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仕事の創り方を変えよう!No.3

内沼晋太郎×廣田周作:マージナルな場に飛び出す人の仕事術

2014/02/27

近未来の予測もできないほど、変化の激しい今の時代。前例、慣習にならうのではなく、自ら社会の中に新しい役割、働き方を見つけていく必要があります。広告業界に限らず、そんな新しい働き方を見つけ、実践する方に電通プラットフォーム・ビジネス局の廣田周作さんが話を聞きに行きます。今回、対談相手に選んだのは、ブック・コーディネイターとして活動するnumabooks代表の内沼晋太郎さんです。これまでにない本と関わる働き方をつくってきた内沼さんにマージナルな場で仕事をするようになったきっかけを伺います。

Theme① 「ブック・コーディネイター」になったきっかけは?

廣田:実は、僕にとって内沼さんは大学のサークルの先輩にあたるんですよね。

内沼:『PLUS』というフリーペーパーを発行するサークルですね。

廣田:年齢は一緒なのですが、僕がサークルに入ったのが遅かったので内沼さんは先輩にあたります。まず、内沼さんの仕事について説明してもらえますか。

内沼:最初は洋服屋さん、雑貨屋さんなど、本屋さん以外のお店に本の売り場をつくることから始まり、集合住宅や企業の受付、商業施設にライブラリーをつくりたいという相談を受け、本棚をつくる仕事に広がっていきました。そういう活動をしていたところ、本や出版業界のことについて意見を求められることが増え、トークイベントへの出演や執筆、コンサルティングなども行うようになりました。その後、2012年の7月に博報堂ケトルの嶋浩一郎さんと一緒に下北沢に「B&B」をオープンしました。

廣田:僕が入った直後に内沼さんはサークルをやめて自分で雑誌を立ち上げてしまうので、一緒にいた期間は短かったですよね。

内沼:本屋で売れる有料の雑誌をつくりたいと思って、『PLUS』編集部をやめたのですが、僕はその時に初めて出版流通の仕組みを知り、出版業界が不況と言われていることも知ったんです。自分は本が大好きで、本屋に行けば自分と同じようなお客さんがたくさんいるから、壊れゆく業界と言われていたなんて、初めて知って。かといって、本を読んでいない人たちに、本を読んでもらおうとするための活動を誰かがしているのかといえば、誰もしていないように思える。いないなら、僕がその仕事をしたいと思ったのがきっかけです。

Theme② 出版業界と広告業界の共通点

廣田:内沼さんが昨年12月に出版された『本の逆襲』(朝日出版社)を読んで面白かったのが、「本」と書かれているところを「広告」に一括変換しても、すべて意味が通じるということ。出版業界に本をつくって店頭に並べれば売れる時代があったように、広告もつくって流せば、商品が売れる時代があった。なので、広告をつくることで満足してしまっていたのですが、メディアが増え、世の中の情報量も増えたら、広告には「人を動かす」ことがより求められるようになって、2000年代初頭くらいから「コミュニケーションデザイン」という考え方が出てきました。そして、広告業界で「コミュニケーションデザイン」ということを志向している人たちと内沼さんの問題意識には、通じるところがあるな、と。

内沼:ツイッターを見ていると本を読んでくれた人が、廣田君と同じようなことを言ってくれていて、例えば「音楽でも同じことが言えるよね」とか「演劇でも同じことが言えるよね」といった意見を見かけました。読者の方たちが自分の領域に置き換えて読んでくれているのは著者として嬉しいことです。

廣田:本をつくって店頭に並べれば売れるという時代ではなくなっても、仕組みの内側にいる人は、その仕組み自体をなかなか壊せない。でも、そこに問題があると気づいた人がその仕組みの中から外れて、仕事を始めた。だからマージナルな場に新しい仕事がつくられていったのだと思います。

Theme③ 出版業界の未来は暗いかもしれないけれど、本の未来は明るい

廣田:内沼さんが本の中で書いている「出版業界の未来は暗いかもしれないけれど、本の未来は明るい」という言葉がとても響きました。

内沼:みんな「出版の未来は暗い。先が見えない」と言うけれど、それは今までやってきた業界の仕組み、やり方の延長に未来が見えにくいだけであって、本そのものに未来がないわけではない。それが業界の中にいる人たちは、従来の仕組みの中で仕事を続けているので、全てがだめになったと感じてしまう。でも歴史を振り返れば、本だって広告のコミュニケーションだって、どんどん作り方や売り方は変わってきたはずで、ある時点での仕組みが未来永劫続くということはあり得ません。

廣田:環境が変わっているからこそ、変わったこと、変わらない本質が見えるのではないでしょうか。本を取り巻く環境は激変していますが、内沼さんはその変化についていっているから、変わらないもの、本質が見えているのではないかと思います。

内沼:僕が懸念しているのは「変な変わり方をすると本質的な価値まで変わってしまう」ということなんです。時代の流れに逆行して、既存の業界の既存の仕組みを力ずくで無理やり残そうとすると、本を読む人自体がいなくなってしまうのではないか、と。広告は誰かの目につく努力を続ければ、何かできるかもしれないけれど、本の場合は広告と違って能動的に手に取ってもらえないと、決して読まれることはないものです。

廣田:不思議なことに、人はバリューチェーンのバリューを守るべきなのに、チェーンだけに目が行き、チェーンばかりを守ろうとしてしまうところがあります。チェーンの部分が、その業界の中にいるとバリューに見えてしまうところがありますね。


Theme④ 本に関わる仕事のスタートラインを引き直す

内沼:出版業界にいる大人たちは「本の仕事がしたい」という若い人に対し「出版は斜陽産業だから入らないほうがいい」と言ってしまいがちです。でも、そんなことを言っていたら本当に全体が衰えていくだけです。特に電子書籍以降、本は明確に定義できなくなりました。そこで「本の仕事がしたい」というとき、従来とは仕事の内容は変わると思うし、純粋に紙の本に関わって食べていける人は減るかもしれないですが、本と関わる仕事や活動はむしろ広がっています。
僕は、著書の中でそういった本と関わる仕事のスタートラインを引き直せたらと思っていました。書店に勤めていなくても、たとえばボランティアで本の読み聞かせをする人も、ブログで本を紹介する人も、みんな本を売っている、伝えているという意味で本屋であるといえます。そういう人たちを増やしていくことが、より豊かな本の未来をつくっていくのではないでしょうか。

廣田:これまでの日本はストイックに一つのことを追い求めることが美徳とされてきましたが、いろいろなことをやっている人の方が、マージナルな場で仕事を見つけていくことができるし、今はそういう人材が必要とされていると思います。

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