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アクティブラーニングこんなのどうだろうレポートNo.4

自分に自信が持てない20歳のためにつくった自己発見法 高崎商科大学編

2017/03/07

電通総研アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所は、2015 年10月15日の設立以来、さまざまな学校で先生たちとユニークな共同授業、実践授業を行ってきました。

授業コンテンツを一方的に提供するのではなく、その学校、そのクラスが一番 「アクティブ」になる形を、その都度教育のプロである先生たちと模索。毎回オリジナルな方法とドラマが生まれます。担当した研究員がその模様をレポートします。

この1本のメールが全ての始まり

当研究所では、外部から問い合わせがあればお会いして、われわれがどのようなお手伝いができるか話した上で授業内容を決めていきます。今回の自己発見法は高崎商科大学の教務課の方から倉成英俊所長へのメールで始まったプロジェクトです。

倉成様
私の中で考えていたことをまとめてみました。
(とはいえ長文で、すみません)

就職課で学生と接する中で多い相談は「自己PRって言われても、そんなものないんですけど…」というものです。これが一番苦しいのです。相談されて「自分を素直に表現すれば良いんだよ」というのは無責任ですし、他人である私がその子の生い立ちを聞いて、「もしかしたらこんな部分があるんじゃないの?」と言うのも、下手をしたらその子の人生を台無しにしてしまうすごく怖いことだと思っていました。

面接についてもそうです。入室、着席、話し方、身振り手振り、退室、言葉遣い、果たしてこんな決まりきった型を教えることがその子の良いところを伝える役に立つのか・・・。でも、何かしらの「フレーム」を伝えることしか私にできませんでした。いや、もしかしたら「フレーム」どころか「(私の勝手な)答え」を押し付けていたかもしれません。

これを言うと自分自身の当時の仕事を否定することになりますが、学生自身が自分で自分の良いところを見つけられて、学生自身がそれを自分の考え方で表現できることが、つまらない就職活動を意味のある面白いものにするのではないかと思うのです。だって、どこの誰だかが描いたマス目に自分自身の断片を当てはめながら、クロスワード的にできた自分を表現するなんて拷問ですよ、ほんと。それに、答えなんてないですもん。

そのためには就職活動参考書のようなつまらない「フレーム」ではなく、自分自身の「マイフレーム」をつくれるようになる「フレーム」が必要なのではないか。その「マイフレームのためのフレーム」づくりには、従来の就職支援の枠組みから出ることが求められるのではないか。「アクティブラーニング(仮)」的な要素がそこにヒントを与えてくれるかもしれないと考えています。

メール107本、打ち合わせ6回

20歳って急に大人になっていく自分に違和感があり、立ち位置が見えなくて不安になったり、自立しろと言われてもどうすればいいか、わらにもすがりたい時期だと思います。

この学生たちの相談に真摯に向き合い答えを導き出そうとする熱い気持ちに答えるべく、倉成所長と共にお会いし課題づくりの打ち合わせをすることに。そこで出した答えは、既存の就職本や自己啓発本にない自分を再度見直し、長所を発見できる課題「世界初の自己発見法」を開発することでした。既存本はなかなか読んでみたいと思うものがないですからね。

所員10人がそれぞれ企画を持ち寄り、課題400案が集まりました。つまり400本の新しい自己開発の課題が出来上がったことになります。そこから教務課の方々と107本のメールと6回の打ち合わせを重ねて、ついに課題が完成。

完成、世界初の自己発見法

課題は一つでなく多角的に自己発見をしたいので5案用意、実行日は大学の夏休み期間の9月2、3日の2日間で午前9時~午後5時17:00までとかなりハードなスケジュール。募集形式で学生を募り、ひそかにやりたいということで20人程度に絞ることにしました。学生たちには中途半端な参加をさせないよう参加理由を書かせて選抜形式に。すると、さまざまな参加表明が寄せられました。

 

9月2日9:00アイスブレーク:自分を○○に例えると

(出題者:大山徹研究員)

今回の課題構成で気にしたのは、学生が2日間を飽きずに取り組めるように構成すること。

STEP1から徐々に自分の本質を出さなければならない構成にしているので、最初から気楽に案を出せるよう、STEP1の前にアイスブレークを入れることにしました。「自分を○○に例えると」は、10問の○○を用意し、間髪入れずに答えてもらいました。これが大当たり、場の空気が一気に和みました。

「わたしは、動物に例えると○○です」の出題に、ある学生は、「わたしはシーラカンスです。とても希少価値があるからです」と答えました。

 

9:50 STEP1:赤の他人に聞いてみる

(出題者:大山研究員)

自分はどんな人間なのか全くの他人に聞く課題。自分はどう思われているかギャップを知ることで自分の違う面を発見します。隣の人や、大学構内の掃除のおばちゃん、親に電話をしたり、なんとSNSで知り合った顔を知らない友達に連絡して自分を再発見する学生も。

 

11:30 STEP2:私のネガティブ買ってください

(出題者:森口哲平研究員)

自分のコンプレックスは短所? 他の人にとっては長所になるのでは? 自分のコンプレックスに対してお金を出してでも欲しいと思う人はいるはず。ではいくらで買ってくれるのでしょうか。

「感情が顔に出ない」コンプレックスになんと4億円の値がついて落札されました。

 

15:00 STEP3:2時間、旅をしてきてください

(出題者:尾崎賢司研究員)

旅は趣味趣向が顕著に表れます。どこに行くか何を見るか何を体験するか、旅にはさまざまな物語がつきもの。さてどんな旅を経験してくるか。では2時間で人に自慢できる旅をしてきてください。

ある学生は、開園から8カ月で9万人の来場者を集める、高崎が誇るケルナー広場を旅先に選びました。その時の写真が以下。

 

9月3日9:00 STEP4:隣の人と結婚してください

(出題者:本田晶大研究員)

隣の人といきなり結婚することに。カップルはさまざま、もちろん同性も。結婚するということは両親に結婚のあいさつをしなければなりません。

お互いのことを話し、相手のいいところを理解していざ両親にあいさつ。両親役は電通チーム。「娘のどこが好きなのかね?」「将来の夢は?」「そんな中途半端じゃ娘はやらん」。厳しい言葉を浴びせられながら自分の本心や相手を思いやり、結婚の許しをもらっていました。

 

13:00 STEP5:自分を育てるならどう育てる?

(出題者:伊東美晃研究員)

自分のことを分かっているのは自分だけ。自分が親になって自分を育てることになったらどのように育てますか? 一番自分の得意なことで育てるか、弱点を克服しながら育てるか、じっくり自分を見つめ直し自分プロデュースを考える学生たち。

 

大人が本気だと学生も本気になる

このように2日間の課題は無事に終了しました。世界初の自己発見法はいかがでしたか?学校関係者から問い合わせを頂くときは、ほとんど教員の方が多いのですが、今回は教務課の職員の方からの問い合わせでした。

2日間の課題の修了後、お話を聞くと、「この2日間うまくいくか心配でしたが、倉成所長や研究所の方々が学生の意見を全て肯定してくださるのがありがたかった。それにより学生たちの表情もゆるみ、活発に発言してくれた。学生たちの生き生きした表情を久しぶりに見ることができ、学生もとても楽しんでいたけれど、僕たちも楽しむことができた。僕たちが楽しめていれば学生たちも同じように楽しむのだと分かりました。ありがとうございます」と言っていただきました。

こちらこそ、大人が真剣にやれば学生たちも本気になるのが分かる貴重な経験をさせていただきました。ありがとうございます。最後に学生のアンケートを紹介します。

Q:全体を通じて、感想(新たな自分発見など)を記入してください。

「世界初の自己発見」をテーマにした今回の電通ワークショップですが、2日とも驚きの連続でした。全てが初めての体験でした。先が見えないワークショップは不安と疑問だらけでしたが、電通の皆さんと、ユニークなテーマの自習が、不安を消し飛ばしてくれました。

この変なワークショップで、私はまだまだ伸びる可能性と、考える知識の柔軟さ、そして視点の多様さを発見しました、この経験は、私の中で貴重な財産になると思っています。(とても面白かったので、あと数回は電通のワークショップを経験したいですね)