広報とマーケって、もっと仲良くなれるよね?

新明解「戦略PR」 №15

  • 井口 理

2014/09/29

広報とマーケって、もっと仲良くなれるよね?

もう秋。今年は少し早めに涼しくなってきた気がしますが、猛暑に耐えた体が悲鳴を上げる時期でもありますね。秋に入って、そんな夏の疲れが噴出するのを「秋バテ」というようです。頑張り過ぎた反動か、知らず知らずのうちに無理をしていたのが、涼しくなって気が緩む時期に不具合として表れるんですね。体の調子ももちろんですが、気持ちの方にも気を付けたいところです。前向きガンガンの仕事人間が、秋の木枯らしなんかに吹かれたときに「俺ってなんのために働いてるんだっけ?」なんて、珍しく考え込んじゃったりして。うんうん、あるある。入社以来、常に楽しく上向きで過ごしてきた私でも、そんなことがたまにあります。それは、クライアントの各部署が横断的に参加する戦略PR会議などで、皆さんが各々の活動を批判し合ったり、責任を押しつけ合ったりなんてのを見ちゃった時、「むっちゃ気分沈むわー」となるのです。

以前も書きましたが、そもそも戦略PRが投入されるのは、製品やサービスの価値の再定義とか、新たな設定ターゲットに対するアプローチを図るなどの場面が多いんですよね。クライアントも力を入れて、各部署巻き込んでの合同会議が行われるわけです。でも、マーケティング戦略がメーンになったりするので、幹事部署はマーケティング部や事業部で、宣伝や広報などは少し受け身な姿勢で参加する場合があります。すると、事業部などから「もっと製品のPRなんかも前向きにやってほしいよな!」なんて、広報部がたたかれたりすることも(※過去の経験によるエピソードの一部で、すべての場面でたたかれているわけではありません!すんません!)。

当然、その雰囲気を察して「文句言ってきたら、こっちも言い返してやるもんね!」「こんな普通の商品出しても、ニュースになんかなんねーんだよ!」など、広報部の方も少し構えた姿勢になっていたりして…(※えー、一部の経験からなので…以下同文)。そんな各部署のいがみ合う立ち位置が、われわれ第三者的目線からはありありと、そしてまざまざと見えてしまうわけです。すると、「同じ会社なんだから仲良くしてほしいよな~、そもそも自分たちのPRなのに…。誰のために、何のためにオイラこの案件でがんばってるんだろーなー」などとへこんでしまうわけですね。そう、季節じゃない、会議の雰囲気なんですよ、へこむのは。

戦略PRは、商品開発からマーケティング戦略、プロモーション施策や製品自体のファクト、またそれを取り巻く社会環境など、さまざまなタイミングや段階において、PRネタを発掘・抽出・加工するので、確かに社内横断的組織で取り組むのが理想ですが、それで反発し合っていては意味がありません。各部署で当たり前となっているような情報が、横の部署から見れば「それって面白いじゃん!」となることで化学変化が生まれます。「へー、そういう見方もあるんだぁ!」という目線を提供するのが、私たちPRパーソンの役割。そういう社内をつなぎ、有機的、積極的に情報を共有するのが戦略PRの第一歩ともいえるので、このチームづくりは非常に重要です。大企業であればあるほど、こういった部署間の壁は厚いわけですが、それを融合させようとトップ自らが指示を出す企業も増えていますし、宣伝・広報などの所管を同一役員にまとめるなどの動きも最近よく聞きます。そういう意味で、広報部は、従来の企業広報のみならず、製品広報への関与も大きく期待される状況となっています。そこで、マーケティングに寄与する情報発信も、広報的な工夫次第で大きな成果を生むのではないかということで、今後われわれが取り込んでいくべき、いくつかの視点を紹介したいと思います(うわっ、ここから本題か!)。

USPを際立たせるクリエーティブ表現にトライしてみよう!

通常、企業広報担当者は事実をそのまま伝えることを大切にしていますよね。もちろん提供する情報に虚飾があってはいけないわけですが、うまいメタファー(比喩)を用いながらベネフィットを説明し、深い理解を促すことは必要ですし、積極的に取り組みたいところです。ひるがえって、製品やサービスの機能を際立たせて見せるには、どんな表現形態が良いのかを常に考えてみるのも楽しいはず。そこに、いかに企業姿勢などをまぶして伝えていくかが重要です。またマスメディアのみならず、口コミ視点で、幅広いターゲットが語りたくなるネタづくり、きっかけづくりのアイデア出しなんかもトライしてみたいですね。

参考事例

■Mercedes-Benz「INVISIBLE DRIVE」(Cannes Lions 2012より)

メルセデス・ベンツのゼロエミッションの車を扱ったキャンペーン。
ゼロエミッションということは二酸化炭素が出ないということ。ただし、何もない、ゼロということは逆に表現しづらいもの。そこで「目に見えない」ことを表現するため、片側のボディーサイド一面にLEDパネルを貼り付け、逆サイドに設置したカメラ映像を映し出すことで、あたかも車が消えたように見せる実験車「Invisible Car」を製作。これを街中に走らせ、生活者の驚きを誘った。「見えないクルマ」への関心から、「なぜそんなものを?」と考えさせ、最終的にメルセデス・ベンツのクルマづくりの思想へと誘導し理解させることに成功している。

■VOLVO TRUCKS「LIVE TEST SERIES」(Cannes Lions 2014より)

ボルボトラックの新モデルのローンチキャンペーン。頑強性や操作性、ステアリングなど5つのモデルの新機能を訴求するため、それぞれに象徴的な手法でライブ・テストを行い映像化。
アクション俳優であるジャン=クロード・ヴァン・ダムが2台のトラック間で股割、できるその安定感や、ハムスターが操作できるくらい軽いステアリングなど、目を引く映像で畳み掛ける。通常ターゲットとするトラックのメーン購買者であるドライバーのみならず、経営者やコンサルタント、ドライバーの家族など、周辺の生活者を含めて話題化することで「まず購買検討候補に入る」というもくろみを達成。ユーチューブ再生回数1億回を超え、トラックバイヤーの購買検討率も46%増加という成果をきっちり達成。

既存イメージを突き破る「再接触機会の創造と使用頻度向上の仕掛け」

新製品であれば何かしら現在の社会環境に沿ったファクトがありそうですが、ロングセラー商品になるとなかなか打ち出し方が難しくなってきます。人気商品であっても、何らかの拍子に商品接触が長く途絶えてしまうこともあるでしょう。一度商品から離れてしまうと、生活者にはその状況が当たり前になってしまい、「あれはあんな味だったな」とか「あれはあの商品にしか使えないよな」といった蓄積された既存イメージで、「もう飽きたからいいよね」的に、新たな接触が阻害されてしまうことが往々にしてあります。プロモーションの役割とも言えますが、広報的な情報発信でも、生活者における再接触を生み出すためのさまざまな工夫が必要だと私は考えます。さらには使用頻度を高める仕掛けなんかも、販促部隊と連動して継続提供していきたいですね。ここでは新たな接触のシチュエーションづくりの事例を紹介してみましょう。

参考事例

■Hellmann's 「RECIPE RECEIPT」(Cannes Lions 2012より)

ブラジルのHellmann'sブランドのマヨネーズの使用頻度向上施策。
マヨネーズはサンドイッチに使うぐらいという人たちに、より広い用途を知ってもらい、使用頻度を高めるためのキャンペーン。スーパーなどで、一緒に買われた食材をレジで認識、それらを組み合わせ、さらにマヨネーズが活躍できるレシピをレジの精算時にレシート裏に印刷して提供。
生活者が想定していたレシピのみならず、すぐにでも買った食材でトライできるレシピ提供をすることで、余った食材などの有効活用も推進。

■UNILEVER「Love it. Hate it. Just don’t forget it.」(Cannes Lions 2014より)

イギリスでは朝食のトーストに欠かせないマーマイト。日本人にはあまりなじみがない食品だが、その強烈な匂いや味は賛否両論分かれ、“どのぐらいまずいか”で盛り上がることも。食べるとやみつきになるという話も聞くが、用途が限られ、使いかけが戸棚や冷蔵庫の奥にしまわれたまま忘れ去られてしまうことも多い。
そこで、それらを救うため名乗りを上げたのが仮想の「マーマイト・レスキュー隊」。家庭で放置され、見放されたマーマイトをあたかもペットのように扱い、探し出して保護をするキャンペーン。「好きでも嫌いでもいい。でも忘れ去られることが一番耐えられないの!」というこの広告メッセージで、その近しい存在感を再度思い起こさせるきっかけとなった。

■Coca-Cola「FRIENDSHIP MACHINE」(Cannes Lions 2011より)

アルゼンチンで「友達の日」に合わせて作られた、とても背の高い自動販売機。実は、1本分のお金で2本コカ・コーラが出てくるのだが、とてもじゃないが1人ではコイン投入口に手が届かない。しかし、そこは友達の日ということで、2人で肩車をするなど協力すれば、いとも簡単に2人分のコカ・コーラをゲットできる仕組み。
コカ・コーラをもう一度買ってみるという機会創出を、味というよりも購買シチュエーションの面白さでヒネリ出した妙案。「あぁ、久々に飲んだけどおいしいね!」と思ってくれればしめたものということ。
同様に、国中で最も多い名前をコカ・コーラボトルのラベルに印字して発売、「私だけのコーク!」といったうれしさで商品を手に取らせる「SHARE A COKE」キャンペーン(Cannes Lions 2012より)などもきっかけづくりの参考にしたい。

■7-Eleven 「BYO CUP DAY」(Cannes Lions 2012より)

セブン-イレブンの「スラーピー」(シャーベット状の炭酸飲料)を1日限定で通常Mサイズの料金ながら、自由な容器(容量)で楽しめる特別サービスを展開。ここぞとばかりに各人がさまざまな容器で店頭に突進。やかんやバケツといった本当にたくさん飲むための容器や、一方ではオモシロネタとしてマネキンやギター、水槽、靴などを持ち込みSNS拡散する人も。
こちらも単にたくさん飲みたいという生活者に対するサービスというより、「まずはやってみよう!」という再接触の機会づくりと見るべき。特にこれはつぶやき、投稿したくなるネタなのでは?

今こそコーポレートコミュニケーションと

マーケティングコミュニケーションを融合!

前回今回と、今後に企業広報部が留意すべき姿勢や領域ということを書いてみました。それは、今が、企業における広報部への役割が大きく期待されるタイミングだと肌身に感じるからです。今こそ、これまでの担務領域を飛び越え、マーケティングコミュニケーションなどにも積極的に関わりながら、自身が培ってきたメディア目線などを活用したいところです。そしてそれを実感できるチャンスでもあると思うのです。自己の殻を破り、新たな領域に飛び込むのに、広報という部署は非常にいい立ち位置にいると思うんですよね。おせっかいかもしれませんが、どこに対しても口を出していけるポジションだと思うのです。生活者の企業に対する意識を変えることでファンを増やす、より生活者に近い接点としての製品を通じて、企業の意思、存在意義を伝えるなど、両面で生かせることが数多くあるはずです。

今回、カンヌライオンズの受賞作を参考に、さまざまな事例を紹介しました。こういった事例をソリューション領域で切り分けられた各カテゴリーで見てしまうと、その企画の精緻さやアイデアのユニークさ、テクノロジーの斬新さなどが単体での評価対象となりがちで、特に広報・PR従事者にはそれらの受賞作をひもといても「なんか遠いな」「自分の領域じゃないな」と感じてしまうこともままあろうかと思います。しかし、現在は全ての活動の評価基準は最終的な成果であり、その手法にこだわらず、最適なソリューションをインテグレート(融合)した形で投下するのが当たり前なのです。そして、実はその各ソリューションの融合に最も寄与できる、ハブ的存在となり得るのが広報部なのです。さまざまな手法をタイミングや文脈を活用しつつ広報・PRがつなげていくのが最も新しく、また適正なものなのではないでしょうか。そういった気概とともに、ぜひ積極的に一言、次の会議で発言してみていただけたら幸いです。