思ったアイデアに投票していきます。その際、実現可能性に不安があるものでも、まずは評価に値するアイデアに着目するようにしましょう。
出されたアイデアは、他の人が発案したアイデアと結合させることで、施策としての有用性が高まることもあります。ワークショップ形式での検討は、その意味でも有効です。
ステップ④ 年間ロードマップの作成
ステップ③において選抜されたアイデアを、予算や実行可能性の面からも精査し、さらに絞り込みを行います。そして、自社のイベントカレンダーと対比させながら、どの施策はどの時期に始めることが望ましいかを検討し、年間ロードマップを作成していきます。その際、「見える化」「自分ゴト化」「行動化」「文化化」の各施策が有機的に連動しているかを十分検討するようにしましょう。その作業の中で、ブラッシュアップが必要な施策がある場合には、もう一度ステップ③に立ち戻り、ディスカッションしましょう。
また、施策の検証作業のプロセスにおいて、自社で内製化する部分と、外部パートナーに委託しながら推進する部分を明確にすることも重要です。ロードマップの作成と併せて、領域ごとのワーキンググループの立ち上げ、担当者の役割分担の設定など、実施に向けての必要事項も精緻化していきましょう。
このように、複数回のセッションを通じて施策を策定していくことは、一見遠回りに、あるいは骨が折れる作業に思えるかもしれません。しかし、外部パートナーから提案を受けるだけでなく、自社のさまざまな部門のメンバーとディスカッションを行うことで、自社に必要なアクションが明確になります。さらにその後の実施の段階においても、円滑な連携を図ることができるようになります。インターナルコミュニケーションは企画立案の段階から、すでに始まっているのです。