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DENTSU DESIRE DESIGNが考える、「欲望理論」からのマーケティング再構築No.12

新たな「体験消費」に心を満たされた人が過去最多。その理由は?

2023/10/26

「モノより思い出。」この言葉が登場したのは、1999年。形には残らない「体験」の価値にスポットライトが当てられ、認識されるようになりました。それから20年余り、今「体験」の価値がコロナ禍を経て変容し、新たな形での体験消費が増えているのをご存知でしょうか?

DENTSU DESIRE DESIGN (電通デザイアデザイン:以下DDD)」は、企業から見えにくくなってきた現代の消費者像を、今一度「欲望(Desire)」を起点とした消費意識からひも解こうとする消費者研究プロジェクトチームです。本連載では、DDDメンバーが、ニーズの奥にある「欲望」を起点とした消費者インサイトへのアプローチ方法と今後の展開について紹介していきます。

今回は、DDDで消費の欲求、その欲求にまつわる消費行動を研究し、地上波ドラマと有料動画配信サービスのドラマを週10本ほど視聴するのが趣味の山田茜が、今注目される「体験消費」トレンドについて分析、ご紹介します。

<目次>

「体験」で心が満たされた人が最高値をマーク

体験への渇望感が、消費の動機に

「体験消費」トレンドをマーケティングで活用する3つのヒント


 

「体験」で心が満たされた人が最高値をマーク

DDDでは、テンションが上がったり、感動したりした買物や体験を「心が動く消費」と定義し、2023年5月10日~15日の期間で全国20~74歳の男女計3000人を対象に、第5回「心が動く消費調査」実施しました。(詳細はこちら

今回の調査では、レジャーやコンテンツなどの体験消費が人々の消費全体をけん引していることがわかりました。

本調査で「心が動いた消費があったか」を聞いたところ、消費のジャンル別で外食やレジャーといった「有料体験・サービス」、映画や動画配信といった「有料コンテンツ」に「心が動いた消費」があったと回答した人が、調査開始以来最高値をマークしたのです。

DDD#12_図版01

これは外食やレジャーといった「体験」、映画や動画配信を見るという「コンテンツ体験」によって心が動いた人が増えたことを意味します。

その理由としては、もちろんレジャー施設やコンテンツのクオリティが上がっていることがあると思いますが、レジャー施設やコンテンツの楽しみ方が変容したことも考えられます。

例えば動画配信については、見て楽しむだけで終わらないのが現代です。動画を見て感じたことや考察したことをSNSに投稿したり、投稿されたコメントや考察をチェックしたりして、動画自体の鑑賞後に「ひとり二次会」といった形で再度かみ締めるような楽しみ方をする人が増えています。

これは、各コンテンツのタイトルのハッシュタグをつけた投稿の件数の多さを見ても、数年前と比べて顕著な現象です。

ドラマを例に挙げると、2019年に日本テレビ系で放映された連続ドラマ「あなたの番です」に始まり、「真犯人フラグ」、そして2023年79月にTBS系「日曜劇場」枠で放送されたテレビドラマ「VIVANT」ほか“考察ドラマ”の流行が、有料コンテンツの「見逃し配信」人気を後押ししていると考えられます。

同作の最終話放送日9月17日にハッシュタグ「#VIVANT」をつけて投稿されたポストは216,515件(「Yahoo!リアルタイム検索」による件数)。初回放送からX(旧Twitter)の世界トレンド1位に輝き、最終話でも放送開始15分後には「#VIVANT最終回」が同じく1位に上りつめました。

激動の最終回終了後、続編を望むポストがあふれ「これ続編」というワードまでがトレンド入り。地上波でリアルタイム視聴する人も多ければ、同様に見逃し配信で楽しむ人も多く、再度シリーズ初回から見返す強者もいました。

地上波コンテンツを全話視聴できることで利用者を増やしている動画配信サービスもあれば、2022年に非常に話題になったNetflixオリジナルドラマ「First Love 初恋」のように有料動画配信サービスのオリジナルコンテンツの人気もめざましいものです。SNSからは「コンテンツ体験」を楽しんでいた消費者の様子をうかがい知ることができました。

体験への渇望感が、消費の動機に

「この1カ月に購入した心が動いた商品やサービスは、どのようなものでしたか」とフリーアンサーで聞いたところ、2位の「映画」(前回調査3位)が12.3%で4.3pt増加し、4位の「レジャー/テーマパーク」(前回調査6位)が7.6%で2.6pt増加と、いずれも家の外におけるエンターテインメントが伸長しました。

DDD#12_図版02

4位の「レジャー/テーマパーク」に関しては、コロナ禍からの回復で行楽需要が高まる中、レジャー施設で値上げの動きが本格化しても、満足度の高い体験ができていたことが浮き彫りになりました。

帝国データバンクによると※1、国内190の主要レジャー施設(遊園地・テーマパーク・水族館・動物園)のうち、全体の43%にあたる82施設が2022年以降入場料などの「チケット代」を値上げしました。

このうち全体の32%にあたる61施設は今年に入ってから値上げを行っています。チケットの値上げは見送ったものの、駐車場代や場内でのフード・ドリンクサービスの値上げ、2024年以降に値上げを計画する施設もある中で、心が動いたと回答している人が多いのは非常に興味深い現象です。

※1 出典:帝国データバンク「2023年『主要レジャー施設(テーマパーク)』価格調査

 

自由回答では、“言い訳”や“ためらい”の要素がなく消費を楽しんだことを想起させる回答が多く見られました。コロナ禍で失った「体験機会」を取り戻したい、という意欲を感じさせる回答も目立ちました。例えば下記のような回答が挙がっています。

「今まではコロナや金銭的な理由で海外旅行を控えていたが、これからはいきたい国にたくさん行ってみたいです。その場所にいくことによって新たな発見や新しい自分を発見するきっかけになるといいと思います」(20代・男性)

また、体験ではなく物品の消費に目を向けてみても、3位の「衣料品」も“外食するため”や、“レジャーを楽しむため”の衣料品といった「体験を楽しむための消費」、5位の「家電」の購入も体験を楽しむ余暇を創出するため、時短を求めての消費なのではないかと推察されるフリーアンサーが散見されました。

「新たに買いたいものは、洋服。今年中にお金を払ってやりたいことは、旅行と撮影。自分にしかない美しさや個性を引き出して記念に残したいという気持ちから、自分史上最高の外見に整えて、関西在住のフォトグラファーの友人に写真を撮ってもらいたいと思っている。そのための衣装を購入し、旅行の手配をしたい」(女性・40代)

「来月は転職も決まっており、現在、心のお洗濯中です。心機一転、新しい職場での自分に期待しかなく、転職活動を頑張った自分に何かご褒美(カバンや時計など)を購入したいと思っています。達成感と今後の自分のパフォーマンスに期待を込めて時計が有力です。毎日それを身に着けて、志を高く頑張っていきたいです」(女性・40代)

体験消費が伸びている理由をこうしたフリーアンサーに求めてみると、購入したモノそのものに対する高揚感のみならず、消費を通じた体験への渇望が透けて見える回答が目立ちました。

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「体験消費」トレンドをマーケティングで活用する3つのヒント

本調査の結果をふまえ、この「体験消費」が伸長しているトレンドをどのようにマーケティングに生かせるのかについて、3つのヒントをお伝えします。

①消費の先の「体験妄想」をふくらませられる余白をつくること

これまでのように、消費で物を手に入れられたことの幸せではなく、なりたい自分になるために、自身をバージョンアップするための消費が活発化。

ワンランク上のブランド品を購入する際にも、それを持つことで見合う自分になれるよう仕事を頑張ろうという意気込みで消費にふみきっているという回答が見られました。自分の身につける憧れのアイテムを購入するのは、未来の自分への投資でもあると考える人が増えているようです。

体験は、目に見える形で残せないものでしたが、今では、SNSに投稿するなどの形で、いつでも振り返ることができますし、世の中に発信することもできます。「体験」が自らのコンテンツになり得るという考えがより根付いてきたのは、SNSが浸透し、インフルエンサーと呼ばれる層でなくても投稿が楽しまれるようになってきた、今ならではのフェーズかもしれません。

また、「伏線」「考察」は今の人気コンテンツに共通するキーワードです。視聴者に対して「考察する楽しみ」あれこれ考えて次回の配信を楽しみにするという体験を提供することができるからです。今後はこうした消費の先にひもづく“体験”を想起させるモノやサービスに、さらに注目が集まるのではないでしょうか。

②コロナ明けで人との直の温かさに敏感になっている消費者を刺激すること

コロナ禍以降、直接の接客を受けた際にこれまで以上の感動を覚えるケースが増えているように感じます。例えば、70代女性の興味深い消費エピソードを以下にご紹介します。

その方は、コロナ禍の外出自粛もポジティブに捉え、納得して外出を控えていました。コロナ明け、久しぶりに靴のかかと部分の修理に行ったところ、つま先の部分の修理も提案され、お願いしてみしたら新品のようにきれいになったそうです。

すがすがしさを覚えた彼女は、自分の決めつけにとらわれず、あれこれ試してみたい気持ちが呼び覚まされたといいます。その後は、再び外に出かけることへのためらいがなくなり、気持ちよく友達との外食を楽しみたくなったと語っていました。

コロナ禍で疎遠になりがちだった人と人との直接のやりとり・温かさやおもてなしを体験することで、さらなる消費意欲をくすぐられた事例と考えられます。今の消費者には、リアルだからこそのふれあい・おもてなしが響くのではないのでしょうか。

③人との距離、ペースなど個々人の好みに合わせてパーソナライズすること

体験消費が伸長した理由の一つには、人それぞれ好きな具合に自由に楽しめるサービスが増えたこともあったと考えられます。

こうしたサービス増加の一因としては、コロナ禍の過ごし方や、日常に戻っていくスピード感が各人で異なったため、消費者ひとりひとりに「いかようにも楽しんでもらえる」選択する幅の広いサービスが求められたことが挙げられるでしょう。

会員であればいつでも、世界中どの店でも利用可能な24時間ジム「エニタイムフィットネス」は家から運動着で来て、1人で好きにトレーニングをし、終わったら着替えずに帰る利用者が多いといいます。ここからもそれぞれの人に「都合のいい」利用を可能にするサービスが支持される傾向が見受けられます。

また、コロナ禍での3密回避という視点から「安全でパーソナルな、自分だけの空間」へのニーズが生まれ、パーソナルトレーニング、パーソナルコーチング、さまざまなパーソナルレッスンが生まれています。

パーソナル○○というサービス業が注目されている背景には、サービスに個別性を求める顧客の欲求の高まりもあると考えられます。つまり、「自分のために」「ペースや度合いなど柔軟なカスタマイズが可能」なサービスが増え、自分の好みで楽しめる自由さが体験消費を後押ししているのではないかということです。

サービス以外でも、自分がこんな風になれるのではないかと妄想をふくらませてくれるものを人々は手に取るようになっています。これまでのようなトレンド訴求よりも、いかに消費者それぞれに合ったベネフィットがあるか、この先に何が可能になるか、買った先の魅力をアピールする必要があります。

今後もDDDでは、心が動く消費調査を行い、消費者のトレンドについてウォッチしていきます!

興味を持たれた方は、ぜひお問い合わせください。

【お問い合わせ先】
DENTSU DESIRE DESIGN(電通デザイアデザイン)
E-Mail:ddd-project@dentsu.co.jp
 
【調査概要】
タイトル:第5回 電通「心が動く消費調査」
調査目的:変化し続ける社会環境により、可視化されにくくなりつつある消費者意識を消費者の欲望視点から分析し、今後の日本の消費社会を読み解く 
・対象エリア:日本全国
・対象者条件:20~74歳男女
・サンプル数:計3000サンプル
       (20~70代の6区分、男女2区分の人口構成比に応じて割り付け)
・調 査 手 法:インターネット調査
・調 査 時 期:2023年5月10日(水)~5月15日(月) 
・調 査 主 体:電通 DENTSU DESIRE DESIGN
・調 査 機 関:電通マクロミルインサイト
 
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