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コロナ禍を越えてOOHは今~DX基点の考察No.1

グローバルトレンドからみるOOH

2023/08/01

コロナ禍によって、人々が外出を控え、交通量が減少したことで、OOH(Out Of Home:屋外広告・交通広告)業界は大きな打撃を受けました。

しかし、コロナ禍が落ち着き、OOH市場は回復傾向にあります。2022年、グローバルのOOH市況は完全復活を見せ、特にDOOH(Digital Out Of Home:デジタルサイネージを活用した広告)は右肩上がりで伸長しています。日本でも行動制限がなくなった2023年、復活が見込まれます。

本連載では、主に企業のマーケティング・広告担当者やOOH業務に従事されている方に、DXを中心にOOHの最新動向をお伝えします。

2022年の世界のOOHの売り上げは、過去最高を記録

WOO(World Out Of Home Organization)は、世界各国のOOH業界団体や媒体社が加盟する国際団体です。年に1回の国際会議や、地域ごとの会議を実施し、OOH業界の課題改善に取り組み、さらなる発展を目指しています。

デジタルサイネージ
各国のOOH業界団体代表がパネルディスカッションをしている様子

2022年の国際会議で、WOOのプレジデントのTOM GODDARD氏は、「OOHメディアの2022年の売り上げは、コロナ禍前の2019年の売り上げを超えて、過去最高を記録。それ以降も、CAGR(年平均成長率)は4%で成長見込み」と発表しました。

アナログ看板など静的な媒体の収入を維持したまま、DOOHによる収益増で実現すると予想しています。

一方で、OOHの売り上げは増加しているものの、メディア全体の広告予算費におけるOOHの比率がなかなか5%を超えないことが課題となっており、「5%シンドローム」と呼んでいました。「10%を目指す」というのが世界のOOH市場の共通した目標であり、10%を超えている国は世界から学びの対象として見られています。

OOH
世界のOOH収益と全メディアにおけるOOHのシェア

全メディア広告予算費のOOH比率を10%にするための3要素

メディア全体の広告予算費におけるOOHの比率を10%まで上げるにはどうしたらよいのか。WOOの会議ではさまざまな内容が語られましたが、主に下記3つが重要となりそうです。

一つ目は、街や自治体と連携したDOOHへの投資です。アジア各国は、言語・文化・国土のサイズ・経済の成熟度が異なるため、OOHをセールスする上でそれぞれ課題を抱えていますが、共通していたのは、DOOHを成長ドライバと捉えること、また筐体(きょうたい)としてのDOOHを普及させることでした。ちなみに、日本以上に各国のDOOHは発展しています。

二つ目は、OOHをテレビやデジタルと一緒に統合プランニングできるようにすることです。そのためには、メディア形態によって異なるOOHの広告接触可能人数の計測(オーディエンスメジャメント)を統一する必要があります。オーディエンスメジャメントとは、OOHのスクリーン視認エリア内に滞在かつ視認していると推定される個人の人数を測定することです。

WOOは、2022年の国際会議でDOOH、最新オーディエンスデータの活用、クロスメディア計測の領域についての情報を更新したオーディエンスメジャメントガイドラインを発行しました。日本では、2022年10月に一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアムから翻訳版が出されています。

DOOH媒体が増えているものの、アナログ看板と同時に発注されることも多く、異なるメディア形態の広告接触を計測するには、可能な限りOOHの接触計測の規格を統一した方が購入しやすくなります。

そこでメジャメントガイドラインでは、各国の取り組みを事例として紹介し、自国の統一指標をつくるための示唆が載っています。統一指標ができれば、近年注目が集まっているOOHのプランニングやセールス、効果検証といった業務プロセスの自動化も進むでしょう。メジャメントガイドラインについては、本連載でも紹介予定です。

三つ目は、OOH業界の統合です。業界内で競争するのではなく共創していくことが発展につながると述べられていました。そのため各国のNational Association (国を代表するOOH協会)の役割は大きくなり、ステークホルダーへのロビーイングのほか、オーディエンスメジャメントの設計や提供など実務的な機能が求められます。5カ国のOOH協会が参加したパネルディスカッションでも、それぞれの国で起きているOOHの課題に精力的に取り組んでいることが紹介されました。WOOは、OOHに携わるロケーションオーナーや広告会社、テックパートナーなどの共創を推奨し、各国のベストプラクティスを共有する場にもなっています。

海外では、オーディエンスメジャメントや配信システムの統合が進む

OOH業界のプレーヤーが少ない国は、寡占的で協会が機能しやすく、オーディエンスメジャメントや配信システムなどを整えやすい傾向にあります。こうした国は、全メディア広告予算費のOOH比率が7〜8%に及んでいます。なかでも特徴的な国の事例をいくつか紹介します。

ドイツのStröer社は、OOHメディアだけでなく、デジタルメディア、eコマースなども組み合わせたサービスを展開するユニークな広告会社です。屋内外の動画メディアで国内リーチ70%をカバーします。

ドイツの主要駅や道路、ショッピングセンター、地下鉄・郊外鉄道のプラットホームなどに7000台以上のDOOH媒体を設置し、ドイツの公共スペースで最もデジタルリーチが取れます。技術革新にも取り組んでおり、プログラマティックOOH(※)比率は18%です。

オーストラリアでは、oOh! Media社という屋外広告のメディア会社が、都市部および地域の77%の人々にリーチするメディアを所有し、在庫シェア40%です。DOOH比率は60%と非常に高い数字です。

アジアに目を向けると、シンガポールはOOHを展開するプレーヤーが整理されており、DOOH比率が50%です。Stellar Ace社は、シンガポールの鉄道媒体社であり、オンオフ統合提案もする広告会社です。カスタマージャーニーを捉えたメディアプランニングを行い、プログラマティックOOHでターゲットに最適化した広告配信ができるなど高度なマーケティング機能を備えています。

日本は、世界3位のOOHマーケット規模です。屋外広告の媒体社数は1000以上、鉄道広告においては4つの媒体社で78%をカバーしています。前述した国々では屋外と鉄道の媒体を同じ会社が所有していましたが、日本はそれぞれ異なること、そして数が多いことが特徴です。DOOH比率は14.5%、プログラマティックOOHの比率は6%です。現在、OOHの業界協調を進めていて、今後、比率が高まると考えられます。

※プログラマティックOOH :DOOH(Digital Out Of Home:デジタルサイネージを活用した広告)をネットワーク化し、取引や配信を柔軟に行い、広告の枠・指標・配信が一括管理できる。

サステナビリティも、OOHの発展の重要要素

2023年のWOOセッションでは、各種サステナビリティの取り組みにも触れられていました。広告主が生産活動の中でCO2排出量の削減に取り組む中、マーケティング活動においても気候変動に配慮した取り組みが求められるようになります。DOOHは、LEDなど技術の進歩もありCO2排出量が少ないメディアでもありますが、そうしたメッセージを今後伝えていく必要があると述べられていました。

デジタルサイネージ
OOHがサステナブルなメディアであると紹介するTalon社のBenadiba氏

OOHのマーケットは、DOOHの収益増加によって右肩上がりで成長することが見込まれています。その実現のためには、DOOHを増やすこと、購入しやすくするために統合メディアプランニングができたり、効果測定ができるようにオーディエンスメジャメントを整えたりすること、そしてメディアオーナー、広告会社、テックパートナーなどが協調することが必要になります。ドイツやオーストラリアの事例はそのベンチマークになります。

次回からは、OOH媒体を使って話題化したクリエイティブキャンペーンを検証する方法としてのソーシャルリスニング、プログラマティックOOHのプランニング事例、メジャメントガイドライン、その他OOH媒体の魅力などを調査結果とともに紹介する予定です。

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