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新規事業開発の成否は発想法にありNo.1

新規事業開発の未来 アイデアの枠を解き放つ「ゲノム思考」とは

2025/02/07

アレルギーを引き起こさない卵をつくる。デジタルデータをDNAに保存する。酸素がほとんどない火星に酸素を生み出す──。まるでSF小説のようなアイデアが、今、新規事業開発や社会課題解決の最前線で現実化され始めています。これらの発想のもとにあるのは、「バイオスフィア(生物圏)」の持つ可能性。ゲノム(生物の持つ一そろいの遺伝情報)をはじめとする生物科学の観点や技術が、私たちの固定観念を超えたまったく新しい事業アイデアを生み出しているのです。

こうした動きをいち早く捉え、電通では「ゲノム思考」を用いた新規事業アイディエーションサービス「ゲノムシンキング powered by SMARTCELL & DESIGN」を提供しています。その有用性や具体的なサービス内容について、開発を主導した電通の志村彰洋氏に聞きました。

※本記事は、Do! Solutions掲載のブログをもとに再編集しています。

 

志村 彰洋(しむら あきひろ)
志村 彰洋(しむら あきひろ) 電通 ゼネラル マネージャー。国家事業/スマートシティプロデュース、先進技術/システム開発、 ゲノム技術を活用した社会デザイン、宇宙産業開発、事業共創拠点構築コンサルティング、イノベーションマネジメント、スタートアップのアクセラレーションなどに従事。知財を核とした新規事業開発や国際標準化活動も推進。その他、ICTに関する国際会議、講演、特許・論文多数。ゲノム倫理研究会員。AMES Awards、日本マーケティング大賞、IWRIS最優秀論文賞など受賞歴多数
<目次>
デジタル技術だけで社会課題は解決できない

ゲノムは難解? いいえ、もっとポップに考えよう!

「ゲノムシンキング」の具体的なアイデア発想プロセスとは

アイディエーションで終わらない、事業化に向けたサポートも

新規事業より、“進化事業”をつくっていきたい
 

デジタル技術だけで社会課題は解決できない

──新規事業創出の必要性が大きく叫ばれる昨今ですが、事業開発支援に長く携わってきた志村さんから見て、今の事業開発にはどんな課題があると思いますか?

志村:たぶんこれは企業の事業開発担当者や役員の方も痛感していると思うのですが、今や新規事業の創出に対するアプローチや検討方法がすっかりコモディティ化しています。インプットする情報も使われるデジタル技術も同じだから、何をしてもデジャブ感というか、必然的に似通ったアウトプットばかりになってしまう。既存の考え方や固定観念から抜け出すために、新たな思考フレームが必要になっているのは確かです。

志村 彰洋(しむら あきひろ)

──その一つとして「ゲノム思考」を推奨されているのですね。

志村:そもそも僕がゲノムに注目したのは、それまで自分が専門としてきたデジタル領域の知識や技術だけでは、未来の課題に応えきれないと感じたからなんです。今、多くの企業が環境問題の解決やスマートシティの実現などに取り組んでいます。しかし、世界の事象の大半を占めるバイオスフィアの情報が実は全然データ化されていなくて、これではいくらDXが進んだところで本質的な課題解決につながらないのでは、と。それですぐに海外へ飛び、最先端のゲノム技術やバイオテクノロジーの研究現場を視察しました。2016年から17年ごろのことです。

──その当時から、海外ではすでにゲノム領域の知見や技術をビジネスに応用する動きが広がっていたのですか?

志村:そうですね。僕が視察したアメリカでは当時から注目度や予算のかけ方もまったく違っていて、ゲノムを解析するだけでなく「ゲノム編集」や「ゲノム合成」といったさらに進んだ技術もビジネスに取り入れられていました。ゲノム技術を使ったスタートアップも登場していましたし、世界で「BX」と言えばもはや「ビジネストランスフォーメーション」ではなく「バイオトランスフォーメーション」でした。

それに比べたら日本は数年分の遅れがありますが、今では政府の骨太方針の一つにAIや量子コンピュータと並んでバイオテクノロジーが挙げられていますし、国内の機運もかなり高まっていると感じます。

──内閣府は2019年に「バイオ戦略」を発表し、「2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現すること」を国の目標に掲げています。

志村:「ゲノム」や「バイオテクノロジー」と聞くとちょっと構えてしまう方が多いと思いますが、身近なところだと野菜の品種改良や、酵母を使った発酵食品をつくることなどもバイオテクノロジーの一つです。以前「アレルギーを引き起こす物質を含まない卵」のニュースが大変話題になりましたが、あれもまさにゲノム編集の技術によるものです。まだ実用化はされていないものの、技術としてはすでにかなり進んでいます。デジタル領域ではプログラミングが小学校で必修化されるほど大衆化しましたが、ゲノム技術もいずれ同じように“みんなのもの”になっていくでしょう。

経済産業省が発表しているバイオものづくりの事例集
経済産業省が発表しているバイオものづくりの事例集。多様な分野でバイオ技術の実用化が進んでいる

ゲノムは難解? いいえ、もっとポップに考えよう!

──ゲノムを新規事業創出に生かすとのことですが、専門知識を持たない人にはハードルが高く感じられませんか?

志村:僕たちが提供している新規事業アイディエーションサービス「ゲノムシンキング」とは、具体的なゲノム技術を本格的に学ぶことでもなければ、ゲノムのふるまいを思考法に活用する……といった難解なことではまったくありません。そうではなく、「生物にできることが今より少し増えたらどうなるか」という視点を持つという極めてシンプルなものです。アイデア発想法の一つとして、もっとポップに捉えてもらって構いません。

志村 彰洋(しむら あきひろ)
自由な発想で、これまでの固定観念を外して新たなアイデアに出合うことが「ゲノムシンキング」の一番の目的です。とても簡単な例を出すと、カットしたリンゴは普通時間がたつと酸化して色が悪くなりますよね。そうすると売れずに破棄されてフードロスにつながってしまう。それなら、「そもそも酸化しないリンゴがあればよいのでは?変色しなければカットした状態で袋詰めして自動販売機でも売れるかも」と考えられるようになるのがゲノム思考です。今聞くと大したことのないアイデアに思えるかもしれませんが、頭にゲノムやバイオのヒントが入っていないと、「酸化しないリンゴをつくればいい」という単純な発想も案外出てこないものなんです。

「ゲノムシンキング」の具体的なアイデア発想プロセスとは

──アイディエーションサービス「ゲノムシンキング」では具体的にどういったことを行うのでしょうか?

志村:サービスの形態としてはよくあるアイディエーションのワークショップをイメージしていただければいいのですが、最初に僕やバイオテクノロジーに詳しい識者の方から、ゲノムに関する生物学的な基礎知識などを1時間くらい簡単にレクチャーします。

アイディエーションのワークショップ
先ほどから「解析」や「編集」といった言葉が出ていますが、ゲノム技術には大きく3つの段階があります。まず、ゲノムの持つ遺伝情報を読み解く「ゲノム解析」。そしてその情報を書き換えて潜在的な別の機能を引き出す「ゲノム編集」。それから、まったく新しい機能をゼロからつくり出せる「ゲノム合成」。「ゲノムシンキング」のアイディエーションでは、その技術をどの段階まで解放するかを決めて、「編集までできるとしたらどんなことが考えられる?」といったようにアイデアを広げていきます。

具体的にお話しすると、例えばとてもおいしい枝豆があったとします。ゲノム解析を使うと、その祖先を調べることができます。その結果、ほかの枝豆とはまったくルーツが異なると分かれば、新たな食材としてブランディングして売り出すことができます。次にゲノム編集まで解放すると何ができるかというと、先ほどのアレルギー物質を持たない卵や酸化しないリンゴのように、性質や機能まで書き換えることが可能になります。

──ブランディングだけでなく、販売方法や使用用途まで大きく変わりそうです。では、ゲノム合成まで技術を解放した場合のアイディエーションとは?

志村:もうなんでもありの世界で、例えば「塩害耐性がないから海の近くでは育たない木」というものがあったとして、それなら塩害耐性のある別の木の機能をそのまま移植しよう、と思い切ったことまで考えられる。すると、今まで木材産地になり得なかったところでもその木が育つようになり、新たな地域産業が生まれたり、物流システムができたり……。このように、ゲノムの技術レベルによって考えられることがどう変わるかを最初に少しお話しするだけで、その後のアイディエーションの幅がまったく変わります。

さらに発想を促すために、ワークショップではオリジナルのビジネスアイデア発想ゲーム「かけアイ」なども使います。「安全な場所に住み続けられるようになる」×「宇宙開発」のように、欲求とお題を強制的に掛け合わせて発想を刺激するんです。

電通がおもちゃ開発者らと共同で開発したビジネスアイデア発想ゲーム「かけアイ」
電通がおもちゃ開発者らと共同で開発したビジネスアイデア発想ゲーム「かけアイ

この例の場合、「酸素のない星でどうやって人間が生きるのか」という開発課題が生じますが、ここにゲノム視点を加えると「人工微生物を使って二酸化炭素だらけの大気を酸素と窒素に変える」というソリューションが発想できる。突飛なアイデアに思われるかもしれませんが、このアイデアを実際にアラブ首長国連邦(UAE)の「火星移住計画:Mars 2117」を想定したプロジェクト案として発表したところ、UAEの関係者からは大きな注目を集めました(※)。

※2018年にアブダビで開催された展示会「ADIPEC2018」にて発表。詳細はこちらの動画でもご覧いただけます。

アイディエーションで終わらない、事業化に向けたサポートも

──「ゲノムシンキング」を提供している「SMARTCELL & DESIGN」には、志村さん以外にどういった方がいらっしゃるのですか?

志村:電通のメンバーは僕のほかに数人いて、それ以外はすべて社外のパートナーの方々で構成されています。ゲノムやバイオテクノロジー関連の学会などに参加するうちに大学の研究者の方々が興味を持ってくれて、アカデミックな部分で協力してくれていますし、ほかにもスタートアップ企業とのネットワークや、各企業へ積極的にアイデアやプランを提案する営業役のプロフェッショナルの方など、多彩なメンバーがつながっていますね。


 

──基本的にはアイディエーションまでのサービスかと思いますが、その後の事業化もサポートが可能なのでしょうか?

志村:もちろんです。「ゲノムシンキング」を用いれば事業計画書ができあがる、というようなパッケージサービスではありませんが、ご希望に応じてその後の事業計画策定やクリエイティブアウトプットの支援、実現に向けたパートナーとのマッチングなど幅広くサポートします。特にパートナー同士をつなぐことについては、大企業からスタートアップまで国内外に数万社のコネクションがあるので、かなり力になれると思います。

また、ゲノム技術を実用化するには国ごとの法令順守や生活者への適切なコミュニケーションも非常に重要になりますから、その面でも電通ならではのサポートができると思います。

──ワークショップ自体をパートナー企業や異業種企業と一緒にやることも可能ですか?

志村:実は今まで実施したほとんどのワークショップが、複数社が参加するオムニバス形式でした。今私たちが向き合う社会課題はほぼすべて、一社で対応するのは無理です。複数社が一緒にワークショップを行うことで、自然とパートナー関係も築くことができます。

──どういった方や企業に参加してもらいたいか、ターゲットのイメージはありますか?

志村:最初に課題としてお話ししたような、新規事業創出に行き詰まっている企業はもちろんですし、新しいアイデアのヒントを探している方々にぜひ参加してもらいたいですね。過去にやったワークショップでは、これまで事業創出を何件も手掛けてきた百戦錬磨のような方から「自分はアイデアを出すのが得意だと思っていたけど、大したアイディエーション能力じゃなかった。まだまだ型にはまりすぎていた」という感想をいただいたこともありました。

新規事業より、“進化事業”をつくっていきたい

──最後に志村さんご自身が描く「ゲノム思考を使って実現したい未来」のイメージがあれば教えてください。

志村:最初にもお話ししたように、僕の場合は「こんなことをやりたいんだ!」というよりも、クライアントや仕事に真剣に向き合った結果、「今のままでいいのか? 38億年分のバイオスフィアの情報を考えずに、地球の課題に向き合えるのか?」と危機感を覚えたんです。そこは妥協せずに向き合っていきたいし、そもそも地球環境問題のように日々進化していく課題に向き合うなら、自分たちも進化しなくてはいけないと思うんです。だから、僕はワークショップの中でも、よく「進化事業」をつくろうって言っています。

志村 彰洋(しむら あきひろ)
ゲノムは農業や医療分野のイメージが強いと思いますが、それ以外のビジネス分野でも進化の発想は欠かせません。例えば昨今の都市開発では、建物などのハード部分をつくって終わるのではなく、周囲の土壌や木、使われる素材、エネルギーなどの有機物が今後どんなポテンシャルを発揮するのかまで想定し、進化を踏まえて設計していくことが求められています。未来に対しての責任を持つ新しいクリエイティブは、これからますます広い分野で必要になっていくでしょう。

──そう考えると、もはや事業創出に限らず、一般社員向け研修プログラムとして「ゲノムシンキング」を取り入れるのもよさそうです。

志村:「ゲノムシンキング」は、ビジネス思考研修とかSDGs研修など、そうしたプログラムとしてもマッチする汎用(はんよう)的なソリューションだと思います。特に、まだ思考の凝り固まっていない若い世代の方々に参加してもらいたい。生物の世界というのは、学ぶことがとても多いんです。「研究室で本を読み続けるより、沼で微生物を見続けている方がよほど示唆に富んでいる」と言う研究者もいます。ゲノム思考を使ってビジネスデザインをすることが、この社会の当たり前になっていったらいいなと思います。


ゲノムシンキングの概要はこちら⇒ゲノム思考で、世界と企業のビジネスを進化させる「ゲノムシンキング powered by SMARTCELL&DESIGN」
 
ゲノムシンキングについて詳しい資料はこちら⇒「ゲノム思考」で、新規事業開発を次のステージへ!「ゲノムシンキング」 powered by SMARTCELL & DESIGN ダウンロード

 

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