YOUは何見て日本へ? 成功事例に学ぶ訪日外国人向けSNS発信術
2025/02/28

ある企業のインバウンドチーム。メンバーたちが自社のアミューズメント施設に訪日外国人を呼びこもうと会議を行っています。
「2024年の訪日外国人数は3600万人を超えて、今年はさらに伸びそうだね」
「最近は、SNSで旅の投稿をよく見かける。私たちもSNS施策に力を入れないと」
「アカウントはどうしよう?国内向けにはInstagramとXは必須。海外向けだと加えてFacebook?YouTubeチャンネルも作った方がいいかしら」
「言語はどうする?英語は必須で、中国語もいるよね。あ、中国語といっても、簡体字や繁体字があるらしいから、どちらがいいのかな?韓国語でも紹介しないと。英語圏以外の人に向けて、タイ語とかでも発信した方がいいかも」
「投稿のネタはどうしよう?うちの施設の売りは、展望台から眺められるきれいな海だから、映える画像を撮って載せよう。あとは……近隣のホテルや旅館、海外の方に人気がありそうな寺社仏閣の情報も必要かな……」
「とりあえず、始めてみてから考えましょうか」
……1カ月後
「Instagramはフォロワーが増えないし、投稿にいいね!もあまりついていない」
「施設の写真は一通り上げてしまって、もうネタがないな」
「いろいろな言語の投稿をするのも大変」
「SNS施策は苦労の割に効果があんまりない。もうやめません?」

<目次>
▼多様化、細分化するインバウンド。旅の情報源はSNSが主流
▼情報発信にFacebookとInstagramは欠かせない!?
▼「映え」画像だけじゃない。外国人にバズる投稿4選
▼物事を「因数分解」すると、投稿するネタが増える
▼コメントやDMの返信から、コミュニケーションが生まれる
多様化、細分化するインバウンド。旅の情報源はSNSが主流
D2C X(ディーツーシー クロス)インバウンド事業部マネージャーの千葉です。D2C Xは、外国人スタッフを交えた総勢26人で、企業や自治体の海外向けマーケティング、SNS施策のサポートを行っています。この記事の冒頭では、「うまくいかないSNS施策あるある」を紹介しました。
訪日外国人マーケットが拡大する中、「SNSで情報発信して多くの訪日外国人を呼びこみたい」と考える企業や自治体が増えています。しかし、中にはせっかくSNSでの情報発信を始めても、なかなかうまくいかずにそのままフェードアウトしてしまうケースも散見されます。そこで本記事では、D2C Xが普段の業務で蓄積したノウハウから、効果的なSNS発信や運用のポイントをお伝えします。
その前段として、いま訪日外国人は、日本でどのように行動しているのかをお話ししましょう。訪日外国人の観光といえば、以前から、東京、箱根、富士山、名古屋、京都、大阪を中心とする「ゴールデンルート」が人気でした。それがいまでは、「ゴールデンルート」だけでなく、さまざまな地方に足を伸ばす旅行客が見られます。移動・宿泊のプランについて旅行会社任せだったのが、自分で手配する人も増えてきました。
単なる有名観光地の訪問や買い物をする観光以外に、キャンプやグランピング、レンタカーを使ったドライブツアーといった「体験」を重視する旅行客も増加しています。JNTO(日本政府観光局)が先頭に立ち、日本全体としてアドベンチャーツーリズムを押し出していこうとする動きがあります。
例えば、北海道や新潟で楽しむスキーやスノーボード、熊野古道のウォーキング、四国のお遍路、瀬戸内海のサイクリングなどを海外にアピールしています。今後は地方への周遊と体験型の旅行が増え、日本を訪れる外国人のニーズはますます多様化、細分化していくことが予想されます。旅のスタイルが変化する中、訪日旅行客は積極的に情報収集を行うようになっており、旅の情報源はウェブメディアやSNSが中心になっています。
日本を旅行するにあたり、SNSの利用が増えている背景には、ガイドブックやパンフレットには載っていないニッチでリアルな情報を得られることも挙げられます。
情報発信にFacebookとInstagramは欠かせない!?
訪日外国人向けのインバウンド施策としてSNSで情報発信する場合、まずやるべきことはターゲットとする外国人がどのようなウェブメディア、SNSを活用しているかを確認することです。SNSは、中国を除く国や地域では、FacebookとInstagramの利用率が圧倒的に高くなっています。海外ではFacebookで情報を調べる他、自分が得た情報の投稿が日本よりも頻繁に行われています。SNSの運用は、最初からあれもこれも手を付けるのではなく、まずはFacebookの英語版から運用を始めて、次にInstagramの英語版で発信する。言語は英語版をまず作って、次に中国語繁体字というように少しずつ拡大していくのが一つの方法です。どの国の旅行客に来てもらいたいのかターゲットが明確な場合、メディアの利用率は国によって異なるので、ターゲットとする国について調べる必要もあります。例えば、台湾とアメリカの方々がよく利用するSNSは下記です。
「映え」画像だけじゃない。外国人にバズる投稿4選
ここからは、観光情報をSNSに投稿するとき意識するポイントについて、私たちD2C Xが手掛けたFacebookの海外向け投稿でバズったものを例にご紹介します。今回はさまざまな切り口で観光コンテンツを発信している自治体が運営主体のアカウントの中からいくつか企業アカウントでも横展開しやすいコツを交えてお伝えします。
新潟県の公式Facebookから発信したJR飯山線の雪見旅の投稿です。台湾・香港の方々をターゲットに投稿され、4555いいね!を記録しました。「日本の四季」は、海外から注目されており、四季のない東南アジアの人々などは季節感のある風景を求めて日本を訪れる方が少なくありません。また、日本の電車は海外の旅行客に人気です。この投稿がバズったポイントとしては、幻想的な雪景色の中を走る電車の画像に加えて、どこから乗れるのかといった、飯山線の路線情報を紹介したからです。これは自治体のアカウントに限らず、Facebookの投稿は文章がしっかり読み込まれる傾向があるので、実用的な情報を入れることがポイントです。

こちらは、新潟県を流れる加茂川のこいのぼりを紹介した欧米豪圏をターゲットにした英語での投稿です。外国人は日本文化に大変興味があります。この投稿の文章では、「加茂川の鯉のぼりは約300年の歴史があり、河原に500匹のこいのぼりが泳いでいる」といったように具体的な数字を盛り込みました。定量的なデータを使って規模を分かりやすく伝えると、読んだ人がイメージしやすくなり、反響が大きくなる傾向があります。

この投稿は台湾・香港の方々をターゲットに熊本県・南阿蘇村の一心行の大桜を紹介した投稿です。日本の桜は海外で認知度が高く、SNSで注目されやすいネタの一つです。この投稿では、他の国や地域ではなかなか見られない、桜と菜の花のカラフルなコントラストの画像がバズり、1万いいね!を記録しました。この風景のように海外ではなかなか見られないものは注目される傾向があります。こちらの投稿も、一心行の大桜は樹齢400年で、高さが14m、見ごろは3月下旬から4月上旬といった具体的な情報を盛り込んで、関心を高めました。

最後は熊本県の黒川温泉街の投稿です。弊社の外国人スタッフが、旅館の看板の書体の面白さや、濃淡がついた石畳に感じる古き良き日本の面影に注目し、このスポットを選びました。特に欧米人は歴史的背景やストーリーを好む傾向があります。投稿文には、黒川温泉の歴史を記しました。この投稿には、約7500のいいね!がつき、約620件もシェアされた他、現地を訪れた旅行客が撮った画像とコメントが数多く寄せられました。
物事を「因数分解」すると、投稿するネタが増える
SNS運用を行う場合、すぐに息切れしてしまわないように、向こう3カ月の投稿計画は、最低限立てておく必要があります。投稿するために、「施設内の詳細を深掘りしよう」「とにかくフォトジェニックな画像で投稿しよう」「4Kやドローンの動画投稿をしよう」といったように一つ一つに力を入れてネタを探すケースが多く見られますが、それではすぐにネタが尽きてしまいます。
コンスタントに投稿を続けていくためには、紹介する対象を「因数分解」してみることが大事です。例えば、ホテルや旅館であれば、外観や部屋の様子を伝える他にも、スタッフの着物へのこだわり、料理を盛る器の種類、庭の植物の移り変わりなど要素を分解していくと伝えられるものはいろいろあります。そこから、スタッフのインタビュー動画を作っても十分ネタになりますし、庭に落ちている桜の葉の画像とともに、花見に関する投稿をするなど日常にヒントはあるものです。「映え」にとらわれず、視点を変えながら日々の出来事をSNS投稿につなげて、外国人旅行者とコミュニケーションすることが大切です。
また、投稿内容の出し分けも考慮すべき点です。韓国や台湾などアジアの方々は長い文章はあまり読まない傾向にあり、アメリカやイギリスなど欧米の方々はストーリーを好みます。同じネタでも、アジアをターゲットにする場合は、より色彩豊かなフォトジェニックな画像を用意して、文章をライトにする。欧米圏向けは、文章をしっかり書いて読み物として見せるといった作り変えを意識したいところです。
コメントやDMの返信から、コミュニケーションが生まれる
SNSを運用していると、投稿に対するコメントやDM(ダイレクトメッセージ)が日々寄せられます。それに対して、SNS担当者のリソースが足りないから対応しないというケースや、そもそもコメント欄を非公開にしているケースが多く見られますが、これは大変もったいないことです。
コメントやDMから旅行客の生の声を聞けるのは貴重な機会ですし、接客の課題が見えて顧客サービスの改善につながることがあります。たとえ言語に不安があったとしても、対応している姿勢を見せることで訪問・再訪してもらうきっかけにもなります。先ほど紹介した黒川温泉の投稿には、「来月行きたいが、どんな服装で行けばよいか」「熊本空港からどう行けばよいか」といったDMがあり、それに対して真摯(しんし)に回答することで、「この前教えてもらったので実際に行ってみたよ!」と現地で撮影されたユーザーが写り込んだ写真を送っていただくなど、新たなコミュニケーションが生まれました。私たちD2C Xが運用を任されているSNSアカウントでは、コメントやDMをとても重視しています。
今回は、訪日外国人向けSNS発信のポイントをいくつかご紹介しました。インバウンド市場は今後ますます加速していくことが予想されます。ていねいなSNS運用を行うことで、より多くの旅行客やリピーターの獲得につながるでしょう。社内でトライするのも良し、D2C Xのような企業と連携するのも良しなので、まずはぜひ、活用してみてください。