Web3と法律No.3
Web3における金融規制と資金調達について
2022/12/06
ブロックチェーンやNFTをはじめとした、Web3(ウェブスリー)と呼ばれる新しいテクノロジートレンドが大きな注目を集めています。
さまざまな業界での活用が積極的に検討されている一方で、関わる法律があまりにも多く、現在の法規制の中でどのように解釈されるかがまだ不明瞭であり、参入の足かせになっているケースがあります。あるいは、Web3をビジネス展開する過程で法的リスクを知らずうちに犯してしまう可能性もあります。
そこで、電通ではブロックチェーンおよびNFT領域に詳しい法律事務所ZeLo・外国法共同事業による勉強会等を通じて、法的論点への正しい理解を深めながら、Web3の適切な市場形成に貢献することを目指しています。
本連載では勉強会の内容を中心に、NFTなどWeb3領域に関心のある読者にナレッジシェアを行います。第3回は、法律事務所ZeLoの弁護士、松田大輝氏と天野文雄氏、電通の高松慎太郎氏の鼎談をお届けします。
NFTは暗号資産に該当するか?
高松:電通データマーケティングセンターの高松です。NFT関連の事業やWeb3の案件を中心に担当しております。私自身、DeFi(Decentralized Finance)やIXOといった金融分野での発展性やトークンエコノミーにおける広告会社の関わり方に強い興味を持っておりまして、今回は金融規制に重点を置いて議論したいと考えています。はじめに松田さんと天野さん、簡単な自己紹介をお願いいたします。
松田:法律事務所ZeLo弁護士の松田です。私はスタートアップ企業を中心としたクライアントのブロックチェーン等に関するご相談に多く関わっています。また、ファイナンスや、パブリック・アフェアーズ(企業など民間団体が政府や世論に対して、社会の機運醸成やルール形成に受けて働きかける活動のこと)などの案件にも携わっています。
天野:同じく法律事務所ZeLo弁護士の天野です。私は暗号資産まわりの案件のほか、M&Aやヘルスケア・医療領域の案件も取り扱っています。
高松:ありがとうございます。まずは暗号資産交換業等の法規制にまつわる法的論点を整理したいと思います。第2回の記事でお伝えしたように、日本では資金決済法の中で「一号暗号資産」と「二号暗号資産」という2種類の分類に応じて規制が生じるため、NFTを取り扱う上では「NFTが暗号資産に該当するかどうか」が重要な論点になります。
詳細は第2回の記事を参照していただきたいのですが、結論としてNFTは基本的に一号暗号資産には該当せず、二号暗号資産に関してはビットコインやイーサリアムなどと相互に交換可能でないもの、または相互交換が可能であっても一号暗号資産と同等の経済的機能を持たなければ該当しない可能性が高いという整理をしていただきました。
松田:そうですね。大きなポイントとしては、「そのNFTに個別性が認められるか?」という点です。例えばゲーム内通貨のように、一つ一つの通貨自体には個性がなく代替可能であり、しかもビットコインと交換できるようなものだと、二号暗号資産に当たると捉えられてしまう可能性があります。一方、ゲーム内キャラクターのNFTであればそれ自体に個性があり代替性がないため、二号暗号資産に当たらないと考えることができます。
高松:例えば、NFTを大量に発行してビットコインなどで購入できる状態で流通させると二号暗号資産に該当してしまうのでしょうか?
松田:ビットコインで売買できること自体が直ちに問題になることはありません。やはりNFTの性質として個別性が高いものになっていることが大切です。ユーザー側から見た時に、どれでも変わらないようなNFTだと暗号資産として捉えられてしまうリスクがあるということです。
高松:個別性が高いNFTであれば、暗号資産交換業の規制に該当しないということですね。
Play to Earn系のアプリケーションは、資金決済法の規制に該当する?
高松:続いての論点として、資金決済法の中の「前払式支払手段」に関する注意点を教えていただけますか?
松田:前払式支払手段とは、いわゆるプリペイドカードのように、事前に支払いをしたことを記録し、それを使って何かを買うような決済手段のことを指します。例えばゲーム内通貨を事前に購入し、その通貨でゲーム内アイテムを買う仕組みは前払式支払手段に該当します。前払式支払手段には別途規制がかかってしまうので注意が必要なのですが、NFTが前払式支払手段に該当するかどうかは、暗号資産の話と同じように、個別性の高いNFTであれば決済手段として使われるものではないので前払式支払手段ではないと整理することができます。
高松:そう考えると、NFTゲームで稼ぐという「Play to Earn」系のアプリケーションを日本で設計するのは難しいのでしょうか?
松田:そうですね、あくまで代替性のないNFTを利用する設計であれば可能ではありますが、「NFT」と言いつつも代替性のあるもの(トークン等)を利用している場合、二号暗号資産か前払式支払手段のいずれかに該当してしまう可能性が高いと考えられます。
高松:もう一つ、別の論点としてNFTを取り扱う上で金融商品取引業のライセンスが必要か?という議論があると思います。こちらも第2回で解説していただきましたが、「NFTが有価証券に該当するかどうか」が論点になるんですよね。
松田:はい。NFTが事業上の収益の分配を受けられるような権利を有していると、有価証券に該当する可能性が高く、金融商品取引法の規制に当たってしまいます。もちろん、個別に整理すれば問題ないケースもあるのですが、基本的には許認可を取るなどの対応が必要になるので、収益を分配するようなNFTは現状ハードルが高いのではないでしょうか。
NFT売買プラットフォームを作る際に注意すべき法的論点
高松:NFTを発行するにあたって気を付けるポイントを、松田さんに整理していただきました。続いて、NFTビジネスに関連する法規制について、天野さんにお聞きしたいと思います。弊社でもクライアントからNFTを販売したい、有名なNFTとコラボしたいといったご相談を受けることが増えてきているのですが、「売買」に関して気を付けるべき規制を教えていただけますか?
天野:既存のマーケットプレイス上でNFTを売買するのであれば問題ないのですが、独自のマーケットプレイスを自社で作って売買する場合、決済の問題が生じてきます。NFTはブロックチェーン上に記録されるという性質的な特徴や、ユーザーのニーズを考慮して、暗号資産を対価として売買されるケースが多いです。決済に伴って暗号資産の売買や媒介を行うためには暗号資産交換業のライセンスが必要です。また、暗号資産を他人のために管理する場合も同様のライセンスが必要になります。
また、買い手がお金を払って売り手にお金を移すという行為を「資金移動」と捉えると、銀行業免許か資金移動業登録が必要になります。
この障壁を乗り越える手段としては、例えば暗号資産交換業者のライセンスを持つ外部サービスと連携したサービスを設計する方法や、ECプラットフォームのように「収納代行」というスキームを設計する方法が考えられますが、いずれにせよ実現したいサービス内容に応じて慎重に検討することが重要です。
高松:なるほど。自分たちでマーケットプレイスを作ってNFTを販売する場合、注意すべき観点が増えそうですね。また、金融規制に関連するリスクとしてよく挙げられるマネーロンダリングについても教えてください。
天野:NFTの価値を客観的に算定するのが難しいことから、NFTの売買を装った資金移動、すなわちマネーロンダリングが行われるリスクが懸念されています。既存のアートや中古品の売買でも同様の問題は生じていたのですが、特にNFTは流通しやすく、匿名で取引できてしまう側面があることから、悪用されるリスクがあります。現時点では具体的な法規制の議論は進んでいないものの、今後の動向に留意すべき部分だと考えられます。なので、マーケットプレイスを作るのであれば、マネーロンダリング対策を念頭に置いて検討する必要があります。
高松:マーケットプレイス運営者として、不審な売買に気を付ける必要があるということですね。
トークンによる資金調達方法と、法規制のいま
高松:暗号資産に関する規制についてもお聞きしたいのですが、日本でも数年前にICO(Initial Coin Offering)ブームが起こり、詐欺が横行してしまった結果、大きな規制が入りました。近年はICOに代わる概念として、IEO(Initial Exchange Offering)という言葉をよく聞くようになったと感じるのですが、そもそもICOとIEOは何が違うのでしょうか?
天野:ICOはブロックチェーン上で売買可能なトークンを新規発行して資金調達を行うことです。現在は発行者による不特定多数者に対する暗号資産の売却は「業として売買を行なっている」として暗号資産交換業の登録が必要になっています。
一方、IEOとは暗号資産交換業者を介してトークンの発行・売り出しを行うことを指します。IEOは交換所が間に入ることで金融庁のコントロール下での取引を実現しています。発行者は原則として暗号資産交換業の登録は不要ですが、実質上、金融庁と連携して新規上場の審査のような事前審査を受ける必要があります。IEOは事実上不可能になったICOに代わるスキームとして注目を集めています。
高松:なるほど。国内ではIEOの事例はまだ少ない印象ですが、今後大企業も含めてIEOを目指す動きがどんどん出てくる可能性もありそうですね。
高松:最後の質問になりますが、今後DeFiまわりの規制はどのように変化していきそうか、お二人の展望を教えていただけますでしょうか?
天野:NFTに関してはすぐに何か大きな規制が入るような印象は持っていません。ただし、先ほど申し上げたマネーロンダリングの問題のように、詳細が詰められていない課題について議論が活発に進んでいくのではないかと思います。
松田:今回は法的論点が中心でしたが、会計財務の観点もトークン関連にはさまざまなハードルがあり、まさに活発な議論が交わされている段階です。今後「ここまでは解決できて、ここから先は難しい」という線引きが決まってくるのではないかと思っています。その線引きをベースにビジネスを考えていくフェーズに入っていくのではないでしょうか。
高松:ありがとうございます。今回お二人に話をお聞きして、目まぐるしく変化する暗号資産の世界に合わせて、ルール作りもすごいスピードで変化していることを感じました。
日本では海外に比べてまだまだ事例も少ないのが現状ですが、Web3まわりの施策をしたい、NFTを活用してコミュニケーションをしたいと考えた時に、安心してWeb3/NFTを活用したソリューションをクライアント企業に提供できるよう、引き続きZeLoの皆さんと連携しながら取り組んでまいります。この記事を読んでWeb3、NFTの活用にご興味を持たれた方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
【問い合わせ先】
株式会社 電通 web3 club:web3club@dentsu.co.jp