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「アドテク」と「ブランド」は共通言語を持てるか?
―デジタルが変えるブランド戦略の今(第2回)
2014/08/12
こんにちは。「デジタルが変えるブランド戦略の今」というテーマで、今回はいまどきの「アドテク」と「ブランド」の関係について焦点を当ててみたいと思います。
デジタルマーケティングの台頭とともに、DSPやSSP、RTB、DMP・・・など「3文字英語」に象徴されるアドテクノロジー(アドテク)用語が次々と登場し、今や広告業界を席巻する時代になりました。
一方、さまざまなメディアを通じ情報が飽和する中、顧客が商品・サービスを選ぶ手がかりとして機能する「ブランド」も、ますます重要性を増しています。
しかし、「ブランド」視点でマーケティングを行う立場の方は、「アドテク」のロジックをどう活用していくべきか、視点の違いに違和感を感じたことはないでしょうか。
逆に、「アドテク」業界からも、「ブランド」が重要であると語られることは多いのですが、なかなか本質的な議論にアクセスできていないように感じます。
デジタルマーケティングが既存のマスメディアやオフライン接点にも拡大し、ブランド構築の中核になりはじめた今日、これらを融合させていくこと―すなわち、「アドテク」と「ブランド」が共通言語を持つことが、かつてないほど重要になっているのではないでしょうか。
「ブランド」の考え方に近づく「アドテク」の進化
乱暴にいえば、かつての「アドテク」は多くの場合、ウェブ広告におけるターゲティングの効率化や販促視点のメディア活用を目的に語られてきたため、「ブランディング」といっても、その意味は「インプレッション」や「認知獲得」が中心でした。
そのため、中長期なブランド資産(ストック)の形成や顧客との関係構築といった目的とは相いれないことが多かったわけです。
しかし、近年の「アドテク」進化の方向性は、こうした「ブランド」の考え方に近づきつつあるともいえます。以下はその象徴的な例です。
・ターゲット
ブランドの目標に合ったマーケティング投資の最適化を図れる運用型広告が拡大するとともに、メディア枠から、オーディエンスデータに基づく顧客(人)単位での継続的な広告配信の最適化が図れるようになった。
・リッチコンテンツ対応
ソーシャル広告や動画広告、ネイティブアド(メディアコンテンツ形式で読者の興味喚起を高める広告)など、生活者の関心事とブランドの文脈をつなげ、潜在需要を喚起したり、ストーリーや体験を伝えるリッチコンテンツを配信する新たなフォーマットが急速に拡大し始めた。
・リアルタイム
特定の人やタイミング・状況に合わせて広告コンテンツを変化させ、リアルタイムに自動配信できるプログラマティック広告が普及し始めた。
・品質・信頼性(ベリフィケーション)
ブランドを毀損しない安全なメディア環境下で、ユーザーが確実に広告に接触する「質的効果」を担保する、アドベリフィケーション・テクノロジーも浸透している。
これらに共通する大きな流れは、メディア枠の販売から人・コンテンツ中心のマーケティングへのシフトであり、ダイレクトレスポンス目的にとどまらず、一人一人の「ブランド」体験の強化を目指した「アドテク」の進化です。
単にターゲティングの効率化を進めるだけでなく、一人一人の関心や行動、タイミングと連携した広告・コンテンツの配信を行うことで、より豊かで、役に立つ体験を通じてブランディングの成果を実現するチャンスが生まれるのです。
ブランド戦略とアドテクノロジーを融合させる
ただし、そのためには「アドテク」と「ブランド」がもっと共通言語を持つこと―すなわち目的や戦略フレーム、指標、そして価値観を共有することが必要です。
第1に、基本的なことですが、オンラインで測定できる指標だけで広告・マーケティング効果を考えることには限界があります。
露出やクリック、コンバージョンの世界だけでなく、認知や好意度、購入意向、ロイヤルティーといった「ブランドリフト」に関わる指標を、マスメディアとデジタルメディアを組み合わせて考えることが不可欠です。
第2に、今日のデジタルマーケティングは、もはやデジタルメディア上の広告手法に「閉じた」ものではありません。
オンオフ問わず顧客接点をシームレスにつなぐスマートフォンの普及や、テレビとデジタルプラットフォームの融合などが現実に進みつつあります。
こうした中、デジタルマーケティングで進化するターゲティング手法、データ活用やPDCAプロセスを、いかに全てのマーケティング活動の基盤として横断活用、進化させていくかが課題になっています。
例えばブランドターゲットの考え方自体も従来のデモグラや価値観ベースから、関心・行動ベース、ソーシャルグラフの概念など大きく進化していますが、既存のメディアマーケティングはこれに対応できていません。
また、最近浸透しつつある「カスタマージャーニー」(顧客のブランド認知から購入・利用体験までのプロセスを旅に例えたもの)の概念も、ブランド視点とデジタルメディア視点のモデルには大きな乖離が存在しています。
そして第3に、最も強調したいことですが、テクノロジーが人の気持ちを動かし、ブランドと顧客との関わりを深めることに貢献するためには、今まで以上にもっと「人」に寄り添うことが重要だという点です。
送り手発想で自動化や効率化を追求していくあまり、顧客を追いかける広告、見たいコンテンツを邪魔する広告などが、信頼や好意を形成していくことを目的としたブランディングの観点からどう機能するかなどは、あらためて考察と検証が必要に思われます。
例えば、Kiipというモバイル広告会社を創業したブライアン・ウォン氏は、顧客が生活の中で何かを達成した瞬間(アチーブメント・モーメント)にメッセージや“ご褒美”を届けるアドテクノロジーで、広告の意味を変えるような体験を創造しました。
このように人の気持ちに寄り添い、喜びや感動を生み出す新たなクリエーティブ・テクノロジー活用の可能性には、まだまだ開拓の余地があるはずです。
こうした新しい時代のブランド戦略とマーケティング・テクノロジーが融合していくときこそ、今使われている「アドテク」という言葉を卒業するときかもしれません。
(第3回以降につづく)