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GO Future グロースオフィサー、未来を語るNo.2

──小島GO、ビジネスプロデュースを、どう進化させますか?

2025/08/25

dentsu Japan(国内電通グループ)は、重点領域を切り開く事例創出を担う役職として、グロースオフィサー(GO)を設置しており、2025年度には、各領域から7人が選出されています。本連載では、電通が掲げる「真の Integrated Growth Partner(インテグレーテッド・グロース・パートナー)」を体現するGOたちの、未来に向けての視点と思考に迫ります。

今回登場するのは、ビジネスプロデュース領域を担当する小島理GO。長年にわたりクライアントと向き合ってきた経験を生かして、dentsu Japanのフロント機能の支援・強化に取り組んでいます。小島GOが思い描く次世代のフロント像とは。

小島理(こじま おさむ)
小島理(こじま ただし) dentsu Japanグロースオフィサー。電通入社後、雑誌局(現 出版BP局)を経て、2001年に営業局に異動。以来、数多くの業種・企業の担当として、統合キャンペーン立案、広告制作やメディア、イベントプロデュースからソーシャルメディアプロモーションまで、多岐にわたる現場でのプランニングおよびプロデュース業務をリード。18年のビジネスプロデュース局MD(マネージング・ディレクター)就任以降、6年間で異なる2つのビジネスプロデュース局のMDを経験。24年より現職

 

dentsuJapan横断の目線でフロント機能を捉え直す

──最初に、グロースオフィサーとしての現在の仕事の内容について教えてください。

小島:2024年にdentsu Japanのグロースオフィサーに就任して以来、ビジネスプロデュース領域を担当しています。

ビジネスプロデュースとは、その名の通り、ビジネスをプロデュースすること。その役割を担うのは、電通の場合でいえば、20を超えるビジネスプロデュース局であり、社のフロントとしてクライアントと向き合うビジネスプロデューサーたちです。

自分の仕事は、グループ各社のフロント機能をdentsu Japan全体として捉え直し、クライアント目線、現場目線、経営目線で最適化していくこと、進化させていくことだと考えています。

現在、仕事の内容は大きく三つあります。

一つ目は 、ビジネスプロデュース戦略室によるフロント部門の支援と強化です。組織横断的な立ち位置からの現場各局へのナレッジやソリューションの提供、マーケティングメソッドの進化への対応、経営戦略的な見地から新たなクライアントへのアプローチも行なっています。

二つ目は、クライアントポートフォリオの進化です。電通のクライアントは多岐にわたりますが、接点を持たない業界や企業も存在します。ところがグループ全体でみると、電通とは接点がなくても、電通総研のクライアントであったり、電通デジタルが仕事をいただいているケースなどが多様にあるのです。これらをグループを横断した視点で捉え直し、クライアントとの関係を進化させていきたいと考えています。

三つ目は、dentsuJapan全体のフロント部門の連携強化です。重要なのは、垂直的な連携ではなく、グループ各社がそれぞれの強みを生かしてフラットに連携することです。なぜなら、おのおのが多様な得意領域を持つグループ各社がフロントとなり、電通が後方支援を担った方が、クライアントへの提供価値が高まり、広がる場合もあるからです。

──グループ目線でフロント機能の最適化を考えるとき、垂直的な構造からの脱却が不可欠ということですね。

小島:その通りです。実は、私自身、電通に所属していたときにはそのことがあまり分かっていなかったんです。クライアントに向き合うことに集中するあまり、ともすればグループ全体でクライアントと向き合うという視点が欠けていました。グループを横断し俯瞰(ふかん)的に捉えられるようになったのは、この2年くらいのことです。

そうした自分の経験からしても、事業現場で日々邁進(まいしん)しているメンバーの意識は簡単には変わらないものです。経営側がいかに概念で説明しても、それだけでは現場はついてこないでしょう。ここで大切になるのは、たとえ小さくても実際の仕事の中で成功事例を積み重ねることだと考えています。それによって、現場は理解し、納得し、意識も変わっていくのだと思います。

小島GO

ソトモノであることの強みを生かす

──電通のビジネスプロデューサーをはじめ、dentsu Japanのフロントは、クライアントから見てどのような存在であるべきと考えていますか。

小島:常に言っているのは、「ソトモノ(外者)であることの強みを生かそう」ということです。

クライアントと一体となって、その一部になることが良いビジネスプロデューサー やフロントだと考える人もいるかもしれません。それは決して間違いではないのですが、社外の人間だからこそ、クライアントの思考や行動を客観的に見ることができますし、時にはクライアントさえ気づいていない課題を顕在化させることもできるのです。クライアントにとっても、長い目で見れば、そうした存在は貴重なのではないでしょうか。

──ビジネスプロデューサーをはじめとするフロントに求められるスキルとは。

小島:少し古くさく感じるかもしれませんが、ヒューマンスキル(対人関係能力)だと考えています。具体的には、人の心を動かすための三つのスキルを重視しています。

一つ目は、「意味を見いだす」ことです。

クライアントが抱える課題は、すべて異なります。しかも、その課題は常に新しいもので、誰も解いたことがないし、誰も答えを知らない。正解はないのです。だからこそ、既存の枠組みの中で答えを探すのではなく、そもそもなぜその課題が重要なのか、その意味を問い直すことが重要になってきます。課題の本質を見極める能力が求められているのです。

クライアントは私たちにオリエンをする段階で、大抵は答えの仮説を持っているものです。それに対して、私たちかすべきことは「なぜ、このようなオリエンなのか?」「クライアントが気づいていない別の仮説はないだろうか?」と常に問い続けることです。問い続け、意味を見いだせるかどうかで、私たちの真価が決まるのです。

二つ目は、「つなげる」ことです。

プロデューサーの重要な仕事の一つは、プロジェクトごとにクリエイターやマーケティングプランナーなど、人を集めてチームをつくることです。これまでのチーミングは、ともすれば「コレクト(集める)」という感覚が強かったのではないでしょうか。でも、これからは「コネクト(つなげる)」という視点が重要になってきます。人を集めるだけでなく、つなげることで、新たな意味や価値を生み出すことができるからです。

「コネクティングドット」という言い方がありますが、単にドット(点)の集まりではなく、ドットをつないで絵をかくようにチームをつくる、といったスキルが重要になってきているのです。

三つ目は、「バックキャスト(未来起点)」です。最初に目標とする未来像を定めて、そこからさかのぼって、現在やるべきことを考える、という仕事の仕方です。

現在を起点にフォーキャストで仕事をすると、どうしても確認事項や点検事項が膨大になりがちで、途中でゴールを見失ってしまうことさえあります。一方で、最初にクライアントと一緒に「ありたき未来」を決めて、そこからバックキャストで仕事をすると、制約なく自由な発想で仕事ができ、チームも自分もチャレンジングに動けるようになります。

物事を常に現在地から見て、どうしようかと考えるのではなく、たとえ届かなくても「理想はこれだよね」というところをまずはクライアントと共有して、「そのためにできることを考えましょう」という仕事の仕方ができることは、とても重要です。

小島GO

上に立つのではなく、前に立つ

──この10年間における社会やビジネスの変化をどう捉えていますか。

小島:いちばん感じているのはクライアントの変化です。人が設計・定義する「人手至上主義」からデータ駆動型の「データ至上主義」へとパラダイムシフトが進んでいます。

一昔前ならば、広告会社が生活者調査を通して発見した消費者インサイトをクライアントに価値提供していましたが、デジタルテクノロジーの進化によって、クライアントは多種多様で膨大なデータの保有者となりました。

加えて、今やジョブ型雇用のような形でマーケティング人材の流動性も高くなっています。外資系企業、プラットフォーマー、メガスタートアップなどをバックグラウンドとした転職マーケットが活性化しています。その結果、マーケティング部門に専門職を置くクライアントも増え、マーケティングスキルとビジネスナレッジが飛躍的に向上しています。

一方で、メディアの影響力も大きく変化しました。ソーシャルメディアの隆盛で、マスメディア全盛時代とはモノの売れ方が変わってきました。広告に接触すれば、そのうちの何割かの人が商品を買う時代から、買うことよりも体験することに重きを置く時代になりつつあります。

規模の大きいクライアントにとっては、新しい顧客が増えにくい時代になっています。いわゆるD2C(Direct to Consumer)ブランドと言われるような、新しい業態が顧客を増やしているケースなどを見ても、マーケティングが大きく変わってきているなと感じます。

――マーケティングのあり方が劇的に変化する中で、dentsu Japanとして、今後どこにチャンスがあると考えていますか。

小島:外資系クライアントでは、“End-to-End”という言葉がよく使われます。マーケティングが何から始まり、何で終わるか、という意味合いですが、それはクライアントによって違います。スマホから店頭だったり、商品から人の手だったりと。しかし、何で終わるかについては、広い意味では生活者や消費者、つまりクライアントにとっての「顧客」というのが一般的です。

では、何から始まるか? それについてこの10年くらいずっと考えている中で、結局は「顧客から始まり、顧客に終わる」という一連のループが正しいというか、望まれているマーケティングなのかなと考えています。

なぜかといえば、私たちは顧客を知ったつもりでいるけれど、実はまだまだ知らないことがたくさんあって、それを知ることができればマーケティングの視野を拡張できると考えているからです。

例えば、クライアントが自ら収集したデータからは、現在の顧客やファンのことは分かりますが、その外側にいる「未顧客」のことはなかなか知りようがありません。そうしたとき、パートナー企業あるいは第三者が持つデータに目を向けることで、未来の顧客を知るヒントを得ることができるかもしれません。

この例のように、クライアントが気づいていないことを、私たちが見抜いて、価値ある提案をできれば、そこにdentsu Japanのチャンスがあると考えています。

――そうした価値ある提案をするためにも、次世代の人材を育成することが大切かと思います。フロント部門の人材育成については、どのように考えていますか。

小島:電通をはじめ、dentsu Japanでは多様なプログラムで育成に取り組んでいますが、私はマネジメントというよりも、変化に対して抵抗感やおびえがある人がいるとしたら、その背中を押してあげることで育成に貢献したいと考えています。

――「背中を押してあげる」とは、具体的にどのようなことをするのですか。

小島:概念でいろいろな話をするよりも、実際に仕事の中で一緒に何かを乗り越えることによって、その人の変化に対する抵抗感やおびえを取り除いてあげることができるなら、それが背中を押すことだと思っています。その意味では、マネジメントというよりは、リーダーシップに近いのかもしれません。

グロースオフィサーという立場で私が現場に降りていって「一緒にやろう」と言っても、現場はやりづらさを感じることもあるでしょう。たとえそうであっても、マネジメントとリーダーシップのバランスの妙の中で一緒に仕事をすることで、相手に安心感を与えられたなら、その人がハードルを一つ跳び越えるきっかけになれたなら、いいなと思っています。

結局は、上に立つか、前に立つかの違いなのだと思います。私の思いとしては、上に立つのではなく、前に立ちたい。そんな仕事の仕方ができたら、すてきだと思っています。

――最後に、今後のグロースオフィサーとしての使命や役割についてどのように考えていますか。

小島:dentsu Japanのグロースオフィサーは、AIやコンテンツ、リスクマネジメントなど、それぞれ専門スキルを持って、社の機能として立っています。その中で私が担当するビジネスプロデュースは、果たして専門スキルなのかと自問自答することがあります。

でも、これが専門スキルと呼ばれるものだとしたら、実践を通じた形式知みたいなものを、未来に残す努力はしたいと思っています。

テクニック論やスキルの先進性はもちろん大切ですが、最後は電通をはじめとするグループ各社の歴史が育んだ哲学というか、かつて私が電通の先輩に憧れたように 、DNA的なものの現代的な新解釈が大切なのかなと考えています。

小島GO

自身が電通のビジネスプロデュースの現場にいた当時は、グループ全体を俯瞰(ふかん)した目線を持つのがなかなか難しかったと語った小島GO。だがその経験は、現場の気持ちに寄り添いながら、新たな視点への気づきを与える現在の取り組みに生かされている。「コレクト(集める)」から「コネクト(つなげる)」へというチーミングのスキル一つを取っても、そこに目指すべき次世代のフロント像を感じとることができた。
 

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