広報オクトパスモデル
その2「情報分析力」
2014/07/31
日本の上場企業479社を対象に企業広報戦略研究所が行った「第1回企業の広報活動に関する調査」の連載も6回目。この回では、企業の広報活動を「8つの広報力」(図表1参照)に分解して考える「広報オクトパスモデル分析」の2つ目、「情報分析力」について解説したい。
「8つの広報力」のうち、準備フェーズである4カテゴリー(情報収集、情報分析、戦略構築、情報創造)のひとつを構成する「情報分析力」は、情報を“知覚・判断”するフェーズを担っているといえる。
企業を人に例えた場合、目や耳などの視聴覚や嗅覚・触覚などの感覚器官(アンテナ)を通して周辺状況を把握できる仕組みが情報収集とすれば、その情報を脳で知覚し、随時判断していく能力が情報分析力に当たる。周囲の状況が自分(自社)にとって危険なのか、そうでないのか、今言うべきなのか、言わない方がいいのかを判断する“広報センス”(=コミュニケーションセンス)が問われる力でもある。
調査に回答いただいた上場企業479社における「情報分析力」では、全体平均25.4点に対して、第1位の「電力・ガス」業界は平均を20.0点上回る45.4点と、2位の「電気機器」の31.6点を大きく引き離す結果となった(図表2)。「電力・ガス」業界においては、多方面のステークホルダーが存在することから、状況判断の基準となる指標が多面的に必要であることが好結果につながったものと推察される。
広報力調査における「情報分析力」の調査項目は10問あり、企業が実践している項目トップ3は、「自社サイトの効果分析」(53.0%)、「リリースごとの掲載量把握」(43.0%)、「新聞やテレビでの報道量測定」(34.4%)の順であった(図表3)。10問の平均で25.4%と、「情報分析力」は「情報収集力」(37.0%)に比べて全体的にスコアが低い。各企業の広報は、情報分析にあまり手を付けていないことが分かる。
このトップ3はどれも定量的な広報効果測定の項目であり、これらをきちんと行えるかが、企業の「情報分析力」のスコアを左右する。また一方で、広報の専門家パネル(研究者、メディア、広報実務家)が重要と指摘した2つの項目「報道された記事や番組の定性的評価分析」「今後の主な出来事や社会動向の予測」は定性的な分析であり、過去の掲載を定量的に分析するトップ3とは根本的に異なっている。
広報を戦略的に行うためには、定量分析も大事だが、社会動向予測やメディアの興味・関心などの定性的な情報とともに両輪で見ていくことで、自社の広報活動が世の中に寄り添っているのかを把握することが大切だと考えられる。
また、専門家パネルが最も重要とした項目の「自社の広報課題の整理、明文化」においては、自社の課題を文章化することでその課題が明確になり、さらにはそれを文字で共有することで、インターナルのコミュニケーション力をより高めることが可能となる。ポイントは、「平易な文章で箇条書きにする」こと。関係者の解釈の相違をなるべく排除し、意識の共有を図るためである。もうひとつのポイントは、「課題のステージを考慮する」ことを意識したい。経営理念~経営戦略~広報戦略~広報戦術に至るまで、違うステージの課題を同一に扱うと、混乱が起きやすい。
企業広報戦略研究所では、「情報分析力」を「収集した情報に基づき、自社の経営課題・広報課題を洞察する力と、それを組織的に共有する能力」と定義している。つまり、情報をただ収集するだけではだめで、課題の洞察と共有を経て、次の戦略構築に結びつけることが求められる。まさに“広報センス”の見せどころである。
企業広報戦略研究所について
企業広報戦略研究所(Corporate communication Strategic studies Institute : 略称CSI)とは、企業経営や広報の専門家(大学教授・研究者など)と連携して、企業の広報戦略・体制等について調査・分析・研究を行う電通パブリックリレーションズ内の研究組織です。