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DMCラボ・セレクション ~次を考える一冊~No.13

言葉の技術

2014/05/23

今回は、電通のクリエーティブ・ディレクター/コピーライターの磯島拓矢氏の『言葉の技術』(朝日新聞出版)を取り上げます。本書は、タイトルの通り、人に伝わる言葉とはどういうもので、どうすれば書けるようになるのか、といった「言葉」を考えるプロセスがとても分かりやすく書かれています。(まだぺーぺーの僕が、会社の大先輩の本の書評をするだなんて、僭越なことをしてスイマセン。いちプランナーとして読んで感動したので、どうしても感想を書いておきたいと思ったのでした。偉そうにスイマセン。しかも、ちゃっかりスイマセンという文体をまねしてスイマセン)

本書は、基本的には、コピーライターやコピーライター志望の方向けに書かれてはいますが、普段なかなか上手く企画書が書けないと悩みを抱えている僕のようなプランナーやマーケターにとっても、というか、言葉に関わる人なら誰でも(=つまり、誰にとっても!)とても勉強になる本です。

ただ、この本は(本書でも指摘されている通り)ちまたによくある「文章術」のような内容にはなっていません。また、思いつきやひらめきを生むための安易な「アイデア術」のような内容も書かれてはいません。作者である磯島氏は、「コピーは、パッとした思いつきやひらめきから生まれるわけではなく、伝わる「言葉」は「考え」に限りなく近いことである」と述べています。つまり、伝わる言葉に近道はないということです。

この指摘が本書の一番の重要なポイントだと思いました。

僕は、これまで素晴らしいコピーとは、一部の特殊な才能やセンスを持った人が、まるで即興詩人のようにぱっとひらめいて、一瞬で書き切っているかのような先入観を持っていました。(だから、センスのない自分には言葉を書くのは無理だと思っていました)でも、実はそうではなくて、コピーライターは、人よりたくさん考えているからこそ、クライアントや生活者に、「なるほど!」と思ってもらえる表現になるというのです。つまり、僕が良い文章を書けないのは、センスの問題というよりも、考え抜いていないことこそが問題である、ということです。センスがないことを言い訳にできず、自分はただ考え抜いていないということが分かってしまうのは、とてもつらいわけですが、人よりも一歩深く考えることで伝わる表現にたどり着けるということには、救いもあります。

磯島氏の言葉を、少し本文から引用してみましょう。


僕らコピーライターにチャンスがあるとしたら、広告を見る人もクライアントさんも忙しいということです。なんだか情けないチャンスですけどね。広告を見る人もクライアントさんも、その商品についての言葉は、第一印象で止まっています。最初に思いついた言葉で止まっています。なぜなら(繰り返しますが)忙しいから。みんなに「なるほど」と言ってもらうコピーを書くためには、その第一印象や思いつきでは届かない所まで、考えればよいわけです。より深く考えればよいわけです。
 

そして、磯島氏は本書を「言葉を伝えるために言葉を強くする技術ではなく、人に伝えるだけの価値ある言葉を見つける技術」と称しています。言葉自体を磨き、輝かせていくのではなく、人が受け取る時に価値として見てくれるような表現を見つける=考えるということです。

本書では、電通の新入社員研修で出された課題と、新入社員が応えた実際の解答を具体的に取り上げながら、それがどれだけ考えられている言葉なのか、どういう価値を生んでいる言葉なのかが解説されていきます。(考え抜かれた言葉がいかに鮮やかか知りたい人はぜひ、本書を手にとってみてください。使われている言葉はシンプルで簡易ですが、とても伝わってきます。コピーライターという職種の方に改めて敬意の念を抱きました)

僕は普段、主にデジタル領域のソリューションの開発やプランニングの仕事をしているのですが、技術革新のスピードが速く、それについていくのが精いっぱいなため、ついつい枠組みや仕組みの設計から入りがちです。でも、そもそも、どこにどういう狙いがあって、生活者やクライアントにとってメリットは何なのか?なぜそれを喜んでくれるのか?その視点を考え抜くことが重要です。僕の今の仕事は、言葉を考えること自体が仕事の中心ではないですが、WHATなきHOWには、価値は宿りません。この仕組みには、どんな価値があるのか?一歩深く考えること。伝わる言葉は考えるに近くなる。伝えるという意味では、どの部署もどの職種も一緒です。一歩深く考えること、その重要性を改めて知ることができた一冊でした。

       【電通モダンコミュニケーションラボ】