「8つの広報力」で強み、弱みが見えてくる
2014/05/29
企業経営においてPR・広報部門は、社会とのコミュニケーション活動の中核を担っています。しかし今まで、日本の上場企業の広報力 を俯瞰的に把握・分析した調査データは存在しませんでした。日本企業の広報力を数値化すると何が見えてくるのでしょうか。PR・広報部門が抱える課題とは何でしょうか。
そこで企業広報戦略研究所(電通パブリックリレーションズ内)が立ち上がり、今年1月から2月にかけて、日本の上場企業を対象に「第1回 企業の広報活動に関する調査」を実施、479社から回答を得ました。
これから15回シリーズで、調査によって洗い出された、日本企業の広報活動の現状と課題を解説したいと思います。第1回は、調査の方法と総論です。
■「8つの広報力」~タコの足のようにバランス良く
各社には、広報活動に関する80問のうち、自社で行っている活動にマルをつけてもらう方式で回答していただきました。
それを当研究所で「情報収集力」「情報分析力」「戦略構築力」「情報創造力」「情報発信力」「関係構築力」「危機管理力」「広報組織力」の8つに分けて分析しました。
この「8つの広報力」を、当研究所が独自に開発した「広報活動オクトパスモデル分析」の指標としました。タコの足のように8つ全てをバランスよく備えることで、高い広報力が発揮可能になるのです。
回答にご協力いただいた企業にはこの「広報活動オクトパスモデル」で分析した評価スコアを提供しています。全体平均および業種ごとの平均と自社スコアを比較することで、自らの広報活動レベルを把握することも可能です。
■ ここが上場企業の弱点だ
それでは図表1「広報活動オクトパスモデル」の分析スコアを見てみましょう。
「8つの広報力」の各分野を見ると、上場企業全体では、情報発信力のスコアが最も高いことが分かります(47.3点)。各企業とも情報発信活動に力を入れていることが分かるのです。
その半面、情報を発信する前段階の工程である情報収集、情報分析、戦略構築、情報創造の分野はスコアが低いことが見てとれます。ここが上場企業の広報力の、改めるべき弱点といえます。
事業部から上がってきた情報を右から左へ流すだけの情報発信ではなく、社内外の情報を収集、分析し、戦略的にメッセージやPRストーリーを構築した上で情報発信を行わなければ、情報過多の時代にはステークホルダーにその情報は伝わらないのです。
また、関係構築力(22.8点)、危機管理力(24.9点)もスコアが低いことが分かります。
ここでの課題は、広報部門の機能は、情報を単に発信することだけではないということです。広報部門にはパブリックリレーションズの本質であるステークホルダーとの良好な関係を築くことが求められています。また、クライシス発生時には、社会に対して説明責任を果たす際の司令塔としての役割をも求められているのです。
■ 広報力トップ3は・・・
続いて業種別ランキングを見てみましょう。総合してスコアの最も高い業種は「電力・ガス」(44.6点)であり、「金融・証券・保険」(37.6点)、「食料品」(36.9点)と続いています。これら上位3業種では、「情報発信力」に加えて、「情報収集力」「危機管理力」のスコアが他業種よりも高いことが分かります。
これらの業種は、事件・事故・不祥事など社会的に大きな影響を与えるリスクに直面することも多く、適切な広報態勢の構築が必要不可欠であり、社会との接点である広報部門が企業の生命線になっています。だからこそ、広報力も「情報発信力」だけに偏らず、平均的にレベルが高い傾向にあるのだと思われます。
「広報はツーウェイコミュニケーション」といわれるように、一方的に情報発信するだけではなく、社内外の情報を収集することも広報にとっては重要な仕事なのです。
調査概要 :
東証一部・二部、マザーズ、ジャスダック、札証、福証など国内上場企業3,503社を対象に、郵送法及び訪問留置法で調査。回収数は479社 (回収率13.7%)。調査実施期間は2014年1月6日~2月10日。
企業広報戦略研究所について
企業広報戦略研究所(Corporate communication Strategic studies Institute : 略称CSI)とは、企業経営や広報の専門家(大学教授・研究者など)と連携して、企業の広報戦略・体制等について調査・分析・研究を行う電通パブリックリレーションズ内の研究組織です。