未来は「待つ」のではなく「創る」!未来思考で変える日本のキャリア教育No.5
私たちのまちの未来は自分たちが楽しくする。わくわくで溢れる、島根の中学生たちのビジョン。
2023/12/22
未来を可視化して企業の事業創造・変革の実現を支援する電通グループ横断組織「未来事業創研」。
未来は課題を解決することから考えるのではなく、こうあるべきというビジョンを前提に考え、そのために何をすべきかを具体化する。このようなビジョンドリブン思考をベースに、未来事業創研では、2023年9月に島根の中学生116人に、島根のわくわくする未来を考えてもらう「山陰みらい教室2023」を実施しました。
「山陰みらい教室2023」は、島根・鳥取をカバーする山陰中央新報と島根大学教育学部附属義務教育学校(以下島大附属)と共同で島大附属8年生(中学2年生)が履修している「未来創造科」という授業の中で取り組んだプロジェクトです。
テーマは、それを知った人が島根に来たくなる、住みたくなる「未来の島根がNo.1」となるアイデアです。中でもユニークなものを松江市の上定昭仁市長やトヨタカローラ島根の野々村健志代表、モンスターラボオムニバスの平石真寛代表など、生徒だけでなく多くの大人たちがいる場で発表しました。
【未来事業創研とは】
未来を可視化して企業の事業創造・変革の実現を支援する電通グループ横断組織。次世代に、再び「未来が楽しみになる」世の中をつくりたいという想いで、日々クライアント企業と“あるべき未来” を描き、その未来を創るための“一歩”を踏み出すお手伝いをしています。
https://dentsumirai.com/
<目次>
▼中学生が思い描く未来は、課題あふれる「ネガティブな未来」
▼想像の斜め上をいく、わくわくする未来の島根
▼“わくわくする未来”への導き方
▼「自分でもできるかも?」が未来のビジョンをつくる
▼次世代に良い未来をつくってもらうために
中学生が思い描く未来は、課題あふれる「ネガティブな未来」
人口減少はすでに日本全体の課題ですが、島根などの地方ではより深刻な人口減少と高齢化が進んでいます。環境問題やエネルギー問題なども含め、中学生たちの未来のイメージは常に課題と不安が先行しています。そして、課題の解決や不安の解消というマイナスポイントを改善していくことが中心になると、なかなかワクワクする気持ちが生まれません。
ビジョンドリブン思考は、先にプラスの部分、つまり楽しい、幸せと感じるところをイメージして、課題とひもづけていくアプローチです。そこから、つくりたい未来を現実にするためにはどんな課題解決が必要なのかを考えていきます。ただし、今回の取り組みでは、常に課題解決に目が向きすぎて「課題が解決された未来」に留まることを防ぐために、課題のひもづけについては可能な範囲にしておき、とにかく生徒たちの想いやアイデアを肯定し「自分たちが楽しい」「こうなるとうれしい」と感じる未来を考えてもらいました。
想像の斜め上をいく、わくわくする未来の島根
本当は、当日参加者たちから生まれた計116個のアイデア全てをご紹介したいところですが、本記事では、発表会でプレゼンをしてもらった12個を紹介します。
まず、椿晴香(つばきはるか)さんの「空がきれいに見えるまち」です。審査員特別賞に選ばれたのですが、島根らしさとライフスタイル、環境貢献、それぞれのバランスがとれている素晴らしいアイデアでした。
単純に「空気が澄んでいるから、夜、星空がきれい」ということだけではなく、より良い空をつくるために、夜間の電力利用量を減らすと同時に早寝早起きという健康的なくらしを提案し、今ある良さも活かしながら、電柱の地中化といったインフラの再構築についても言及しました。まさにビジョンドリブンなプレゼンテーションだったと思います。
川島輝月(かわしまきづき)さんのアイデアは「日本で一番 自然と触れ合えるツリーハウス」です。自然があふれていることが島根の良いところなので、その自然を思い切り実感できる場所として日本一のツリーハウスをつくってみたらどうか、という提案でした。ここにも、空き家の廃材でツリーハウスをつくるなど、人口減少で空き家が増えていく課題の解決に寄与する活用の仕方が包含されていました。
「日本で一番バスが特殊な県」は堀結音(ほりゆね)さんのアイデアです。ポイントはバスが多いとか、速いとかではなく、「特殊」というテーマにしたことです。将来的には世界中の変わったバス、ユニークなバスが集まるまちになりそうですよね。またバスが好きな人の聖地になる感じもイメージできました。
大朏礼菜(おおつきれいな)さんは「日本で一番 推し活が楽しいまち」を考えました。推し活を肯定し、生活動線上にグッズ売り場やイベント会場をつくっていくなど、まち全体で推し活環境をポジティブに提供していくことで、アーティストなどがまずは松江からツアーなどの活動を開始するようになる未来が見えてきました。
花田悠希(はなだはるき)さんの「日本一 電波が届かないまち」は、これまではデメリットとして認識されている状況でしたが、それが逆にメリットになるというアイデアです。スマホやインターネットに依存している人たちから通信を遮断することで、人本来の感覚を回復させ、自然を満喫することや、新しい気付きが得られるまちになるという考えでした。個人的には、いますぐ行きたい場所だと思えた提案です。
これらの5案が当日受賞したものですが、他の7案も素晴らしいので、ご紹介します。
島根を「日本一安全な県」にしていこうと話した田邊晋康(たなべしんや)さんは、軍事・防衛に本当に興味があって、深く調べていることが伝わってきました。私たちが知らないキーワードもたくさん出てきて、何もしなければ安全は得らない、安全は人々が創るものである、ということを実感したプレゼンでした。
10月を指す「神無月」という言葉がありますが、島根だけは「神在月」になります。10月には全国の八百万(やおよろず)の神々が出雲大社に集まり、神様会議が行われるという言い伝えです。景山愛(かげやまあい)さんは、そんな島根県ならではの「日本で一番神様と仲がいいまち」についてプレゼンしました。神様と仲良しというテーマがいいですよね。幸せを呼んでくれそうですし、まちにいい人があふれていそうな感じもします。
神様つながりで「八百万のカップルが誕生するまち」を提案したのは石井絆(いしいきずな)さんです。島根に結婚式場を100カ所つくることやカップルの数だけ花火を上げる、婚姻届を出すプロセスを楽しむサービスなど、結婚やカップルのマッチングが楽しくなるアイデアがたくさんありました。
当日最も笑いが起こったのが北脇歩香(きたわきあゆか)さんの「イノシシと一緒にリッチで楽しい高級旅行を楽しめるまち」です。世界初のイノシシのいる宿をつくり、イノシシと触れ合いながら過ごせるというのですが、その宿にはイノシシの皮でつくった家具や毛皮コートが売られているとのことです。また結婚式には「リングウリ坊」が指輪を持ってきてくれるということでした。イノシシにフォーカスしたアイデアは、予想外で大変面白かったです。
永田俊明(ながたとしあき)さんは「日本一エコで世界の文化をenjoyできる観光地」にしたいと強い想いを話しました。島根には遊び場が少なく、遊びに行きたくなるところをつくることが自身にとっても重要なミッションだということでした。ただ、アイデアは非常に大きなスケール。中海に海上都市を創るというもので、非常にワクワクする内容でした。
藤井暖(ふじいのん)さんは「日本で一番相棒(ペット)が見つかるまち」というアイデアを提案しました。こちらもうれしい未来と、保護犬・保護猫の課題や飼い主の仕事中は孤立するペットのくらしの改善に関する内容も盛り込まれていて、優しさいっぱいの内容です。
最後は、油谷心美(あぶらたにここみ)さんの「日本で一番子育てが楽しい県」です。助け合いを促進するだけでなく、つながりをつくる場所の提案や、親子で遊びに行けるところのアイデアもあり、これらが実現したら、確かに楽しく子育てがきそう、と感じるものでした。
“わくわくする未来”への導き方
このように自由でユニークなアイデアが出たのですが、そのための工夫として重視している要素が「大人からの肯定」です。以前、つくば市立みどりの学園義務教育学校で実施した「14歳の未来職学校」でも基本ルールにしたのですが、生徒の考えはプロジェクトに関わる大人が全面的に肯定します。
このコミュニケーションで、生徒たちが内に秘めてなかなか伝えられないこと、人に言うと「そんなこと無理だよ」「それより課題解決が大事だ」と言われてしまいそうで、やめてしまうことを引き出せるだけでなく、さらに考えようというモチベーションの向上にもつながります。
子どもと大人の間である中学2年生は、多くの大人が思いついてもすぐ打ち消してしまうような自由な発想を持っています。その自由な発想は、大人が肯定することで、一気に広がっていきます。これは「14歳の未来職学校」でも強く実感したことです。
島根に住む、本プロジェクトの対象となった生徒たちも島根の課題を知り、その解決が必要だという思考になっています。だからこそ、課題解決にフォーカスするのではなく、どういう未来になるといいのかを自由に発想し、その未来の実現に向けた取り組みの中で課題を解決していく、という思考に切り替えることができました。
大人は確かにいろんな経験をしており、リスクや実現の難しさに気付きます。しかし、ほとんどのアイデアは物理的に実現できないことではなく、困難だが絶対実現できないとは言えないものばかりです。中学生たちの想いや創出される未来を踏まえると、検討する価値が十分あるものになっています。
「自分でもできるかも?」が未来のビジョンをつくる
この「山陰みらい教室2023」の実施前に生徒の皆さんに行ったアンケートでは将来島根の活性化に関わりたいと答えた方は、全体の3分の1未満でした。都会に出ていったり、自分のやりたいことをしたいという方が多数派で、多くの地方の実態だと思います。
もちろんこれは悪いことではありません。地元の活性化に関わることも大事ですが、一人一人が目標ややりたいことを持ち、その未来に向けて前向きに取り組んでいくことは素晴らしいことです。
ただ、プロジェクト参加後のアンケートでは、「自分も島根の未来を良くすることができるかもしれない」という気持ちが強まった生徒が82.3%もいました。
将来島根に住みたい、島根で就職したいという生徒は事前事後でそれほど大きな変化はありませんでしたが、この気持ちが強まったことはとてもうれしく思いました。地元の島根を良くするためには、島根に就職したり、居住したりしなくとも、できることがいろいろありそうだと気付いてくれた結果ではないかと思いました。
また具体的なアイデアを考え、それを肯定されたことは彼らの自信にもなったと思います。どんなことで貢献できるか、どんなことをすると島根が良くなるのかがわからない状況から、100を超えるアイデアを目の前にしたことで、どんなことができそうかが具体的にイメージでき、「これは私も共感する」「できるかもしれない」「やりたい」、と感じたことも大きかったと思います。
次世代に良い未来をつくってもらうために
今後、私たち大人がすべきことは、未来の中心となる若者たち、学生の想いとアイデアを育てることだと思います。そのためには、まずは想いやアイデアを肯定し、その実現可否をジャッジするよりも、どうしたらもっと良くなるかということを共に考えることが大事だと思います。
若者や生徒の壮大なアイデアを聞くと、彼ら自身のために、つい「できそうなこと」に置き換えることを促しがちだと思いますが、「さらに良くする」ような視点を持ち込めると、その先に「できないと思っていたけどできそうな方法が見えてきた」状況や「もともとのアイデアよりさらにいいアイデアが出た」ことが起こりえます。
そしてこの思考体験が、一人ひとりがビジョンを大切にし、あるべき未来を創出するために何をすべきかを考えるきっかけになると信じています。ぜひ、多くの地域の若者たちに体験してもらいたいと思っていますし、展開・共有を推進していますので、興味を持たれた方はご相談ください。一緒に良い未来をつくる若者たちを増やしていきませんか。
問い合わせ先:未来事業創研(担当:吉田・山田)
future@dentsu.co.jp
【グラフィックレコーディング&レポートの制作協力】
電通グラレコ研究所(作画:松田海 / 制作監修:甲斐千晴)
電通グラレコ研究所は、グラフィックレコーディングを中心としたビジュアライゼーションサービスの提供と研究を目的とする電通グループ横断プロジェクトチームです。
https://www.dentsu.co.jp/labo/grareco/index.html