地方創生はSDGsから 高知県発「Kochi SDGs Action」
2024/06/24
SDGsに対する企業への社会的要請が高まる中、地域社会においても「SDGsとどう向き合うか」が大きなテーマになっています。
2022年2月、四国銀行、高知放送、電通西日本の3社は、SDGsに取り組む高知県発のアクションを発信するプロジェクト「Kochi SDGs Action」を立ち上げました。「未来を、せんたくせよ。」をキャッチフレーズに、県内企業・団体を対象に参加を募り、SDGs推進サポートやCM展開などによるPR支援、企業と地元学生をつなぐイベント施策などに取り組んでいます。
記事では、四国銀行の岡野一平氏、電通西日本の頼本高成氏、北匡史氏の鼎談(ていだん)を通して、プロジェクトの目的、現在までの成果、高知県が抱える課題とプロジェクトが果たすべき役割について掘り下げます。
※本記事は、Transformation SHOWCASE掲載の記事をもとに再編集しています。
高知の「未来を、せんたくせよ。」
頼本:四国銀行、高知放送、電通西日本の協業による「Kochi SDGs Action」は、高知県発の地域活性化プロジェクトです。県内の企業を対象に参加を募り、SDGsへの取り組み向上や対外PR支援、企業と地元学生や県民をつなぐイベントなどを実施しています。
そもそもこのプロジェクトは、高知放送さんからのお声掛けでスタートしました。私たち電通西日本と広島銀行、広島ホームテレビが始めたSDGsプロジェクト「変わるけん。」をご覧になり、「高知でもぜひこういう取り組みを始めたい」とご相談いただいたのがきっかけです。広島もそうでしたが、こうしたプロジェクトには地域に根差した銀行のお力添えが何より重要だと考えています。そこで、四国銀行さんに協業のご提案に伺ったところ、その日のうちにご快諾いただきました。レスポンスの速さに驚きましたが、もともとSDGsに対する課題意識をお持ちの地元企業が多かったのでしょうか。
岡野:四国銀行コンサルティング部では、法人、個人を問わずお客さまの課題解決支援を大きなミッションとしています。中でも、私が籍を置く法人企画チームは、法人のお客さまの課題解決をサポートする部署です。最近はSDGsやカーボンニュートラル、サステナビリティに関する取り組み支援や、人材戦略についてのコンサルティングなどを行っており、課題意識の高さを感じていました。
地方銀行は、私たち自身がSDGsに取り組むのはもちろん、地元企業のSDGs推進支援も担うべき立場です。そのため、今回のプロジェクトは当行にとっても大変魅力的に映りました。というのも、既にSDGsに取り組んでいる企業は多いものの、当行にはこうしたさまざまな企業の取り組みを発信する手段や力が不足していたためです。電通西日本さんの力を借りることで、より広く情報発信できると考え、すぐに協業を決断しました。
頼本:北さんは、クリエイティブディレクションやコピーライティングを担当しています。このプロジェクトのメインコピー「未来を、せんたくせよ。」には、どのような思いを込めたのでしょう。
北:私は、普段は愛媛県松山市に住んで仕事をしていますが、高知は四国の中でも特徴的な県民性があると感じていました。そこで、コンセプトを示すフレーズを考えるに当たり、あらためて高知出身の方々にヒアリングも重ねながら、そのユニークネスを、私なりに3つのポイントに集約しました。
第一に、真っすぐに歴史を変えてきたということ。坂本龍馬や岩崎弥太郎を筆頭に、歴史だけでなくビジネスにおいても真っすぐ未来を切り開いてきました。第二に、信念を強く持つ方が多い地域だということ。そして第三は、さまざまな課題を明るく楽しく前向きに捉えていること。そこで「強く、太く、明るく」をテーマにフレーズを考え、3案をご提案しました。その中から、皆さんの合意のもとで「明るい未来へ洗濯する」「より多様な未来を選択する」という意味を込めた「未来を、せんたくせよ。」に決まりました。
岡野:県民性をそのように捉えていただけたのはうれしいですね。「せんたくせよ」は、坂本龍馬の名言「日本を今一度せんたくいたし申候」に由来するので、県民の皆さまの親近感、プロジェクトへの関心が生まれやすかったのではないかと思います。
SDGs活動のPR動画で就職希望者が増加
頼本:2022年2月にこのプロジェクトが始まり、第1期に7社、第2期に3社と、これまで10社の企業に参加していただきました。参加企業の皆さんは熱量が高く、「地元を何とかしたい」という思いにあふれています。現時点では、建設業の企業が複数参加されていますが、高知県の中でも最先端の技術を取り入れようと考える企業や、環境に配慮した建築資材や機材を使おうと意識している企業が目立ちました。全国的な人手不足の中で、人材採用で苦労されている企業も多かったのですが、SDGsに取り組み、その情報を発信することで新卒採用や中途採用の希望者が増えた、という声もいただいています。
岡野:参加企業のYouTubeチャンネルの再生回数が伸び、それが結果としてリクルートにつながったのではないかという声もありました。
頼本:高知放送というメディアの力も、あらためて感じましたね。参加企業のSDGsへの取り組みをPR動画にし、高知放送で放映したのですが、それが採用につながったという話も聞きます。
北:1つの企業が単体・単発でCMを実施するのではなく、プロジェクトの大きな枠組みの中で参加企業各社の取り組みを紹介することで、“未来に向けて動き出した高知”という空気感が醸成されているように感じていただけるのではないでしょうか。これこそがまさにプロジェクトのパワーだと思います。
岡野:四国銀行としては、参加企業のCM動画を制作する中で「この企業はこんな活動をされていたのか」という新たな気付きもありました。銀行が企業に向き合う際は、決算内容などの数字はしっかり追いながらも、意外と「どんな取り組みをしているか」までしっかり把握できていない面があることも否定できません。ですが、このプロジェクトを通じて、参加企業の働き方改革や支援活動など、数字だけでは分からない活動について知ることができ、あらためて各企業の社会的意義を認識しました。
また、これまでそういった企業の取り組みに対して具体的な働きかけを行えていませんでしたので、今回のプロジェクトを通じて「発信のお手伝い」といった今までと違った支援が可能であると気付くことができ、銀行として一つ新たな強みをいただいたように感じました。今回企業の皆さまに「銀行も情報発信をはじめとした多様な手法で課題解決をお手伝いできる」と知っていただけたことも大きなメリットだと思っています。今後も四国銀行としてさまざまなかたちでの支援を提供し、企業にとっての身近な相談相手になれる存在でありたいと考えています。
人口流出、労働力確保……地方が抱える課題と向き合う
頼本:「Kochi SDGs Action」は、第3期の参加企業を募集中です。この3年は、コロナ禍で事業活動も停滞しましたが、高知県内の経済はコロナ禍の前後で何か変化がありましたか?
岡野:どの県もそうですが、まず観光客が激減しました。高知県の主要産業の一つは、観光業です。そこがパタリと止まったため、地域経済に大きなダメージがありました。最近は、桂浜に大きな観光施設ができたり、高知県出身の植物学者・牧野富太郎を扱ったドラマが放送されたりしたので、宿泊者数も回復してきました。
頼本:旅行や出張で高知を訪れ、「つまらなかった」と言う人はいないんですよね。楽しみ方は人それぞれですが、皆さん「高知っていいね」と口々に言います。その一方で、高知県民はその魅力を当たり前に受け止め、素晴らしさに気付いていない可能性もあるのではないかと思います。高知の魅力を再発見していただくことも、このプロジェクトの大きな目的です。
今年、高知県出身の俳優・モデルである中村里帆さんが、プロジェクトアンバサダーに就任しました。高知県出身の方は高知が大好きですが、中村さんも郷土愛が強く、このプロジェクトについていろいろなところで発信したり、CMにご出演いただいたり、一緒になって「より良い高知をつくりましょう」と盛り上げていただいています。高知を愛するが故に、地元出身の方々に積極的に参加していただけるのは、高知の強みだと思います。
岡野:高知県は、歴史的なコンテンツが豊富なのも強みですね。SNSの普及により、子どもが川遊びできるようなのどかな風景も広まり、県外や海外の方にも高知県の価値を知っていただけるようになりました。これから少しずつ明るい兆しが見えてくる、そのスタートラインにやっと立てたと思います。
頼本:岡野さんからご覧になって、現在の高知県の課題はどこにあると思いますか?
岡野:高知県は、四国の中で最も人口が少ない県です。その上、人口減少率も高く、現在は人口70万人を割っています。特に若い方の流出が続いているので、人材採用に期待してプロジェクトに参加されている企業も少なくありません。この課題を解決できなければ、高知県の産業は縮小していく一方です。このプロジェクトで企業の取り組みを発信し、「この会社で働きたい」という若い方が増えれば、人口の維持や労働力の確保にもつながるのではないかと思います。
頼本:若者たちの地元企業への就職にどれだけつなげられるかという点は、プロジェクトの大きな課題ですよね。人手不足が常態化し、仕事を請けたいのに断らざるを得ないといった状況もあり、焦りを感じている企業も見受けられます。また、現役世代がリタイア後、次の中核を担うのは今の若者です。若い方々を採用していかないと、事業が先細ってしまうと懸念される企業は非常に多いですね。
プロジェクトでは、今後、さまざまなイベントにも力を入れていきますが、リクルートにつながる取り組みとしては、高知大学で学生と企業のイベントを開催する予定です。工業系、商業系の学部では、先生の声が学生の就職に影響を与えるケースも多いです。学生におすすめできる企業なのかを、先生方に知っていただくという効果ももたらすイベントとして期待しています。
一方で、県外の大学に進学した学生の中には、卒業後は地元に帰りたいと考えている方もたくさんいると思うんです。職種や業務内容はもちろん、その企業が社会にどんな貢献をしているかという点に今の学生は敏感に反応します。そのため、社会的意義のある企業を探すのですが、高知県の企業の魅力が伝わりきっていないため、候補から外されているケースも多いのではないでしょうか。
北:「高知県からどうやって世界を変えるか」と高い志を抱いている企業も、実は多いんですよね。このプロジェクトでつながりのできた建設業の皆さまも、「この業界から未来を変えよう」という意識をお持ちの方が多いと感じました。
頼本:「こういう会社があるなら高知で働こう」と1人でも多くの人に思ってもらえるよう、私たちも企業の魅力をきちんと伝えていきたいですね。それが、今後の高知県の経済活性化にもつながるのではないかと思います。
岡野:高知県はSDGsへの取り組みや認知が、まだ十分とは言えないと思います。プロジェクトの参加企業が増えれば、県民の皆さまの意識も高まりますし、各社の素晴らしい取り組みを参考にすることで少しずつ世の中が変わっていきます。実は、サステナビリティやカーボンニュートラルにつながる先進的な取り組みをしている企業は県内には多いので、「Kochi SDGs Action」に興味を持っていただけるよう働きかけたいと思います。
北:参加企業が増えるほど、SDGsの空気醸成や情報発信力はどんどん増していきます。プロジェクトの参加企業がモデルケースとなり、県内にSDGs推進を波及させられるよう、プロジェクトの魅力を高めていきたいですね。