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Web3.0でリスナーに新たな体験を 「J-WAVE LISTEN+」

2024/03/19

Podcastやradikoの登場により、若い世代にファンを増やしているラジオ。新しい技術を積極的に採り入れ、新たな体験を創出しています。

2023年5月、J-WAVE(81.3FM)は、ラジオの聴取体験にWeb3.0技術を組み込んだ新サービス「J-WAVE LISTEN+(リッスン・プラス)」の提供を開始しました。NFTを活用して、リスナーに新たな体験をもたらす同サービスは、どのようにして生まれたのか。どんな魅力を持っているのか。立ち上げに関わった、「AR三兄弟」として活躍する川田十夢氏、シビラCEOの藤井隆嗣氏、J-WAVEの小向国靖氏、(株)電通グループの鈴木淳一氏に聞きました。

※本記事は、Transformation SHOWCASE掲載の記事をもとに再編集しています。


「J-WAVE LISTEN+(リッスン・プラス)」

◾️「J-WAVE LISTEN+(リッスン・プラス)」とは
Web3.0技術を採り入れることで、リスナーに新しい聴取体験をもたらすJ-WAVEの新サービス。J-WAVEアプリ、radiko(スマートフォンやパソコンからラジオが聴けるサービス)のアプリ、またはJ-WAVEサイトからラジオを聞き、聴取合計時間が毎月50時間以上になると、ロイヤル・リスナーとして評価され、NFTによるデジタルステッカーを獲得することができる。さらに聴取時間の長いリスナーには、番組やイベントと連動したスペシャルな体験を届けたりするなど、ラジオをより楽しんでもらうためのさまざまな仕掛けを企画・実施している。

Web3.0…ブロックチェーン技術を基盤とした分散型インターネット。特定の企業や管理者に依存せず個人に関連するデータを自分自身で管理することができる。
 
NFT…Non-Fungible Token(非代替性トークン)。ブロックチェーンを基盤にして作成された代替不可能なデジタルデータのことで、所有者の明確化や唯一性の証明を可能とする。

 

J-WAVE LISTEN+のアプリ画面
J-WAVE LISTEN+のアプリ画面。合計聴取時間や50時間聴取した証明となるデジタルステッカー、聴取傾向の分析結果を確認できる

NFTを活用した新しいラジオ体験

鈴木:私は(株)電通グループでWeb3.0をはじめ、さまざまな先端テクノロジーの利活用に関わってきた者としてこのプロジェクトに参画しています。同時に、J-WAVEのヘビーリスナーでもあります。ファンの一人として実際に「リッスン・プラス」を利用して感じるのは、NFTを活用した世界的にも類を見ない先進的なプロジェクトでありながら、リスナーにとってはまったく難しいものではなく、気軽に楽しく使っていただけるところが非常に新しいなと。

最初に、開発に関わってきた皆さんから立ち上げの経緯などをお話しいただければと思います。まずは、開発ユニット「AR三兄弟」としてご活躍されている川田さんからお願いします。

川田:私は、J-WAVEの「INNOVATION WORLD」という番組のナビゲーターを務めており、以前からJ-WAVEさんとは番組やイベントにテクノロジーを採り入れた実験的な企画をいろいろと行ってきました。今回のサービスは、2022年に開催されたイベント「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2022(イノフェス)」で、シビラさんと共同で「AR Identity」という実験を行ったのがそもそものスタートです。

そこで挑んだのは、NFTを所有している人がイベント会場という実空間で行動を拡張する実験です。NFTを用いて近くにある電球を触れることなくつけたり、その場に流れている音楽をチューニングしたりできるというもので、やってみてかなり可能性を秘めた施策だと実感しました。ですが、こうした仕組みを活用していただくには、ユーザーにデジタル空間におけるウォレット(NFTなどのデジタル資産を保管する場所)を持ってもらう必要があります。

この手のテクノロジーにはまだなじみのない方が多いので、ウォレットを持ってもらうこと自体が結構ハードルが高い。もっと気軽にウォレットを持ってもらうにはどうすればいいかと考えたときに、NFT配布を会員制サービスのように捉えるといいのでは?という答えにたどり着きました。

そんな中、radikoが大きくアップデートされて、リスナーが何を聴いているのか、聴取データが把握できるようになったこともあり、そこにNFTやウォレットを組み込むという構想が膨らんでいったわけです。

川田 十夢
川田 十夢(かわだ とむ) AR三兄弟、開発者。1976年熊本県生まれ。10年間のメーカー勤務で特許開発に従事したあと、やまだかつてない開発ユニットAR三兄弟の長男として活動。主なテレビ出演に「笑っていいとも!」「情熱大陸」「課外授業 ようこそ先輩」「タモリ倶楽部」など。劇場からプラネタリウム、百貨店から芸能に至るまで。多岐にわたる拡張を手がける。「WIRED」では2011年に再刊行されたvol.1から特集や連載で寄稿を続けており、10年続く「TVBros.」での連載は20年に書籍として発売された。毎週金曜日20時からJ-WAVE「INNOVATION WORLD」が放送中。新会社(tecture)では、建築分野の拡張をもくろんでいる

ファンの支持と最新技術でハードルを乗り越える

鈴木:J-WAVEさん側の視点では、「リッスン・プラス」の立ち上げまでにどのようなプロセスがありましたか?

小向:radikoによって精緻な聴取データが把握できるようになったのは数年前なのですが、これを受けてJ-WAVEでは、CDP(Customer Data Platform)ならぬ「CCP(Customer Communication Platform)」を導入しました。CDPが顧客に関する情報を蓄積するためのデータベースであるのに対して、CCPはリスナーとの「コミュニケーション」のためのデータベースで、ここにradikoの聴取データを格納、分析しています。加えて、「J-me(ジェイミー)」というJ-WAVEリスナーの会員サービスがあり、それに登録している約30万人のデータも組み合わせることで、真のヘビーリスナーが浮かび上がってきました。

そこで、私たちにとって大切なお客さまであるこの方々に感謝を伝えたいという思いから、22年7月、月間100時間以上J-WAVEを聞いてくださったリスナーに、デジタルコンテンツやオリジナルグッズをプレゼントする「J-WAVE Listen Challenge(リッスン・チャレンジ)」という1カ月限定の企画を実施しました。

参加者は聴取証明のために、J-WAVEのアプリとradikoのアプリにおいて、IDFA(広告用識別子)の追跡を許可しないといけないのですが、エントリーしてくれた3000人中半数が100時間を達成しました。「このハードルを乗り越えてきてくれるなら大丈夫」と、「リッスン・プラス」の実装に向けて本格的に動いていくことになりました。NFTを活用するというアイデアは、その中で生まれたものです。

ただ、NFTによる聴取証明を組み込むのであれば、リスナーにウォレットを取得してもらう必要がある。IDFAの設定、ウォレットの取得、「J-me」の会員登録ということになると、どのくらいの人がやってくれるだろう?と懸念していた矢先に、「イノフェス」での取り組みを知り、川田さんに相談して、「リッスン・プラス」の施策が固まっていったわけです。その結果、「半年で5000人の参加」という目標を、1カ月で楽々クリアできました(24年1月時点で1万人を突破)。

小向国靖
小向 国靖(こむかい くにやす) J-WAVE 取締役デジタル戦略局/局長。SI会社、通信社でシステムエンジニアとして従事後、FM局 J-WAVEに入社。編成部で放送とウェブの連携推進。2006年にIT関連会社であるJ-WAVE iを設立し、08年に同社の代表取締役に就任。J-WAVEのみならず一般企業や自治体、公的機関のデジタル施策やコンテンツ開発を手掛ける。J-WAVEでは番組「INNOVATION WORLD」などの立ち上げに携わり、産学官連携のテクノロジーと音楽のフェス「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA」の総合プロデューサーを務める。22年より現職

鈴木:「リッスン・プラス」を立ち上げるにあたっては、シビラさんにもチームに加わっていただきました。その素晴らしい技術は、プロジェクトに欠かせないものでした。

藤井:シビラが提供するウォレットサービス「unWallet(アンウォレット)」は、従来のウォレットとは違い、専門知識や難しい操作を必要とせず、どなたでも簡単に、ウォレットの存在を意識せずにNFTをコレクションすることができます。

鈴木:特に、NFTを取得すると同時にウォレットも発行される一気通貫型のユーザー動線は魅力的です。Web3.0関連の技術は、さまざまなサービスの可能性を広げてくれますが、一方でまだまだ一般のユーザーにとってはハードルが高いものだと思うので、ウォレットなどの存在を意識せず気軽に使えるという点は、「リッスン・プラス」にとって大きな強みになったと思います。

藤井:一般ユーザーがNFTを扱うときのハードルの1つがウォレットの入手。もう1つは、企業がNFTを発行したり、ユーザーがNFTを移動させたりするとき、手数料として必要な暗号資産の入手です。それらの難題を解決できるものとして提供しているのが「unWallet」です。小学生から高齢者まで、NFTをなめらかに届けられる仕組みだと自負しています。

藤井 隆嗣
藤井 隆嗣(ふじい たかし) シビラ CEO。10歳で競泳ジュニアオリンピック 50mバタフライで優勝し日本一を達成。19歳の時、大学在学中にインターネットに魅せられ起業し、日本初の大学食堂の紙ナプキンをメディア化した「ナプメディア」、世界初のデザインマスクブランド「pico」、ウェブに特化したリユース事業「エコマケ」など数々の事業で結果を残し、事業売却を経験。それらの実績が認められ、ダボス会議で有名な世界経済フォーラムからGlobal Shapers 20代日本代表に選出。29歳で5社目となるブロックチェーンの研究開発およびソリューション提供を行うSIVIRA Inc.を創業

自分の行動実績が資産になる

鈴木:実際にサービスの提供を開始して、あらためて「リッスン・プラス」の価値はどのようなところにあると思いますか。

小向:「リッスン・プラス」でNFTを発行するようになって、世界が広がりました。「リッスン・チャレンジ」の時はJ-WAVEのみで通用する「バーチャルバッジ」を発行していたのですが、あくまでJ-WAVEの世界だけで認証されるものなので、そこまでの広がりはありませんでした。NFTであれば、さまざまなプラットフォームで活用できるので、一気にワールドワイドになったように感じます。

藤井:確かにそうですね。「リッスン・プラス」で獲得したJ-WAVEのロイヤルカスタマーであるという証明書が、他のプラットフォームでも実績証明として通用する。たとえプラットフォームが変わっても、持っていることが簡単に証明できるのはNFTの魅力です。

実績がある人に対して、例えば「NFTを持っている人はVIPルームに入室できます」といったサービスを提供することもできます。そうなったときに、その資格を得るためにNFTを「売る」「買う」ということが起きてくるでしょう。ユーザー目線でいうと、自分の行動実績が資産になったということです。

ただ、「リッスン・プラス」の場合、自分たちがウォレットやNFTを持っているという実感がないユーザーも多いかと思います。でも、それでいいんです。むしろ、サービスを提供する側が、ユーザーに技術を意識させることなく、体験を新しい価値あるものに変えられることが大切だと思います。

鈴木:そもそも「リッスン・プラス」は、あえてNFTを前面に出していないんですよね。元々ラジオでは、リスナーが番組宛てにメッセージを送って、それが放送で紹介されると番組オリジナルのステッカーをもらえる、という風習があります。「リッスン・プラス」において獲得できるNFTを「デジタルステッカー」と呼んでいるのも、このラジオカルチャーの文脈における「ステッカー」という表現でリスナーに届けるためです。

川田:いい翻訳ですよね。ラジオといえばステッカーだから、「デジタルステッカー」と呼んでしまおうと。NFTが分かる人向けに、カッコして(NFT)と書いておけば、それで十分。

鈴木:NFTに関心がある人だけではなく、多くのラジオファンに届けるために、表現を変えることは重要でした。もう1つ注目してほしいのは、NFTの取得が無料という点。これも、このサービスが多くのリスナーに受け入れられたポイントだったと思います。

それから、「リッスン・プラス」で発行したNFTはパブリックチェーンといって、誰でも自由に参加できるネットワークの中で動いているので、発行者が異なるNFTを同じウォレット内で見ることができます。ウォレット内を見た他の事業者が、「J-WAVEのヘビーリスナーなら自社のサービスにも共感してくれるのでは」ということで、好みに合ったサービスを提供してくれる、そんな可能性も広がるかもしれません。

昔は車にラジオのステッカーを貼っている人も多かったので、私はパーキングエリアなどで「81.3」(J-WAVEの周波数)と書かれているステッカーを貼っている車を見たら「仲間だ」と感じていましたが、今後はWeb3.0の世界でも同じような感覚を持つことができるようになるのではないでしょうか。

鈴木 淳一
鈴木 淳一(すずき じゅんいち) (株)電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ(DII)/プロデューサー。2017年にCERNなどと国際会議体「Table Unstable」を開始。以後、気候変動や民藝などに関する社会課題に対して、伝統的な知識と先進科学技術の融合により解決を試みるとともに、その派生活動として研究者養成を目的としたアウトリーチ活動「落合陽一サマースクール」を推進。Innovators Under 35 Japan | MIT Technology Review Advisory Board、放送大学客員准教授、ブロックチェーン推進協会(BCCC)理事など兼務

ラジオ特有の文化を自然な形でデジタライズ

鈴木:最後に、「リッスン・プラス」を通じて得られた気付きなどがあれば教えてください。

小向:Web3.0は個々人が主役になる世界。ユーザーも、サービス提供者も、みんなで面白いことやろうよ”ということを実現できているのが、とてもWeb3.0らしいですよね。

川田:そもそもラジオはインタラクティブなもの。リスナーにとっては「何時間聞いちゃったよ」「ラジオでメール読まれた」「番組公式ステッカーもらった」といったことがステータスであり、大きな喜びです。そういうラジオ特有の文化を自然な形でデジタライズできたことにグッときています。

鈴木:J-WAVEさんは他局に先駆けて90年代からファンのコミュニティ化について試行錯誤してきていて、それが今回のサービスにもつながっています。ファンを喜ばせるためのノウハウが蓄積されているからこそ、うまくいったのだと思います。

藤井:一般的に、新しいテクノロジーを導入する場合は、歴史の浅いサービスに組み込むことが多いですよね。歴史やカルチャーがあると、ぶつかるかもしれないから。だけど今回、ラジオという長い歴史と強固なカルチャーを持つものとNFTを掛け合わせても、そういった衝突がなかった。「あれ?Web3.0ってラジオカルチャーと相性いいな」「なんでこんなに面白いことばかり起きるんだろう?」と不思議に思っていたんですけど、ここまでお話ししていて合点がいきました。

川田:確かにそうですね。新しい技術に興味がある人だけで完結させるのではなく、今までデジタルやテクノロジーに関心のなかった人とサービスを通じてつながれたら、大きなインパクトになると思います。生活の中にあるものをどう自然に置き換えていけばいいか、というのは今後新しいテクノロジーを活用したサービスを普及させていく上で大きなポイントになるのではないでしょうか。

ラジオスタジオの様子

 

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