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金融ビジネスにイノベーションを!No.9

金融ビジネスを変革する「チェンジ・オリジネーター」の心意気

2014/09/15

地域の企業と金融機関が共に成長を支え合う「バリューチェーンファイナンス」。今回は、電通国際情報サービス(ISID)の江上広行さんが実際に取り組まれているバリューチェーンファイナンスの試みや印象的な成功事例について、詳しくお聞きしました。

企業へのヒアリング手法を体系化。顧客に寄り添う金融ビジネスを確立した

――前々回はバリューチェーンファイナンスの概要を、前回はそれを取り巻く社会背景について伺いました。今回は、バリューチェーンファイナンスを実現するための取り組みについてお聞かせください。具体的に、どのようなことを行っているのでしょうか?

江上:一般的に、ITベンダーやコンサルタントといわれている会社は、ITを活用した業務支援を行っています。金融機関が収益を上げるためのマーケティング強化や、業務の効率化などのミッションに対して主にITを活用したサポートを行っているわけですね。もちろん我々もこのようなサービスを行いますが、それだけでは不十分な場合が多いので、意識改革や人材開発を支援する取り組みと組み合わせたサービスを行います。意識改革をベースとしない業務改革はむしろ逆効果となる場合もあるからです。

意識改革では、「お客様と金融機関を切り離して考えない」という感覚が一人ひとりに腹落ちするよう、プロセスを重視しています。お客様と銀行を分離したものとして捉えるのではなく、銀行と顧客を一体とした一つの関係として捉えるような理念の共有がバリューチェーンファイナンスのベースとなるからです。

また、昨年、お客様と銀行員のコミュニケーションを活性化させる、「VCF財務経営力診断サービス」というツールを開発しました。まず、顧客企業の経営理念、ブランド力、製品開発力、売上管理など、経営上の大切な要素を、銀行員がアンケートやヒアリングによって聞き出します。こうした情報をツールで管理・分析し、銀行員がお客様と、お金だけではない深い部分でのコミュニケーションをとれるようにしたのです。これまでは、例えば企業に「売り上げが上がらない」という問題があった場合、金融機関は「売り上げを上げてください」「経費を削ってください」「ダメだったらお金返してください」と数字を中心にした交渉をすることが主体でした。ところが銀行員の意識が「銀行と顧客は一体である」というところに至るようになると、「利益があがらないそもそもの原因はなんだろう?」「製品? ブランド力? どこを変えたら状況が好転するのか」と一緒に悩み考えられるようになりますよね。人間ドックや健康診断をイメージしていただけると分かりやすいと思うのですが、表層的なことではなく、奥に潜む問題にリーチする。これによって、企業と銀行が併走して、行動レベルで解決に向けて歩きだせるサービスを実現したいと考えています。

――それは大きな変化になりそうですね。しかし、データ中心のコミュニケーションをしていた銀行員の方々にとっても大変な取り組みなのでは?

江上:はい(笑)。実際に大変です。それまでお金の話しかしていなかった銀行員が、いきなりお客様の「経営理念」に向き合うことになるのですから。話をされるほうの社長さんたちも、当然びっくりしますよね。でも、経営者は誰であれ、自分の会社の商売に興味をもってくれることはうれしいものなのです。いつしか創業時のエピソードや苦労話を聞かせてくれるようになり、工場見学をさせてくれるようになって…。確実に、コミュニケーションの質が変わると確信しています。

私は、お客様のところに出向いて直接会話し、その中で、学習するのが一番早いと思っています。もちろん座学での意識改革研修も行っているのですが、お客様から学ぶことに勝るものはないでしょう

一連の意識改革を礎に、それを実現するための業務改革と、さらに浸透させていくための人材開発、構造改革を進めているような感じですね。その上で、金融系のシステムインテグレーターでもあるISIDの技術力を生かし、顧客企業の財務経営力を診断するツールや、クラウドを活用した金融業務の効率化システムなども提供しています。

“やらなきゃ”から“やりたい”に! 企業への愛情が銀行員を動かした

――バリューチェーンファイナンスの成功事例を教えてください。

江上:ある銀行から、「業務を改善したい」という相談を受けました。そこで詳しく話をお聞きしたところ、取り組まなくてはいけない課題のリストが山のようにあることがわかりました。これをモグラたたきのように一つ一つ潰していたのでは、到底追い付くはずもありません。まさに、問題の解決のつもりが、さらに、新たな問題を作り出しているということを繰り返している状態です。そこで僕たちがコンサルティングに入らせていただいて、まずは問題の構造を可視化するところからスタートしました。

その結果、浮かび上がってきたのが、いつのまにか形作られた「銀行は○○でなければいけない」という固定概念にあまりにも縛られていること。まずは顧客の視点にたって、その固定概念が本当に必要かどうか、という“問い”と向き合うところから始めました。結果、その銀行は、10年という期間をかけて、銀行の業務をもう一度顧客起点に変えて、変革を進めるという方向に舵をきることになりました。

もちろん、このような活動はなかなかすぐに成果がでるようなものではありません。だから意識改革が必要なのです。今回の銀行のケースでも、活動の開始から約3年たって、やっと確実な顧客起点への意識の変化が見えてくるようになってきました。

たとえば、営業をする銀行員が、ノルマをかけなくても自主的にお客様への訪問件数を増やすというようなことが起きました。ノルマを上げて訪問件数を増やすのは簡単ですが、それは結局すぐに元に戻るので、対症療法にしかなりません。ところが、ここの銀行の方々は、ノルマなど関係なく、自然とお客様のことを考えて足を向けるようになったんです。「やらされ」から「やらなきゃ」に変わり、「やらなきゃ」から「やりたい」に。そういう変化が芽生え始めているんですよね。

それから、顧客の情報を一元管理するシステムを提供したことも喜ばれました。銀行には多くの複雑な業務が存在します。こうした業務一つ一つに効率化のためのシステムが用意されていて、業務の数だけ顧客の情報が存在するんです。お客様の側から見ると、自分の情報がバラバラに切り刻まれて、あちこちにある状態。「俺は何人いるんだ」という感じのシステムですよね(笑)。それを顧客ごとに集約し、現在はコミュニケーション基盤として運用しています。これによって、何枚も出力して添付しなければならなかった資料が減り、報告・連絡・相談業務も驚くほどスマートになりました。なにより、現場の考えがお客様起点になったところが大きかった。単に業務を効率化するだけでなく、視点を変えるようなシステムを作ることができて、確かな手応えを感じています。

――10年たったときにどんな変革を遂げているのか、とても楽しみですね。

江上:はい! 誰かを変えるんじゃなくて、自分が変わる。それをお客様に伝えるためには、私自身もまず自分から。自分たちを起点にして“愛の金融”を広げていきたいと思っています。