佐々木かをり氏
「ダイバーシティーが、未来を拓く」
2014/06/16
「女性活用」というキーワードがよく聞かれるようになった。経済問題、働く女性のあり方、そしてダイバーシティーについて、イー・ウーマン社長の佐々木かをり氏に語っていただいた。
女性活用で、企業が発展する理由
「明日のデザイン」と「女性活用」の関係を問われれば、大変重要な関係とお答えしたいと思います。最近また「女性活用」という言葉を多く聞く時代になりましたね。安倍首相が頻繁に口にされることが拍車を掛けたのですが、この「女性活用」が今取り上げられる理由は、雇用機会均等法が施行された30年ほど前とは違います。以前は男女平等や人権など、社会問題の一つとして取り組まれていました。しかし今は違います。経済問題です。女性を活用すると日本経済がどのくらい加速するのか、企業がどれだけ成長するのかという視点から語られるようになった。この点がとても重要なのです。
経済的視点も二つの考え方があります。一つは、労働人口の減少から女性労働者の参画が必要だとか、納税者を増やそう、稼ぐ女性が増えれば消費が活性化するだろうといった視点。そしてもう一つが、私が大切だと思う、ダイバーシティーの視点です。日本は戦後、ある一定の大学を出た男性たちによって、東京中心で再建されました。政治もビジネスも金融もメディアも、友人、知人、先輩、後輩といった、男性たちの「ボーイズネットワーク」のおかげで、互いに知り合いであること、同じ環境で育ったこと、価値観が一緒であることがプラスに働き、スピード感をもって一気に日本を立て直すことができた。ジャパン・アズ・ナンバーワンとなったのです。
しかしグローバル社会になり、IT化が進んだ今、一つの価値観でモノを決め、進めていくことが、うまく働かない。市場にいる消費者の情報量は増え、ライフスタイルは多様化しました。株主も、労働者も同じです。一つの商品を生み出すにも、その商品を宣伝するにも、さまざまな立場からの意見を取り入れ点検し、なるべく多くの人の心に届くように、また、最低でも気持ちを害さないように、配慮してモノづくりやコミュニケーションをする必要が出てきたのです。そうすると、同じ大学で、同じ家庭環境で、労働時間で、年齢で、性別で・・・という人たちが、「分かり合える」からとチームを組んで進んでいくことには危険があります。別の立場で見るとどうなのか、違う感じ方をする人はいないのか、などを考えるのに、多様な思考の人をチームに入れる必要があります。特に日本の社会や企業の場合は、同じ環境の男性中心で動いていますから、まずは女性を、ということになるわけです。その目的は、「思考の多様性」です。どれだけ複数の視点でモノが議論されるかが大切、ということです。しかしその一歩が、多くの日本企業の場合「まず女性をチームに入れてみよう」ということから始まるのです。
チームの総合得点を高める「私の視点」の大切さ
ダイバーシティーの最終目的は、「チームの総合得点を高めること」です。バラバラでいいのでもないし、各自がエゴを出すことでもありません。皆で多様な視点で考えて、商品やサービス、政策をつくったり、広告宣伝、コミュニケーションをする方がリスクも少なく、成長の可能性が高い、ということです。そうなると、大切なのは、働く各自が、自分の視点を提案する力です。自分の視点を持つことがダイバーシティーの原点だからです。
私の場合、常に新しい視点、自分から見えることを提案してきました。例えば1995年にパソコンのCCDカメラを使っての日本初の海外とのテレビ会議を行いました。96年には、日英2カ国語での女性向けポータルサイトを開設し、働く女性の国際会議の先駆けとなった「国際女性ビジネス会議」をスタートさせました。
今、イー・ウーマンの業務の一つはフルタイムで働く女性たちの視点でのモノづくり、サービス評価などです。大手ネット調査の登録者にフルタイムの働き手は多くはないでしょう。このコラムを読んでいる方でも、自分がネット調査会社に登録して毎日回答しているという方は少ないと思います。毎日仕事をし、稼ぎ、生活もしているフルタイムで働く女性たちの視点は、今までのマーケティングなどで見落とされていたのです。新しい商品・サービス開発やゼロからのコンセプト・アイデア提案に彼女たちの声を生かすことは、ダイバーシティー視点なのです。
発想の転換を目指し、体験を増やしてほしいある時、石倉洋子先生(一橋大名誉教授)に「佐々木さんは、横串のプロ」と言っていただきました。情報をつなげる力、多様な視点でモノを見る力が、これからもっと必要だと思います。男性も女性も、今まで以上に、脳のストレッチ、体験のストレッチをお勧めします。例えば国際女性ビジネス会議に参加されることもお勧めします。日本国内外から前向きな女性・男性が自由に参加する10時間。発想転換のきっかけになることと思います。
とにかく、今までと違う発想で考えてみる、新しい体験を増やしていくこと。皆さんがダイバーシティー視点で日本を発展させていくことを期待しています。