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Dentsu Design TalkNo.32

ファッション・イメージで、新形態メディアをつくる!(前編)

2014/09/12

電通デザイントーク第120回は「ファッション・イメージで、新形態メディアをつくる!ファッション・ブランディング」と題し、米津智之氏とティファニー・ゴドイ氏、そして軍地彩弓氏を迎えて行われた。米津氏とゴドイ氏によるクリエーティブユニット「EROTYKA(エロティカ)」はパリと東京を拠点として活動し、自らが発行するカッティングエッジな雑誌『THE REALITY SHOW』をグローバルに展開している。また軍地氏は、講談社『GLAMOROUS』、コンデナスト・ジャパン『VOGUE Girl』などの編集を経て、扶桑社『Numero TOKYO』のファッションディレクターに移籍したばかり。3者ともファッションをベースに、国際的なフィールドで活躍しつつ東京の可能性を追求している。グローバルな時代におけるファッションのコミュニケーション力、ブランディングをめぐるトークを前後編2回に分けてお届けする。

日本の独特なファッションセンスを使って、世界に発信する新しいことをしたい

ティファニー:私はロスの生まれで、もともとファッションや写真が好きでした。特に日本のファッションとカルチャーにはすごく興味を持っていて、最初は1997年に17歳で日本に遊びに来ました。初めて雑誌の仕事をしたのも日本で、『composite』の編集部で働きました。日本人がどうしてファッションセンスを持っているのかをすごく知りたくて、ファッションだけというより、もっと文化的なスタディーを求めて日本に来たんですね。その後『STUDIO VOICE』のファッションエディターをやったりしていたんですが、ちょうどその頃はインターネットをみんなが普通に使い始めた時期で、世界から見ると私が最初から「日本について詳しい人」に思われて、日本文化やエッジー・ファッションの原稿をニューヨーク・タイムズに書いたり、スタイル・ドットコムに書いたりして、海外メディアでの仕事も始めました。そうやってファッションリサーチをして、2007年に原宿ファッションの歴史について書いた本をアメリカの出版社から出して、「日本のストリートファッションのエキスパート」になりました。NHKのファッション番組のナビゲーターをやったり、最近はだんだん活動がマルチになってきました。

米津:僕はもともとグラフィックデザインをやっていて、エンライトメントという、ヒロ杉山さんが設立した事務所を経て、フリーになって12年ほどたちます。主に国内のビューティー・ファッションの舞台で活動し、日本のファッションから世界のファッションまで、そして日本のビューティーから世界のビューティーまで興味を持つようになりました。ティファニーとは、若い頃に自然と知り合い、いろいろ話をしていると、ファッションの話ですごくお互いの関心に共通点があったんですね。職種は全然違うんだけれど、ディレクションという意味では近いものがある、この人と一緒にチームを結成して展開していくのはあり得るんじゃないかということで、彼女にチームを組まないかと持ちかけました。そこで、「EROTYKA(エロティカ)」という名前をつくって一緒に活動を始めたのが2004年ぐらいです。

 

ティファニー:もともと私が日本でやりたかったひとつが、日本の独特なファッションセンスを使って、世界に発信する新しいことをしたいということでした。例えば、ロンドン、ニューヨーク、パリ、ミラノでできないことを東京ではできると思っていて、その頃からグローバルカルチャーも始まっていたから、言葉よりもビジュアル表現が大切。米津さんのようなアートディレクターと一緒に組むと、もっと広いコミュニケーションができると考えたんです。

米津:そういう中で、あるひとつのきっかけがありました。『BIG magazine』というニューヨークのファッション×カルチャーマガジンから、「『東京』をテーマにした号を出版したいが、その編集とアートディレクションをエロティカにお願いできないか」というお話を頂いたんです。ところが、アイデアをプレゼンする矢先に、リーマン・ショックが起きてしまい、雑誌が廃刊という局面に追い込まれて、このプロジェクトがなくなってしまった。それはもうショックだったんですが、既にやらなくてはならないコンセプトが生まれてしまったので、これは自分たちでやるしかないんじゃないか、という話を2人でしました。

リアルをテーマにした『THE REALITY SHOW』の創刊

米津:そこで、これからは「リアル」ということが新しい時代の一番の象徴的なテーマになるんじゃないかと考えて、『THE REALITY SHOW』という名前の雑誌を創刊しました。その時、まず自分たちのメディアとして一番純粋なものを1号目でつくるべきなんじゃないかとの思いで、広告掲載の話は全てお断りをして、まずは表現として一番象徴的なものをつくりました。

ティファニー:創刊号では、モデルの冨永愛さんも出ていたりする一方、同時にストリート・キャスティングもやって、私服とハイブランドのミックスを見せました。ストリートスナップなんだけど、すごくアートディレクションが強いポートレートで、ブログと本の間、ハイとロウのイメージミックスです。既存のメディアは、リアル・ファッションストーリーやクリエーティビティーがあまり感じられず、フォーマットを決め過ぎていると感じていました。逆に、一般の人たちのブログにすごくフォロワーがいるとか、原宿で歩いている人たちの方がファッション雑誌をめくるよりインスピレーションを与えるという現実が生まれつつあったんですね。

紙の雑誌とデジタルメディア両方で、ファッションの可能性を表現

 

米津:この『THE REALITY SHOW』の他に、ティファニーの原宿についての本、ファッションブランドとコラボレーションして作品化されたものなどを持って、世界でいろいろなクリエーティブ業界の人たちに会ってきました。そこで彼らにも非常に高い評価を頂き、パリのアートディレクターエージェントに所属することになりました。そこから『THE REALITY SHOW』の2号目もつくろうという話になり、海外をファッションのメディアで攻めていく意味で、やはり日本が世界に誇るトップフォトグラファーは、荒木経惟さんなんじゃないかと考えて、2号目に荒木経惟撮影号を出しました。

ティファニー:ちょうどその時、私たちはウェブサイトも立ち上げていて、グローバルなバズにしたくて、人気のあるサイトNOWNESS.comでプロモーションビデオをアップしたんですが、このころから、紙の雑誌とデジタルメディア両方で、ファッションの可能性を表現してきました。

米津:僕たちのマガジンは、ニューヨーク、パリ、ロンドン、ミラノ、ドイツなどで販売しているんですが、この2号目をシャネルのパリ本社の方がご覧になる機会があり、そこから「『THE REALITY SHOW』で何か一緒にできないか」というお話を頂きまして、シャネルのオートクチュールのみで制作したのが3号目の「シャネル・イシュー」です。

さらにその次の展開はどうしようかとティファニーと話しながら、ファストファッションが相変わらず勢いを伸ばしている現状は無視できないと考えました。世の中の女性にとって、本当に経済的なこと(ファッションに使えるお金)がリアルな問題としてあるんですね。そう考えた時に、洋服はファストファッションでも、ファストファッションだと満たされない女性の欲望があるはずだと。そういった所をコスメなどのビューティーが埋めていくんじゃないか、という可能性を僕たちは考えました。ファッションは洋服だけのことではなく、これからはビューティーからライフスタイルまで全て含めて、ファッションという定義がどんどん拡張していくんじゃないかと。

ティファニー:その号のタイトルは“Beauty is the New Fashion”。誰でも金額的にアクセスできるラグジュアリーはコスメだから。

世界のトップのビューティーADを目指す

米津:私たちはビューティーというのが、いかに写真というイメージにおいて重要なメディアであるかというのを理解しています。そういった中で、実験的にビッグフォーマットのマガジンと同時にiPadマガジンも立ち上げました。

ティファニー:『THE REALITY SHOW』でもうひとつの大事なポイントは、毎回イノベーティブなことをやろうとしていることです。この号では、ほぼレタッチをしていないビューティー写真を使いました。この時、iPadマガジンと紙のマガジンで用いるイメージを全く同じものにして、それがiPadでは動いているという見せ方をしました。つまり「動くポスター」です。

米津:もうひとつのポイントは、ファッション業界は非常にシビアな世界で、どういうスタッフで誰と撮影をして、モデルは誰が出ているのかが重要になります。僕たちはファッション世界の第一線で戦おうとしているので、人に見せて「ああ、このモデルは◯◯だね」と分かるような、そういう伝達力も込めてニューヨークで撮影をしました。

ティファニー:例えば世界のトップ・ファッションアートディレクターは、5人ぐらいしかいません。彼らのチェンジだけでワールドキャンペーンは回っています。だから、私たちはビューティーでチャンスをつかもうと思っていて、世界のトップのビューティー・アートディレクターになりたいと思っています。使用した音楽もテキストも全体的にすごくランクアップさせ、テクノロジーも全て4Kシネマカメラで撮影して、その映像の1キャプチャーを切り抜いたものがマガジンでも1枚の写真になっているんです。それも未来へのビューティーの可能性としての表現のトライアルでした。

ティファニー:5号目はフェティッシュをコンセプトにして、カルティエと一緒につくりました。ここに出ているモデルも、ファッション界のミューズ、キャサリンババを起用したり、かなり著名人起用のキャスティングになっています。

マガジンをプラットフォームにしてデジタルで拡散

米津:5号目と同じタイミングで出した最新の6号目は、エンポリオ・アルマーニと一緒に「東京カモフラージュ」という特集をつくりました。

 

ティファニー:「東京でしかできないこと」をコンセプトに、20歳くらいで今インスタグラムで人気があるような若い子たちをキャスティングして、自分たちの服とエンポリオの服をミックスして、東京のいろんな場所で撮影して。ファッションガイドブックみたいな考え方です。

米津:この時もう一つのポイントとして、キャスティングした東京の25人のスタイル・バトルというのを行いました。みんな着飾ってマガジン用に撮影をした同じタイミングで、ホワイトバックでの撮影もしてgifアニメーションをつくり、ウェブサイトに並べたわけです。そこで1週間限定でみんながケータイから投票できるようなシステムをつくって、その中で一番になった子がマガジンでポスターになれる権利を得る。ソーシャルとマガジンをつなぐことができないかと考えてトライアルをしました。この時は同じタイミングでiPhoneアプリもつくって、25人を撮影した写真をタップ&スワイプで、さらに自分たちでコラージュアップしていけるようゲームアプリになっています。

ティファニー:この号が発売するタイミングでトップのセレクトショップであるパリのコレットでローンチをやりました。

米津:僕たちはマガジンということをうたいながらも、「メディア展開」という考え方をあえてしています。それはなぜかというと、これからの時代、マガジンをプラットフォームとしてどうデジタルで如何に拡散していけるか、ウェブ、ソーシャル、アプリ、いろんなメディアをどのようにうまく使ってバズをつくっていけるのか。そのメディア展開ためにマガジンという母体があるという考え方をしているからです。

ティファニー:最初から人とコラボレーションしたり、ブランドともコラボしていますが、今後もニッチなポジションでありながら、だんだんコラボレーション相手や場所、やり方を大きくしようとしています。だから、エクスクルーシブな型を持ちつつ、もっとマスの人ともコミュニケーションをしようと思います。特に若い子はビジュアル・カルチャーだから、場所も関係なくグローバルなコミュニティーができる。私たちも世界中ですごくフレキシブルに活動しています。

※後編は9/19(金)に更新予定です。

企画プロデュース:電通人事局・金原亜紀 記事編集:菅付事務所 構成協力:小林英治