世界中の人の名前が「山田太郎」になったなら
教育×クリエイティブで、日本のオリジナルな教育を面白くするために。
コピーライター・アートディレクター・クリエイティブディレクター・マーケターなどが集まって、電通社内に設立した「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」。設立10周年を記念して、メンバーそれぞれが教育に関わってきた中での発見や、感じた変化をリレーコラム形式でお届けします。

自分の子どものために作った「山田太郎」ワークショップ
アートディレクターの本田晶大です。私は、広告デザインの仕事をしながら、研究所ではワークショップなどを開発・実施しています。ワークショップの開発をするきっかけになったのは長男が5年生、長女が1年生になる11年ほど前のことでした。子ども2人の思考を少しでも刺激したいという思いから考え始め、精査を重ねながら今に至ります。
アイデアを出すことの楽しさ、視点を変えることによる発想の広がり、意見を出し合うことで完成度を上げていくこと、そしてそれを人前で話すこと。そんな広告をつくる上でのさまざまなスキルは、子どもの成長にも不可欠だと考えており、幼少期から伝えたいと思っていたのです。
普段の子育ての中で、子どもたちに遊びとして出題した問題の一つに「世界中の人の名前が山田太郎だったら」というものがあります。
名前が山田太郎だけになったら「山田太郎さん」と呼ぶと、全ての人が振り向いてしまいます。一人だけ振り向かせるにはどうすればいいのか?それでは、特徴を加えてみるのはどうだろう?
「りんごが好きな山田太郎」「サッカーが好きな山田太郎」「背の高い山田太郎」など、ちょっとだけ特徴を加えると、個性的でオリジナルな「山田太郎」になるわけです。

「山田太郎」を応用したらこんなプログラムができました
アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所発足当時、私はメンバーではありませんでした。週末、家でくつろいでいると、妻がプレスリリースを発見。ちょうどその頃、私はアクティブラーニングという言葉に興味を持っていました。
電通にアクティブラーニングに関する研究所ができるという情報は寝耳に水で、その場で面識のなかった当時の所長の倉成に社内メールで連絡をし、気づけば入所することになったのです。
入所後間もなく高校生向けにデザイナー視点でプログラムを開発することになりました。そこで「山田太郎」をアレンジし「誰でもデザイナーになれる授業〜自分を売りこむ名前デザイン」というワークショップを開発しました。
それは、自分の名前の文字に特徴を加えて、世界で一つの自分の名刺をデザインするというもの。特徴は「好きなこと」「見た目」「特技」「将来の夢」「嫌いなこと」など、なんでもOK。
出来上がった名刺を使って最終的に名刺交換をすることで、相互理解と社会性も獲得してもらうことを目指しています。子ども用に作った山田太郎の問題を、高校生用に成長させることができ感無量でした。現在このプログラムは、小中高大の学生はもちろん、社会人の研修にも活用されています。
私がプログラム作りで大切にしていることは、考え方のプロセスを段階的に可視化できるようにすること。階段を一つ一つ登るように考え方も一つ一つ積み上げることにより完成度の高いアイデアが生まれます。
考え方の可視化は、幼稚園児や小学校低学年の子がアイデアを広げるのにとても有効だと思い、どのワークにも入れるようにしています。また、実は大人にもとても有効であることがわかってきたのです。
大人向けに研修を実施する中で発見がありました。そもそもアイデアを広げる、精査する作業は普段の生活ではなかなかないことのようで、プロセスを可視化する体験を求めている人が多いことを知ったのです。
最近は子ども向けのワークショップに参加した保護者に考え方のプロセスの話をすると、「なぜ学校では考え方を教えないのか」と聞かれることが多くなりました。先生方ご自身も教わった経験がないため、子どもに具体的に教えるのが難しいのではないか、と考えています。
子どもたちはもちろん、大人たちのためにも、「考え方のプロセス」を学べる場を提供したい、とより強く思うようになりました。


誰でも参加できて誰も否定されないワークショップを
10年近くワークショップを実施していると、いろいろなところから依頼されることもあり、商店街のイベントや、企業が運営するクリエイティブスペースなど、不特定多数の方を対象に実施することもありました。
そこでの保護者からの感想に興味深いものがありました。「学校では総合の授業などで答えのないものを求められるため、どのように考え答えを出せばいいか子どもは困っている。考え方を教えてくれる今回のワークショップはありがたい」とのこと。私のプログラムは考える順序を意識しながら考え方を理解してもらう作りになっています。
また都内のピアサポートセンター(ASDやADHDの若者を対象とした当事者が運営する施設)や都内の養護施設(小学生の女子を対象)で実施した際には、「就労準備をしている参加者にとって、デザインはハードルが高いと思われるが『誰でもデザイナーになれる授業』とハードルを下げたことで、普段は参加しないような子も参加することができた」といったお声をいただきました。
何を描いても否定されることがないので「誰でも参加できる授業」となったようです。答えのないオリジナルのものを作るので、否定することはまったくありません。全ての答えが正しい。私は、そう思います。

発達障害児の発想力と考える力を成長させるアプローチ
私の妻は小児科医で小児神経を専門としており、クリニックには発達に特性がある子も多く来院します。クリニック内では発達に特性がある子もない子も分けず、受付や待合で診察を待ちます。
そのクリニックでもいくつかあるワークショップを定期的に開催していますが、発達に偏りがある子もない子も関係なく参加しています。中にはソーシャルスキル的な効果も発揮できるワークショップもあり、他の医療機関から取り組みと効果についての講演を依頼されることも増えてきました。
当初自分が想定していた効果だけではなく、参加者や保護者、スタッフの方々が感じてくださる新たな効果を知り、プログラムの持つ可能性をもっと多くの方に知ってもらいたいと思うようになりました。
2026年2月7~8日に山形で開催された第12回日本小児診療多職種学会(※)では「発達障害児の発想力と考える力を成長させるアプローチ〜自分を売り込む名前デザイン」というテーマで、ワークショップの効果と可能性を医療や福祉、教育関係者に向けて発表しました。
※日本小児診療多職種学会=
医療だけでなく福祉、教育など多様な専門職が連携・相互理解を深める目的に開催される学会
また、学会では個別にブースを設け、まず全国の方に知ってもらうことを目的に教材や実際の事例を展示。ワークショップの実施依頼を募集しました。発表を聞いて興味を持った団体から相談を受けながら、実施に向けて準備を進めています。ご縁があればどこでも出張ワークショップに伺います(要相談)ので、ご興味のある方は研究所のお問い合わせフォームからご連絡ください。


※下記3つが実施できるプログラムです
■自分を売りこむ名前デザインワークショップ→名前に特徴を加えて世界に一つのオリジナル名刺を作る
■りんごがデザインの全てを教えてくれるワークショップ→誰かのためにその人が喜ぶりんごを開発する
■無表情と6表情の絵本制作ワークショップ→感情を可視化する絵本
アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所ウェブサイト
https://www.konnano-dodaro.jp/
関連する連載はこちら:アクティブラーニングこんなのどうだろうレポート
著者

本田 晶大
株式会社電通
2CRプランニング局
アートディレクター
武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒。アートディレクター。最近では小児科クリニックの内装設計から運営コンセプトまでをクリエイターの視点から総合プロデュースする。自ら考え、発想することが子どもの健全な心と体の発達に必要不可欠と考え、独自のクリエイティブプログラムなどを多数提案。「みくりエイティブ」名で絵本のイラストも手掛ける。



