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どこからはじめる?インターナルコミュニケーションNo.6

「対話のダブルダイヤモンド」が変革を加速する

2024/01/09

インターナルコミュニケーションの新たな潮流として、「対話」が注目されています。

  • 新たに策定したパーパスや長期ビジョンの浸透に向けて、経営陣と従業員がタウンホールミーティングなどの場で対話する
  • 日々の業務の推進に向けて、管理職と現場社員が1on1面談などで対話する
  • 新規プロジェクト、あるいは経営統合やグループ再編などを受け、異なる部門やバックグラウンドを持つ社員同士が対話する
    などなど

経営方針の浸透やその企業文化の定着、そしてさまざまな現場における新たな挑戦行動を円滑に推進するための手段として、「対話」は欠かせない要素として定着しつつあります。

しかし多くの日本企業は、「対話」を通じて物事を推進することに慣れていません。そのため、「変革の推進には対話が不可欠」という肌感覚はありながらも、「誰と誰が、どのような対話をすることが必要なのか」「対話をどこから始めて、どのようにその輪を広げていくのか」「対話を一時的な施策に終わらせずに、実際の挑戦行動にどのように結びつけていくのか」など、変革に結びつけるための全体像の設計に向けた方法論が存在しないのが現状です。

本稿では、多くのインターナルコミュニケーションにおける実務経験を持つ電通コーポレートブランディング部の中町直太が、実行性のある対話コミュニケーションの導入・展開に向けての考え方を解説。「哲学対話」によって対話の文化づくりを企業に対して推進している、東京大学の堀越耀介氏の知見や実践経験も踏まえながらお伝えします。

<目次>
そもそも、「対話」とは何か?

日本企業にとっての対話は、組織文化変革の「はじめの一歩」

変革を加速するための「対話のダブルダイヤモンド」

そもそも、「対話」とは何か?

私たちが普段の生活で何げなく使っている「対話」という言葉ですが、その定義に対する理解は意外にあいまいな方も多いのではないでしょうか。例えば、「会話」や「議論」とはどのように違うのか?まずは、私たちの考え方を以下に整理したいと思います。

対話の定義

「会話」とは「おしゃべり」という言葉でも表現されるように、特定の関係性をベースとした言葉による情報や感情表現のやり取りであり、必ずしも特定の議題について話を深めるということではありません。

そして「議論」とは、特定の議題についてある目的(意見の集約や合意形成など)を達成するためになされるコミュニケーションであり、会話とはその点が大きく異なります。きわめて広い意味でつかわれる言葉でもあり、例えばブレーンストーミングなどでも使用されることがあります。

また、「討論」とは、その第一の目的が、特定の議題についてのお互いの主張について、勝ち負けをつける(あるいは議論を戦わせる)ことにあります。自分の意見をディフェンスすることで、誠実さや真実性よりも、論理や理由の整合性や「もっともらしさ」を競うコミュニケーションです。お互いに対する尊重や、共通点を見出すことは重視されるとは限りません。

それに対して「対話」とは、特定の議題を掲げることは議論や討論と共通しますが、お互いの理解・尊重をもとに、共通点や相違点も明らかにし合いながら進めていくコミュニケーションです。もし対話の中で自らの誤りに気づいたら、その場で意見を変えることも許容されます。また、そこでの発言は、立場の上下やバックグラウンドの違いに影響されるのではなく、すべての参加者が対等な立場で、たった一つの正解のない問いを真摯に探究する誠実さが求められます。

対話に関する理論やその実践手法に関するオピニオンは数多く存在しますが、「企業における、全社一丸となって変革を加速する手法の一つ」として捉えたときに最も重要なポイントは何でしょうか。私は、「問いを立て、ともに探究する」態度であり、それが許容される環境づくりであると考えています。

例えばパーパスや長期ビジョンを従業員に浸透させることは、決して言葉だけを表面的に暗記させたり、「会社の方針だから」と盲目的に追従させることではありません。

パーパスや長期ビジョンには共感できる部分もあれば、「もやもやする部分」もあるはずです。対話によってお互いの考え方やその背後にある価値観を共有することは、相互理解や信頼の醸成を図る第一歩となります。さらに、その場だけの盛り上がりに終わらせず、翌日からの業務において、自分なりにどのように実践していくかまで考える必要があります。そこにおいても、対話型のアプローチを採用することによって、他者の考えを取り入れることができたり、今後の協業環境に向けての土壌を作ったりすることが可能になります。

日本企業にとっての対話は、組織文化変革の「はじめの一歩」

このように考えると、日本企業が対話に不慣れである理由もおのずと明らかになります。

年功序列、上意下達の組織文化が根づいてきた日本企業においては、「何を言うか」の前に「誰が言うか」が重視されるため、対話によって物事を進める余地があまり存在しませんでした。

また、コミュニケーションを円滑に図るためには飲み会などのインフォーマルなコミュニケーションが重視される傾向にありました。しかし、そこで必要とされるコミュニケーションはあくまで「親睦」であり、会社や自部署にとって重要な課題をともに探究するという場にはなりにくい傾向にあります。たとえそういう話題になったとしても、翌日からの具体的な行動に落とし込まれることは少なかったのではないでしょうか。つまり、「オフィシャルな業務の場で、役職や部門を超えて共通の重要なテーマを率直に話し合う」という機会は極めてまれであったのではないかと考えます。

しかしご存じの通り多くの日本企業は現在、変革の加速に向けて上意下達の気風の改善に努めており、役職階層の数を減らし、意思決定をスピーディに行うためのフラットな組織づくりを推進しています。また、イノベーションが生まれる土壌づくりや、若年層の社員のエンゲージメント向上に向けて、心理的安全性の高いフラットな関係づくりにも取り組んでいます。この変化を端的に表したのが下記になります。

組織づくりのこれまでとこれから

しかし、組織の「ハコづくり」や、情報共有のインフラ整備を進めたとしても、一人一人の社員の根底にある意識がこれまでのままでは、それらの取り組みは十分にワークしません。

従業員の自律性が喚起されるためには、「挑戦が奨励される」「失敗を恐れる必要はない」などといった経営陣をはじめとした組織全体への信頼感が不可欠です。また、情報共有施策が役職や部門を超えた相互連携につながっていくためには、「自部署・自分の成果が達成されればいい」という個別最適の発想を超えた、組織共通の目標に向けてコミットする姿勢が不可欠です。

つまり、日本企業が現在推進している組織改革の成否は、共通の課題(問い)に対して一人一人がともに考え、取り組む「探究の共同体」に変容できるかにかかっています。組織デザインと連動して「一人一人の意識変革デザイン」が必要であり、そのためにまず取り組むべきことが「対話の文化」の醸成なのです。

変革を加速するための「対話のダブルダイヤモンド」

インターナルコミュニケーションの一環として対話型施策を取り入れる企業は増加していますが、方法論が確立していないため、その多くが手探りで推進されています。また、事業や組織の変革との結びつきが弱く、その重要性が社内で十分認識されていないケースも少なくありません。以下は、対話コミュニケーションを統合的に設計し、変革と有機的に結びつけるために電通が独自で開発したフレームワークである「対話のダブルダイヤモンド」です。

対話のダブルダイヤモンド

まず、パーパスや長期ビジョンを起点とした、従業員の意識変革プロセスを「価値づくり」「場づくり」「動機づくり」に区分します。「価値づくり」とは、共通の理念やビジョンを言葉に落とし込む取り組みであり、「場づくり」とは人材の流動性を高めたり、自律的な行動に向けての知識やスキルを身につけたりするための環境の整備です。そして「動機づくり」とは、実際の挑戦行動を後押しするための制度設計となります。この3つのプロセスをどのように橋渡しするかが、対話コミュニケーションの統合的設計の基本的な考え方となります。

STEP1「私たちは何を変えるべきか?」

まずは、新たに策定したパーパスや長期ビジョンを、単に言葉の表面的な理解ではなく、その背景も含めて共有し、忌憚のない意見を交換し合うための経営陣と従業員の対話が必要です。タウンホールミーティングや、各部署・支店への経営陣によるキャラバンなどがこれに該当します。

ここで重要なのは従業員からの信頼の獲得であり、多くの企業が施策として取り入れています。しかし、「説明会+質問」に終始してしまっているケースも少なくありません。このプロセスが「対話の第一歩」として成立するためには、「自社が今、何を変えなければいけないのか?」という「問い」に関して話し合う時間を設けることが必要です。

変革をするということは、何かを大きく変えることであり、それはさまざまなレイヤーで存在します。変えなければいけないことを真摯に語り合うことで、初めて対話の場として成立し、その先に、日本企業の多くで課題となっている「従業員の経営陣に対する信頼不足」の改善にもつながります。もちろん、「問い」のテーマが上記の「私たちは何を変えるべきか?」である必要はありません。自社の環境に応じてさまざまな問いがあり得ますし、むしろその設定こそが対話コミュニケーションの要諦となります。それは、以降のステップでも同様です。

STEP2「私は何を変えるべきか?」

日本企業の多くで、直属の上司と定期的に面談を行う「1on1」の導入が進んでいます。しかし、その場が社の変革方向性と自分の行動を結びつける場として機能しているケースは少ないのではないでしょうか。

STEP1では経営の大きな方向性に対する一定の腹落ちを目指しているものの、それを一人一人の従業員が日々の業務にどのように落とし込むかにおいては、さらにきめ細かいフォローが必要です。パーパスの浸透に向けて熱心に取り組みを進めている企業においては、1on1面談の場で、個人のパーパスである「マイパーパス」の策定を取り入れる事例も出てきています。

つまり、「私は何を変えるべきか?」というテーマについて問いを立て、マネジメントと現場社員が相互理解を深める対話が求められます。それがあってこそ、社内FA制度(社員が自ら他部署に能力や実績をアピールして、人事異動を勝ち取る制度)などのキャリア支援施策や、社内大学・eラーニングなどの自主的な学習プラットフォームの活性化にもつながるのではないでしょうか。

STEP3「私は何をやるべきか?」

STEP1、2が、パーパスやビジョンを一人一人に自分ゴト化させる「浸透のデザイン」だとすると、ここからは具体的な「行動のデザイン」のプロセスとなります。

そのために対話コミュニケーションを有効に取り入れたいのが、職階別研修や、次世代幹部候補社員を集めた選抜研修などです。現在、これからの研修においては知識を詰め込む座学形式から、実際の業務に直結した課題に取り組む探究型の学習への転換が進んでいます。

つまり、経験によって自分の長所と課題を理解し、その後の業務に直結させる機会に変容しつつあるということです。部門は違っても、共通のバックグラウンドを持った社員間で、相互の強みと課題をフィードバックし合い、正解のない課題に向けた探索の機会として対話を組み入れることは、自分のキャリア志向と社の方針を鑑みた上で、自分が取り組むべきことを明確にすることに貢献します。

STEP4「私たちは何をやるべきか?」

そして、変革の実現に向けて欠かせないのが、一人一人の思いや行動がチームとして有機的に機能するための施策のデザインです。チームビルティングに向けた研修を行う場合もありますし、実際の部門横断プロジェクトの場合もあるでしょう。

「組織間の縦割り」は、多くの企業で課題となっているテーマであり、ここを乗り越えることが変革の成否を左右します。そのために必要なのは、個別最適から全体最適への意識の転換です。そのためには理念・ビジョンといった抽象的なレベルではなく、具体的な挑戦行動に結実する必要があり、個別の利害を超えた共通目標の設定が不可欠です。

つまり、「私たちは何をやるべきか?」を共創することを念頭に置いた対話コミュニケーションが必要となります。その先に、行動を促進するための提案制度や表彰制度、あるいは挑戦を評価するための評価制度が存在するのです。


組織変革において、ハード面(制度・システム)の改革と、ソフト(意識・コミュニケーション)の改革を同時並行で、有機的に連携させることは常に課題となります。そのために必要なのは、従業員の体験プロセスから考える視点です。

経営や人事が描いた全体像について、多くの従業員はその背景まで十分理解していないことがあり、実務のオペレーションに忙殺されてしまいがちです。会社への信頼を構築し、自分なりの行動に落とし込み、仲間と共創する。その意識と行動の変容をデザインするためのプロセスが、対話の文化の創造であると言っても過言ではありません。

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