就活とか、人生のいろんな場面でも、
今日みたいにたくさん考えるんやで
大阪府立金岡高校
2017/01/31
電通総研アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所は、2015年10月15日の設立以来、さまざまな学校で先生たちとユニークな共同授業、実践授業を行ってきました。
授業コンテンツを一方的に提供するのではなく、その学校、そのクラスが一番「アクティブ」になるベストな形を、その都度教育のプロである先生たちと模索。毎回とてもオリジナルな方法と、ドラマが生まれました。
前回に続き今回も、大阪府立金岡高校の授業です。その模様をレポートします。
前編同様、いきなり出題します
高校生に出したのと同じ問題を、前編同様、ウェブ電通報読者の方々にも考えていただきましょう。今回の制限時間は、45分です。では、ENJOY !
電通 金岡高校支社? 新入社員研修 3~6日目
大阪府立金岡高校の木曜日。5時間目は、探Q「変な授業」の時間です。「広告会社 電通 金岡高校支社?」の社員として、働いてみる。というイメージの授業です。
会社同様いきなり世の中のお仕事をするのはハードルが高いので、最初の1学期の6回、全9コマは新入社員研修です。
変な授業、というからには、面白い授業、研修をしなくてはいけません。そして、生徒たちの頭と心に、変化を生まなくてはいけません。
まず大前提として、「問い」を、普段の学校で出る問題とかよくある企業出張授業とかでは出ないものにしています。それがポイント1です。ステレオタイプは頭がアクティブにならないですからね。
前回紹介した「変な入社式」と、「世界で一つだけの自分の名刺をつくる授業」の後に実施された授業はこんな感じです。
①もしもあなたが「たこ焼き屋」だったら。(2016年6月9日実施)
お祭りに友達と、たこ焼き屋を出店しました。そしたらなんと周りも全部たこ焼き屋! そこであなたのお店はどんなたこ焼きにするか考えてください。
②開けたくなる箱を作ってください。(2016年6月16日実施)
家から何かあなたの大切なものを持ってきてください。そして、授業で準備された白い箱の中にこっそり入れて、見た人ががどうしても開けたくなる!という工夫をしてください。
③世界の広告賞の審査員をやってみよう。(2016年6月23日実施)
世界の広告賞に出品された5本の世界のCMを見て、クラスのグランプリを決めてください。
④セリフ100本ノック (2016年7月14日実施)
気になっている人に話しかけるセリフを45分で100本書いてください。
授業の意図、前バラシ禁止
そして、変な授業の、ポイントその2です。「何のための授業か、前バラシしない」。今から数学やりまーす、とか、今からマーケティングの授業でーす、とか意図を、前もって言わないこと。
興味を引くような問題を、いきなりポーンと(いや、バーンと)出題する。そして、考えたりアウトプットしたり体験した後で、最後にその授業の意図を伝える。そこが普通の授業と違う、変ポイント2です。
上記四つの授業の意図は、なんだったと思いますか?「今日学んでほしかったこと」として最後にばらした(伝えた)のはこんなことです。
①たこ焼きの授業 = マーケティング。差別化。
②開けたくなる箱の授業 = コミュニケーション。人を動かすための工夫。
③世界の広告賞審査授業 = クライテリア。ものさしを持つ。
④100本ノックの授業 = 質より量。大量に発想する方法。
意図を前もって言うか。最後に言うか。皆さんは、どちらが生徒の頭が動いてアクティブになると思いますか?もちろん。そこもどちらが正解ということはありません。
変な授業と、人生の関係。
このコラムの最初の出題に戻りましょうか。皆さん、45分で100本、書けました?
この授業プログラムは、コピーライターの舘林恵がメインでつくり上げたものです。彼女は当社の人気CSR授業「広告小学校」のプログラム開発者の1人で、そのノウハウを今回高校生向けに応用しました。
金岡高校の生徒は、授業の最初、「えー!ムリ!」と言いました、みんな。でも、ほとんどの生徒ができました。中には200本超えも。
どうしてそれが可能だったか? それはスモールステップが用意されていたからです。
上記は、セリフ100本ノックの途中で、少しずつ生徒に見せていったヒント集。テーマやターゲット、視点をどんどん変えていくことで量産が可能に。
このスモールステップをつくった方がいいよ、というのは、いつものわれわれのご意見番、元学芸大学の人気教授、大熊雅士先生(業界ではクマGとして有名)からのアドバイスでした。
毎回学校で授業をさせていただいて本当に勉強になるんですよね。社員研修や、打ち合わせやワークショップの進め方としても、応用できますよね?
さてさて、というわけで、この流れにのっとって、みんな書けました。「マネージャーやらへん?」とか「反省文書かされた」とか「さむい」とか「きゅうりのどこが好き?」とか「青ノリついてるよ」とか「プロテイン飲んでる?」とか「結婚おめでとう」とかとか。
362人が100本書いたので、45分で3万6200本のセリフが生まれるという、セリフビッグバンが起こった1コマでした。
どんな授業をするにしても、その体験に何の意味があったのか。その意味を生徒一人一人自分で見いだすことも大事ですが、補助線となる、先生の一言、これも大事だなと再認識したのもこの日です。
とある先生の最後のセリフはこうでした。
「この授業の最初に、45分で100本なんて絶対できひん、ってみんな言っとったのに、できたやろ。最初からムリって決めつけんことや。 そして、今日はセリフをいっぱい考えたけど、これから進学とか就活とか、人生でいろいろ考える時が来るときにも、一つ考えてこれでいいや、じゃなくて、たくさん考えるんやで」
それを聞いた時、じーーんときました。
(今まさに金岡高校に向かう新幹線の中でこれを書いていますが、自分で書いててなんだか思い出してまたじーんときてしまいました)
さすがプロ。プロはさすがです。
その後の2、3学期は、1学期のこの変な新入社員研修を活用して、クラスの課題、学校の課題、社会の課題を解決してみる、というフェーズに入っています。それについてはまたどこかでお伝えするチャンスがあるでしょう。
金岡高校も、他のご一緒させていただいている学校もそうですが、先生って当然、教育のプロ。われわれは授業の脚本の原作を、広告業界、実業界からお届けし、それを脚本化。クラスという舞台で監督されるのが先生です。
広告業界にいるわれわれは、普通に広告をつくるにしても、いろんな事業のお手伝いをするにしても、いろいろなプロとコラボレーションします。
教育のプロである先生方とのコラボもほんと面白い。同じ授業プラン=原作をお渡ししても、先生が違えば、全クラス違う授業になる。
アクティブラーニングは、答えのない授業とも言い換えられますが、受ける生徒たちにとっても一つの答えがないのはもちろん、大人側にとっても決まった正解がない。
それぞれのプロの先生がどうリードするか、その工夫、その違いが、とても面白いところです。