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「等身大の誰かをちょっとだけ動かす」 2022年クリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞、栗田雅俊氏

2023/06/01

2022年クリエイター・オブ・ザ・イヤー(※)を電通の栗田雅俊氏が受賞し、5月31日、東京會舘で贈賞・表彰式が行われました。見る人の心を動かすアイデアと表現力で世の中にうねりをつくり、課題を解決に導く栗田氏に、仕事への向き合い方や広告クリエイティブの未来について聞きました。

※日本広告業協会主催の賞で、JAAA会員社の中で2022年に最も優れたクリエイティブワークを行ったクリエイター個人を表彰するもの。1989年の創設以来、当該年で34回目を迎える。

 

2022年クリエイター・オブ・ザ・イヤーを受賞した栗田雅俊さん
栗田 雅俊(くりた・まさとし)  電通 クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー/コピーライター。主なクリエイティブワークに、サントリーホールディングス「人生には、飲食店がいる。」、ユニクロ「あたしンち×母の日・父の日」「LifeとWear ワイドパンツ・ブラトップほか」、日清食品 「カップヌードルPRO」、全国都道府県及び全指定都市 宝くじ「クイックワン」など

 

うそをつかず、愛らしく

──クリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞、おめでとうございます。受賞にあたっての感想を聞かせてください。

偉大な先輩方が受賞されてきた賞なので大変光栄でありがたいなと思う一方で、自分ひとりでやった仕事は一つもないですし、賞の名前が自分にはちょっと身に余りすぎるのでかなり恐縮です…という気持ちです。

──「人の気持ちに届くクリエイティブ、希望をもたらすクリエイティブ」であることに評価が集まりましたが、制作時に意識していたことは?

見た人の気持ちがちょっとだけいい感じになったらいいなとは思っていました。あんまり大きなことをやろうとしすぎるとうそっぽくなるので、拳を振り上げすぎず、等身大の誰かをちょっとだけ動かすんだということをいつも心がけています。そのためには本音だったり、ユーモアだったりがかなり大切だと感じています。

──コミュニケーションを組み立てる際の姿勢や考え方は?

大きく二つあります。一つは、できるだけをうそつかないこと。広告はつい発信側にとって都合のいい形にしてしまう構造のものなので、できるだけ踏ん張って、いろんな場面でそうならないように心がけています。

もう一つは、できるだけ愛らしくやること。かわいいとか面白いとかかっこいいとか笑えるとか、人間の気持ちにいい感じの変化が起こるものを付け加えることを、大事にしています。

しかし、こう挙げてみると、かなり当たり前のことでしょうか…。もっと斬新な考え方で広告をつくれていたらかっこよかったのですが…すいません…。

人生には、飲食店がいる。」(左)/「あたしンち×母の日」(右)
サントリーホールディングス「人生には、飲食店がいる。」(左)/ユニクロ「あたしンち×母の日」(右)

 

インスピレーションの源泉は半径5メートル以内に

──クリエイティブを生み出すインスピレーションはどこから? 

今まで生きていて出会った半径5メートルくらいのもので95%くらいは構成していると思います。見た映像、友達の発言、読んだ本のフレーズなどなど。残りの5%くらいは、全く理屈抜きに頭に浮かんできた変なイメージで、これはいまひとつ論理がないので他人を説得しづらく、生存能力が非常に低いものです。でも、いつもこいつを生き残らせたいとつい頑張ってしまいます。うまくハマればあまり他とかぶらない感じになるからでしょうか。

──栗田さんが考えるクリエーティブ・ディレクターの役割とは?

クリエーティブ・ディレクター(CD)に必要とされることは案件によってケースバイケースだと思いますが、いずれにせよ物事が本来あるべき姿になるように、ずっと「あっちだよ」と指をさしつづけることは大事かもしれません。いろんな事情で、途中で指先の方角が変わっていっちゃったり「その手を下げなさい!」みたいになることも多いんですが、なんとか頑張って、号泣しながらも折れずに腕を上げておく姿勢といいますか…。

──コロナ禍前と現在で、クリエイティブへの向き合い方で変化した点はありますか?

いろんな変化があった3年で、本当に大事なものだけが残った気がして。みんなの関心ごとも、より人間の本質に近づいたような気がします。なので、人間らしい感情を描くことをより大切に考えているかもしれません。あと、みんなの心を前向きにするという広告の機能について考えることが増えました。たくさんの人に届く表現だからこそ、できることがあるんじゃないかと。

「カップヌードルPRO」(左)/「クイックワン」(右)
日清食品 「カップヌードルPRO」(左)/全国都道府県及び全指定都市 宝くじ「クイックワン」(右)
 

人間であることは変えられない

──生活者を取り巻くメディア環境の変化のスピードが速い昨今ですが、広告のつくり方やコミュニケーションの設計の仕方に変化はありますか? 

もちろんあります。変化がいつの時代も永遠にありつづけるのが広告界の宿命なんだと思うので、日々、勉強です。昔に会得した技術だけを使い回していけたら楽だったのですが…人生そう簡単ではないです…。

あと、メディア環境は大きく変わりましたが、発信がどんな媒体からであれ、すごく人の心を動かす面白いものをつくれれば、話題がみんなに広がり、結果として「マスの広告」になっていくのかなと思います。そういう意味ではマスに届けるための技術は必要だし、目指すべき星は意外と変わってなかったりもするのかなと。

──クリエイティブが、今後広告という枠を超えてビジネスの領域を拡張していくとしたら、それはどんな領域だと思いますか?

それはさまざまだと思いますので私ごときが一言では言えないですね。すいません…。ただ、ビジネス領域のみならず、クリエイティブはいろんなところに拡張していけると思います。あと「拡張」というと、広告じゃないところへ行こうみたいなイメージになりがちですが、広告の中においても拡張できるところはまだまだ、めちゃくちゃあると思います。

──広告、広告業界、クリエイティブの未来はこれからどうなっていくと思いますか?

それは本当に私にも教えてほしいです…。未来を予測するのは難しいです。ただ、僕らが人間であることはなかなか変えられないと思います。時代やメディアが進化しても、僕らはいまだに小説や漫画を読むし映画やドラマを見ます。それはそこに人間がいるからで、人間は人間に関心がある。脳がそういう構造になっているんだと思います。

なのでつくる側も、人間に関心を持って、その心の動かし方や、届く言葉などを学んでおけば、未来でも大丈夫なんじゃないかな…と思ってはいます。というかそれに結構がっつり人生を捧げてしまった身としては、そうであってくれと切に願っています。もはや祈りに近いです…。頼むぞ未来、そんな心境です。

あと、僕は広告づくりがすごく好きなのですが、この「広告づくりが面白い」という事実がいまいち広告されていない気もするので、それを、若い世代、これからの人に僕らがちゃんと伝えることも大切だと思います。ただそれは言葉で伝えるというより、めちゃめちゃ面白い広告を僕らがつくって証明すればいいって話かもしれませんね。微力ながら頑張ります…。

 

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