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生成AIでマーケティングはどう変わる?No.1

生成AIの現状とチャット検索の衝撃

2023/03/20

こんにちは。電通グループのAI活用を推進する「AI MIRAI」統括の児玉です。今、各所で話題になっている生成AI。本連載は生成AIがマーケティングに与える影響を3回にわたり解説していきます。

第一回である今回は、生成AIのトレンドと、特に重要と考えられるチャット検索について紹介します。

生成AIの急速な発展

昨年9月に「画像生成AIはクリエイターを脅かすのか、それとも。」という記事を執筆してから約半年がたちました。この半年は、過去数年のAIブームを振り返っても最も濃密な時期といえるでしょう。昨年夏から秋に起こった画像生成AIの波は、画像以外の技術やサービスも巻き込み、さまざまな議論をはらみつつ、発展を続けています。

それに加えて、言語生成の分野でも大きな転機が訪れました。昨年11月に発表されたChatGPT(本年3月に強化版がリリース)、ならびにその基となるLLM(大規模言語モデル)と呼ばれるAI技術が社会に解き放たれ、今日にいたるまで毎日のように新しいニュースやサービスがリリースされています。

これらの画像・言語生成AIは、まとめて生成AI(Generative AI)と呼ばれています。生成AI関連の市場の動きを観察すると、2015年ごろから昨年まで連なってきたいわゆる「第3次AIブーム」とはまた少し違う様相を呈しており、第4次AIブームとも呼ぶべき新たなムーブメントになっています。

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(イメージ図)第3次AIブームはDXブームに合流し、新たな波が訪れている。

第4次AIブーム?

生成AIが起爆剤となった第4次AIブームは、大きく分けて2つの要因により起こっていると考えています。

生成技術が発展し、実用レベルに到達した。
第3次AIブームにおいては、データの予測や分類などのタスクが中心で、画像生成や文章生成については、「AIが生成した〇〇」という事例は多数あったものの、いずれもニュース性が先行し、実用レベルに到達したとは言い難い状況が続いていました。(厳密には一部の企業や研究機関などによって高精度な生成技術そのものは開発されていたのですが、社会に与える影響の大きさから公開されてこなかった、と推察されています。)

ところが、昨年から一気にそれらの技術が一般に開放され、実用レベルの精度の生成技術がアクセス可能になり、急速に活用が広がっているのが今の状況です。

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生成AIによる画像。生成のクオリティは日々高まっている。

AIを扱うハードルが大きく低下した。
これまでの予測・分類のためのAIは、学習させるデータの手配が大きな課題となっていました。そもそもデータを持たない企業や個人にとってはトライのしようがないし、データの用意や仕分け作業(アノテーション)に膨大なコストがかかるという側面がありました。

ところが昨今の生成AIは、事前学習モデルと呼ばれ、膨大なデータをあらかじめ学習させ、調整した「素のAI」があり、それを多少のデータで調整(ファインチューニング)したり、別の技術で制御する、という構造になっています。つまり、何万・何百万という教師データがなくとも、望む画像や文章を生成できるようになってきたのです。

加えて、これらの技術が、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)として公開されたり、オープンソースとして流通することで、専門のAIエンジニア・データサイエンティストでなくても扱えるようになりました。データを持たない企業や個人でも、生成AIを活用したり、自社サービスに組み込むことが可能になったのです。

これら2つの要因――生成技術の実用化とハードルの低下――が重なっていま起こっているのは、トレンドの担い手がエンジニア・研究者からクリエイターへシフトするという現象です。ユーザーのすそ野が広がったことで、活用や表現の幅が一気に開拓され、ひとつのブームが形成されてきていると考えています。

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アーティストやクリエイターがAI生成の担い手になっている

なお、重要なポイントは、第3次AIブームの中心となった予測や分類などのAI技術が決して時代遅れになったわけではない、という点です。それらは産業界やビジネスの現場で、引き続き活用が模索されなければなりません。今の生成AIの流行とは切り離し、個別に考えていくことが重要です。

生成AIのトレンド

ここでは個別の技術について詳しくは触れませんが、この半年でかなり多くのことが可能になりました。ごく一部だけ列記します。

画像生成〉
生成される画像のクオリティの向上。
キャラクターや実写系など、特定ジャンルに特化したさまざまな生成モデルが流通しており、本物と見間違うほどのクオリティで生成できるようになりました。

制御技術の発達。
従来は難しかった構図やポーズの指定、人物やキャラクターの一貫性などを補完する制御技術が登場し、思い通りの画像を生成できるようになってきました。

画像以外への発展。
3Dモデルやキャラクター、動画など、画像以外にも様々なデータを生成できるようになってきました。

各種サービスの登場。スタンドアロンなサービスだけでなく、従来のクリエイティブソフトウェアに組み込まれるサービスなどが多数登場しています。

Linkin Parkなど著名なアーティストが自分の作品でAIを活用するなど、AIを用いた創作は表現の形式として定着しつつあるといえるでしょう。AIアートのコンテストなども開催され、いろいろな意見はあるものの、表現の一手法として大きく話題になっています。
https://www.youtube.com/watch?v=7NK_JOkuSVY


〈言語生成・対話〉
生成・対話のクオリティの向上。
英語だけでなく日本語においても、人間と近いクオリティの文章を生成し、自然に対話できるようになりました。

制御技術の発達。
特定の情報に基づく受け答えができたり、キャラクター設計ができたり、検索など別のサービスと結びつけることが可能になりました。

言語以外への発展。ロボットの操作やプログラミング、他のソフトウエアの操作など、「UIとしてのチャット」が登場しました。

各種サービスの登場。
検索と結びついた「チャット検索」、オフィスツールや業務ソフトウエアへの組み込みなど、多様なサービスが生まれています。

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AIは自然な言語を獲得しつつある

〈マルチモーダルAI〉
画像、言語、音声、その他異なった形式のデータを同時に扱うAIも増えてきました。本年3月に発表されたGPT-4は、画像からの言語生成(図表の読み解き、絵やマンガの理解と説明など)に対応しているとされます。このようにLLMは、Languageの枠を飛び越え、ますます多様なタスクに対応できるようになってきました。


チャット検索の衝撃

これらはいずれも革新的な技術ですが、マーケティングという視点で最も衝撃的なのは、チャット検索だと考えています。

チャット検索とは、従来の「関連するウェブサイトを提示する」という検索エンジンとは異なり、こちらからの問いかけに対し、ウェブ上をクローリングして情報を集め、つなぎあわせて情報のみを回答してくれるサービスです。現状ではMicrosoftのBingがサービスを提供しているほか、スタートアップによる検索サービスもいくつか登場しています。

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チャット検索の例(Microsoft Bing)

現時点では言語生成AIに特有の、誤情報を生成する(ハルシネーション)という問題はありますが、それでも「自分が求めていた情報だけがシンプルに提示される」というのは大きな驚きであり、20年以上続いたインターネット検索の未来に一石を投じる、と考えられます。

それは一体どういうことなのか?次回は、チャット検索による、情報接触やカスタマージャーニーの変化を考えてみたいと思います。

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