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「広告会社におけるDEIの重要性」とは。Advertising Week Asia 2023レポート

2023/07/25

意思決定層におけるジェンダー平等の達成は大きな課題となっており、企業各社が管理職や役員について女性比率の達成目標を掲げています。

内閣府が行っている男女共同参画会議ではこの4月に、プライム市場上場企業の役員に占める女性比率を2030年までに30%以上にするという目標を示しました。それに対し、先日発表された最新のジェンダーギャップ指数が125位と昨年より下がっており、課題は解決されるどころか大きくなっているといえるでしょう。

広告会社においては、DEI、意思決定層におけるジェンダー平等達成のための取り組みはどのような意義があるのか。Advertising Week Asia 2023※で行われたセッションの模様をご紹介します。日本広告業協会(JAAA)のDE&I委員会が実施した「DE&Iに関するアンケート調査」の結果を踏まえ、DEIの推進に取り組む3人が議論しました。

※Advertising Week…マーケティング、広告、テクノロジー、エンターテインメントなど、幅広い業界がつながり、未来のソリューションを共に探求する世界最大級のマーケティング&コミュニケーションイベント。
 
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左から早稲田大学大学院教授 入山 章栄氏、dentsu Japan Chief Sustainability Officer 北風 祐子氏、博報堂DYホールディングス サステナビリティ推進室室長 中島 静佳氏

ダイバーシティはイノベーションの源

中島:まず、最初のテーマです。女性管理職がなぜ30%を超えないのか、どうやったら増やしていけるのかについて、お伺いします。

JAAAが行った調査によると、現在、日本の広告業界の女性管理職比率は平均13.2%。これは世界からみてもとても低い水準です。この割合を2030年までに30%へ引き上げようと、どの企業も対策を講じています。

入山:30%をなぜ超えないのか。最大の課題は「30%を超えることが目的」になってしまっているからだと考えます。「なぜダイバーシティが必要なのか」を腹に落ちしないまま、「義務だからやらなければならない」と進めようとしている。そんな風潮になっていると感じます。実際、ある企業のDEI推進局の方に「そもそもなぜ、ダイバーシティをやりたいのですか」と聞いても「わかりません」と答えられたことがありました。ここに女性管理職が増えない原因があると思います。

ダイバーシティがなぜ必要か。様々な理由があっていいと思いますが、経営学的にはその大きな理由の一つは、はイノベーションを起こすためです。イノベーションが起きない会社に未来はありませんよね。シュンペーターが90年前から提唱しているように、イノベーションは離れた知と知の組み合わせで起きます。知は人間が持っています。その離れた知を持つ人間が同じ組織にいたほうが強いに決まっていますよね。だからこそ、組織にダイバーシティは必要なんです。

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北風:おっしゃる通りだと思います。私もダイバーシティが必要な理由はシンプルで「全員が活躍しないと勝てないから」。皆さんは、いい仕事をするために、なるべく自分と異なる意見を持った人、自分ができないことができる人とチームを組むと思います。そうしないといいアイデアが生まれませんから。その経験を思い出してもらえれば、ダイバーシティが必要な理由は理解しやすいんじゃないでしょうか。

だから私は、「女性活躍」ではなく、「全員活躍」だと言っています。全員が活躍する組織になることが重要で、その中に女性も入っているという考えです。

「Be You」でいられる環境づくりが必要

入山:男性ばかりの企業は、コンプライアンス的にもリスクが高くなりますよね。日本の場合、実は人手不足を感じる中小企業の方が、DEIに関して大企業よりも進んでいる場合があります。

北風:規模が大きくなると、変えることを恐れてしまう。自分が「何か変わらないといけない」と自信をなくしてしまう。そうではなくて、あなたらしくいられないのは企業側に問題があります。あなたがあなたの強さを発揮して、「Be You」でいられることが重要です。そのように環境を整えることも、私の仕事だと思っています。

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入山:おっしゃる通りですね。ダイバーシティは「インクルージョン」があって初めて成立します。多様な人を集めただけでは意味がなくて、離れた知と知を組み合わせるから企業は強くなる。つまり、その方たちが自由に、「Be You」に意見が言える状態になることはものすごく重要だと思います。いわゆる、心理的安全性です。

ダイバーシティが浸透すると何が起きるか。実は、会議がもめるんです。今の日本は全会一致型の文化です。それではイノベーションは起きません。ダイバーシティを進めた先に、多くの人の意見が引き出される環境をつくれるかが重要なんです。そのためには、管理職のファシリテーション能力が必要になります。

ややもすると、90分の会議をずっと部長がしゃべっている。それじゃ意味がないですよね。管理職が中心に位置し周囲の社員に指示する放射状の関係だと、社員の横の関係性は悪くなり、心理的安全性は崩れます。あるバラエティ番組にもあるように、司会者ではなくひな檀の演者が中心となって議論がされると、自然と横の連携がなされ、「Be You」な意見が生まれます。そのような環境をつくるためにも、管理職のダイバーシティ研修がとても重要です。

北風:日本のダイバーシティには「エクイティ」も決定的に欠けていますよね。女性の管理職を増やそうとすると、「そもそも女性が管理職になりたがらない」と言われますが、当然だと思います。ロールモデルも自信もない状況でエンパワーもされなければなりたいと思う人はいません。

入山:エクイティが欠ける要因の一つは、男性にマイノリティ経験が少ない傾向があるからだと思います。僕が個人的に提案しているのは、子どもがいる男性なら、学校の保護者会に行くことです。僕が実際に参加した時は保護者会の参加者のほぼ全員が女性という状況下だったのですが、その状況で発言するのが、どれほど勇気のいることか!まさに、心理的安全性の重要性を実感しました。

もう一つの要因は相互理解の場がないことだと思います。例えば、ユニ・チャームでは、男女ともに参加する生理研修を行っています。心理的安全性が高い場で生理について学び、議論することで女性の悩みだけでなく男性の悩みも自然と議論され、相互理解が進んでいるそうです。このような相互理解の場の設置もエクイティの一つだと思います。

中島:女性活躍推進について、男性は責められているように感じ、委縮しているかもしれません。DE&I推進は本来ポジティブなものであるべき、だからこそ、良い取り組みを積極的にフィードバックすることも必要だと思います。

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意識よりも行動を変える仕組みをつくる

中島:すべての人が活躍できる多様な社会に向けて、できることと変わるべきことはなんでしょうか。

北風:人の意識を変えるのはすごく大変ですし、おこがましいですよね。だから1on1のような、「行動を変える仕組み」をつくることが大事だと思います。そういう仕組みをつくるのは広告会社が得意とするところではないでしょうか。

入山:大賛成です。人は変えられません。でも、本人が変わるきっかけをつくることはできます。広告会社は、企業と社会をつなぐ真ん中に位置しています。真ん中が変われば、社会全体も変わっていきます。そんな役割が広告会社にはあると思います。
ダイバーシティを含め、社会全体がエンゲージメントを持てるような、そんなきっかけを提供できる組織を目指してほしいですね。

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