CNUD始動!脱炭素化の「渋谷モデル」をつくる
2024/03/11
渋谷を舞台に産官学が連携して脱炭素化を目指すコンソーシアム「Carbon Neutral Urban Design(CNUD)」が2023年に始動しました。本記事では、CNUDを立ち上げた渋谷未来デザインとSWiTCH、さらにCNUDに参画している電通の各担当者に、CNUD設立の経緯や活動内容、今後の展望などを聞きました。
Carbon Neutral Urban Design(CNUD)
企業や環境系スタートアップ、行政などが連携して脱炭素化を推進するためのコンソーシアム。グローバルな視点で最新の脱炭素技術や制度をとらえ、サステナブルな経済活動と都市環境が調和するための新しい仕組みを社会実装することを目指している。
産官学が連携して日本の脱炭素化のスピードを上げたい
──まずは自己紹介からお願いします。
久保田:渋谷未来デザインでコンサルタントを担当しています。渋谷未来デザインは、渋谷区が出資して2018年に設立された一般社団法人です。産官学民が連携して、渋谷に集う多様な人々のアイデアや才能を、領域を越えて収集し、オープンイノベーションによってさまざまな社会課題を解決することを目指しています。
佐座:SWiTCHの代表理事を務めています。私は、気候変動に危機感を持った世界の若者たちが2020年7月に設立した「Mock COP26」のコーディネーターを務め、COP26と各国首相に向けて「18の政策提案」を行いました。その後、活動の軸足を日本に移し、2021年に有志と一緒にSWiTCHを設立しました。SWiTCHは、温暖化をくいとめ、サステナブルな社会を構築するためのプラットフォームです。
角谷:電通のトランスフォーメーション・プロデュース局で企業の事業変革をサポートしています。企業が協働してカーボンニュートラルを推進する枠組みづくりも行っています。
三村:電通のスタートアップグロースパートナーズという組織で、スタートアップの事業成長を支援しています。スタートアップが限られたリソースの中でどうしたら事業を拡大させていけるのか、電通が持つ企業ネットワークにも目を向けて日々考えています。
──CNUD設立の経緯を教えてください。
久保田:脱炭素化について、業界の垣根を越えて情報共有する場を渋谷につくりたいと思ったのがきっかけです。まず、渋谷にオフィスを構えるSWiTCHさんに声をかけました。佐座さんは温暖化問題に取り組む世界の若者たちのリーダー的存在です。SWiTCHと協働することで、脱炭素化に向けて世代を超えた話し合いができると考えました。
佐座:これまで日本企業の脱炭素化の取り組みを見ていて、行動を起こしたい気持ちがあるものの何をすればよいかわからない方が多いと感じていました。産官学が連携すれば具体的なアクションが起こせるかもしれないと思い、協力することにしました。
久保田:最初はいろいろな企業を集めて「渋谷COPアカデミー」という勉強会を行っていました。でも、勉強会だけでなく、企業同士が有機的につながってアクションを起こしていくことが大事だと感じ、渋谷未来デザインとSWiTCHが事務局となり、2023年にCNUDを立ち上げました。
──電通がCNUDに参画した理由を教えてください。
角谷:業界や世代を越えた連携なくして、日本の脱炭素化のスピードは上がらないと考えたからです。普段からグローバル企業と仕事をする中で、日本の脱炭素化の遅れを痛感していました。脱炭素化に向けてEUなどは2015年のパリ協定採択から本格的に取り組んでいる印象があります。一方、日本は2020年の菅元首相の2050年カーボンニュートラル宣言から国も民間も動き出した感じです。世界と比べてスタートが5年遅れています。
佐座:おっしゃる通りですね。日本は世界で5番目にCO2排出量が多い国です。この課題をどのように解決するか、世界は注目しています。2023年にはアントニオ・グテーレス国連事務総長から「地球沸騰化」という言葉が出たほど、地球はいま危機的な状況にあります。しかし日本の脱炭素化のスピードは遅いと私も感じています。
角谷:グローバル企業と話をすると、世界から日本は脱炭素の後進国と見られていることがわかります。ところが日本国内で実施されたある意識調査によると、「日本は世界で1、2を争うぐらい環境問題への意識や行動が進んでいる」と思っている人がすごく多い。海外から見る日本とのギャップが大きいですね。
佐座:ギャップが生まれる原因の一つとして、脱炭素化やサステナビリティについて、日本に入ってくる海外の情報量がとても少ないことが挙げられます。やはり言語の壁は大きいです。日本でも脱炭素化に向けた良い取り組みがいろいろ行われていますが、海外にはあまり知られていません。
角谷:世界と情報が共有されていない原因として、日本企業は「謙遜することが美しい」といったような考え方もあるかもしれません。自社の取り組みを大きく発信しない。ビッグビジョンを出して当たり前と考える海外企業とは対照的です。
佐座:そうですね。日本は100%できてから発信したい企業が多いですが、欧米はとにかくゴールを大きく掲げてから、そこにどうやって向かっていくかを考えます。世界とどうコミュニケーションを取るかといったこともCNUDでは考えていきたいです。
──世界に比べて日本の脱炭素化の取り組みは遅れているとのことですが、日本企業はどのように取り組んでいますか。
角谷:企業の脱炭素経営の形はいろいろありますが、私たちは4つのステップで考えています。第1段階はコンサルテーション。CO2排出量の算定をして、いつまでにどれだけ減らすかのロードマップをつくります。第2段階は、リダクション。ロードマップに従ってCO2を削減していくステップです。その手段は、ガソリン車を電気自動車に変えたり、オフィスの電気を太陽光に変えるなどです。しかしこれだけではサプライチェーンまでCO2排出量がゼロにはなりません。そこで第3段階としてカーボンオフセットが必要になります。海外ではこのステップは当たり前になっていますが、日本ではJクレジットをはじめ、カーボンオフセットはまだ浸透していません。そして第4段階がコミュニケーションです。企業が広報や広告で自社の取り組みを発信します。
──取り組みの中で、日本企業はどんな悩みを抱えていますか。
三村:私はカーボンニュートラルのビジネス開発で、企業のスタンスやサステナビリティの取り組みについて相談を受けることがありますが、やはり1社でやるには限界があると感じます。例えば、電通はコミュニケーションが得意領域ですがリダクションやカーボンオフセットはできません。コンサルテーションはIT企業やコンサルティング会社が行うことが多いですが、これらの会社も4段階すべてを請け負うことは無理です。
角谷:大企業などは、CO2排出量の算定、再生エネルギーの調達、広告コミュニケーションをする部署が分かれています。外部パートナーもそれぞれ異なるところと取引をしているので、企業内で統一が取れていないことも問題です。一気通貫したスピード感のある脱炭素経営ができていません。もう、1業種や1社で脱炭素化を進めるという発想は捨てて、オールジャパンの発想で異業種のアライアンスをつくることが必要です。
脱炭素化の「渋谷モデル」をつくりたい
──CNUDはどのような組織ですか?
久保田:大手からスタートアップまでのさまざまな企業、行政、学校などが連携して脱炭素化を推進するためのコンソーシアムです。CNUDへの加入費は無料です。2024年2月時点で30社が会員になっています。スタートアップは環境系の企業が多く、他はさまざまな企業が集まっています。
──どのような活動を行っていますか?
佐座:2024年から本格的に活動をスタートしました。1月にはスタートアップによるピッチを行いました。8社のスタートアップが登壇して、自社の事業や渋谷をどのように活用していきたいかプレゼンテーションしました。
久保田:今回登壇したスタートアップの中には、繰り返し使える梱包材とそれを運用するオペレーションシステムでEC配送時の脱炭素化を推進する企業がありました。このサービスは渋谷のアパレル企業が導入しています。別のスタートアップは、バイオマスリサイクルシステムを提供していて、渋谷区で実証データを取りました。他にも、真空特許技術でフードロスの解消を目指す企業や、不要になった衣類などを回収、選別して再流通させる資源循環のインフラを構築している企業、カーボンクレジットの取引を行っている企業などバラエティに富んでいました。
佐座:ピッチは今後も定期的に行う予定で、他にもグローバル事例の共有、情報交換会を定期的に行っていきたいと考えています。
──渋谷を舞台に脱炭素化の取り組みを進める意義は何でしょうか?
佐座:渋谷は商業集積地で消費の街というのが大きな特徴の一つです。その渋谷で脱炭素化を進めることは、これからの消費の方向性を考えることにつながると思います。そして、いろいろなカルチャーが融合している場所なので、脱炭素化についても新しい発信、価値が生まれる可能性があります。それに渋谷は世界的にも知られている街です。もしサステナブルな街がつくれたら、シンボリックだと思います。
角谷:環境先進国といえばデンマークを思い浮かべる方も多いでしょう。それは、コペンハーゲンが都市として世界で一番脱炭素化への取り組みが進んでいるイメージがあるからです。病院の廃材から公園をつくるようなアップサイクルを行ったり、自転車専用の道路や橋、鉄道車両をつくり、通勤・通学の自転車利用を普及させたり、脱炭素化のアイデアをどんどん形にしていて、他の都市がコペンハーゲンの施策を取り入れるようになりました。渋谷が日本のサステナビリティの先進地になり、この街での施策を「渋谷モデル」として他の街や世界に発信していけたら理想ですね。
三村:渋谷はいろいろな人が遊びに来る街でもあるので、堅苦しくなく環境問題を考える機会を提供して、それを体験してもらえる取り組みを行っていきたいですね。
佐座:そうですね。環境のためということを前面に押し出さず、違う切り口で盛り上げていくのが、渋谷らしいキャンペーンかなと思います。いまは環境問題に取り組んでいない人たちが気軽に参加できる取り組みができるといいですね。
久保田:渋谷×若者でキャンペーン的なものをつくりたい。そういうものがないとカルチャーにならないと思います。クリエイティブを電通さんにサポートしてもらい、渋谷の若者たちにインスピレーションを与えられたらいいですね。
三村:渋谷区は産官学との連携がしやすいメリットもあるので、いろいろなことにトライしていきたいです。
産官学のネットワークを広げていきたい
──今後はどのような活動を考えていますか?
久保田:渋谷は各企業が脱炭素化を競う場所ではなく、共創共存のフィールドだと捉えています。しかし、企業が集まっただけでは利害関係の調整はできません。CNUDは脱炭素化が進むようにプロセスの設計をサポートしていきたいと考えています。
渋谷未来デザインには100社以上のパートナー企業と会員企業が集まっています。多くの企業をCNUDに巻き込んでネットワークを大きくしていきたいですね。さらに、東京大学や慶應義塾大学、渋谷区の大学ともつながりがあるので連携していきたいです。
佐座:SWiTCHはサステナビリティのフロントランナーを招いた会話会を開催したり、学校に出向き、小学生から高校生にサステナビリティの授業をしたりしています。その中で自分がどんな社会活動ができるのか考え、校外で活動する人も多くいます。他に、環境専門家の国内外のアカデミア、企業、スタートアップも興味を持ってくださっています。そのような方々のネットワークを活用しながら、どう渋谷につなげていくか考えています。
久保田:渋谷は広告ビジョンも多いですし、会場もあるし、日本のシンボリックな都市としての発信力もあります。しかし、広告ビジョン一つにしてもコストが高いのが問題です。CNUDに参画している企業と協力して、コストを抑えながらコミュニケーションする方法を探っていきたいですね。
佐座:都市において民間と行政がどう連携して、市民も巻き込んでいくのか、渋谷はモデルケースになると思います。
久保田:多くの企業や団体に、CNUDに参画いただけるとうれしいですね。