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顧客を動かすデジタル・マーケティングの実践No.10

電通のDMP実践論 ~データによるマーケティング精緻化~【後編】

2014/09/02

前編に引き続き、DMP実践論についてお送りする。後編は、電通の統合データ・ソリューションセンターの佐伯諭氏が、DMPを用いたセグメント別の施策のノウハウを紹介する。

きめ細やかなマーケティングのためには、担当者の連携が不可欠

DMPによってセグメント別の施策が実施できるようになったため、ワントゥワンに近いコミュニケーションも可能になってきました。図のようにいくつかのセグメントを切り、そのセグメントに適切なクリエーティブ訴求、ランディングページ(LP)誘導を行った場合、ユーザーの行動はどのように変わるのでしょうか。

それぞれのセグメントに対し、クリエーティブ制作からDSP(デジタル広告の自動入札システム)の入札まで統合データ・ソリューションセンターのデータサイエンティストが指揮をとり、きめ細やかなオペレーション指示を行った結果、下記のような成果が得られました。

・クリック率はデータ連携(DMP)なしの配信(通常DSP)に比べ、1.5倍~10倍までリフトした。
・クリック後の行動も関心の高さ、LPとのマッチング効果が伺えるもので、1回の訪問あたりのページビュー、滞在時間などの指標で、高い数値を残した。

このように、データ利用料やセグメントサイズの小ささによる広告配信単価の上昇を鑑みても充分な効果が確保できた結果となりました。このキャンペーンの成功要因は、DMPのプロセス全てを見渡す人間がいたことにあります。

前編で述べたポイント③に当たるのですが、DMPはマーケティングのさまざまなプロセスに関わるため多くの関与者が存在します。トレーディングデスク、リスティング運用者、メール運用者など多くの担当者と密に連携する必要があるのです。

例えば、DSPを運用するトレーディングデスクとセグメント設計者が全く連携していなかったとしましょう。セグメント設計者だけが、ターゲットのインサイトや属性を把握しています。これに対し、トレーディングデスクは成果指標に則って、配信先セグメントのポートフォリオや入札、フリークエンシ―などを最適化していきます。しかしながら、ターゲットを知らずに最適化を進めると単に反応のいいセグメントに寄せていくだけの施策になりがちです。このような運用では、短期的な効率は良いものの、将来的に育成すべき顧客を失ってしまうかもしれません。

これは広告の運用だけでなくコミュニケーション設計、クリエーティブ開発においても同じようなことがいえます。DMPでセグメントを切るというのは、ターゲットを規定することに他なりません。マーケティング戦略全体とDMPによるセグメントの連携は不可欠なのです。

全てのデータがつながる、統合マーケティングの世界へ

ユーザーの属性やインサイトを推定・活用するこれらの施策は、デジタルマーケティング自体を大きく変える可能性を秘めています。それは、他メディア接触のデータを取り込むことによる統合プランニングへの活用です。

例えばテレビ接触状況を可視化することで、テレビ広告でリーチできなかった顧客を補完する、効果的なメディアを発見することができます。また、時間軸での分析をすることで、テレビCMの接触を踏まえて次に反応しそうなターゲットを抽出することもできます。

更にソーシャルデータ、クロスデバイスのデータ、ウエアラブルのデータなど、さまざまなデータ統合の可能性を考えると、データマーケティングの未来は無限に広がります。

DMPに対する電通の戦略と取り組み

電通は2013年の初めごろから、DMPに本格的に取り組んできました。DMPサービスの競争力を支える3つのリソース領域においても、豊富なデータソース、人材、ツールオプションを持っています。

データソースに関してはパネルデータや電通提携サイトを中心に1億ブラウザのデータをDMPに接続しています。欧米トップシェアを誇るTurnを中心に多彩なツールの特徴を熟知しています。ツールに縛られることなく、ニュートラルな目線で広告主のニーズに合致したツール選定を行っています。また、ストラテジックプランニング、広告運用、CRMなど各領域におけるプロフェッショナルを有していることも電通グループならではの強みです。

DMPはこれまでのデジタル広告が得意としてきた獲得系の領域だけでなく、顧客理解を通したブランド形成やマーケティング戦略への貢献にも実績があります。また、リッチ広告の台頭によりこれまでのクリックやリーチといった直接的な効果だけでなく、認知や好意、購入意向に関してもデジタル広告が効果を発揮する時代が来ています。DMPによる顧客理解とリッチ化が進むデジタル広告のトレンドを鑑みれば、ブランド広告主がデジタル広告を継続する意義が可視化されつつあるのです。

電通の統合データ・ソリューションセンターでは、これまでの経験を通して何よりも「ヒト」の部分が勝負を決めると考えています。ツールが高機能化、データがオープン化した時、差別化要因となるのはツールとデータを使いこなす「ヒト」なのです。DMPを扱うマーケターには高度な意思決定能力や分析能力が求められます。なぜなら、DMPという箱の中でどのようなデータが収集され、どのような処理が行われているのか理解できていないとDMPを使いこなすことはできないからです。マーケティングを熟知しながらも、機械学習や統計解析に精通し、Hadoopなどを駆使して大量のデータをさばくことができるデータサイエンティストが不可欠です。当センターでは、これらの人材に対する積極的な採用と体系的な育成を推進しています。「マス広告、クリエーティブ制作にも精通したデータサイエンティスト」という、電通ならではの人材も育っています。これは、長年マス広告の分野に力を入れてきた当社ならではの強みといえるかもしれません。今後、更にDMP活用本格化の流れが強まる中、引き続きその可能性を探っていきたいと考えています。