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COP29参加企業が振り返る。気候変動で注目される日本企業の技術

2024/12/18

「異常に暑い」夏が、毎年更新されている……そんなことが世界中で起きています。2024年の世界平均気温は、産業革命前と比べて1.5度以上高くなり、観測史上最も高くなる見込みだと発表(※1)されました。

地球温暖化を背景にした気候変動は人類にとって喫緊の課題となっているなか、気候変動対策を話し合う国際的な会議「COP29(※2)」が、アゼルバイジャンで開催されました。今、世界の課題意識はどこにあるのか、それぞれに何を感じたか。COP29に参加した企業が、現地で感じた熱とともに語ります。

SHIBUYA COP
2024COP29の開催直後に合わせて開催された、気候変動に関する世界の最新情報を共有・対話をするセッションイベント(渋谷未来デザイン、SWiTCHの共催)。第4回の開催となる今回は、COP29の日本パビリオンと同じ「Solutions to the World」がテーマに掲げられた。本記事では、SHIBUYA COP 2024で行われたトークセッション1「COP29アゼルバイジャン参加企業からの最新情報共有」の内容をお届けする。

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※本記事はトークセッションの内容をもとに編集・加筆をおこなっています。
 

日本パビリオンの特徴は「企業参加型」であること

佐座:まずはCOP29への参加理由や、現地でどんなことを発信されたのか、参加した感想なども交えてお話しいただきたいと思います。

参加企業の展示内容の詳細はこちら
https://www.env.go.jp/earth/cop/cop29/pavilion/exhibition/display/


津田:日立製作所で環境とサステナビリティを担当しています。日立製作所はプラネタリーバウンダリー(※3)とウェルビーイングを同時に達成するために、社会インフラのDXを目指して活動しています。日本パビリオンでは、雨が降った時にどこで洪水が起こるのかを予測するリアルタイム洪水シミュレーターと、異なる地域のデータセンター間の計算負荷を調整・制御する技術を展示しました。体感型のブースだったので、実際に試していただきながら、いろいろなステークホルダーの方の声を聞くことができました。

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日立製作所 津田 恵氏。「私個人はCOP23から7回連続で参加しました。今年は各国首脳の参加も少なく大きな花火は上がりませんでしたが、堅実なCOPだったというのが私の印象です」と語る。

下野:パナソニック ホールディングスで、環境コミュニケーション全般を担当しています。なぜ、私たちのような民間企業がCOPに参加しているのか、その参加目的についてお話しします。私たちは2018年のCOP24から参加しています。はじめのうちはCOPでのプレゼンスの向上、そこから事業機会の探索も目的に加わりました。そして「Panasonic GREEN IMPACT」の発信に伴ってCO2削減貢献量の意義の訴求、あるいは削減貢献量の国際標準化の必要性を世界に向けて発信するために、COPという国際的なルールメーキングの場を活用できないか、というスタンスで参加しています。

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パナソニック ホールディングス 下野 隆二氏。パナソニックグループが2022年に掲げた「Panasonic GREEN IMPACT」は、2050年までに世界のCO2排出量の1%にあたる3億トン以上の削減インパクトを出すことを目指している。

佐藤:日本電気で気候変動をテーマにした事業開発を担当しております。今回、日本電気は三井住友海上火災保険と立ち上げた「適応ファイナンスコンソーシアム」として展示を行いました。今、世界では気候変動の被害の回避・軽減対策(適応策)に対する投資が圧倒的に足りていないのが現状です。この課題解決のために、適応策に投資した場合の経済メリットを算定し、適応策への資金流入を促していこうというのが私たちの活動内容です。大量の地球観測データとAI技術の活用によって、世界のどの場所でも気候変動の適応策の効果を分かりやすく可視化できることをCOP29で発信しました。

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日本電気 佐藤 美紀氏。「気候変動による災害件数、経済損失は5倍、7倍と高まっています。一方、この気候変動の適応に対する支援や投資については非常に少ないのが実態です」と語る。

荒木:電通グループのグループサステナビリティオフィスに所属しています。私からは日本パビリオンの特徴についてお話しします。皆さんからお話があった通り、日本パビリオンは企業が展示に参加していて、企業の技術が紹介されているところが一番の特徴です。他の国はセミナー主体なので、日本のようなパビリオンは他にはありません。そのため、日本企業の技術力の高さが注目を集めていて、連日、人が途絶えないほどに大盛況でした。

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電通グループ 荒木 丈志氏。「COPはいろいろな方々がいろいろ活動をされていて、年に一度、改めてこの節目で考えていこうという、熱気を感じます」と語る。

岩井:サントリーはCOP29の場で展示はしていませんので、もっぱら情報収集を目的に行きました。初めてCOPに行ってみて感じたことは、私たちが普段、仕事で行っていることと、国際会議の場で話題になるポイントやニーズに大きなギャップがあるということです。サントリーグループは2030年までにバリューチェーン全体での温室効果ガス(GHG)排出量を30%削減することを目標に掲げています。私の頭の中はそのことがほとんどを占めていたのですが、いざ、COPに行ってみると、今まさに起きている気候変動による被害の対策と、そこへの先進国の投資を求める声がとても大きいと感じました。

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サントリーホールディングス 岩井 宏之氏。「飲み物の原料(ビールの大麦やお茶の葉など農作物関係)のサステナビリティ推進の業務をしています。普段の業務では気候温変動は、農作物への影響といった比較的長期的視点で考えることが多かったのです」と語る。

COP29のキーワードは「適応vs.緩和」?

佐座:ここからは、COP29の現地でよく目にしたキーワードについて、対話をしていきます。私が現地で最も目にしたのは「Pay Up」という言葉です。辞書で調べると、全額払い込むとか、有り金をはたくといった意味ですが、現地では「さっさと払えよ」というような少々荒っぽいニュアンスで使われていたと思います。

COP29の最終日には、気候変動対策のために先進富裕国が2035年までに年間3000億ドル(約46兆1900億円)の支援を行うとの目標で合意しました。この気候資金目標額は引き上がりましたが、グローバルサウス側からは「あまりに不十分で手遅れ」という批判が上がっています。実際、会場で会った人から「ヒマラヤの氷河が解けて、雨が降ってないのに洪水が起きている」といった現状も耳にしました。生活が今まさに脅かされ、生きるすべがなくなってしまっている人たちにとっては、すぐに動かないといけないという思いが、私たち日本人よりもずっと強いのだと感じます。岩井さんもそのことに言及されておりましたが、お金にまつわる課題について、どう感じましたか。

岩井:一番大きな問題は「額が足りない」こと。ですが、「そのお金をどう使うのか、それを誰がどう決めるのか」という点もフラストレーションになっていると感じました。先進富裕国は出したお金がちゃんと使われてほしいから、どうしても目に見えるものや自分が知っていることに投資が引っ張られます。一方、気候変動の問題は地域ごとに千差万別です。ですから、お金を受け取る側は問題をよく分かっている自分たちが使い方を決めたいと。それぞれの考えの溝が埋まらないところにフラストレーションがあると思いました。

佐座:日本電気は現地で「気候変動対策への投資効果を可視化するデジタル技術」を発信されました。佐藤さんからみていかがでしょうか。

佐藤:気候変動による被害への対策が今すぐの課題であることは、私たちも再度認識しなければいけないと思います。国際機関の方たちと話をしていると、資金は準備できていると言います。あとは、技術と支援していく仕組み、そしていかに今すぐ実践できるか、というところに課題があるのだと感じました。

佐座:もうひとつのキーワードは「アダプテーション=適応」です。もう何度も会話にでていますが、既に起きている気候変動の被害に対する対策のことです。一方で、「ミティゲーション=緩和」という言葉があります。これは、温室効果ガスの排出量を削減し、気候変動の原因を極力少なくするための策を指します。今回のCOP29は「適応vs.緩和」がうかがえたのではと思いますが、どうでしょうか。

津田:日立製作所のブースでは、洪水シミュレーションという「適応」と、データセンターの分散制御という「緩和」の両方の技術を展示しました。生成AI活用による需要増を背景にデータセンターの分散制御に皆さんの反応が集まるかと予想していましたが、洪水シミュレーションに多くのご関心がありました。最近話題の生成AI・データセンター周辺の「緩和」はどちらかというとグローバルノースの課題なのだと。やはり現場でステークホルダーの声を直接聞くことが大切だと強く感じました。

佐座:課題は地域によって全然違うということが分かりますね。COP24から日本パビリオンをみている荒木さんからみて、「適応vs.緩和」という視点で時代の変化を感じることはありますか。

荒木:去年くらいから「適応」の声が大きくなってきた印象があります。ただ、「適応」と「緩和」はvs.構造でもないのかなと思います。「適応」について考えていくと自然と「緩和」のことも考えていかないといけない。両方をいったりきたりしながら考えていかないといけない問題なのだと思います。

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「適応」と「緩和」はvs.ではなく同時に考えないといけないこと、という意見に対し、会場では多くの人がうなずく様子がみられた。

期待が集まる、日本企業の技術とは

佐座:日本パビリオンは大盛況だったというお話がありました。日本への期待の変化はあるのでしょうか。また、多くの国は、日本のどういうところに期待しているのでしょうか。

荒木:日本は残念ながら「化石賞」を毎年獲っていますが、現地にいくと日本の環境技術に対する期待度が高まっていることを実感します。本当に人がひっきりなしで、皆さん大変だったと思います。

佐藤:現地でお声を聞いて、事前防災を先進的に、かつ、長年やってきたことへの期待が大きいと感じます。日本として役割をきちんと果たしていくことで、国際貢献できることがあると感じています。

佐座:日本の中に暮らしているからこそ、気付けないことがあるかもしれませんね。外の声を聞くことで気が付く、日本が貢献できるポイントも多いかもしれません。

津田:それでいうと、日立製作所のブースに来られた方に、「日本の技術に期待すること」について答えてもらったんです。すると、デジタルへの期待が多かったんです。エネルギーやモビリティももちろんあるのですが、デジタルへの期待が大きいのは私たちにとって発見でした。うれしいことですし、日本全体で頑張っていかないといけないと思いました。

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日本に期待することを、エネルギー/モビリティ/インダストリー/デジタル/それ以外で、色のシールを選んで、自分の国に貼ってもらったボード。黄色=デジタルと、赤色=エネルギーが多いことが分かる。

佐座:これは意外でしたよね。皆さんのお話を聞いて、世界のさまざまな人に会うことはとても大切ですし、そこで得た熱をどうすれば日本でも共有できるのか、それも参加した私たちにかかっているのだと思いました。最後に皆さんの熱のあるメッセージをいただければと思います。

佐藤:私が一番印象深かったのは、ある専門家チームの方々が、今の段階で2040年までの温暖化の曲線はもう決まっていてブレないとおっしゃっていたことです。私たちは気候変動についてもう避けられないところに入っている。2050年を待つ話じゃないと感じたことを、皆さんにお伝えできたらと思います。

岩井:「緩和」と「適応」はvs.構造じゃないというのは、本当にその通りだと思います。COPは少し政治的に使われて、あえて分断を起こす側面があるように思います。企業はあまり気にせず、やるべきことに立ち返って取り組むことが大事だと感じました。

下野:COPは世界中から気候変動対策を議論するために集まってきている場です。そういう人たちと触れ合うと、日々の業務に埋もれていた自分の心が奮い立つのを感じます。また、現地で交流をすると、企業としての目標と活動を話せる備えがないと恥ずかしい思いをします。COPは自分自身のエネルギーチャージをする場であり、企業としての取り組みを再加速する場だと思います。

荒木:私が環境についてスイッチが入ったタイミングは、リオ地球サミットの時のセヴァン・スズキさんのスピーチを聞いた時でした。「どうやって戻すか分からないものをこれ以上、壊し続けるのはやめてください」といったスピーチでした。大きな節目である来年のCOP30に向けて、あのリオの時の熱量がまだあるのか、条約を締結したその時の期待に追いついているのかということは、自問自答しながら歩んでいかなきゃいけない。まだまだ努力できるところがあるなと思っています。

津田:一次情報にあたるということはすごく大事だと改めて思います。やはり、国内にいるとだんだんバイアスが作られていくんだなと。現地でいろいろなステークホルダーに会って、直接話を聞くことができる場がCOPです。そこでひしひしと日本への期待、日本の技術への期待を感じています。ぜひ、皆さんと一緒にプラネタリーバウンダリーを守る活動をできればと思っています。

佐座:COP29が終わったホヤホヤの熱を伺うことができました。本日はありがとうございました!

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※1 欧州連合の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」が24年11月7日に発表。
※2 COP…締約国会議(Conference of the Parties)の略。代表的なものが「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)」を結んだ約200カ国・機関が参加する、国連気候変動枠組条約締約国会議となる。1997年のCOP3は京都で開催され「京都議定書」が採択、2015年のCOP21では「パリ協定」が採択されている。その29回目の開催となる「COP29」が2024年11月11日~24日に、アゼルバイジャンの首都バクーで開催された。
※3 プラネタリーバウンダリー…「地球の限界」あるいは「惑星限界」とも呼ばれ、人間が地球上で持続的に生存するために超えてはならない境界線を示した概念。地球環境の破滅的変化を避けるための指針として活用されている。
 

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