垣内俊哉氏(ミライロ社長)
「ユニバーサルデザインが生み出す
4000万人の市場」
2014/05/22
ユニバーサルデザインとは、文化や言語、国籍、年齢、男女といった差異、そして障害や能力にかかわらず、誰もが利用できる施設・製品・情報のデザインのこと。ユニバーサルデザインを「ビジネスマーケット」として捉え、さまざまな新規事業を展開しているミライロの垣内社長が、その市場としての可能性を熱く語ってくれた。
起業がみんなの夢の実現につながる
友人と共に起業したのは大学2年のとき。当初は、現在のようなユニバーサルデザインコンサルティング事業を考えていたわけではありません。とにかく、事業を起こせば健常者と同じ土俵に立てる。そんな思いからでした。先天的な骨の病気のために、手術やリハビリを繰り返しましたが、結果的には車いすの生活を余儀なくされました。そんな自分を好きになり、自信を持つためには、互角に渡り合えるフィールドが欲しかったのです。
試行錯誤する中で参加したビジネスプランコンテストでバリアフリー関連の事業プランが何度も高く評価されたことで、そのような事業やサービスこそが今、社会で求められているとよく分かりました。一般的にはネガティブに捉えられがちな障害とその体験が生かせるビジネス。それが、ユニバーサルデザインをもっともっと社会に広めていくことでした。車いすに乗って目線の高さが106センチの私だからこそ気付けることがある。事業を起こすという自分の夢が、みんなの夢でもあることに気付かされたのです。
「みんな」とは外出に不便を感じている人たち。高齢者は約3000万人。障害者が約800万人。それに、ベビーカーに乗る3歳未満の子どもは315万人ほどいます。合わせて4000万人超。日本の人口の約30%を占めるマーケットがそこにあるのです。本人と行動を共にする親、子、兄弟姉妹、友人、同僚らを含めたら、もっと大きな市場規模になります。
まだ存在する「思い込みバリアフリー」
実は、日本はバリアフリーでは世界のトップクラスです。点字ブロックを半世紀も前に開発したのは日本ですし、一日3000人以上利用する駅の約9割でバリアフリー化が進んでいます。しかし、施設の中には、法律や条例に従って整備されていても、実際には使いづらいケースが結構あるのです。いわゆる「思い込みバリアフリー」ですね。例えば、点字ブロックがなぜかスロープに誘導するよう敷かれていることがあります。車いす利用者や高齢者にはありがたいスロープですが、視覚障害者の中には、遠回りするよりも階段を使いたいという人もいるのです。
経済的合理性の観点から疑問に感じるケースもあります。今、50室以上の宿泊施設では1室はバリアフリーの部屋がなければならないことになっていますが、中には「ここは病院か?」と思うほど、部屋中に手すりが張り巡らされているものがあります。「障害者にはこれが便利なんだろう」という、なんとなくの思い込みがそうさせているのです。
2020年、ユニバーサルデザインの真価が問われる
何のためにバリアフリーにするのか。誰のためにユニバーサルデザインにするのか。今、そこが問われています。無知や無関心ではいけないけれど、過剰であっても意味がない。従来、企業のバリアフリーやユニバーサルデザインが十分に浸透していなかったのは、CSR(企業の社会的責任)の域を越えていなかったことが大きな理由の一つだと思います。しかし今やビジネスにおいて、バリアフリーやユニバーサルデザインへの対応は、人口の30%を占める障害者、高齢者、そして子どもの親から「選ばれる理由」になっているのです。
単に建物・施設といったハード面だけではなく、サービスなどソフト面も重要なのは言うまでもありません。例えば、車いすの利用者が飲食店などに行くと、お店側のファーストアクションはテーブルのいすを外すことだったりします。車いすのスペースを確保するためです。しかし、中には、車いすにずっと座っていると疲れるので、普通のいすに移りたい人もいるのです。
ミライロが提供しているサービスの一つに「ユニバーサルマナー検定」というものがあります。障害者や高齢者が本当に求めているのは何か、それを企業や団体の方々に理解してもらいたいというのが目的の一つです。と同時に、「知らない」「分からない」「できない」を解消することが、障害者や高齢者とその家族に安心感を与え、彼らをロイヤルカスタマーとして迎え入れることにつながるのだと知ってほしいからです。それは家族みんなで過ごす時間を大事にしたいという時代のニーズに応えることにもなるのです。
昨年6月、ミライロは電通と業務提携を行いました。電通社内タスクフォース「電通×ミライロUDビジネスプロジェクト」と共に提案を行い、成果を挙げ始めています。また、共同でUD製品・サービス開発支援ツールの開発も進めています。私たちは、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催が決まった昨年を「ユニバーサルデザイン元年」と考えています。これからますます世界の注目が集まってくる中で、施設や設備のありようから、障害者や高齢者への「おもてなし」に至るまで、日本のユニバーサルデザインの実力がますます問われてきます。
ミライロの理念は、障害をマイナスとしてではなく、価値として捉える「バリアバリュー」。まさにその時代が今、すぐそこに来ているのです。