テレビCMでも、カーボンニュートラルを
2023/03/20
いま、さまざまな企業や組織が、温室効果ガス排出量の削減に取り組んでいます。
今回ご紹介するのは、TBSテレビ、booost technologies、電通の3社が共同開発した「グリーンCM」。カーボンニュートラルを実現するテレビCMへの出稿は、広告主のカーボンニュートラル推進の意思表明にもなる。そんな本サービスの背景について、3社のプロジェクトメンバーに聞きました。
テレビCM1本の放送で、イギリス―アメリカ8往復分の温室効果ガスを排出
──はじめに、テレビCMなどの広告宣伝活動において、なぜカーボンニュートラルへの対応が求められているのでしょうか。電通といっしょにグリーンCMのスキームを開発したbooost technologiesの青井代表に伺います。
青井:昨今、カーボンニュートラルの実現に向けて、企業が自社の温室効果ガス排出量を開示する動きが加速しています。日本では、プライム市場上場企業に対して「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)の提言に基づく気候変動リスクの情報開示が、実質的に義務付けられています。
booost technologiesでは、企業活動において、どのくらい温室効果ガスを排出しているのかを計測・可視化したり、削減目標設定とそれに対する実績を管理したり、外部組織に提出する報告リポートを作成したりできるプラットフォームを、運営・管理しており、多くの企業にご利用いただいています。
温室効果ガス排出量の算出は、次の3つに分類されて行われます。
・事業者自ら直接排出する「Scope1」
・他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴って間接排出する「Scope2」
・それ以外の間接排出「Scope3」
広告宣伝活動に伴う排出は、主にScope3に該当します。
用丸:テレビCMは、制作と放送という2つのフェーズがあります。前者で発生するのが、小道具を製作したり破棄したりするときや、ロケの移動などで排出される温室効果ガス。後者で発生するのが、放送に伴う電力消費などです。
これらScope3の排出量は、コストや期間の観点からもすぐに全てを削減するのが難しいといわれています。特に、燃料の燃焼といった工業プロセスによる直接排出が少ない一方で広告宣伝活動の機会が多いテック系企業にとっては、いかにScope3の排出量を減らせるかが重要課題となっています。
今回のグリーンCMは、テレビCMの放送のフェーズで排出される温室効果ガスにフォーカスしたソリューションです。CM制作に関しては、美術セットのCG制作や、別撮りした実写背景を使ってスタジオ内で合成撮影して、温室効果ガス削減を図る「メタバース プロダクション」というソリューションを、電通グループとして複数社共同で開発しています(詳しくは、こちら)。
青井:ちなみに30秒のテレビCM1本を放送するにあたり、イギリスとアメリカを飛行機で8往復した時と同等の温室効果ガスを排出しているといわれています。そう考えると、広告宣伝活動における排出量を削減することは、企業にとってはもちろん、地球にとっても非常にインパクトの大きい取り組みだと言えます。
青井:伊藤さんはTBSテレビの営業局にいらっしゃいますが、テレビ局ではどのような取り組みが進んでいますか?
伊藤:私たちテレビ局にとっても、カーボンニュートラル達成は注力すべき取り組みの一つです。
TBSテレビでは具体的な目標として、2023年度に主要3施設のScope1およびScope2のカーボンニュートラル化を実現します。すでに赤坂サカス文化施設とTBS緑山スタジオでは使用電力が100%再エネ化されています。今年度はこれに加えて、本社とスタジオ機能を持つ放送センターでも再エネ化を行います。また、SDGsキャンペーン「地球を笑顔にするWEEK」を企画するなど、幅広い世代がSDGsについて考えるきっかけづくりを行っています。
秋山:電通は、以前から温室効果ガスの排出量削減に注力されてきたTBSテレビと、カーボンニュートラル実現に向けて、さらにもう一歩踏み込んだサービスを世の中に提供できないかと考えました。そこで、CO2排出量管理・会計プラットフォームを開発・運営する、クライメートテックカンパニーのbooost technologiesに協力いただき、3社合同で企画したのが「グリーンCM」です。
グリーンCMへの出稿自体が、カーボンニュートラルに対する企業の意思表示になる
──グリーンCMとは、具体的にどのようなサービスなのでしょうか?
用丸:テレビCMの放送に伴う温室効果ガス排出量を、国際的に認められた算定基準「GHG(温室効果ガス)プロトコル」に基づいて算出し、排出量分のJ-クレジットを代理購入して、広告主に購入してもらうというスキームです。
J-クレジットとは、温室効果ガスの削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度のことです。すでに各社が温室効果ガス削減施策を実施されていると思いますが、それでも削減できない分をクレジット購入によってオフセットするという考え方です。このスキームをご活用いただくことで、広告主は「テレビCMにおけるカーボンニュートラル」に取り組むことができます。
棚川:電通は、グリーンCMのプランニングや準備活動に伴う排出量分のクレジットを購入します。そしてTBSテレビは、CM放送の電力使用(※1)に伴う排出量分のクレジットを購入することで、広告主とともにカーボンニュートラルの実現に貢献します。
伊藤:また、今回グリーンCMを放送したミニ枠「セブンティーン・ゴールズ~未来にできること~」では、番組制作によるCO2排出を計測して、その分もクレジット購入によりカーボンニュートラル化しています。
※1 TBS放送センターおよび東京スカイツリーのCM放送時間あたりの電力使用。
──「削減できない分」の排出量をクレジット購入するとのことですが、booost technologiesでは、具体的にその排出量をどのように計算しているのですか?
青井:GHGプロトコルでは、広告宣伝費の総額に係数をかけて算出する方法が定められています。この国際的なルールにのっとり、広告宣伝費をもとにオフセットすべき排出量を算出し、相当するクレジットをbooost technologiesが代理購入した上で、広告主に購入してもらう仕組みになります。
伊藤:取り組みの第1弾として、4社にスポンサーとしてご賛同いただき、TBSテレビの番組「セブンティーン・ゴールズ~未来にできること~」で、2022年11月1〜29日の期間中、実際にグリーンCMを放送しました。この番組はSDGsに取り組む人たちを応援するというドキュメンタリーですが、番組内でも「環境に配慮したグリーンCMが流れる」ことを告知しました。
──グリーンCMに出稿する企業には、どのようなメリットがありますか?
秋山:まず、Scope3における排出量削減を目指している企業にとっては、国際的なルールに基づいて排出量をオフセットすることでカーボンニュートラルに貢献できることは、大きなメリットです。さらに、広告主としてグリーンCMに出稿しているという事実自体が、「環境に配慮した広告宣伝活動を行っていく」という意思表示になるので、PR/IR面でのメリットもあると思います。
棚川:実際にご出稿いただいた企業からは、「テレビCMに限らず、今後、他メディアにおいてもSDGsに関する新たな提案があれば積極的に検討したい」という声を頂きました。
カーボンニュートラルがメディアのスタンダードになる日も近い
──グリーンCMをどのように展開していくのか、今後の構想やチャレンジしたいことを教えてください。
伊藤:TBSテレビとしては、まずはグリーンCMの認知度を上げていく必要があると感じています。直近の構想としては、TBSテレビのコンテンツ制作各社や各番組が参加して、世界や日本のSDGsの取り組みを紹介する「地球を笑顔にするWEEK」で放送されるすべてのCMをグリーンCMにしたいと考えていますし、さらに将来的には、日常的な広告宣伝活動の中で当たり前のようにグリーンCMが実施されることを目指しています。広告主の皆さまとも議論を交えながら、徐々に活動を拡大していきたいです。
青井:ダイエットと同じで、排出量を減らすためには、まず自分たちがどのくらい排出しているのか、その数値を正しく把握することが大切です。1本のCMだけでなく、一つ一つの製品やサービス、一つ一つの部品がどれだけ排出しているのか。私たちbooost technologiesは、テクノロジーの力を活用して、正確かつ分かりやすく提示できるようにしたいと考えています。
用丸:いま、「いい企業」の定義が大きく変わりつつあります。ただ利益を出している企業が、必ずしもいい企業というわけではありません。地球環境や地域社会、労働環境など、非財務の責任も果たせる企業が「いい企業」でしょう。今回は温室効果ガス排出という切り口から地球環境にフォーカスしたサービス開発を行いましたが、環境のみならず、地域社会へ貢献しているかどうかや、従業員エンゲージメントが高いかどうか、そういった非財務情報とも連動したメディアソリューション開発を皆さんと一緒にやっていきたいですね。
秋山:私たち自身も勉強中ではありますが、今回話題にあがった「J-クレジット」など国内外の取り組みを通して「これから世界はこの方向に進むんだ」ということを、みんなで知っていくことが大事だと思っています。グリーンCMはカーボンニュートラルのことを世の中の人に知ってもらう一助になると思いますし、今後も広告に携わる立場として、使命感を持って周知していきたいと考えています。
棚川:テレビCMに限らず、例えばラジオCMや新聞・出版、屋外広告、スポーツイベントなど、メディア全体でカーボンニュートラルに対する取り組みがスタンダードになる日が来ると思っています。
私たち電通の立場としては、広告主はもちろん、放送局やパートナー企業の事業成長をサポートし、社会全体の成長に貢献すべくMCx(メディア・コンテンツ トランスフォーメーションPJ)(※2)の活動を軸として、広告主にとって選ばれやすいメディアへの変革を推進していきたいと思います。