ボトムアップで生まれる、新しい組織と働き方
電通クリエイターが創る、DEI推進のアクションとは?
2025/02/26
※この記事は、2024年11月29日「日経電子版」で掲載された記事広告の転載です。

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。
電通のクリエイティブ局では、経営層のコミットの下で社員が自発的にDEI(Diversity:多様性、Equity:公平性、Inclusion:包摂性)を推進し、さまざまな取り組みを進めている。現場はどのような思いでDEIに向き合い、どんな施策に取り組んでいるのか。施策を進めた結果、どんな成果がもたらされたのか。電通クリエーティブ局の兼崎知子氏、井戸真紀子氏と、DEIや女性の働き方に詳しいジャーナリストの浜田敬子氏が意見を交わした。
世界に2周遅れの日本のDEI
──近年、日本企業の間でもDEIを推進する機運が高まりつつありますが、実際にはどのような状況でしょうか。

浜田:DEI推進の必要性がいわれて10年ほどたっていますが、残念ながらほとんど日本の状況は改善しておらず、ジェンダーギャップ指数は世界146か国中で 118位(2024年)と、依然低い状況です。男女間の賃金格差は大きいままですし、大企業でも女性管理職比率が3割を超えているところはほとんどありません。その理由には「やらなければいけない」という議論で止まってしまっていたり、経営層が方針を決めても現場は腹落ちできずに具体的な施策にまで落とし込めていないという現状があります。DEI推進は確かに必要で、総論には賛成。けれども、現場にどう落としてアクションにしていくのか。この各論部分が難しく、推進の壁になっていると感じています。
また、DEI推進がなぜ必要なのか、その語り方も欧米企業では変化しています。今までは多様性によるイノベーションや競争力などの側面に焦点があたっていましたが、昨今、DEI推進は「人権の問題」として社会に対して説明されており、DEIを推進していない企業は差別を放置している企業と見られるようになっています。
もう一つ、「同質性のリスク」も注目されています。DEIが進まないと企業内の価値観や文化はどんどん同質化していく。同質性が高いと、風通しが悪く、下からの意見が通りにくくなり、不祥事を起こすリスクが高くなります。
──電通クリエイティブ局では、どのような課題を感じ、どのように向き合っているのでしょうか。
兼崎:私自身、DEIについて学んできましたが、「総論は賛成、各論が難しい」ことはとてもリアルに感じています。組織によって課題もちがいますし、さまざまなライフステージにいる社員全員の価値観を変えていくのはとても困難です。2021年に2CRP局の局長というポジションに就いたときに、まずはマネジメントする自組織を変えていけたらと考え、ジェンダーギャップ改善に取り組むことにしました。

井戸:管理職になったことで、組織の多様性を高めるためには、構造的・文化的な問題に対してアプローチする必要性があることに気が付き、前編 でもご紹介した通り、自局のDEI推進プロジェクトを立ち上げました。局員ヒアリングや調査を基に課題を抽出、全管理職でアイディエーションセッションを実施し、その後現場で活躍するクリエイターにアクションを企画してもらい、実行しました。外部有識者として浜田さんに勉強会もしていただき、プロジェクトが大きく前進するきっかけになりました。
──電通の社の方針はありながら、まさに「現場=各論」発で取り組みを始めたんですね。

現場発、電通クリエイターが企画したDEIアクション
──ここからは、先ほどのお話にもあった5CRP局のDEI推進プロジェクトメンバーの井戸さん、局長というポジションで2CRP局のDEI推進を行った兼崎さん、それぞれ2つの局の取り組みについて、具体的なアクション内容を紹介していただきます。まず、5CRP局では具体的に、どのようなアクションに取り組んでいますか。
井戸:プロジェクトで明確になった自局の課題を基に、現在は4つのアクションを実行しており、そのうち2つの取り組みについてご紹介します。
一つは、組織の管理職の多様性をドラスティックに高めるために導入した「ミライGM(MGM)」です。これは、現GMが自分と異なる性別/年代の社員を副GM(=MGM)に任命し、2人で部員の育成、組織運営を行うペアGM制度です。
MGMを導入することにより、局にとっては人材育成、組織運営においての視点を増やすこと、MGM本人にとっては、GMの主たるミッションを早期に経験してもらうことで、成長支援やキャリアへの気づきを獲得してもらうことを目的としています。

初めての試みで不安もありましたが、導入してからは想定以上のうれしい成果が多数ありました。「管理職という仕事への解像度が上がった」という声のほか、管理職に興味がなさそうと思われていた女性社員が、とても前向きにMGMに就任してくれたことで、隠れ管理職意向者を顕在化できました。また、寡黙でマネジメントタイプではないと思われていた人が「傾聴力、包容力が高くて、1on1がすごく良い」と部員から評判になり、本人さえも気づいていなかった新しい管理職適性の発見にもつながっています。
浜田:とても面白いと思います。まさに実用的で汎用性(はんようせい)のある施策ですね。育成だけでなく、ポスト削減により業務が増えすぎている管理職の負担軽減も兼ねている点も素晴らしいと思います。
井戸:もう一つ、誰もが働きやすい労働文化にするために、「働き方ポートフォリオ」というアクションも実施しました。これは、クリエイターが自身の実績をポートフォリオにまとめ開示するように、一人一人が理想とする働き方、生き方について「働き方ポートフォリオ」としてまとめ、共有することで、多様な働き方を認め合い尊重し合うことを目的としています。
子育てや介護中の人が、コアタイムをあらかじめ周知することができる、家庭内タスクの有無にかかわらず、夜や週末など自分自身が大切にしたい時間を知り合える、妊活中であることを知らせる機会にするなど、これまで伝えにくかった個人の考え方や事情が理解できるようになり、お互いの働き方、生き方を尊重しやすくなりました。

浜田:誰もが家庭の事情を抱える可能性はあるけれど、マネジメント側はプライベートの事情は聞きづらいですし、部員も共有しにくいですよね。その解決につながりますし、「事前に共有」できることでマネジメントが過剰に配慮することなく適切にアサインできるという点も良いと思いました。クリエイティブという職種に限らず、同じ課題を抱えている企業は多いです。MGMと同じく、汎用性のある取り組みだと思います。
兼崎:2CRP局には、私が局長を務める21年以前からDEIの取り組みに適した土壌がありました。局長に就任する直前、ある経営塾で「サクセッションプランニング」(幹部となる人財を計画的に育成する後継者育成計画)の概念を学びました。政府が掲げる「203030(30年までに管理職の女性比率を30%以上にする)」という数値目標を達成するだけではなく、計画的に人材を育成することの重要性を改めて認識し、それを具現化するアクションに取り組みました。
その一つが「女性3割会議」です。これは局の人材戦略会議の参加者の3割を女性にするというもので、女性管理職を積極的に登用するための現実的なサポート環境整備のアイデアを考える会議に変革しました。また男性管理職の評価時期における育児休業の取得希望についても、局内のリーダーたちの協力を得て、柔軟なサポート体制を整備することができました。
このほか、ハラスメント対策として「やってもいいこと」の明確化と発信をしました。「やってはいけないこと」だけでなく、逆の「やってもいいこと」を明確にすることで局員へのハラスメント意識の浸透をはかりました。また、DEIの知識を深めるための情報発信、社外の有識者を招いたワークショップの開催など、知識のアップデートや、課題を自分事化し意識に変えてもらうための体験の創出などにも取り組んでいます。こうした2CRP局独自の取り組みが奏功し、現在は局の女性管理職比率が25%、男性社員の育児休業取得率が100%を達成しています。さらに、DEI推進の視点をクリエイティブに生かしたプロジェクトやクライアント業務事例の創出にもつながっています。


浜田:局長クラスの方が問題意識を持てば、こんなにも変えられるのだということが分かりますね。現実的なフォロー体制、サポート体制を用意することは、女性管理職比率を高めるためにとても大切です。これは、フォローを受ける女性管理職のためになるだけでなく、フォローした社員の成長機会になります。もう一点、予算もかからず制度も変えずに小さく始めやすいところも素晴らしいと思いました。また、女性社員はマネジメントを学ぶ機会が男性社員よりも少ない傾向があるので、兼崎さんが経営塾を受講したように、会社がマネジメントを学ぶ機会を提供することも重要です。
局を越え、高まるDEI推進への熱量
井戸:DEIの取り組みは広がっており、「ふくサポ」や「DEI CARD」など、クリエイターが主体となり、さまざまな施策が行われるようになっています。さらに、dentsu Japan(国内電通グループ)の本部長・事業部長以上300人近くが参加する「DEIパーク」で一連の取り組みが共有されたところ、「大変感動した」「まだまだやれることはたくさんあると思った」と、DEIに対するエグゼクティブの熱量が高まっているのを感じています。

──最後に、浜田さんから全体を通しての感想をお願いします。
浜田:取り組み始めてからのスピード感に驚きました。社の方針はありながら、現場からの実験的な取り組みでボトムアップ型のDEIを推進し、成功している珍しいケースだと思います。個々の社員の納得感があって動くという企業文化や業種、業界のDEI推進にはこういったボトムアップ型がとても向いていますし、大いに参考になるのではないでしょうか。
著作・制作 日本経済新聞社(2024年日経電子版広告特集)