空を飛ぶ方法と、アクティブラーニングの関係性

倉成 英俊
株式会社クリエーティブプロジェクトベース
教育×クリエイティブで、日本のオリジナルな教育を面白くするために。
コピーライター・アートディレクター・クリエイティブディレクター・マーケターなどが集まって、電通社内に設立した「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」。設立10周年を記念して、メンバーそれぞれが教育に関わってきた中での発見や、感じた変化をリレーコラム形式でお届けします。

まずは、この研究所の誕生が決定する10年前の朝へタイムスリップ
僕はもう電通社員じゃないので昔の正確なスケジュールがわからないけれど、おそらくあれは、2015年9月初旬の月曜日。この研究所が生まれることが決まったのは、その日の朝、みんなが出社する前でした。
7時30分、デスクから役員秘書に電話。「一瞬で結構ですので、今日、O役員の時間をいただけるところはありませんか?」
8時から10分だけOK、という返事をもらい、Wordで打ったA4の1枚をプリントアウトして役員室へ。その紙を前に、話を切り出します。
「教育の研究所を立ち上げさせてほしいのです」と。
広告は見られないと意味がない。なのでこの業界には、見る人の好奇心を一気に増幅させるスキルが蓄積されています。また、クライアントの課題に対し、たくさんの仮説を立てて、検証、実行し、解決していくという習慣があります。
このような、広告業界に蓄積されたさまざまな知見は、答えが一つではない教育をしようという「アクティブラーニング」の流れに、大きく寄与することができると思うのです、と。
そして、もう一つ、電通には教育に生かせる大きな宝が。それは、通称クリエイティブテストと呼ばれる、クリエイティブ局の配属者を決めるための選抜試験。自分が実際に受けた問題から例を引くと、「1週間が8日に増えたらその1日何をしますか?800字で書きなさい」「彼女、または彼氏とケンカしました。絵だけで謝りなさい」「朝起きたらヘビになっていました。良かったことを3つ、悪かったことを3つ書きなさい」など。答えが無限にあり、発想力と客観性が問われる。これは、現代の学校教育が必要としているものに応用が利く。面白いし、ニーズがある、と注目していたのです。
「いいよ」。O役員は即答でした。ただし、「これからの広告業界はクライアントの課題を解決するだけではなく、その課題自体も一緒に探す時代に入っていく、という1行を趣旨文に加えるなら」と。それは、自分たちとしても望むところだったので、はい、むしろ、ぜひ、と答えました。
それから1カ月半の準備を経て。2015年10月15日、「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」は誕生しました。
メンバーは、教育学部を出ていたり、週末少年野球の監督をしていたり、ボードゲームを開発していたり、子ども向けにワークショップを行っていたりと、全員、何かしら教育に携わったことがある社員たちが集結。
ちなみに僕の教育との関わりはというと、電通の社会貢献活動「広告小学校」を仕事として手伝いつつ、一方で、個人的に教育のリサーチプロジェクトを開始していました。その名は「伝説の授業採集」。前出の、正解が一つでないクリエイティブテストの面白さに魅了されて、これと同じようにすごく面白くて、かつためになる授業や問題を、古今東西から収集して、独自に分析するというものです。
過去、現在、国内、海外、学校、企業研修、家庭内の教育、フィクションの中の教育などからリスト化し、視察に行ったりもして、好奇心をくすぐられる教育の法則を発見。そのルールを応用して、「面白くて、ついやってみたくなって、いつの間にか学んでいる」問題を出題する、「変な宿題」というプロジェクトを始めていたところでした。
本当は、「株式会社変な宿題」を週末起業しようと思っていたのですが、周りに話すと、一緒にやりたい、という声もあり、悩んだ揚げ句、ここは思い切って、会社でやろう!と、月曜の朝イチで役員室に駆け込んだのでした。
というわけで、僕の場合は、変な宿題。他のメンバーの場合は、それぞれの興味やバックグラウンドを生かして、自分がいいと思うプログラムを徐々に作っては「こんなのどうだろう」と、世の中に提唱する。そんな形でやっていこう、とスタートしました。
設立時、電通が教育事業に参入、的な感じで書いたメディアもありましたが、実際は、こんな感じ。だから、全然違うんです。
最近反響が大きかった「こんなのどうだろう」提案3つ
あの朝から10年。僕とメンバーのみんながまいた種が、たくさん発芽し、いろんな実をつけてきました。
誰かに言われてではなく、主体的に始めると面白いのは、プロジェクトが成長して枝が伸びていくその先が、自然とオリジナルな方向に、伸びていくからです(有機栽培ですね)。
僕の場合だと、「変な宿題」「伝説の授業採集」(2022年に出版)の他には、佐賀県の伝説の藩校を復活させた「弘道館2」、早稲田の社会人コースでの連続講座「逆塾」「発想力7レッスン」「風向き研究室」、昭和女子大学との「先生による、先生のための、先回り研修会」(略して先3)、米沢の市民大学での「なせばなるクラス」、などこの研究所がスタートした10年前には予想のしようもない、いろんなプロジェクトが生まれました。
加えて、小中高大学での授業や、企業研修、ワークショップや講演を含めると、相当な数。教育の門外漢へのご依頼。本当にありがとうございます。
今、さらっと「門外漢」と書きましたが、実はこれが鍵のようです。門外漢だからこそ、気づくことがある。門外漢だからこそ、言えることがある。
せっかくの10周年記念コラムですから。そんな門外漢が「こんなのどうだろう」と提案したら、反響が大きかったものを、3つ書き記しておきたいと思います。
その1:アクティブラーニングの定義にまつわる、こんなのどうだろう
実は、そもそもアクティブラーニングという言葉自体に疑問を持っていました。学ぶという行為は、アクティブ以外にあるのか?と思っていたから。だけど、教育が諸事情により硬くなっているとしたら、ラーニングを再度アクティブにする必要はある。ならばそのお手伝いをしたい。
そこまではいいとして、問題はアクティブラーニングの和訳です。「主体的で、対話的で、深い学び」とされていますが、さて皆さんは、どうお感じでしょうか?

学校の先生は言いにくいかもですが、実業界に軸足を置く門外漢としての感覚では、違和感あり。
「主体的」については◎。もちろん、異論なし。
しかし「対話的」である必要があるのか?座学で先生の話を聞いて、頭の中で考えが活発に巡っている状態。対話はしてなくても、これは超アクティブでは(読書や映像視聴もですね)?
最後の「深い学び」についても異議あり。広く、浅く、学ぶこと。これってとっても大事だと思うんです。何より楽しい。レストランのビュッフェみたいに。あれもこれもと、ちょっとずつ皿に乗せて(結局食べ過ぎる)。そうやっているうちに、いつか、これは!というものに出合ったら、そこで、とことん深く学ぶ。興味があるから、自然と深くなる。やめろと言われても学び続けるかも。それがアクティブってものじゃないかと。
対話的でないとダメ、深くないとダメ、って決めちゃったら、主体的でなくなって、ノットアクティブになっちゃう。
上に出したスライドは、先日、150人以上の研究会での講演で、投影して問いかけたもの。文科省の方もいらっしゃいました。さて、教育のプロの皆さんは、どちらをアクティブと感じたでしょう(想像にお任せ)。
別の会では、こんなタイトルで講演しました。
「Are you 主体的で、対話的で、深い学びをしてる大人?」
現代の大人で、主体的で、対話的で、深い学びをしてる人がどれほどいるでしょう?そう投げかけると、会場は、水を打ったように静まり返ります。大人もできてないのに、子どもたちに言うのは、良くないですよね。
だからね、自分たちも率先してやりやすい、Bの方がいいじゃないかって。ビジネス界も、クリエイティブ業界も、いい感じに仕事をされている方々は、みんなBですよって。そしたら、先生たちの顔も軽く明るくなり、メモを取るペンが、再び動き始めるんです。アクティブにね。
その2:VUCAの時代の学びについて「こんなのどうだろう」
現代は、VUCAと言われる、先が見えない時代です、って皆さんよく言いますよね。だから、これまでの正解が通用しないと。
そもそも地球が誕生して以来、先が見えている時代があったのか?ずっとVUCAじゃん、と僕は思ってしまいますが、いずれにせよ、VUCAだとして。じゃあ、どうするか?って、あんまり答えてくれる方はいないです。
だからアクティブラーニングだ、だから探究学習が大事だ、自分から答えを出せるようにするのだ、と言われるけれども、そもそも先生たちが(先生でなくても)そんな教育を受けてないので、教えられない、と言われる。または、海外の方法や事例の引用。つまり自分たちで考えてない……。まねごとだからうまくいかない……。
では、ここで問いましょう。
Q. VUCAの中で、先生、または大人が、子どもにできることは?
あなたの答えはどうですか?それは国やOECDがなんと言おうが関係ない。だって専門家も未来を予測できないんですから。そして、正解は一つじゃない。つまり、間違いもない。
なんて、読んでいるうちに、あなた独自の解は出たでしょうか?
僕はこう答えています。

いろんなことを。面白く。子どもたちの頭や心の引き出しに、入れてあげることではないでしょうかと。
先のことはわからない。でも、子どもたちのそれぞれの人生の中で、そのときの状況に合わせて、大人たちが授けた点と点が結びついて、線になる。つまり、独自の答えをそれぞれが出す。
だから、浅く、広く、面白く。と。
皆さんも大好きなスティーブ・ジョブズも同じことを言っていますよね。Connecting the dots. と。点と点が思いもよらない形でつながって線になり、何かが生まれる、って。
僕自身、学校で教えてもらったことが、生きています。全ての教科、学校での活動、そして友人たちとのいろんなこと。それが自然とつながったり、または自分で意図的につないで、今の仕事、今の自分がある。皆さんも同じでは?
実は、学校の勉強は、社会に出てすごく役に立つ。だから、好きなことを仕事にしたい人は、学校の勉強、やっておくといいよ、と、若い人向けに話すときは必ず言うようにしています。星座のように、知識がつながっていくから、と。だから、先生たちには感謝しているんです。特に、記憶に残るように、面白く幅広く教えてくださった方々には。

空を飛ぶのに必要なことが、これからの社会に大切!?
最後の3つ目は、魔法使いに教えてもらった「こんなのどうだろう」です。
人類ってみんな魔法使いだと僕は思っています。おいしい料理を作る。すごい技術を開発する。世界初の企画を立てる。プロはみんな魔法使いです。そして、先生は、子どもたちに知恵を授ける魔法を持っている。すごい。
最近の講演では、そんな話をしつつ、最後に、僕が勝手に慕う魔法使いの大先輩から言葉を引用します。その方は、緑色の服を着た、永遠の少年。ピーターパン。
ピーターパン先輩は、ある夜、ウェンディとその弟を、ネバーランドに行こうと誘いますよね。「どうやって?」「飛ぶのさ」と。
そこで先輩は空を飛ぶ方法を話します。ここでクエスチョン。
Q. 空を飛ぶのに必要なことは、ティンカーベルの魔法の粉と、あと一つ、何でしょう?
みんな子どものころ、映画を一度は見ているはずなのに、正解者は今まで1000人中1名(アメリカ人)だけです。あなたは、わかりますか?
正解は、こちら。

このセリフ。日本、いや人類の未来への、大いなる提言だと思うんです。
大人の皆さん。すてきなこと、考えていますか?
企画書にすてきなこと、書いてますか?会議で、すてきなこと話してますか?人生のプランにすてきな構想、入れてますか?
この話をすると、先生方からの反響が大きくて。広島の小学校では校長室に書いてあるそうです。青森の中学校ではトイレにも貼ったとか。
今、僕らは、すてきなことを考える能力が問われている。そう考えています。
こんな企画をやったらすてきだな、こんなことが実現したらすてきだな、こんな社会になったらすてきだな、と思い描くこと。つまり、それぞれの「こんなのどうだろう」が問われている。
みんなで、すてきなことをたくさん考えて。より自由に、より高く、空を、飛びたい。
10年間、たくさんの方とご一緒してきて、ますますそう思っています。
次の「こんなのどうだろう」。ぜひ一緒に。
アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所ウェブサイト
https://www.konnano-dodaro.jp/
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著者

倉成 英俊
株式会社クリエーティブプロジェクトベース
代表取締役/Creative Project Director
2000年電通入社、クリエイティブ局に配属以降、広告のスキルを拡大応用し、各社新規事業部とのプロジェクトから、APEC JAPAN 2010や東京モーターショー2011の総合プロデュース、佐賀県有田焼創業400年事業など、さまざまなジャンルのプロジェクトをリード。2014年個人的B面を持った社員たちと電通Bチームをスタート。2015年アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所設立。2020年7月1日Creative Project Baseを創業。

