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濱野:テレビとソーシャルが相互補完的になっているという言い方もできるし、より受け手側の反応がシビアというか、はっきり出るようになってきたから、ごまかしにくくなっているという言い方はできるかもしれないですね。でもそれは都合の悪いことばかりではない。受け手の側で感動を共有しやすくなるということは言えるんじゃないかなと思いますね。僕はニコニコ動画が出てきたとき、あれは「お茶の間」というものを「擬似同期」の仕組みで復活させているんだ、と言ったことがあります。

廣田:「ネオ茶の間」ですね。

濱野:僕はこれまで、様々なユーザーを対象にテレビの「ながら視聴」の定性調査をやってきたのですが、各家庭で「お茶の間」がやや復活してきていると感じています。かつて80年代から90年代ぐらいまでにかけては、テレビがだんだん一家一台じゃなくて一部屋一台になっていきましたよね。そうすると個室化が進んで、息子さんとか娘さんが自分の部屋でテレビを見るようになって、お父さん、お母さんたちと一緒にテレビを見なくなってしまって、いわゆる「お茶の間」的な空間、つまり家族一緒で何かコンテンツを見るという機会が減少してしまったと言われてきた。

あと、ちょうどリモコンのような新しいデバイスが出てきたのもこの時期でしょう。リモコンって出てきたのは正確にはいつ頃のことなのか、僕はわかりませんが……。僕は1980年生まれで、廣田さんも同い年ですけど、一番初めに家にあったテレビは、まだガチャガチャというか、リモコンなしのタイプで。

廣田:ダイヤルを回していましたね。

濱野:おばあちゃんの家とかだと(ダイヤル式の)こういう感じで、小学生ぐらいのときに買いかえるとリモコンがついて、という感じでしたよね。だから、アバウトにいえばテレビのリモコンが普及したのは80年代から90年代にかけてですよね。そして「ザッピング」という言葉が使われました。みんな個室で見ていて、好きな番組にすぐパッと切りかえるようになってしまうから、個人個人の趣味嗜好に偏った番組づくりの傾向が強くなっていくと。そして「お茶の間」という空間は引き裂かれてなくなっていく。

しかし、いま起きているのはこれと逆のことなんですよ。ケータイが出てきて、しかもスマホが出てきたことによって、お茶の間が復活してきている。それはどういうことかというと、それこそお茶の間で、家族の誰か、例えばお父さんだったら野球——ちょっと古い例ですね(笑)。じゃあお母さんと娘はドラマを見ているとしましょう。こういうとき、これまでだったら息子は「俺はドラマなんて興味ねえから自分の部屋でバラエティを見よう」となっていたと思うんです。でもいまだと、息子はテレビはそんなに見ていないんだけど、手元のスマホをいじっていて、一応「お茶の間」の空間自体は共有している、みたいなケースがすごく多くなっているんですね。

廣田:リアルでもつながり始めている。

濱野:そうです。ソーシャルメディア上の「お茶の間」だけじゃなくて、リアルの「お茶の間」もやや復活傾向にある。まあ、これははっきりとした定量的なソースがあって言っているわけじゃないんですが、ユーザーの日記調査をかけると、かなりこういうケースが見られるようになりました。

あと、ザッピング自体も、もしかしたら減っているかもしれませんね。これもまた定量的に確かめたわけじゃない僕の勝手な仮説なんですけど、スマホが普及して「ながら視聴」が当たり前になってくると、テレビがCMに入ったら、チャンネルを切り替えるんじゃなくて手元のスマホを見る、という人が増えているんじゃないかと。あと、テレビのデジタル化によって、チャンネルを切り替えたときにそれまでのアナログにくらべて若干表示にもたつきが出るようになってしまって、あまりサクサクチャンネルを切り替えられない。そういうのもあって、チャンネルをバタバタ切り替えるザッピングはそれほど行なわれなくなっているんじゃないかという気がします。

廣田:確かに、最近はザッピングするよりは、チャンネルはそのままで、まずソーシャルを見たり、その番組について書き込んだりすることが増えている気がします。また、自分のソーシャルメディアのタイムライン側に、その番組の情報が流れてくると、「お!あいつも同じ番組見ているんだ」と思って、嬉しくなったりして、その番組への関与も高まりますね。実際、ソーシャルから番組を認知して、実際に番組見たという人たちが、ツイッターのベースで、2011年の段階で2割近くいます。ソーシャルメディア経由でテレビを知るだけじゃなくて、そこから情報が知人・友人に拡散するので、ソーシャルメディアは番組の宣伝装置になりつつあるのかなと。

濱野:そうなっていると思いますよ。

廣田:僕も、仕事しながら、ツイッターのタイムラインに、今日ニュースでこんなことをやりますよ!というお知らせを見ると、やっぱり今日は早く帰ってテレビ見なきゃというふうに気持ちが動いたりするので。

濱野:なりますよね、確かに。テレビからソーシャルに行くんじゃなくて、ソーシャルからテレビにという形で、完全に動線が変わってきている。あと、これもよく言われることですが、ツイッターのほうがむしろ主のテレビ的なというか、受動的装置なんですよね。ほっておいても、変な話、150人ぐらいフォローすれば、テレビ並みに常にばらばら情報が送られてくるので、それをだらだらと見ているだけで暇が潰せてしまう。

次回へ続く 〕

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著者

廣田 周作

廣田 周作

Henge Inc.

1980年生まれ。放送局でのディレクター職、電通でのマーケティング、新規事業開発・ブランドコンサルティング業務を経て、2018年8月に独立。企業のブランド開発を専門に行うHenge Inc.を設立。英国ロンドンに拠点をもつイノベーション・リサーチ企業「Stylus Media Group」と、米国ニューヨークに拠点をもつ、大企業とスタートアップの協業を加速させるアクセラレーション企業の「TheCurrent」の日本におけるチーフを担当。独自のブランド開発の手法をもち、様々な企業のブランド戦略の立案サポートやイノベーション・プロジェクトに多数参画。また、WIRED日本版の前編集長の若林恵氏と共同で、イノベーション都市・企業を視察するツアープロジェクトのAnother Real Worldのプロデュースも行なっている。自著に『SHARED VISION』(宣伝会議)、『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』(クロスメディア・パブリッシング)など。

濱野 智史

濱野 智史

1980年生まれ。慶應義塾大大学院政策・メディア研究科修士課程修了、国際大グローバル・コミュニケーション・センター研究員を経て、現在はウェブ関連サービス会社の日本技芸でリサーチャーを務める。2011年から朝日新聞論壇時評委員、千葉商科大非常勤講師を兼務。専門は情報社会論・メディア論。ウェブサービス、ネットコミュニティーの社会学的分析や、一般ユーザーの実態調査(フィールドワーク)を手掛けている。主著に『アーキテクチャの生態系』(08年、第25回テレコム社会科学賞・奨励賞)、『日本的ソーシャルメディアの未来』(佐々木博氏との共著。11年)、『希望論』(宇野常寛氏との共著。12年)など。

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